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魔王様の隠匿生活  作者: セリカ
10/24

10 贈り物は平等に


 2人とも久しぶりに地上に出てきました。

 エリシャさんは息を大きく吸って自然を感じているみたいですが、セラスさんは何だか元気がありません。

 こんなに良い天気なのに何を悩んでいるんでしょうね?

 ちょっと気になるので聞いて見ますか。


「セラスさん、元気が無いみたいですがどうしたのですか? 久しぶりの地上なのですから、ここはもっと感動でもするところではないのですか?」


「はぁ……私は誰かの所為で破門された身なのですよね? そんな私が町に行って司祭様や先輩に見つかったりしたら、何を言われるのかと思うと頭が痛いのです……」


「大丈夫ですよ。こちらから何かしない限りはひたすら無視されていますから、セラスさんが心配をすることなんてありませんよ?」


「……無視されているということは出会うことがあるということですね……」


「ギルドに通う為にどうしても町に行っていますから、高確率で会います。こっちも無視をしていますので、まったく問題はありません」


「……確認の為に聞きたいのですが、いつ破門されたのですか?」


「確かセラスさんとエリシャさんが運搬役のスケルトンに運ばれてこなくなった頃ぐらいからです。流石にあの頃はすぐに叩きのめされて戻って来るから、僕の手厚い看護が必要でしたからね」


「すると……1年以上も前から私が破門になって、私の偽物がその様な態度を取り続けていたなんて……私にはまだ信仰心があるのに酷いです! 大体、手厚い看護などと言っていますが脱がしていやらしい手つきで薬を塗っていただけではないですか!」


「まだ、あの駄女神を信仰をしているとは、ちょっと許せませんね。今晩からは信仰を捨てるまでは罰を与えますので、覚悟をして下さい。まったく僕の献身的な治療をいやらしいなんて言うなんて、嬉しい癖にどうして素直ではないんでしょうね」


「何をするのか知りませんが好きにして下さい。どうせ、いやらしいことをするだけなのですから私は耐えるだけです」


 ふーん。

 いつもなら口では嫌と言って置きながら期待をしている癖にこんなにハッキリと拒否をするのは珍しく反抗的です。

 そんな態度を取られたら、僕は増々喜んで求めるように言わせたくなるのをまだ分っていないと見えます。

 まったく元は聖職者の癖に根は淫欲の塊なのを自覚していないと言うか認めませんからね。

 僕の使い魔になっていることを忘れているのか知りませんが、罰と言っても色々あるんですよ?

 それにしても普段はしっかりしているのに、この程度で悩むとは精神が弱いですね。

 他の魔法が使えるように精神面も鍛えたのに感謝するどころか僕をいやらしい扱いをするなんて……もう一度本人の口から求めるように教育する必要があります。

 だけど僕のことが好きなのに素直になれない所がセラスさんの可愛い所でもあります。

 エリシャさんと違ってセラスさんは僕の使い魔になっているので、僕に好意を寄せていることは伝わってくるのです。

 本人にはその様なことは一切教えていませんから、見ていて楽しいんですよね。


「セラスさん、大丈夫ですよ! 私なんて、既にこの世にいないけど、これからは立派な剣士として頑張ると決めたのですから、セラスさんも堅苦しい聖職者を辞めて自由な魔法使いになったと思えば良いのです!」


 流石は世間的に死んだことになっているエリシャさんは詰まらないことを考えないで前向きですね。

 まだまだ立派な剣士には程遠いのですが、頑張っている可愛いお姉さんは大好きなので、僕もしっかりと応援したいと思います。

 これが今まで居たダンジョンの最下層でしたら、汗を掻いても問題の無い薄めの服装にするのですが、外の世界でそんな服を着せたら、他の男達を間引きしたくなってしまうので、まともな服装にしています。

 セラスさんは僕の考えが分っているので、そういった服は中々着ないので困り物でした。

 それはともかくエリシャさんの考えに賛同をしてもっと気軽に考えれば良いのですよ。


「エリシャさんが私をどのような目で、これまで見ていたのか良くわかりました。今更起きてしまったことを悩んでも仕方がありませんので、何か合ったらレン君が責任を取ってくれれば良いのです」


