14 決意
2人と一緒に村の近くに飛びました。
入り口の所に2人立っていますが、一応は見張りがいるみたいですね。
まあ、既に制圧されていますので、一番下っ端が見張り役にされているだけなので、つまらないといった感じで、渋々立っていますよ。
残りの者達の同行は、4人は金目の物を漁って回っています。
3人はお楽しみのご様子で、1人だけは仕事は終わったといった感じで寝ています。
町の近くの小鳥を何匹か使い魔にして置いたのですが、地味に役に立ちますね。
元々はダンジョンに誰かが近づくのかを監視する為だったのです。
小鳥なら、まずは気付かれにくいので便利なのですが、ちょっと大型の動物や魔物に襲われるとあっさりと食べられてしまう欠点があるぐらいです。
少しだけ僕の使い魔としての恩恵もあるのですが、普通の小鳥より速度が少し早いぐらいなので、腕のいい狩人にも狩られたりもしてましたけどね。
まずは、あの2人を始末したいと思いますが1人は僕が始末するとして、もう1人は2人が戦えるのかを見て見ることにします。
「着きましたが2人とも準備は良いですか?」
「一気に村の入り口が見える所まで一瞬で飛べるなんて本当にすごいです!」
エリシャさんは素直に喜んでくれていますが本来の目的を忘れないようにして下さいね?
ですが、素直に喜んでくれる反応は良いですね。
「本当に一瞬で移動できるなんて、すごい魔法ですが……私も使いたいのですが、何を覚えれば教えてくれるのですか?」
セラスさんは使い勝手が良いと判断して、即座に僕に教えてくれるようにお願いして来ましたが、当分は教えません。
「先程も言いましたが、今のセラスさんには無理です。僕の指導を全て真面目に受けないと不可能です」
「私は魔法の指導は真面目に受けています」
「他の指導は手抜きですから、減点対象なのです。僕は全てと言いましたので、後は努力して下さい」
「……あんな物は指導ではありません!」
「離れているとはいえ、大声を出すとあちらに聞こえてしまいますよ? 森の茂みが無かったら、丸見えなのですからね」
「済みません……しかし、あちらは気付いていない様子ですが……」
「そんなのは勿論ですが、ここに着いた時に音を消す魔法を使いましたから、聞こえていないだけです」
「そんな魔法も合ったのですか……ちょっと待って下さい! それでしたら、昨夜はその魔法を使えば静かだったのではありませんか?」
おっと、そんな下らないことに気付きましたよ。
勿論使っていましたが、それはテントの外だけです。
中は筒抜けにしていただけです。
「それは僕にずっと魔法を維持をしなさいと言っているのですか?」
「レン君だったら、可能ですよね?」
可能ですが、絶対にしませんよ。
セラスさんに聞かせる為にしているのに意味がありません。
何の為にテントの周りの範囲に調整をしたのか、僕の苦労を理解して欲しい所です。
そう言えば何か言っていましたので、ちょうど良いのでエリシャさんに言って置きましょう。
「エリシャさん。セラスさんがエリシャさんの夜の声が大きいから静かにしなさいと言っていましたよ」
「レン君! どうして今そんなことを言うのですか!」
だって、セラスさんが言って欲しいと先ほど言ったのに……理不尽だなー。
僕は伝える状況を選べとは指定されていません。
「嫌です」
しかし、エリシャさんは普通に拒否しましたよ?
僕はてっきりセラスさんに何か言いまくると思っていたのですが、あっさりしていますね。
「即座に拒否するなんて……エリシャさん……このようなことを言うのは何ですが……」
「だって、この方がセラスさんも素直になると思ったから、聞かせる意味もあるのですよ? 私だって、本当は恥ずかしいんだけど……それよりも今はこれからのことを考えましょうよ?」
「私には恥じらっている様に見えないのですが……いまはそれどころではありませんでしたね」
もしかして、セラスさんをその気にさせる為だったのですか?
