11 感覚の違い
食事を終えて少し寛いでから、出発をすることにしました。
今回は山草の類は見つけては回収をしています。
別に町などで、きちんと食料の買い物をして準備をしていれば必要はないのです。
今回は、その町に久しぶりに行くのですから、僕が渡した物しかありません。
でも、こうして食料などを失ったりした時には、それなりの知識があると後々に役に立ちますので覚えて置いて損はないと思います。
ちなみにエリシャさんが集めて来た枝などは流石にあちらに入れるのは容量の関係で圧迫しますので僕が回収をしています。
この2年間で色々と僕も生活必需品は貯め込んでいますので色々と持っていますが、それはそれです。
先ほどの昼食の時に燃やせる薪や枝を予め持っていたのは、勿論ですが恋人との雰囲気を作る為です。
例えば……突然雨が降って来て、近くの洞窟で暖を取って服を乾かしながら、お互いを温め合う為の布石です。
過去に山奥で遭難した女性の冒険者をこの方法で助けて仲良くなった経験がありますので、あの雰囲気は距離を縮めるのに最適なのです。
濡れて振るえているお姉さんを温める為には最善な方法ですから、余程のことがない限りは正当化が出来ます。
後は、その場の雰囲気で頑張って口説けば良いのです。
落雷が苦手なお姉さんの時は、あちらから抱き着いてくれましたので、とても有意義な時間を過ごせましたね。
その後、日が暮れて来たので少し開けた場所で、たき火をしながらどうするのかを見ていましたが……今回は小動物などは遭遇をしなかったので山菜などしかありません。
当然なのですが村に近付くということは、警戒心の強い動物などはいませんし、人里から近い範囲の動物などは大抵は狩られてしまいますから、ダンジョン近辺の辺りが大体の生息地になりますからね。
飲み水や調理に使える水の方はセラスさんが魔法で作り出せるのですが、2人とも意外と食べますので、あれでは満足が出来ないでしょうね。
そして、予想通りなのですが僕の方を見ています……またしても駄目のようです。
調味料ぐらいでしたら出してあげても良いのですが、既に作ることから諦めています。
どうも今回の僕の恋人には生活能力がほぼ完全に欠落していることが確定しました。
僕がこの2年間の間の世話を全てしてしまったのが原因なのですが、ここまで何も出来ない恋人は初めてです。
僕だって、今までの恋人達から色々と料理とか教わったのですから、かなりのレシピを知っているだけなのです。
今も生きているはずのコレットからは「現在の魔王達よりも強いのに家事能力がどこかの出来るメイドさんより優秀な魔族なんて聞いたことがないわよ……貴方だったら、どこかの魔王を倒して国を乗っ取れるのに分らないものね」とか言われたこともあります。
そんなことを言われても可愛い恋人のお姉さんに尽くすのが僕の趣味なのに魔王になる前の当時は理解をしてもらうのに時間が掛かったことだけは覚えています。
結局、友人の魔王の娘に手を出してしまって、なりゆきで魔王になってしまったけどね。
今はそれよりも2人のことですが仕方ないので、出してあげますが今回は無償ではありませんよ?
「結局、2人とも何も作らないのですね」
「だって……これだけじゃ……味気の無いスープぐらいしか作れません……」
そのスープすら作れないエリシャさんが何を言っているのですか?
エリシャさんは、セラスさんの方を見ながら言ってますが、セラスさんがそれしか作れないと言っているのと同じです。
セラスさんの方も反論が出来ないようなので、我慢をして俯いています。
そこはいつも言いたいことを言われているのですから、いつもの仕返しで、ちょっとは反論をしましょうよ?
ちょっといじけ気味のセラスさんが可哀想なので、早めに助け船を出してあげますか。
「仕方がないのでないので、僕が用意をします」
「ありがとう、レン君! やっぱり私が困っていたら絶対に助けてくれるのですから、愛しています!」
エリシャさんは、お腹を満たしてあげれば愛が得られるようです。
「レン君、申し訳ありません。私にも今の手持ちだけでは何も出来ませんでした……」
いや、セラスさんは神殿で修行をしていたのですから、食べられる木の実とかでもなんとかなるはずですが、単純に僕の料理で舌が肥えてしまっただけです。
お腹が満たされれば満足するエリシャさんと違って、スープなどの味付けを変えると直ぐに反応していましたからね。
要するに目の前に僕がちゃんとした料理を作れるのを知っているから、自分が作った物では満足が出来ないだけです。
まあ、そうするように美味しい食事を振舞っていたのですから、この後に町で購入が出来る携帯食料なども多分ダメかと思います。
そうなると僕に頼るしかないのですが、ここからが交渉の時間です。
事前に用意のしてあった物を温めて2人の前に出すと美味しい物が食べられると期待をしている表情に変わりました。
手早く用意を済ませて、お椀に注ぐ前に僕からの要求を言いましょう!
