第三話 こんにちはアストリカ
翌日の午後12時の5分前。
私は棺桶ことVR機器の中で待機していた。
ついにって程待ってはいないけどVRMMOが出来るとなれば期待でドキがむねむねだよ。失礼、噛みました。
《そろそろお時間ですのでダイブインを開始してもよろしいでしょうか》
うんうん。お願いします。
《ではダイブイン致します》
意識が沈んでいく・・・。
真っ暗な闇の中。
プカプカと浮かぶ私。
あれ?
《アストリカへ赴く前に少しだけ説明をさせて頂きます》
アルカ。
先に言っといてよ。
《申し訳ございません。メニューとログアウトについてですので》
大事なことだね。
《はい、まずはメニューについてです。『ステータスオープン』と音声入力してください》
「ステータスオープン」
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名前/アトラ=アステラ=レイナシオン
二つ名/初心者来訪者
・ステータス
・スキル
・称号
・アイテムボックス
・フレンド
・ログアウト
・チュートリアル〔1回限り〕
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目の前に半透明なウィンドウが表示された。
・・・なに?この名前。
シュナさん?あとでOHANASIがあります。
《見ての通り、ログアウトはこちらから行うことが出来ます。ただし、ログアウト可能な場所ではないとログアウト〔不可〕と出ますので注意してください。ログアウト可能な場所は宿屋や神殿、セーフティエリアなどです》
わかりました。
街の中でも宿屋じゃ無いとログアウト出来ないってことだね?
《その通りです。アストリカへ赴いた際にはチュートリアルを受けることをお勧め致します》
おっけ、ありがと。
他に無ければそろそろ・・・。
《はい、いってらっしゃいませ》
視界が真っ白に染まって・・・。
「らっしゃーい。ゴルサゴ武具店だよー」
「薬師ナルテオのポーション屋はここだよー」
「初心者歓迎!冒険者ギルドはこっちだぞ」
活気に溢れた街が眼前に広がっている。
上を見ると綺麗な青空とそこに飛ぶ赤と緑の鳥。
視界を戻すと行き交う人々と荷を運ぶ馬車(馬車を引いているのは見たことのない馬ではない生き物)。
エルフと思わしき痩身なイケメンと話すドワーフと思しきずんぐりむっくりなオジさん。ウサ耳の女の子と並んで歩く二本足歩行の狼。
見れば見る程ファンタジーな光景だ。
よく見ると私同様に立ち尽くす人々がいる。種族はバラバラだがきっと彼らもプレイヤーに違いない。
ふと視界に入っていたプレイヤー(と思わしき人)が白い光に包まれて消えた。
ログアウトしたのかな?
「ステータスオープン」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
名前/アトラ=アステラ=レイナシオン
二つ名/初心者来訪者
・ステータス
・スキル
・称号
・アイテムボックス
・フレンド
・ログアウト〔不可〕
・チュートリアル〔1回限り〕
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あ、そっか、街の中だけど宿屋じゃないからログアウト出来ないんだった。
という事はさっきの人はこのチュートリアルを使ったのかな?アルカも受けとけって言ってたし。
ウィンドウのチュートリアルの項目に触れる。
『チュートリアルを受けますか?』
はいを選ぶと白い光に包まれた。
《それではチュートリアルを始めます》
光が消えると、学校の教室のような黒板と席のある部屋にいた。四方は窓のない白い壁に囲まれているので外の様子は見えない。
《席に着いてください》
アルカに似た落ち着いた雰囲気の女性の声が誘導する。
私が席に着くと、黒板の前にスーツ姿の青い髪の女性が現れた。
声だけじゃなく、見た目も似ている。けど、髪の毛は肩に掛かるくらいだし、眼鏡も掛けてるから例え2人が並んでも姉妹かな?くらいにしかならない。
まあ、アルカ透けててはっきり見えてなかったけどね?
「どうかされましたか?」
ジロジロ見過ぎちゃったかな?
「すみません。アルカ・・・私のサポートAIに似ていたので」
「・・・サポートAIというのは創造神様が貴方達来訪者の転移サポートをする為に作った擬似精霊のことですか?」
擬似精霊って、流石シュナ世界観を分かってるね。言い方って大事だもんね?転移サポートもログインの事だろう。
でもなんかこの女性、困惑してない?