 またいつもの僕に責任を取れ発言が出ました。

 そんなことを言われなくても一生面倒を見るつもりなのですから無用な心配です。

 取り敢えずはオリム町に行く前に通り道にある小さな村にちょっと寄るつもりですが、一晩だけは森で野宿をしないといけないんですから、まずは生活能力が身に付いたかを見て見ましょう。

 特に魔物とも遭遇をせずにのんびりと進んでいましたが途中で昼食を取ることにしました。

 休憩が出来そうな所を見つけましたが、まずはどうやって食事の準備をするのか見て見たいと思います。

 道中で小動物などはいましたが、狩らずにただ歩いていただけです。

 僕は一応ですが、あの動物は焼くと美味しいとか鳥の巣を見つけた時はあの卵は栄養があるので、料理に色々使えるとか食用に適した薬草やきのこ類なども説明をしながら来たのに2人とも頷くだけで何も行動をしないのです。

 装備以外は何も持っていないのに一体どうするつもりなのかな?

 まあ今までは僕が全て用意していましたので、今回も僕が用意をしてくれると思っていると思いますが甘いですよ。

 僕は最初に旅をする時に自分のことは自分で出来るように色々と覚えるようにと約束をしたはずです。

 どうしても困っている時は助けますが、普段から全てを僕に依存をしていたら僕がいない時に困ってしまいます。

 僕が支配しているダンジョンの中でしたら、何とでもなりますが外に出てしまったら、常に監視をするなんてことは僕には不可能です。

 今も切り株に座って、2人揃って僕の方を見ています。

 これは僕が食事の用意をするのを待っていますね。

 僕が魔族だった時の恋人たちは積極的に食事を作って僕に食べて欲しいと言ってくれたのですが、この2人はその辺の能力が完全に欠落しているようです。

 エリシャさんには家事の能力が無いことはこの2年間でよく理解が出来ましたが、セラスさんは一応は僕と一緒に色々と作って教え込んだので、食事を作ることは可能なはずなのです。

 少し難しい物は僕が指示しないと調味料を間違えてしまう事ぐらいなのですが、そのぐらいの失敗でしたら可愛い恋人が作ってくれた食事なので僕は気にせずに食べますが、エリシャさんは最初の頃は文句を言ってましたが自分はもっと駄目なので僕が美味しいですと押し切れば文句は言いません。

 セラスさんはちゃんとどうしてこの味になったかを聞いて来るので教えてあげていますが、エリシャさんは僕に作って欲しいとしか言わない始末です。

 今回だって、僕が教えてあげていた小動物を狩って他の食材になる物をちゃんと拾っていれば、ここでセラスさんが調理をすれば良いだけなのです。

 その時は調味料の類は流石に僕が出してあげたのですが……これでは未来の奥さんは無理なのではないのでしょうか?

 僕はしばらく考え事をしていたのですが、まだ座ったまま動かないのですが……これは駄目ですね。

 僕が何もしないで空を見上げているとようやくエリシャさんが声を掛けて来ました。


「あの……先ほど、ここで昼食をするとレン君が言ったのですよね?」


「言いましたよ? 早く準備をしないといつまで立っても食事が出来ませんので、お腹が空くだけですよ?」


「えっと……レン君が用意をしてくれると思っていたのですが……そろそろお腹も空いて来たのでレン君の美味しい食事が食べたいかなーと思って……」


「これまでは僕が全てしてきましたが、そろそろ1人でもきちんとした生活が送れる所が見たいのです。その為の方法も僕は教えましたよね?」


「確かに教えてもらいましたが、今日からなのですか!?」


「一応ですが小さな結界を張ってありますので、僕の近くにいれば魔物に襲われることはありませんので安心をして下さい。道中で色々と助言をしたはずなので、それらを使えば食事の用意が出来ると思いますので、期待していますよ?」


「助言って……」


「僕は歩いている時に食材になりそうな物を見つけては話しかけていたはずです。それらを手に入れていれば簡単な食事が作れるはずです。食器類などは僕が出してあげますよ?」


「聞いてはいましたが……いつものレン君の講義と思って聞いていただけです……」


 あれは本日の昼食や今晩の食事に使えるから、狩って置きなさいという意味だったのですが、まったく動きませんでしたから当然ないですよね。


「その……何も持っていません……ダンジョンで、レン君がいつも作ってくれていたお弁当があると思っていました……」


 確かにダンジョンの中では、出掛ける時に僕の愛情弁当を持たせていました。

 まさかずっとお昼は僕がお弁当を作ってくれると思っていたのですか?