「そろそろ温まって来ましたので、僕の料理を振舞いたいと思いますが、セラスさんにはあることを誓ってもらわないと2人には御馳走が出来ません」
「何を誓うのですか? レン君のことですからエッチなことかと思いますが……今度はどんなことを要求するのですか?」
「いえ、未だに信仰しているという女神ヴァリスへの信仰を捨てることです。これを誓ってくれたら、これからも僕がいる限りは2人の食事を作っても良いのですがどうしますか?」
「私は知らない内に破門されている身ですが……これで私に信仰を捨てなさいと言うのは、いささか横暴なのではないのですか?」
当然の返答ですがエリシャさんは違いますからね。
「セラスさん! 私達の一生の食事が掛かっているのですから、そんな信仰は捨てて下さい! 私はレン君の恋人になった時から魔王崇拝者になっても良いと思っているぐらいなのです!」
エリシャさんは食事の為に魔王崇拝者にまでなると言っていますが、それはそれで危険ですね。
僕を信仰するという意味だと思いますが、そこまで愛されてると嬉しいですねー。
「確かラムリアス王家は火の女神フレイリーヤ様を信仰していたはずですが……」
火の女神フレイリーヤといえば、あのクソジジイの魔導士に力を貸していた女神です。
ヴァリス以上に高慢な女神だったはずですが、あの神器の杖にどれだけ力を与えていたのか知らないけど、お蔭で僕の部下の大半が焼き殺されたから、いつか火炙りならぬ水炙りにしてくれます!
「肝心な時に助けてくれない女神様よりも、私を助けてくれたレン君を慕うのは当然です! しかも前のレン君を倒した勇者の1人に力を貸していたそうなのですから、レン君の敵は私の敵です!」
「エリシャさんにそこまで思われているなんて、僕は幸せですが……セラスさんが心を入れ替えてくれないと……」
「セラスさん! 早く目を覚まして、レン君にそんな女神の信仰なんて捨てると誓って下さい!」
「私は至って世間的に常識的な考えをしているはずなのですが……」
これは僕が言うよりもエリシャさんに任せた方が得策ですね。
「大体、セラスさんはレン君に近い存在だし、使い魔の刻印だってあるのですから、この世界の人から見たらセラスさんが何を言っても魔王崇拝者なのは確実です! 私だって、使い魔になりたいのに1人だけレン君と一番近い存在なのにずるくないですか? しかも、私を出し抜いてレン君と家庭が持ちたいなんて言っていたのですから、完全に女神様の敵です!」
ちょっと引っかかることはあるのですが、エリシャさんにしては的確な発言の攻撃です。
僕と結ばれたら世界の敵と言っている気がするのですが……それはちょっと切ないかと思います。
しかし、セラスさんにはしっかりと伝わったようです。
心はともかく自分が世間的には魔王信仰側とね。
どちらにしても、あの刻印が誰かに見られたら完全に捕縛対象ですから、何を言っても信用などされません。
「そうなのですが……私は物心が付いた時からヴァリス様を信仰するように育てられたのですから……」
「じゃ、今晩からは私がレン君を独り占めしますので、信仰をしている女神様にお祈りでもしていて下さい。レン君と愛し合うこと自体が女神様に背く行為なのですから当然ですよね?」
それはそれでセラスさんが神殿にでも駆け込んだりしたらまずいので、お祈りなんかで駄女神の方に傾くのは宜しくないです。
「わ、私は……そうでしたね……既に女神様を裏切っているのですから、今更でした……」
「セラスさんが改心をしてくれたみたいですから、これで安心しました!」
「レン君、私との約束は覚えていますか?」
改心をしたセラスさんが僕に確認の為に約束を聞いて来ました。
それはエリシャさんにも教えていない最終的にはセラスさんと子供を作る約束のことでしょうね。
家庭を持ちたいなどのことは問い詰められて話してしまったようですが、僕と子供作る約束の話だけは守り切りましたからね。
だけど僕が成長しないことがばれてしまって、今度は僕が問い詰められましたが、正式に僕の方から「セラスさんとの子供が欲しいのは本当です」と言ったら「仕方ありませんので必ず約束を守って下さいよ?」と何とか納得してもらいました。
僕は恋人との約束は必ず守るので、いずれ叶えますがここで言っても良いのかな?