そのような考えがあるとは思ってもみませんでしたが、その方が僕としては良いのでそういうことにして置きましょう。
大体、こんな話をしている間にも村の人は気の毒な目に遭っているのですから、セラスさんの御要望は後日に聞くことにしましょう。
「それで、どうするの?」
エリシャさんが方針を聞いて来ましたが、僕としてはここから魔法で狙撃したいです。
もしくは、大規模魔法を使って村ごと焼き払う方が楽で良いのですが、そんなことをしたら助ける対象まで死んでしまうので出来ません。
仕方がありませんので、散らばっている者達から確固撃破でもして集められている所にいる野党の棟梁らしき者達を最後に始末するしかないかな。
1人も逃がす気はないので、確実に始末していかないとね。
まずはセラスさんはともかくエリシャさんが戦えるのかは見て置かないと心配ですから、まずはあの者達で試して見ましょう。
「そうですね……めんどくさいので、そのまま正面から行きましょう」
「正面からなのですか? レン君がそう言うのでしたら、私は構いません!」
「せっかく見つかっていないのですから、気付かれないように接近して、魔法で拘束をするのが望ましいかと思うのですが……」
エリシャさんは正面からで良いみたいですが、セラスさんはこそこそと気付かれないように近づいて拘束魔法の範囲から魔法で無力化する案を出して来ましたね。
僕としては、野党は全員殺す予定なので、捕まえる案など却下です。
第一、男なんて捕まえるぐらいなら、物言わぬ死体にした方が早いですよ。
ここでセラスさんを説得していると、また時間だけが過ぎていくので、さっさと茂みから出て入口の方に歩いて行くことにします。
僕が出たことで、2人とも急いで付いて来ましたが正面なので、あちらにはしっかりと気付かれました。
子供と若い娘が自分達の方に向かって来るので何やら嬉しそうですね。
僕はともかく詰まらない見張りなんてさせられている所に外から女性の差し入れが来たような物ですが、どんな対応をしてくれるんでしょうね?
見張りの前まで来たので声でも掛けて見ましょう。
「こんにちはー。ちょっと森で薬草類の採集の依頼をしていたのです。休憩をしょうと思ったのですが、近くに休める所があるのに気付いて来たのです。ちょっと休ましてもらってもいいですか?」
「なんだこの子供は? しかし、後ろの2人は中々いい女だな……採集なんてしている所をみると駆け出しの冒険者と言った所か悪いが中は今は取り込み中だが、後ろの2人は、ここでお兄さん達と良いことでもして休まないか?」
「2人とは良いことをしたいみたいだけど僕はどうすればいいのですか?」
「あー、お前は邪魔だから、そのまま寝ときな!」
いきなり剣を抜いて僕を斬ろうとしてきましたよ?
まったく、親切に声を掛けたのに僕の恋人にだけ用事があるとか言い出すし、もう死刑確定です。
振り下ろした剣を指で挟んで受け止めると驚いています。
こんな遅くて、ただ振り下ろした剣に斬られるなんて、剣を持ったことがない人だけですよ。
そのまま頑張って力を籠めているようですが非力な人ですね。
この程度だから、見張りなんて詰まらない仕事が回ってくるのですよ。
「おい、子供相手に何をしているんだ。早く殺してしまえよ」
「そ、それがピクリとも剣が動かせないんだよ! まるで岩にでも刺さったようなんだが、この子供はなんなんだよ!」
「何馬鹿なことを言っているんだ。お前はそのまま子供と遊んでろ。俺はこっちの2人と遊ばしてもらうぜ」
「てめぇ、何を言っているんだ! クソったれが剣を放せ、小僧!」
さっきから、煩いな。
今の状況で、僕がただの子供じゃないと気付けないとは観察力が無いですね。
まあ死んでから、もう一度やり直してください。
エリシャさんは剣を抜いて身構えましたので、もう1人の相手をさせましょう。
人が斬れるかのテストでもあります。
「エリシャさん、こちらは僕が始末しますのでそちらは任せましたよ」
「はい! 任されました!」
良い返事ですね。
さて、僕の弟子のお披露目でもありますので、まともに相手をして下さいね。
それでは、剣が動かせなくて、顔が赤くなっているお馬鹿で遊ぶとしましょう。
剣を引こうとしていたので放したら、後ろに転がって行きましたが、あんなに転がる物なのですね。
直ぐに立ち上がると剣を構えて僕の前にいますが、こいつ型も何もあったもんじゃないので、ただ武器を持っているだけの奴です。
まずはどうしょうかな?