 ダンジョンの中では、僕は2人の訓練の時以外は自分の体の調整以外はすることがないので、料理の仕込みや掃除や洗濯をいつもしていましたが、どうもこの2人は駄目な大人になってしまったようです。

 これでは僕は2人の専属の主夫ですね……ベットの上以外は僕が奉仕していることになりますよ。


「これからは、2人の方がお姉さんなのですから、僕の面倒を見て欲しいと思っているのです。僕が2人の世話をしている所を誰かに見られたら、世間的にまずいのではありませんか?」


「それはそうなのですが……」

 

「はぁ……これはちょっと生活面で甘やかしすぎてしまいましたね。これでは1人で旅なんて出来ませんよ?」


「ううっ……だって、いつもレン君が美味しい食事を用意してくれてるし……ダンジョンの中での食事だって、レン君が持たせてくれた日持ちのする物だったけど冷めていても美味しかったから……今回はレン君と一緒なんだからずっと作ってくれると思ってました……」


「それでお昼はどうしますか?」


「我慢します……レン君の美味しい食事が食べたかったな……ううっ……」


 やっぱり駄目でしたか。

 最初に僕と交わした約束はどこに行ってしまったのでしょうか?

 僕としては色々とお世話をしてあげたいのですが、それでは2人が駄目になってしまうので、涙を呑んで厳しくしているのです。

 先ほどから黙っているセラスさんも言い難いことはエリシャさんに質問させていますが、そう言う所はずるいんですよね。

 年長者ぶって正論のごとくなにか言っていますが何でも質問するエリシャさんを上手く使っていますよ。

 仕方がありませんので、今回は食事は用意します。

 でも、明日から厳しくすることにします。

 恋人に尽くしてあげたいのですが、それで堕落してしまっては困りますからね。


「レン君、申し訳ありません……私も何も用意をしていません……」


 セラスさんもやっと話して来ましたが、今でしたら素直に話を聞くので、ちょっとお話をして置きましょう。

 取り敢えずは、お腹を空かして泣いているエリシャさんが可哀想なのでやる気でも出させますか。


「食事が無償なのは今回だけですからね?」


「はい! ありがとう! レン君!」


「こんなことだろうと思って、作り置きした物が僕の亜空間にありますので用意します。シチューを少し温めたいので火ぐらいは起こして下さい」


「直ぐに燃やせそうな枝を集めて来ます!」


 エリシャさんは落ちている枝を集め始めましたが、セラスさんも行こうとしたので引き留めて話して置きたいことがあります。


「セラスさんはここで僕の手伝いをしながら、ちょっとお話があります」


「私は拾いに行かなくて良いのですか? お手伝いといってもすることがありませんが……それとお話とは何でしょうか?」


 目の前に前もって集めて置いた枝で簡単に火がくべれる状態にして一言。


「セラスさん、火」


「は、はい!」


 素直に言われるままに簡単な火魔法を使って火を付けましたがこういう時に魔法って便利ですよね。

 セラスさんも簡単な魔法ぐらいでしたら、無詠唱で行使できるようになったのは良いことです。

 頑張っているエリシャさんがいない内にセラスさんに袋を1つ渡しました。


「これは何ですか? 中身は……銀貨と銅貨のようですが?」


「これから人里に行くのですから、少しぐらいは持ってないと困るでしょ? エリシャさんは金銭感覚がいまいちわかっていないと思うし、渡したら直ぐに使い切ってしまうと思うのでセラスさんに渡して置くのです」


「結構入っていると思いますが……」


 そんなに沢山は入れてないのですが、セラスさんが大金を持ったことがないことだけは分かりました。


「無くなったら少しづつ渡しますが、無限にあるとは思わないで下さい。ちなみにこれは今までにダンジョンの中で魔物を討伐した報酬の一部ですが、残りは僕が持っています」


「あのダンジョンの魔物は倒しても何も落とさずに消えてしまっていたのですが……」


「あのダンジョンのマスターは僕なのですから、そのぐらいは魔物を倒した時に手に入る物も僕が調整が出来るのです」


「そうでしたか……でも、あのダンジョンの金銭効率は非常に低いと聞いていましたが、この貰った分よりもまだあるのですか?」


「僕の可愛い恋人が頑張っているのですから、少しぐらいは色を付けますが、だからといって無駄遣いはいけませんよ? 出来ることでしたら、僕からは追加分を貰わずに頑張って欲しい所です」