「勿論です。エリシャさんの前で言っても良いのでしたら、もう一度誓っても良いですよ?」
「言わなくても良いです。それでしたら、私は今よりヴァリス様への信仰は捨てることにします。私には叶えたい夢もありますし……どうせ、私は世界の敵なのですから……」
ようやく素直になってくれたのですが、世界の敵と言われるのは地味にきついな……。
それよりもエリシャさんがちょっとむくれていますよ。
「セラスさん、レン君との約束とは何なのですか? 2人でレン君を愛すると約束したはずですがまた抜け駆けで何か約束をしていたのですね!!!」
「内容は教えられません。いまの話はそれよりも前に約束したことなのですから、エリシャさんとの約束とは別なのです」
「すごく知りたいのですがセラスさんの口を割らせるのは大変だし、レン君も約束さえすれば絶対に守るから教えてくれないし……セラスさんって、陰でこそこそと何かしている所があるのですが、絶対に聖職者に向いていませんよね?」
「なんと言われても構いません。もう破門もされているそうですし聖職者に拘るのは、この際どうでも良くなって来ました。私もエリシャさんのようにあの時に聖職者の私は死んだと思えば良いのです。そう考えれば私がレン君に堕落してしまったのも仕方がないことと思えて来ました」
「いつも聖職者とか言っていたのに、ついに開き直りましたよ!」
「そんなことよりもお腹が空きましたので、早く食事にしたいと思います。今回は私が功労者なのですから、私に感謝をしながら頂いて下さい」
「セラスさんを説得した功労者は私です! セラスさんこそ目を覚ましてくれた私に感謝すべきです!!!」
「それでは、2人とも仲良く食べて下さいね」
そのまま仲良く食べていますが、何だかんだでこの2人は仲が良くなったので、こんな感じで言い争っても問題はありません。
それにしても良く食べますが僕がお昼に言った言葉を覚えているのでしょうか?
世の中はそんなに甘くないのですよ?
どうして僕がセラスさんにお金を持たせたのか2人が満足した頃合いを見計らって知ることになるのです。
しっかりと食べ尽した後に早速ですが、会計の時間です。
「2人ともいっぱい食べましたね。満足はしましたか?」
「はい! レン君の食事はいつも美味しいのですから、沢山食べれます! 以前はこんなに食べたら太ってしまうかと心配をしたのですが、まったくお腹にお肉が付かないので安心をして食べてます」
「体型の維持は女性の課題ですから、ちゃんと2人の体調管理を計算した食事を作っていますから、このぐらいでは太ることはありません。それに運動も十分にすることも考えていますから大丈夫ですよ」
「そんなことまで考えているなんて……レン君はどこかの料亭でも即戦力になりそうですが、最後の言葉は聞きたくありませんでした……」
「流石はレン君です! でも今晩は星空の見える野宿ですから……ちょっと無理ですよね……」
「その辺は考えますが2人の食事のお代は1人銀貨5枚でいいですよ?」
「「えっ!?」」
2人揃って驚いていますが、ただほど高い物はありませんよ?
食事は約束されたと思っていますが、働くことを忘れてしまっては困るので、ここはしっかりと徴収したいと思います。
「いまの食材の料理だと、もうちょっと取れますが、料亭ではないので安くしたつもりなので、早く支払って下さい」
「……私はお金なんて持っていません……この体でしか払えないのですが……」
「エリシャさん、間違っても体で何かを支払うなんてことは言ってはいけません。代金についてはセラスさんが2人の分を預かっていますので支払えるはずです」
「どうして、セラスさんがお金を持っているのですか!?」
「代表でセラスさんに渡しただけですから、何か買いたい時はセラスさんに貰って下さい」
「セラスさんにお願いしないとお金が貰えないなんて、私は子供ではありません! 私にも下さい!」
何となく町に行ったら、無駄遣いをしそうな気がするんですよね。
大体、金目の物をちょろまかして逃げ出したと言っていましたが、エリシャさんの指輪が入っていた荷物には銀貨と銅貨が数枚しか無かったので、仮にも王族の持ち物を売り払ったのですから、結構な金額になったと思うのですが、恐らく無駄遣いをしたのか何も知らないと思って買い叩かれたと思うのです。
まあ、僕はどちらも正解と思っているのです。
セラスさんと共同の財産なので、セラスさんが注意するだけなので、同じだけ渡して置きますか。
「それでしたら、エリシャさんにも渡して置きます。これはダンジョンで本来得ていた収入ですが、残りは僕が預かっています。セラスさんと共同の財産ですから無駄遣いは駄目ですよ?」
「はい! ありがとうございます! それでは払いますが……レン君……その預かっている残りはどのくらいあるのですか?」
すぐに袋の中身を確認したエリシャさんの表情が変わりましたよ?