「はい、そうですが?」
「・・・擬似精霊には世界への干渉能力がない為、姿を形どることは出来ない筈なのですが」
「私が名前を付けてしまったからだと言ってましたよ?」
「名前を⁉︎擬似精霊に名付けを行ったのですか⁉︎」
なにやら凄く驚愕しているようだ。
そんなにサポートAIに名前を付けるのはおかしい事なのかな?
あ、私変人じゃないよ。ぼっちでもないからね?
誤解しないでよね!
「その擬似精霊はここに呼べますか?」
落ち着けたらしい女性は眼鏡の位置を直しながら言った。
・・・アルカ呼べるのかな?
「名前を呼べばいいのですか?」
アルカさーん。
って呼ぶの?
お天気お姉さんを呼ぶ感じで?
ちょっと恥ずかしいんだけども。
《私を呼ばれましたか?》
いつの間にか私の隣にアルカがいた。
昨日見た時よりも姿がはっきりしてきている。
「貴方が擬似精霊ですか・・・もはや下級精霊並みの干渉力を得ているようですね」
《貴方は・・・》
「私はこの世界、アストリカの水の上位精霊アスフィルと申します」
女性もといアスフィルさんが名乗るとアルカは驚いた顔をした。
え?何?なんかあるの?
《上位精霊様が私に何か御用でしょうか?》
もしかして上位精霊って凄いのかな?
・・・あんまり失礼なことしなきゃ大丈夫だよね?これチュートリアルだし。
「アルカと言いましたね?貴方は精霊としてこの世界に正式に認識されたようです。宜しければ貴方の精霊としての能力を水属性としませんか?名前を付けて頂いたのです。この方の契約精霊としてこの世界で行動してはいかがでしょうか?」
《それは一体どういう事でしょうか?》
アルカが首を傾げている。
なんか新鮮だ。
サポートAIの、もとい擬似精霊のアルカが首を傾げるとかなんかレアな感じじゃないかな?そんなことない?
「すみません、説明不足でしたね。貴方の干渉能力はそれほど強いものではありません。なので力を制限することで干渉能力を強化します」
今の状態のアルカは制限を持たない為、様々な行動を自由に行うことが出来る代わりに干渉能力が弱いから、ただいるだけの意識を持った光のような存在らしい。つまり幽霊みたいなもの。
アスフィルさんのように水属性の精霊になると水に干渉する力が強化され、水を使って実体を得ることも出来るらしい。今のアルカは透けてるからね。
さらに、私と契約し契約精霊となると私のMPを使って魔法の行使が出来るらしい。
「但しデメリットもあります。この世界内における貴方の思考レベルの低下があります」
VR機器の起動サポートなどのAIとしての能力はそのままにこの世界での知識の喪失や思考能力の低下があるらしい。
《・・・お願い出来ますか。私は名前を付けてくれたこの方に尽くしたいのです。もちろん貴方がダメと仰るなら機器の中でお帰りをお待ちしますが》
「私はアルカが一緒にいてくれるのは嬉しい。だけど・・・」
《私は貴方と共にこの世界を見て行きたいのです》
「そんなこと言われたら許可するしかないよ」
アルカに懇願するような目、するようなじゃないね。懇願の籠った目で見られたら断れないじゃん。
「決まりですね。では擬似精霊アルカはこれよりこの世界において、水属性の下級精霊となり来訪者アトラの契約精霊となります。よろしいですね」
「はい」
アスフィルに答えると私とアルカを繋ぐように光の線が走った。それはすぐに消え、アルカの姿が水の粒子となった。
水の粒子が集まって15㎝くらいの人型に変化すると色付いて少女になった。
「アトラさま、これからもよろしく、おねがいします」
アルカは少し舌ったらずな口調になったみたい。
見た目は、妖精と言われて納得するような透明な翅を付けた小さな女の子の姿になった。メッチャ可愛い。
体が小さくなり顔にも幼さがあるが、以前のように姿が透けてはいない。腰まである青い髪はポニーテールに括られており、楽しげに揺れている。
【スキル[精霊術]を取得しました】
ん?
今のアナウンス何?
すいません。
分かりづらいかもしれませんが、
「」は発言
《》は電子音のような実体を持たない者の発言
【】はワールドアナウンス(個人)
となっております。