「派手に転んでいますが、それは新しい運動ですか?」
「この小僧がふざけやがって……ぶっ殺してやるから、そこを動くな!」
そのまま言われた通りにその場で立ったまま躱していますが、動かないと躱せない攻撃は当たる瞬間に剣を軽く小突いて軌道を変えています。
ただ、あちらには僕がそのまま立っているとしか見えないので、とても不思議そうです。
馬鹿みたいに振り廻していますが、しばらくするともう息が上がっています。
男なのに体力も無いなー。
この程度の腕で、よく人を襲う気になりましたね。
確かこの村には引退した熟練の冒険者が何人か居た筈です。
その人達が居なかったので、出かけているタイミングで襲撃して来たと思います。
ここはかつては僕の支配するダンジョンの中継地点として、昔はそれなりに住民もいたのですが、僕があんな最弱設定のダンジョンにしてしまったので、過疎ってしまったのです。
なので、ここに残っている者は町には行かずに静かに暮らしたい人達だけなのです。
引退した冒険者なども若い者の育成に丁度良い環境となっていましたので、何人かは常にいたのですが魔族討伐が進められていく内に更に人離れが進んでいたのです。
そう考えると全ての原因は僕にあるような気がしてきました。
彼等だって平和に暮らして居たのですから、ちょっと悪いことをしてしまった気がしてきましたよ。
では、僕も少しだけその気になって、ここの人達を助けることにします。
まずは目の前の見苦しい者をそろそろ始末しましょう。
「はぁはぁ……なんで当たらないんだ……俺はこんな子供も斬れないのかよ!」
「もう終わりですか? 軟弱な人ですね。その程度の実力で、他者から何かを奪おうと考えるとは苦労をしていない証拠です。どうせちょっとしたことで挫折して野党に身を落としたと思いますが、そのような者はさっさと退場して下さい」
「お前の様な子供に何が分ると言うんだ!」
「貴方のことなど分かりません。ただ分っていることは、ここで貴方の時間はお終いと言うことです」
「お前は何を言っているんだ?」
「そろそろ飽きて来ましたので、本気で来て下さい」
「クソが!!!」
叫びながら上段から剣を振り下ろして来ました。
今までで一番ましな形になっていますが、僕が再び指で挟んで受け止めると今度は笑顔でへし折ってあげました。
相手は驚くどころか僕を見て怯え始めましたよ。
鈍らの剣を折っただけなのに大げさですね。
「剣を指で挟んで、へし折るとか貴様は化け物か!?」
「いえいえ、れっきとした人族の子供ですよ?」
「冗談じゃない! お前のような子供がいて堪るか!」
目の前にいるのに失礼な人ですね。
もしかして、目が悪いのですか?
そろそろ飽きましたので終わりにしましょう。
「では、今度は僕の番ですから、そこを動かないで下さいね?」
「やってられるか!」
あっ……動かないでと警告したの背中を見せて逃げ出しましたよ?
簡単に敵に背を見せるとは余程逃げるのに自信があるみたいですね。
先ほどへし折った剣の先端部分を頭に投げたら、見事に命中をして、その場に倒れてしまいました。
僕はてっきり背後からの攻撃に気付いて躱せる自信でもあるのかと思ったのですが過大評価をしてしまいました。
こんなに簡単に終わるとは……この分でしたら、エリシャさんの方も問題は無いと思います。
エリシャさんの方を見てみると優位に戦っているように見えます。
あちらの相手の方が、こちらよりも良い動きをしているみたいですが、僕との剣の練習をしっかりとしていたエリシャさんは僕が教えた通りの動きが出来ていますから、成果が出ているようです。
相手の剣をしっかりと見て躱す事に集中していますので、避けれない攻撃だけは受けているだけです。
相手が大振りで攻撃して来た時に上手く躱したところで、すかさず僕が教えた突きを繰り出して、止めを刺しました。
今のは4連撃ほど出ていましたが僕と違って、エリシャさんが使うと様になっていますね。
僕が近づいて行くとセラスさんがエリシャさんの斬られたところを癒していますが、ちょっと機嫌が悪そうですね。
「そちらも終わったようですが、セラスさんは何を怒っているのですか?」
「理解はしているのですが、もう少し安全な戦い方は出来ないのですか? 治癒の魔法が使えるからいいのですが、女性が頬にこのような怪我を負うのは宜しくないかと思います。躱すにしても見ているこちらは心臓に悪いのです」
「だって、これはレン君に教えてもらった戦い方です。可能な限り躱す戦いをした方が剣の消耗を抑えられるからいいと……それにセラスさんがいるから、このぐらいは怪我の内に入りませんよね?」
エリシャさんの頬が切れて出血していますが、確かに女性が顔に傷を作るのは良くありません。
もしも、エリシャさんが苦戦をしていたら、つい手を出して僕が相手を殺してしまう所でしたよ。
「確かにセラスさんの言うことも一理ありますので、顔に傷を付けるのは僕もお勧めしません。ですが真剣勝負なのですから、仕方ない面もありますが、そこはセラスさんが何とかして下さい」
「レン君もこう言っていますので、セラスさんがいるから、私は安心して戦えるのです!」
「何か部分的な盾になる魔法が欲しい所ですが……それはいいとして彼等と戦っているのを中にいる者達に気付かれたのではないのでしょうか? 剣がぶつかる音もそうですが、彼らの声は大きかったと思います」
「それは大丈夫です。この地域一体の音は『サイレンス・フィールド』の魔法で消していますので、いくら騒いでも外部に漏れません。あいつらも途中から中にいる者達に気付いて貰う為に声を大きくしていましたが無駄です」
「良く分りましたが、それが音を消す魔法ですね? 後で私に必ず教えて下さい」
説明したら、魔法名を教えてしまいましたよ。
これは分っていて僕に説明させて、知ろうとしたのかも知れませんね。
相変わらず変な所で抜け目がないのですが、教える訳がありません。
この魔法が使えるようになった時は、違う技を習得出来た時です。
絶対にマスターしてもらいますからね?