しかも残りの残金まで気にしていますね。
「2年間に倒した魔物の数だけありますが、どう致しましたか?」
「この袋の中身の銀貨が50枚しか無いのですが……これではすぐに無くなってしまいます……銅貨も50枚ぐらいなのですが、ここで支払うと10食分しか残らないのです。なので、レン君が預かっている分がどのくらいか知りたいのです……」
まさか直ぐに後々のことの計算をして来るとは想定外でした。
袋に入れて置いた貨幣の枚数まで直ぐに見抜くとは、もしかして計算が得意なのですか?
「それに金貨が1枚も無いのが心許無いのです……ここで貰えないということは残りの分も少ないのではと思ったのです……」
これはエリシャさんの方がお金に関する感覚が高かったようです。
セラスさんはあれで大金と思っていましたが、エリシャさんは本当にお小遣い程度と思っています。
これからの食事の支払いのことを計算して不安に思っているようです。
仮にも王族でしたので、経理関係の勉強もしていたのかも知れませんね。
人族の定めた貨幣価値としては銅貨10枚で銀貨1枚になるのですが金貨は銀貨100枚と言った感じで上の硬貨になっていきます。
「取り敢えずはお支払いしますが、明日からは分量を減らして安くして下さい……」
しかも値段交渉までして来るとは……ちょっエリシャさんのことを見直してしまいました。
世間知らずのお姫様と思っていましたが、少し認識を変える必要があります。
「エリシャさんがちゃんと計算が出来るとは意外でしたが、明日からは普通の食事の分量にして銀貨2枚にして置きます。沢山食べた時は3枚にします。それと金貨の方も5枚ほど渡しますので、これで宜しいですね?」
「はい! レン君、ありがとう! 私だって、将来は国に関わる仕事をするかも知れないので、嫌でしたがちゃんと勉強はしていました。妹の方が頭が良かったので途中から兄様達と剣の方に熱中していましたが……弟にどうしても勝てないからさぼり気味になってしまったので、それで結局どちらも半端になってしまいました。魔法に関しても初歩しか出来ないのですけどね。それで残りはどのくらいあるのですか?」
「あの階層のスケルトンは一体に付き金貨1枚が手に入る仕組みにしてあったのですから、エリシャさんでしたらいくらあるか分かるのではないのですか?」
「あれで金貨1枚なのですか……最初は苦労しましたが簡単に倒せるようになってからは随分と倒しましたので、この2年間の計算でしたら結構ありますね! それにあの強さの敵で金貨1枚なんて破格と思います!」
どうも今まで倒した数も即座に計算して大体の財産の計算まで出来たようです。
妹さんの方が優秀と言っていますが実はエリシャさんは意外と頭が回るみたいなので、魔法の才能があればセラスさんよりも優秀だったかもしれませんね。
単に妹さんの方がちょっと頭の回転が速いだけなのかと思いますが、エリシャさんも十分に可能性はあったはずです。
剣の方も基礎はちゃんと出来ていましたので、後は良い師匠でもいれば腕も上がったと思います。
兄弟としか剣の練習をしていなかったので、上手く教えれなかったのかも知れません。
僕の我流の剣術ですが以外にもある程度は習得しましたので、その辺の冒険者になら勝てる筈です。
最初の段階で魔法の才能は無いと決めつけてしまいましたが、何とか魔法が使えるようにすれば立派な魔法剣士になれる気がしてきました。
ラムリアス王家の者は火魔法が得意だったはずですから、素質が無いわけではありません。
そうなると低い魔力の方を何とか改善すればそれなりに実戦に使えるようになれる気がしてきました。
あんな初歩の魔法を使う為に詠唱なんてしていましたが、あれは単純に駆け出しの初心者が魔力を集中しやすいようにしているだけなので、頭の中で処理が出来れば不要なのです。
セラスさんにこれを教え込むのには苦労しましたが、エリシャさんは魔力さえあれば直ぐに実践が出来そうですね。
「レン君、どうしたのですか? また何か考え込んでいますが、これは今日の2人の分です。それといくらあるのか把握が出来ましたから、今度からはそちらから引いて下さい。手元に持っている分はなるべく減らしたくないのです」
「では、次からはそうさせてもらいますね。セラスさんも同じにしますので安心をして下さいね」
セラスさんは今のやり取りで自分よりもエリシャさんの方がしっかりしていると思ったようですね。
