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魔王様の隠匿生活  作者: セリカ
12/24

12 お目覚めの挨拶は冷水を



 2人が目覚めるよりも早く起きて朝食の用意をしているとセラスさんが眠そうにテントから出てきました。

 僕を見るなり軽く睨んでいますが怒った顔も可愛いいですね。


「おはようございます、セラスさん。昨日はよく眠れました?」


「おはようございます……分っているのに聞いているのですか?」


「んー? だって、昨日は疲れたから早く眠りたいと言って、1人で早めに寝ましたよね?」


「隣で……」


「隣がどうかしましたか?」


「エリシャさんの声が大きいのですから、隣にいる私に筒抜けでした! このような場所で誰かに聞かれたらどうするんですか!」


「あー、そのことですか。それなら安心をして下さい。僕を中心にある程度の範囲は音が漏れないようにしていましたので、テントの周辺に近付かなければ聞こえないと思います」


「隣のテントに居た私には、とても良く聞こえました……お蔭で眠気よりも……」


「その範囲は多分聞こえてしまいますでしょうね。ですが直ぐに眠っていれば気にならないと思いました」


 勿論ですが嘘です。

 テントの外には極力音など漏れないように施していましたが隣のテントには空間が繋げて合ったのでしっかりと聞こえていたはずです。

 そして、それを聞きながらセラスさんが何をしていたのかもしっかりと把握しています。

 僕は、我慢は良くないと思うのですが?


「今更とやかく言うつもりはありませんが、エリシャさんにはもう少し自重するように躾て下さい。特に声の方を……」


 エリシャさんは開放的ですからね。

 声を抑えるなんてことはしないので、セラスさんとは正反対なのです。


「それは、セラスさんを見習えと言うことですか? それでしたら、セラスさんが注意すれば良いと思いますけど?」


「私が言っても言い負かされてしまうからです」


 それは単純にセラスさんが押しに弱いからです。

 エリシャさんは自分が正しいと思うと間違っていても屁理屈を混ぜて押し切ろうとしますからね。

 見ている僕は面白いので、傍観を決め込んでいるだけなのです。

 昨日はエリシャさんに貨幣の価値観でも、ある意味で負けてしまったと思っていますから、少しぐらいは要望を聞いて上げないとへそを曲げてしまいますからね。


「仕方ありませんので、エリシャさんにはそれとなく仕向けるようにします。今までと違って人がいる場所に行くのですから、ちょっとまずいとは思っていましたからね」


「こんなことをお願いをする日が来るとは思ってもいませんでしたが、申し訳ありませんがお願いを致します。それにしても王族の方と言うのはあれが普通なのでしょうか……」


「違うと思いますよ? 僕も長い間に色々な女性を見てきましたがエリシャさんは、とても開放的なだけです。聞く所によると自分を合わせて兄弟姉妹だけでも9人もいるそうですが王は側室を待っていないそうです」


「皇子と王女が多いのは知っていましたが……確か王妃様は若い頃に嫁がれて今年で30台後半になったばかりと思いますが……」


「まあ、エリシャさんは母親似のお盛んな血を色濃く継いでいるのかも知れません。父親の方は50歳近くの筈ですが人族なのに頑張っていますね」


 要するに血は争えないという所ですか?

 僕の娘も同じでしたから何となく理解が出来ます。

 こんなことになるのでしたら、カレンを助ける努力をすべきでしたが僕は駄目な親ですね。

 ヘレンが生きていたら恨まれても仕方ないかと思うのですが、何故だか仇を取ってやりたいとは思わないのですよね?

 あの子が死ぬところを見たわけではないので、僕はまだあの子が死んだと思っていないのかも知れません。

 何となく実感が湧かないんですよね……。

 おっと、セラスさんがまた僕が物思いに耽っているので、じっと見つめています。


「また、何かを思い出しているみたいですが……それはともかく朝から、その様なことは知りたくありませんでした……」


「取り敢えずは、そこに水を入れれる器と顔を拭く物を出して置きましたので、顔を洗って下さい。あの村に宿があるのでしたら、そこで体が洗えるようなお風呂でもあれば良いのですが無ければ村を出てから少し行くと川が合ったので、それまでは体の方は我慢して下さい。我慢が出来ないのでしたら、ここで僕が水を作り出しますので僕が洗って差し上げますが、どうしますか?」