「分かりました。レン君が私達の先のことを考えてちゃんと貯金をしてくれていたことには感謝いたします」


 貯金も何も人族の世界の硬貨ぐらいでしたら、ダンジョンコアが学習していましたので、少なくとも困らない程度には作ってあります。

 貨幣価値は僕の国には人族もいたので、同じ通貨を流用させていたのです。

 それにいざとなったら、僕にはお金を手に入れる方法はいくらでもありますので、恋人にお金で苦労なんて絶対にさせません。

 ただ……流石に生活能力が欠けてしまうのは問題なので、しばらくはこちらの勉強もさせたいと思ったのです。


「それと、この指輪を渡しますので、大事にして下さい」


「とても綺麗な指輪なのですが……もしかして私と夫婦の証の指輪ですか!? ありがとうございますレン君! 絶対に肌身離さずに身に付けて置きます!」


 早速、僕から指輪を貰うと左手の薬指に嵌めて、すごく喜んでいます。

 別に構わないのですが、それただの亜空間収納の指輪なんですよね。

 しかも制限付きだから、中堅以上の冒険者だったら、頑張れは手に入らないこともありません。

 今なら、抱きたいから脱いで奉仕をしてとかいったら、普段は拒否するセラスさんだけどやってくれそうですね。

 ちなみにエリシャさんは僕が誘えばすぐに承諾するので抵抗すらしません。

 どうせエリシャさんが戻って来たら同じ物を渡すので教えてしまいましょう。


「それは時の指輪と呼ばれる持ち物を亜空間に閉まって置ける道具です。入れて置ける数は10個までなのですが、ちょっと袋などに入っている物でも余程大きい物でなければ1つとして認識されるので、私生活の荷物を入れて置くと便利です。ちなみにその指輪にはセリスさんの下着や予備の服と小物を入れる為の空の小箱がなどが既に入っていますので、既に半分は入っています」


「結婚指輪ではないのですか!?」


「違います。本当はセラスさんの実力では手に入らない道具なのですが、身軽になれるので便利かと思って渡しました」


 すごく喜んでいたのにすごく分るくらいに落胆しています。

 あんなに輝いて見つめていたのに死んだ魚のような目になってしまいました。

 一応はセラスさんには手に入らないすごい道具なのにね。

 どうも便利な道具よりも、僕のと結婚指輪がお望みの様です。

 

「そんなに落ち込まなくても、その内にセラスさんに相応しい指輪を正式に贈りますので安心をして下さい」


「本当なのですか……いつもレン君は喜ばせて置いて実はこうでしたと簡単に言いますので、本当は乙女心を分ってはいないのではないのかと思う時があるのです……今までに宝石などの装飾品は貰ったことがないので、今回はそんなことは無いと思っていましたから……」


「僕はいつだってセラスさんのことを愛していますから、ちょっと浮き沈みの激しいセラスさんをついからかっているだけです。それまではその指輪で代用をしていて下さい。それから後ほど中身を自分で確認はして置いて下さい」


「分かりました。レン君の言葉を信じていつか素敵な指輪を貰えると夢見ています。それでどうやって使うのですか?」


「自分の意思で装備者の好きな所から取り出せるので、そのお金の入った袋などは袖に手を入れて取り出しているふりをしながら出し入れすると便利です。他に入っている物は一度自分で見て認識させておく必要がありますから、夜にでも全てを出すように念じて確認をしてから仕舞って置けば次からは個別に出せるようになります」


「そんなすごい道具があるなんて初めて知りました。もしかしたら、とても高価な指輪なのではないのでしょうか?」


「そうですね……人族の定めたランクBぐらいの冒険者なら手に入るかと思います。もっと制限大きい物もありますが金額が跳ね上がって行きますので、持てる者が限られてくると思います」


「そんなすごい物なのですか!?」


「きっと、以前のセラスさんが普通に生きていたら、一生手に入らないと思います。だけど、セラスさんは僕の力の恩恵があるので、努力次第ではいずれ手に入るかも知れませんね」


「あの……これを誰かに見られたら、あまり宜しくないのではないのでしょうか……」


「そう思って市場に出回っている物と違う指輪に加工し直しましたので安心をして下さい。本来の時の指輪は紫色の宝石が付いているのですが、僕が錬成をして外見を作り直しているので宝石の部分をリング自体と融合させているので、宝石が無いただのリングになっているのです」


「確かに宝石などない銀色の指輪に見えますがレン君は錬金魔法まで使えたのですね」


 今頃気付いたのですか?

