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片翼の鳥~出会いと別れの物語~  作者: 那周 ノン
第三幕【毋望之禍】
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第九十四節 ルシアの教示

 思いも掛けずルシアと出くわしたことで、ヒロは取り急ぎオヴェリア群島連邦共和国の城がある首都ユズリハへ向かうこととなった。


 ――『ゆっくり案内するって言ったのに、ごめんね。ルシアにバレちゃったから、急いで首都に向かわないと後で何を言われるか……』


 ヒロは両(てのひら)を合わせ、至極申し訳なさそうにして詫言を述べた。


 本当であればアサギリ港近くの村に連れて行って、そこを見てもらいたかった。首都ユズリハ付近の小島で見られる景色を見てもらいたかった、などと無念さを言い表していたが――。

 ビアンカが時間ができてからで良い旨を伝えると、ヒロは嬉しそうに笑っていた。


 そうして、ルシアに引き連れられる形で、ヒロとビアンカは首都ユズリハ行きの船に乗り込むことになった。


 アサギリ港があった南西の島から首都ユズリハのある中央島へは、中央島沿いにぐるりと東南に下って回り込む形になる。


 ヒロの言によれば中央島を囲う形で岩礁海域が存在しており、島も外周を山が取り巻いているそうだ。その山脈の(ふもと)部分に首都ユズリハを建て、天然の城塞として機能させているという。

 そうした島の形な故に、岩礁海域や山脈地域を避けた南側に港が作られている、との話だった。


 アサギリ港から首都ユズリハへの船の移動時間は半日ほど。その間は船内で過ごすことになるため、落ち着いて話などが出来る場が欲しいとヒロが言い出した。だので、ビアンカたちは一つだけ船室を借りることになっていた。


 当のヒロ本人は部屋を外しており不在。

 部屋に置かれたテーブルの一席に、ビアンカが腰を掛けていた。その(かたわ)らにはルシアが立ち、目の前にあるテーブルに寄り掛かるようにしてカルラが話に耳を傾ける。


「――魔力というものは、本来であれば持って生まれるもの。先天的な才能であり、後天的に手に入れることは、ほぼ前例がありません」


 ルシアの口説を聞き、ビアンカが首を捻った。


「……『ほぼ』っていうことは、例が無いわけではないのよね?」


「ええ。極々(まれ)に後天的に魔力を手にする者もいます」


 魔力を有して魔術師としての才能を持つ者は、今の時代では稀有(けう)な存在である。人間たちの日常生活に魔法に頼らずとも不便な面が少なくなっていくのに比例して、徐々に『魔法使い』と呼ばれる者の出生率が下がってきているのだ。

 ルシアの説明によれば、魔力を身体に蓄えるにも才能が必要であり、それは持って生まれるものだという。だが、少なからず例外もあった。


「それは、どんな事例なの?」


「幾つか事例があるのですが。その中の一つが、“呪い持ち”となることです」


「それじゃあ。私もできる、わよね?」


「そうですね。ビアンカさんは“喰神(くいがみ)の烙印”という、非常に強力な魔力を操る呪いの宿主なので。魔力自体は身体に馴染んでいます」


 そこまで言うと、ルシアは「ただ……」と、小さく声を漏らす。それにビアンカは小首を傾げた。


「ビアンカさんもリーダーと同じですね。“呪いの烙印”を通して魔力を得てはいるけれど、それを魔法に置き換える才がありません」


 ルシアが見抜いていたのは、ビアンカの体内を巡る強い魔力の流れ。だがしかし、それを攻撃魔法や治癒魔法といったものとして操る素質の無さだった。


 そうした話を聞き、ビアンカはフッとエレン王国に居るハルのことを思い出した。


 ハルは強い魔力を有しているものの、それを魔法として操る術を持たない。その代わりに、魔法や呪いの類が一切通用しない特異体質であると――。

 その話を聞いた時に、ビアンカは後から訓練などを行って魔法を扱えるようにならないのかを疑問に思った。だが、その問いに対してハルは魔法を使うことに興味が無かったのか、分からないことを意味して肩を竦めていた。