「結構です。顔だけ洗えれば今は十分です。それに今の私にもそのぐらいの水を出すことが出来ますから、必要もありません」


 それだけ言うと容器に水を作り出してさっさと顔を洗って僕の向かいに座っています。

 本人が望むのでしたら、周りから見られないように壁でも作り出して体を洗ってあげたのに残念です。


「色々と基礎の魔法を教えたのは失敗かなー。もっと僕を頼ってくれればいいのに」


「レン君に頼ると代わりにいやらしい要望を聞かなければいけないからです」


「だって、セラスさんが積極的に覚えてくれないからです。せっかく僕の力をそこそこは使えるようになったから、教えたいのですが、全ての魔法適正があるのに残念です」


「その積極的に覚えることがいやらしいことだからです! 私としては魔法の方を無償で教えて欲しいのです」


「セラスさんがエリシャさんのように積極的だったら教えます。そうじゃないから、こっちだって考えて教えているのです。考えて見ると神聖魔法が使えない僕よりも幅が広がりましたが、人前ではあまり多くの系統の魔法は使わないことをお勧めします。その若さで、それだけの魔法が使えるとなると目立ってしまいますから、何をされるか分かりませんからね」


「普通に才能がある者と思われるのではないのですか?」


「セラスさんは光の女神の神殿からは破門されていますが、才能がある者は勇者候補として女神の管理下に置かれるのです。要するに現在の勇者と呼ばれる者が死んだ時に、その力を引き継ぐのです。セラスさんの場合は使い魔として僕と繋がっていますので、女神の奴らに関渉されたら一発で発覚する可能性が高いと思います」


「では、私があのまま破門されていなくて、いずれ勇者候補にでもなっていたら危険だったわけですね?」


「そうです。だから、関係を切りたかったのです」


「でしたら、私の為にしてくれたことになるのにですから、そう仰ってもらえれば私も素直に受け入れられましたのに……」


 単に困らせたかっただけなんですが、それは秘密です。

 例え全魔法適正が合っても勇者候補になれるとは限りません

 ですが、セラスさんは僕の力に目覚めれば確実に強くなるのですから、今の内にあいつらと関わりを切って置かないと神殿に属している者には拒否権はないので、後々に困るのです。

 それで過去に2回も失敗をしているのですから、災いの目は摘んで置くに越したことはありません。

 話がひと段落した処で、エリシャさんが起きて来たようです。

 元気よく挨拶をして来るのはいいのですが、その姿で出て来るとは……まあ今回は良いんですけどね。


「おはようございます! 今日も良い天気で清々しい朝ですね!」


「おはようございます。朝食の用意は出来ていますのエリシャさんもセラスさんに水を出してもらって顔を洗って下さいね」


「おはようございます、エリシャさん。済みませんが目を閉じて、そのままそこで立っていて下さい」


「目を閉じて立っていればいいのですね?」


「出来れば耳を両手で塞いで下さい。『クリエイト・ウォーター!』」


 ちゃんと魔法名を唱えて両手に大きな水の塊を作り出したと思ったら、そのままエリシャさんの方に誘導して頭上から落としています。

 テントから出たばかりの位置だったので僕達の方には被害はありませんが、顔どころか全身がずぶ濡れになりました。

 着替えていなかったので、寝間着と下着が濡れただけで済みましたが、ついでに体も洗えましたね。


「冷たいです! セラスさん!!! 朝から何をするんですか! 全身がずぶ濡れです!」


「目が覚めましたか? 汗臭いから水浴びでもしたいと思ったのです。そのようなはしたない姿で出てくるのですから、丁度良かったのではありませんか?」


「私は汗臭くなんてありません! 清々しい汗を掻いたのですから、幸福の余韻に浸っていたのに酷いです!」


 僕が用意していた新しい布ではなくて自分が使っていた布をエリシャさんに渡しています。

 ちゃんと2人分を用意しているのに何故ですか?


「でしたら、先ほどレン君が使ったこの布で体を拭いてから、ちゃんと着替えてから出て来て下さい。こんな見晴らしの良い所で、そのような姿で出て来るなんて女性として見過ごせません」


 いつも思うのですがセラスさんって、平気で嘘を言いますが絶対に聖職者には向いていませんよね?