 僕は最初に教えていますが、その完成品が目の前にいるんですけどね。


「セラスさんの体を僕がどうやって再生したのか教えたので、気付いていると思ったのですが?」


「錬金魔法というのは鉱石の加工のことではないのでしょうか? 高名な鍛冶師の方にいると聞いたことがあります」


「別に鉱石以外にも生体錬成も可能です。鉱石の錬成が出来るのは鉱石の素材や元素などの理解が出来ているからなのです。薬品などの生成だって錬金魔法の範囲に入りますよ? 僕の場合は生物の研究もしていたから、生体の錬成も一応は出来るのですが、このことは他の人に話してはいけませんよ?」


「すると私の体を直したのは、その生体錬成ということなのですか……レン君は治癒魔法が使えないと言っていましたが、そんなことが出来るのでしたら、素晴らしいことだと思います。でも、どうして秘密にするのですか?」


「人族のルールでは生物にこの様なことをするのは禁忌とされています。それをした為に追放された高名な魔導士などがいると思いますよ?」


 僕の昔の恋人ですけどね。


「そうでしたか……初めて聞きましたが誰にも言わないように致します。私自身がそのルールを破ってもいますから……ですがレン君はどうして、そのことに詳しいのですか?」


「それは、その追放されたお姉さんを助けたことがあるからです。彼女はその手の分野で賢者と呼ばれるまでに至ったのですが、晩年は若さを取り戻す研究をしていたのです。そして自分の姿を変えることにも成功しましたが、その研究を手に入れようとした者達に目を付けられて追われる身になっていたのです。人体や生物を知る為に色々とまずいこともしていましたので、神殿からも捕縛命令が出ていたのです」


「また、お姉さんですか……」


「本当の年齢は80代でしたが見た目は20代後半の姿でしたから、僕はつい助けてしまいました。そして彼女が亡くなるまでの10年ぐらいは、あのダンジョンで色々と2人で研究をしながら甘い月日を送っていましたね」


「見た目20代で実年齢は80代のお姉さん……レン君が見境が無いのは分かりましたが、その方も若さを取り戻したからといってレン君と甘い生活をしていたなんて……」


「口調というかいつも「若いもんには負けんのじゃ」などと言っていましたので、若い子の口調ではありませんでしたが、中々面白い方でしたよ」


「ようするに孫に手を出す見境のない人物ですね……もう少し歳を考えてレン君と暮らすのが普通だと思いますが……」


 同じ女性に対して酷いことを言っています。

 僕から見たら、80歳とか小娘と思える年齢なのですが人族の寿命から考えたら高齢ですからね。

 どうせセラスさんは何事もなく死ななければ年齢詐称のお姉さんにいずれはなるのですから、実年齢が80歳を超えたら、この時の話を蒸し返して感想を聞きたいと思います。

 しかし、既に故人の人に対しても嫉妬するとは、これから町に行ったらちょっとまずい気がしてきました。

 そんな話をしている内に両手いっぱいに枝を集めてきたエリシャさんが戻って来ました。

 遅いと思ったらどれだけ集めて来たのですか?


「あー!!! セラスさんの左手に指輪があります! しかもそこは結婚をしている意味の指です!」


「エリシャさん、これはですね……」


「セラスさん、抜け駆けはずるいです! 私1人に枝拾いをさせておいて自分だけレン君から指輪をもらっているなんて、裏切りです! 2人で約束したのに早くも友情が壊れました!」


「待って下さい! これはそのような指輪ではなく荷物を……」


「言い訳なんて聞きたくありません! レン君! 私にも指輪を下さい!」


 何やら勘違いをしています。

 セラスさんも説明をしょうとしたのですが、エリシャさんが聞く耳を持たないので困っていますね。

 それに何の約束をしたか知りませんが、僕にはそっちの方が気になります。

 セラスさんが困っているのを見ているのは面白いのですが、このままではセラスさんの不満度というかストレスみたいな物を蓄積させた方が僕とする時に激しくなるので貯めたい所です。