「魔法は後から訓練をして扱えるようになる、とかは無いの?」


 今、目の前にいるのは、魔力と魔法の扱いに長けた存在だ。質疑を投げ掛けるのに打って付けの人物だと思い至り、ビアンカは問う。すると、ルシアはゆるりと(こうべ)を左右に振った。


「魔法を扱う能力を後天的に、というのは前例がありません。こればかりは、本当に持って生まれた才能がモノをいう感じです」


「そうなのね。なんか、勿体ない感じがするわ」


 せっかく膨大な魔力を有していても、ハルのように宝の持ち腐れ状態に陥ってしまうこともある。何とか余りある魔力を有効に使う手立ては無いものか、などと思慮してしまう。


「因みに。ヒトの身体の中で魔力が溜まる場所は、この辺りです」


「ひゃっ!!」


 ビアンカが物思いに耽っている間に、彼女の座る席の背後に回り込んだルシアがビアンカの下腹部――、(へそ)の辺りに手を押し当てた。不意に腹に触れられ、ビアンカは吃驚の声を上げて身を竦ませた。


「ル、ルシアさん……っ?!」


 狼狽(ろうばい)しながらビアンカが声を絞り出すと、ルシアは悪びれ無く笑う。


「普段は“喰神(くいがみ)の烙印”任せにしがちな魔力を、自分で身体に巡らせる意識をしてみましょう。これは、カルラでもできることなので、集中してくださいね」


 ルシアは言いながら、ビアンカの腹部をさする。それにビアンカは擽ったそうに身を捩ってしまう。


「しゅ、集中って言われても……。どうしたらいいの……?」


「私の手に両手を重ね、まずは臍部(さいぶ)に集中してください。――そこから、血液の流れに。そして、髪の先にまで身体を巡る流れをイメージしていきましょう」


「ビアンカお姉ちゃん、頑張って」


 カルラがテーブルに手を掛け、ビアンカを激励する。そうした声掛けにビアンカは微笑んで頷くと、ルシアの言葉通りに彼女の手に自身の両手を重ねた。


 微かに息を吐き出して、翡翠色の瞳を伏せる。合わせた両手の下にあるルシアの手と、自身の臍部(さいぶ)に意識を集中させていく。


「……では、私の魔力を少しだけビアンカさんの中に流しますね。息をゆっくりと吸って吐き出して、流れに集中してください」


 ルシアが囁くように言うと、ビアンカは仄かに腹に温かい感覚を覚える。その温もりに一心を向け、ルシアが教示したように血液に乗せて身体へと巡る様を思い浮かべていく。


 手足の指先へ、髪の先へ――。

 どのようなと表現し難い不思議な体感に、ビアンカは微かに眉を寄せてしまう。


 シンッ――、と静かになっている室内であったが、不意と扉が開く音が響いた。


「わっ?! 二人とも、何しているのっ?!」


 扉が開くと同時に、ヒロの吃驚を含んだ大きな声が上がった。それによって、ビアンカの集中が途切れて魔力が離散してしまい、ルシアの眉間に深い皺が刻まれる。

 ルシアは赤色の瞳で不服げにヒロを見やると、これ見よがしに溜息を吐き出していた。


「……ビアンカさんに魔力の流れを教えていたのですけれど。リーダーのせいで、せっかく流れに乗った魔力が散ってしまったじゃないですか」


「え? それって、僕のせい……?」


 不満を大いに宿した声音で非難され、ヒロは自身を指差しながらたじろぐ。だが、はたと我に返った様子を窺わせると、自分に差し向けていた指をルシアに転向させて口を開いた。


「――て、ていうか。なんだって、そんなことをしているの?! ルシアの担当って、僕でしょうっ!!」


「ビアンカさんが魔法の収納術を使えるようになりたいということなので、魔力の扱いを手始めに教示していたんですよ。あの程度でしたら、魔法使いとしての才が無くてもできますからね」