 上層部の権力に固執している奴らは平気で民衆を騙している奴が多かったけど、中には金さえ積めば平気で信仰を裏切る奴もいたから利用が出来たのですが、聖職者とは名ばかりで都合がいい者が多かったのは覚えています。

 ひたむきに頑張っている真面目な者は大抵は出世できないというか地方に飛ばされていましたから、彼等のような者達が中央にいれば争いも減ると僕は思うんですけどね。

 何にしてもセラスさんのすることは、僕に嘘さえつかなければ見ている分には楽しいので容認しますけどね。


「この少し湿っているのはレン君が顔でも拭いたのですか……それならちょっとテントで着替えて来ます! レン君、新しい下着を下さい! これ濡れて気持ちが悪いのです!」


「昨日も言いましたが、エリシャさんの着替えはその指輪に入っていますから好きな物を選んで下さい。温まるスープがあるので早く来てください」


「わかりました! 直ぐに拭いてから着替えて来ます!」


 そして、そのまま濡れた状態でテントに戻って行きましたが……後で掃除をするのは僕なんですよ?

 出来ればその濡れた衣類をシーツの上に投げ捨ててくるのだけ勘弁して下さい。

 余計な手間が増えるだけなのですからね……。

 そんなことを考えていると毎度のことながらセラスさんがため息を付いています。

 

「はぁ……レン君にはもう1つお願いしたいのですがエリシャさんに身嗜みという物も教えてあげて下さい。若い女性がこのような場所であのような姿を晒すのは感心を致しません」


 どうも躾の依頼みたいです。

 セラスさんって、段々とエリシャさんの母親か小姑と化して来ましたね。

 まあ、世間的に常識があるのはありがたいので、しっかりと注意してあげて下さい。

 僕はそれで落ち込んでいるエリシャさんを励ませば良いだけなので、とても助かります。


「それについては僕も同意見なので、言い聞かせることにします。ここは地上なのですから、まさかあのまま着替えずに出て来るとは僕も思っていなかったのです」


 ちょっとダンジョン内での開放的な生活がいけなかったと思いますが、それ以前に羞恥心が少々欠けていると思います。

 以前に知っている某王女は脱ぐことをまったく気にしなかったから、それと同じなのかも知れませんね。

 今度はちゃんと着替えて出て来ましたが怒っていますよ。


「セラスさんの嘘吐き! これを使ったのはセラスさんではないですか! 自分が使った後の湿った物を渡すなんて、嫌がらせですか!?」


「レン君が私に渡してくれた物を私が少しだけ顔を拭くのに使ったので、元はレン君の物です。それにしても良く私が使ったことが分かりましたね?」


「それは使っているとは言いません! 私はレン君とセラスさんの匂いは完璧に覚えているので間違える筈はありません!」


「匂いを覚えているなんて、嗅覚が良いのですね。レン君はともかく、どうして私まで?」


「セラスさんを素直にさせる為に私がどれだけのことをしているのか忘れたのですか? いまの私はちょっと味見すればセラスさんの匂いぐらいでしたら当てて見せます!」


「貴女はなんてことを言い出すのですか……そのような特殊な性癖は他の人の前では絶対に言わないで下さい。 それにしてもエリシャさんの前世は犬だったのかも知れませんね……」


「私が犬でしたら、セラスさんなんて気まぐれな猫です! 特に発情している時なんてそのものです!」


「猫で結構です。朝からそのような話を大きな声で話すのは止めて下さい。ここは地下ではないのですから、周りに誰か居たら、エリシャさんが恥を掻くだけになりますが、良いのですか?」