 だけど、エリシャさんをこのままという訳にはいきませんから、ちゃんと説明をしますか。

 僕は無言でエリシャさんの左手をとって、セラスさんと同じ指に同じ指輪を付けてあげると怒っていたのにすぐに機嫌が直って喜んでいます。


「はい、これでエリシャさんもセラスさんと同じですから良いですよね?」


 セラスさんの手を取って自分の指輪と比べてますが同じであることを確認すると僕に抱き着いて来ました。


「もうー、こういう物は私も居る時にください! そうじゃないと私だけ無しなのかと思ってしまいました。セラスさんも早とちりをしてごめんなさいね!」


「いえ、わかってくれれば良いのです」


 セラスさんは毎度のことなので、特に怒ったりもしていません。

 表情だけは疲れたと言っています。


「その指輪はセラスさんにも説明をしましたが、荷物をしまって置ける道具なのです。使い方は後ほどセラスさんと確認をしてもらうとして人前では大っぴらに使わないようにして下さいね」


「わかりました! しかし、結婚指輪と思っていたのですが、これは時の指輪だったのですね。でも、私の知っている形と違いますが、このような形の物も合ったのですね?」


 流石は元王族でしたから、知っていた見たいです。

 しかし、流通している数が少ないので持っている者は限られています。


「エリシャさんが時の指輪を知っているとは意外でした」


「私の専属の女中が持たされていましたので、私の衣装などを仕舞っていたから覚えていますが、とても貴重な物と言っていました」


「でしたら、使い方は知っていますね?」


「知りません? どこからともなく出していたので、私もやってみたいとお願いしたのですが、尽く却下されていたのです……私に触らせると無くしたり壊したりするから、お母様から決して触らせるなとまで言われていたそうなのです! 酷いと思いませんか?」


「さあ? 僕は両方の言い分を聞いてからでないと判断は下さないと決めていますので、例え僕の可愛い恋人のエリシャさんの話でも鵜呑みはしませんよ?」


「レン君、そこは私が正しいと賛成して欲しい所なのですが……」


 僕もこの2年間でエリシャさんのことは大体理解が出来ましたので何となく理解が出来ます。

 僕の工房の瓶を割ったりしていましたので、助手もさせられないので、工房では手を前に出すことを禁止したぐらいです。

 勿論ですが罰としてお仕置きをしても本人が喜ぶだけなので意味が無いし掃除をさせても被害が広がるので何もしない方が良いのです。

 エリシャさんの兄弟姉妹はしっかり者と聞いていますが、僕は怪しいと思っています。

 僕の集めた情報だとラムリアス王家の王妃様はまだお若く美しいそうなのですがこんなに子だくさんということはエリシャさんと同じく夜の方が得意なのではと推測したぐらいです。

 

「片方の意見だけ取り入れているのは公平差を欠きますから、よくありませんよ? 僕も一応は魔王として国を治めていたことがありますから、判断を誤るととんでもないことになります」


「それはそうなのですが……」


 しかし、最後は娘に負けるつもりでいたのですから、そのこと自体が国を裏切っているとも言えますけどね。

 なので、最後まで僕といることを望んだ者達以外は僕の使い魔と一緒に各地に逃がしたのに徹底抗戦をしたと聞いたので、生きている可能性が低いかと思います。

 今思えば、勝つつもりで戦って、あいつらと相打ちになれば良かったのかも知れません。

 やつらもシンシアが前にいれば僕が本気で戦わないと分っていたような戦い方だったので、先に彼女を倒してしまえば僕にも勝機が合ったのです。

 彼女も僕になら殺されても構わない様子だったけど……僕にはそんな事は出来なかったのです。

 それにしても彼女は今頃どうしているのでしょうか?

 町で集めた噂では彼女だけは、その後の戦いに参加せずにどこかに失踪したことになっています。

 もしかしたら、どこかで遭遇するかも知れませんが、それはその時に考えるとして僕が考え事をしていた所為で機嫌でも損ねたと思ってエリシャさんが僕の顔色を窺っています。

 彼女の頭を撫でて食事にすることを告げると元気になりましたが、相手と話している時にも他のことを考えるのは僕の悪い癖ですね。

 取り敢えずは、お腹を満たして今夜のことでも考えましょう。

 これだけ言ったのですから、夜の食事は期待していますよ?





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