「え。それ、僕にも教えてほしいんだけど!」


 ルシアに返された言が予想外だったのだろう。ヒロは紺碧色の瞳を瞬くと、今まで焦燥を見せていた表情を一変させて目を輝かせる。そうした言葉に、ルシアは不思議げに小首を傾ぐ。


「リーダーは、以前ルシトに教えてもらっていませんでしたっけ?」


 ルシアが記憶していたのは、“群島諸国大戦”の折、ヒロがルシトに魔法空間の収納術の教示を受けたことだった。その際もヒロが“調停者(コンチリアトーレ)”の双子が扱う収納術を羨ましがって教えを請うたため、不承不承(ふしょうぶしょう)にルシトが指導役を引き受けたのだったが――。


「……ルシトは、そんな風に親切に教えてくれなかった。ただ口頭で説明してきて、『できるでしょ、やってみなよ』って言われてさ。()()()()()()()んだ」


 使い方の間違えた揶揄(やゆ)を口にしつつ、ヒロは唇を尖らせる。


 ルシトらしい返しだと思った。きっとルシトのことなので、ヒロが食い下がって強請(ねだ)ったため、面倒くさくなって教える気が無いのに引き受け、突っ撥ねたのだろうと想像が付いてしまう。

 ルシトとヒロの取り交わしを想像して、ビアンカの口元からくすくすと笑いが漏れ出していた。


「ルシトなら言いそうね」


「まあ、あの子らしいと言えばらしいです。――そういえば、あの後に大喧嘩になっていましたねえ」


 ルシアが溜息混じりに零した言葉を聞いて、ビアンカの翡翠色の瞳が丸くなる。


「ヒロとルシトって、仲が悪いの……?」


 確かにルシトの物言いは、高圧的で人を馬鹿にしたようなものが目立つ。反面で、ヒロに対しては笑顔が常の温厚な人柄という印象をビアンカは抱いていた。

 だので、ルシトとヒロと大喧嘩をしたという発言が意外だった。


 そのことをビアンカが語ると、ルシアは首を傾げてしまう。


「リーダーは意外と短気ですよ。すぐ頭に血を上らせて大声を出したり、凄んだりするんですけれど。ビアンカさん、見たことありません?」


「あ、そういえば……」


 言われて想起すれば、ヒロは時折と声を荒げたり威圧的な面を窺わせる、などと。思い当たる部分があった。

 しかし、ビアンカには窘め程度に怒ることはあるものの、威圧的な態度を取ることは無いために失念していたと思う。


「や、やめてよ、ルシアッ! 最近の僕は、そんな怒りっぽくないんだよっ?!」


「……歳を重ねていって、それ相応に落ち着いてきたってところでしょうか? すぐに声が大きくなる癖は無くなっていないようですけれど?」


「ぬう。これは本当にクセになっているんだよ。仕方ないじゃないか」


 恥ずかしかったのか頬を朱に染めてヒロが声を荒げれば、ルシアは嘆声(たんせい)してヒロの癖を指摘する。そんなやり取りを目にして、ビアンカは微笑ましさを感じる。


「ねえねえ、それよりさ。僕にも収納術を教えてよ」


「お断りします」


「ええっ?! なんでさっ!!」


 ルシアの間髪入れずに返される拒否に、ヒロは再び声を荒げてしまう。それを(うるさ)そうにして、ルシアは肩を竦める仕草を取った。


「リーダーに下心が無いにしても、その背後に回って――、だなんて。絵面的にいただけませんもの」


「えええええっ?!」


「絵面って……」


 ルシアの言い分に、ビアンカは笑ってしまう。


「なんか、僕。凄く理不尽な理由で断られた気がするんだけど」


 かなり理不尽な断り文句ではあると、ビアンカも感じたのだが。有無を言わせないルシアの態度に物申す気にもなれず、肩を落とすヒロを目にして苦笑いを浮かすのだった。

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