「それはいずれ教えることにしますが、僕は散らばっている者達を始末して来ますので、2人はこの先の大きな建物にいる4人を倒してきて下さい。その家の中には集められた人達もいるので考えて行動をしないと助けれらませんので注意して下さい」
「わかりました! 私とセラスさんは捕まっている人達を助けて来ます!」
エリシャさんは、素直に救助をすることに賛成ですがセラスさんは不安そうですね。
「私とエリシャさんだけで、4人の相手をして捕まっている人達を助けるのですか? 言い難いのですが私は自信が無いのですが……」
「セラスさんにはその為の補助系の魔法も教えてありますので、もっと自信を持って下さい。エリシャさんの腕なら、4人の内3人は敵ではありませんが1人だけ用心をした方が良い者がいるぐらいです」
「ですが不安なのです……」
「セラスさん、大丈夫ですよ! レン君が出来ると言うのでしたら、出来るはずです! 私は剣で戦うことしか出来ませんが、セラスさんには色々な魔法があるのですから、それを使ってどうやって対処するかの試験と思えば良いのです!」
「もしも失敗したらと思うと……」
「もう、セラスさんはもっと自信を持って下さい! 何か合ってもセラスさんだけは必ず逃がしますので、私に何が合っても逃げてレン君を呼んで来てくれれば良いのです!」
「ですが。それだとエリシャさんが……」
「私って、結構可愛いみたいですから、殺されることは無いと思うんですよね。もしも負けてそいつらの慰み者になるかも知れませんが、そんなことは既に経験済みなので、後で綺麗にしてくれれば問題有りません」
「……エリシャさんは強いんですね。私でしたら、耐えられそうもありません……」
「その時は、レン君に忘れられるぐらいに慰めてもらいますから、独り占めするだけです。その時は、セラスさんはしばらく遠慮してもらいますからね?」
「そのようなことにならないように努力を致します。エリシャさんがそこまでの覚悟があるのでしたら、私も躊躇っていてはいけませんね」
「やっとやる気になってくれましたね。相手は村の人達を何人かは殺したのですから、こちらも遠慮などする必要はありません! 先程もそうでしたが、あれはただの人型の魔物と思えば良いのです」
「残っている人達を助けることに専念したいと思います。そうですね……あれはダンジョンで遭遇していた魔物と思えば良いのです」
ようやくセラスさんもその気になってくれましたね。
相手のことなど考えなければセラスさんの魔法で数の不利は十分に埋められます。
その為に色々と魔法を教えたのですから、前衛としてエリシャさんに戦ってもらって後衛として援護しつつ倒してしまえば良いのです。
ダンジョンでも複数の相手を意識した戦いが出来るように魔物の配置までしていたのですから、それらの経験を生かせば、あの程度は十分に勝てる筈です。
その後、2人と別れて僕も行動することにしますが早く始末して2人の様子を見ることにしましょう。
2人が失敗をしたら、即介入をして僕が制圧すれば良いのです。
エリシャさんはあんなことを言っていましたが、僕の目が届く範囲でそんなことは絶対にさせません。
2人を守るのは恋人の僕の役目なのですからね。