「ぐぐっ……今日は私に対する当たりが大きいのですが、絶対に欲求不満なんですよね?」


「下らないことを言っていないで、早く食事をして下さい。せっかく温めたスープが覚めてしまいますが、それだけ頭に血が上ったのですから温まったのかも知れませんね」


「もういいです! そんなことよりも自分だけ食べ終わって、手が空いているのでしたら、私の髪をセラスさんの魔法で乾かして下さい! その間に食べます!」


「仕方ありませんね」


 そう言うと風の魔法に火の力を加えて緩やかな風を生み出して、器用にエリシャさんの長い髪を乾かしながら櫛で髪を整えています。

 最初の頃は僕が2人にやっていたのですが、セラスさんが魔法を覚えていく内に出来るようになったのです。

 魔法の合成の配分を間違えると熱風になってしまうので、覚えたての頃はかなり失敗して、エリシャさんが酷い目に遭っていました。

 それでも髪を乾かしたり整えるのにとても良いので頑張っていましたので、しっかりと上達しましたね。

 何かあると直ぐに言い争っていますが、僕から見たら仲の良い姉妹にも見えます。

 セラスさんも口ではあんなことを言っていますがエリシャさんの面倒をちゃんと見ていますからね。

 その後、エリシャさんがセラスさんに文句を言いながら軽く食事を済ませたので出発する事にしました。

 朝食の代金は簡単なスープとパンだけでしたから、貰いませんでした。

 食べ終わってから、エリシャさんは「それなら朝に沢山食べれば……」とか言い出しましたよ。

 どうもエリシャさんは地味にお金に対して頭が回るようです。

 しかも、せこいというかもしかして、お金にうるさいのかも知れませんね。

 今までは僕が全て提供していたので、そんな素振りはまったく見せなかったのですが、昨日の晩にお金を渡してから、なんだかしっかりして来ましたよ。

 ですがそんなことを始めたら、当然ですが僕の預かっている分からしっかりと引かせてもらいます。

 意外な所で、お金にシビアなのは良いことなのです。

 昔はお願いされるままに金品や宝石類を上げていたこともありました。

 しかし、この手の感覚が狂ってしまうと贅沢ばかりするようになってしまうので、僕が魔王として領地でも持っていた時ならともかく、いまは世間に出るのでしたらいささかまずいですからね。

 それで甘やかしてとんでもないことになった経験があるから、ちょっと厳しくしているだけなのです。


 

 しばらくは何事もなく進んでいたのですが、村に近付くと何やら煙が上っています。

 あれは建物でも燃えている感じのようですね。

 何となく嫌な予感がするのですが、2人に気付かれないように進む方向を変えて直接町の方に行くべきかな……。

 しかし、僕が一瞬だけ立ち止まって村の方角を見ていたので、エリシャさんが気付いてしまいました。

 セラスさんは周りの警戒をしていたのですが、気付かなかったのに……。


「レン君、進行方向の方に複数の煙が見えますがあれは何ですか?」


「さあ? 大量にたき火でもしているのかも知れませんね」


「こんな昼間にですか?」


「んー……もしかした、狩りで獲物でも沢山狩れたから、お祭りとか?」


「お祭りなのですか!? それでしたら、私も参加したいので早く行きましょう!」


 そんなの適当に言ったのですから本気にしないで下さいよ。

 確か、あの村には男女合わせて30人ぐらいしかいない小さな村というか集落みたいな物だった筈です。

 それがあんなに煙が立ち上っているなんて、複数の魔物に襲われているのか野党にでも襲われているかと予想します。

 まあ、火を付けている時点で野党に襲われているのが正解かと思いますがどうしょうかな?

 正直、関わると碌なことがないと僕は思っているのです。

 どのくらいの規模で襲われているのか分らないので、もしも2人が助けようなんて言い出したら2人の方が危険です。

 僕が介入をすれば野党程度なら問題は無いのですが、その場合は僕の実力を村の者に見せてしまうことになるので、2人を隠れ蓑にして可愛い弟を演じる計画が早くも挫折してしまいます。

 噂なんて、どこから流れるか分かった物ではないので、申し訳ないのですが些細なことでも災いの目は消して置きたいのです。

 僕が難色を示しているとセラスさんも様子を窺っていますが、多分気付くだろうね。


「レン君、あれは建物などが燃えているのではないのですか?」


「さあ? 僕にはわかりません」


 エリシャさんと違ってセラスさんは気付きましたね。


「あれはお家が燃えているのですか? それでしたら、大変ですから助けに行きましょう! セラスさんとレン君が居れば魔法で火を消すことは出来ますよね?」


「火事で困っている人がいるのでしたら、助けに行くべきと思いますので早く行きましょう」


 ほら、実力も伴わないのに見ず知らずの人を助けに行こうと言い出しましたよ。

 単なる火事でしたら、セラスさんが頑張って消火活動をすれば良いのです。

 その場合は僕はセラスさんに合わせて魔法を使いますので、セラスさんのしたことにすれば良いだけです。

 ですが何かに襲われている場合は、どうしても無理が出てきます。

 僕としては2人に危険な目に遭って欲しくないので、気付かないで欲しかったのです。

 さてさて、どうした物かな?



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