普段は元気なだけが取り柄と思っていたのに意外な伏兵でもいた感じです。
「分かりましたが……エリシャさんが計算に強いとは初めて知りました……世間知らずの王女様と思っていたのですが……」
「あっ! セラスさん酷いです! 確かに私は世間知らずな所がありますが一応は勉強もしていたのですから、ある程度の学はあるんですよ!」
「も、申し訳ありません! いつも自分の思った行動を直ぐにするから……」
「私は自分がしたいと思った時はまずは行動すると決めているからです! セラスさんみたいに考えてから行動するのは向いていないだけなんです!」
「エリシャさんが積極的なことは分っていますが、状況を見極めることも大事かと思いますが……」
「それでいつも後手に回って損をしていると思う時があるのですが?」
「……思うところがあるので、何も言えません……」
「でも、そんな慎重な所があるから、ダンジョンでは私も助けられたんですけどね!」
「そう思ってくれるのでしたら、構いませんが……私の方が年長者なのにいつも言い負かされている気がします……」
「セラスさんって、半端に常識人みたいなことを言うからですよ。でもそこが可愛い所なんですよねー」
「もう、何でも好きなことを言って下さい」
2人がお喋りをしている間に簡易テントを二つ出して置きました。
そろそろ寝たいと思いますがどちらに入るのか聞いて見ましょう。
「はい、寝る為のテントを出しましたがどう致しますか?」
「私は、てっきりその辺の木にもたれて眠ると思っていましたが、こんな物が合ったんですね……」
「私も何か掛ける物ぐらいを持っているのかと思っていました。こんなしっかりした物を用意しているとは思いませんでした」
「男でしたら、その辺に転がして置きますが女性をその辺に寝かせるなんて真似は僕はしません。これは昔に旅をしていた時に作った物ですが魔力で補強もしてあるし内部は快適な温度で保たれる付与もしてあるので、とても使えます」
「女性限定なのですか……しかし、見張りなどがいないと魔物に襲われた時に対処が遅れてしまうのではないのですか?」
「セラスさんの意見は最もなのですが、僕がいる限りはその手の結界が張ってあるので魔物の類は近づけません」
「でしたら、他の人が近づいてきた場合はどうなのでしょうか?」
「僕は常に気配の感知をしていますので、直ぐに気付きますから大丈夫です。僕は完全に眠っていても敵意などを感じると直ぐに目が覚めますからね」
「それでしたら、安心を致しました。二つのテントがあるのですがこれは男女別ということなのでしょうか?」
「そんなのは、1つは素直に寝たい方用で、もう1つは僕と寝る為のテントです。2人とも僕と寝たいのでしたら、もう1つは片付けますがどうしますか?」
「……要するにレン君と寝るか寝ないかですか……」
当然です。
誰かに自分の恋人のあられない姿を見せたくないから作ったとも言えます。
昔は覗いた奴は密かに始末していましたが明け方に死体が転がっているのが宜しくないので、このテントを作ることにしたのです。
「はーい! 私はレン君と寝たいので、一緒のテントが良いです! 先程食べ過ぎた分を消費しないといけませんからね!」
「エリシャさん……そのようなことを言うのは今後は控えた方が良いかと思います。あのダンジョンの時と違って誰が聞いているかわかりませんので……」
「それは分かりましたがセラスさんはどうするのですか?」
「今夜は何となく1人で眠りたいので、もう1つの方を使わせてもらいます」
「わかりました。それではエリシャさんは僕と一緒に寝ましょう」
「はい! 頑張ります!」
「はぁ……それでは私も休ませてもらいます。おやすみなさい」
「セラスさん、おやすみなさいー」
その後、エリシャさんが眠った後に隣で1人で何かしているセラスさんの声が聞こえてきました。
最初からこちらに来ればいいのにね。
魔物に対する結界は張っていますが防音対策などはしていません。
僕を中心にある程度の範囲は外に音が漏れないようにしていますがその範囲内は聞こえている筈です。
エリシャさんは声を押し殺すことはしませんから、隣のテントにいたセラスさんには、しっかりと聞こえていたと思います。
恐らく明日はきっと素直になると思いますが、明日のお昼前に付くあの村に宿なんてあったかな?