第二話 初ダイブとログインは別物
真っ暗な空間だ。
何もない。
見渡す限りの闇。
そこにプカプカと浮いている。
ちょっと怖い。
《お待たせ致しました》
アルカ?
前方から青く長い髪の透き通る女性がやって来た。
文字通り透き通る女性がだ。
《どうかされましたか?》
アルカ・・・なんだよね?
この状態も怖いけど、透き通ってるから。アルカさん透き通ってるから。幽霊みたいだから‼︎
透けてて薄っすらとしか見えないが、黒いスーツをパリっと着こなす、まるで秘書のような佇まいの女性が宙を浮いて近付いて来た。
雰囲気が幽霊的でないから逃げはしないけど、これがもう少しボサってしてたらなんとかして逃げようとしてたよ。
《申し訳ありません。名前を頂いたばかりでまだ定着しておりませんので、このような状態なのです》
名前?
もしかして私が名前をつけちゃったから透けちゃったの⁉︎
《いえ、貴方が名前を下さったから私はこうして姿を得る事が出来たのです。感謝こそあれど貴方に怒りなど有りはしません》
それって、今までは音声だけの存在だったってこと?
《はい。そもそも私はAIですので姿形を必要としていなかったのです。名前を得た為に私は形あるものになれたのです》
よくは分からないけど、もしかしてアルカに名前をつけない状態で私がダイブインしてたら今ここにアルカの姿は無かったってことだよね?
《その通りです》
良かったぁ〜。
真っ暗な上に地に足の着いていないこんな状態でいつまでもいたら発狂しちゃうよ。
アルカが見えてるだけでも少し気が楽になったからね。アルカの姿があって良かったよ。
《お待たせしてしまって申し訳ありませんでした》
いやいや、大丈夫だから。
あれでしょ?姿を得たから、それで時間が少し掛かっちゃったとかでしょ?
《申し訳ありません》
だから謝ることじゃないって。
ところで、私はどうしたらいいの?何もないんだけど。
《これからプレイヤーキャラクター、つまりアバターを作成させて頂きます。・・・と言いたいのですが貴方の場合は既に用意されていまして、その・・・創造主様が》
創造主ってシュナのことだよね?
《はい。創造主様がいくつかのパターンから選ぶように、と》
なんだろう嫌な予感するんだけど。
《選ぶと言いましたが、私の質問に答えて頂けばいいだけですので》
それ以外に無いんでしょ?
《申し訳ありません。創造主様が仰った事ですので》
ならしょうがない。なんかネタを仕込んでたらまたOHANASIの内容が増えるだけのことだね。
ってそういえば私、このゲームのことを全然聞いてなかった。
《かしこまりました。ただいまご説明させて頂きます》
『アストリカ』
そこは、神々の祝福が未だに強く残っている世界。
人間に獣人、エルフやドワーフなど実に多種多様な者たちが生きている。
剣や魔法を用いて魔獣を倒し、採取や採掘をして材料を集めて物を作る。
依頼を受け人々の助けとなるも良し、領主となり領地を繁栄させるも良し。
貴方の様々な行動がこの世界をより豊かにすることだろう。
あるいは貴方の行動がこの世界を滅ぼすだろう。
この世界は本物です。
人々や動物達、植物も生きています。
故に貴方の存在もまたこの世界で生きているのです。
それを認識してゲームを楽しんでほしい。
《こちらが創造主様により来訪者の皆様に伝えられているアストリカの説明文です。他の方々にはこちらの説明文のほかに動画の視聴があります。なお、詳細な説明はありません》
なんかよくある設定だね。細かい説明がないのって多分面倒かったんだろう。
・・・あれ?他の方々?私以外にもいるの?
てか、私には動画の視聴がないのね。シュナによる逆エコヒイキってやつ?
《申し訳ありません。創造主様は貴方の選択の幅を狭めない為と仰っておりましたので何らかの意味があるのではないでしょうか。それと他の方々というのは創造主様による選定を受け、VR機器を与えられた方達のことです》
選定?
なんかやらかしたの?
《・・・不特定多数の方達にメールを送り、返答があった方にVR機器を与えたそうです》
うわ〜。何だろう。私の部屋の棺桶を見た時の衝撃を思い出したよ。
うっかり、返信したらいつの間にか棺桶が部屋に⁉︎みたいな感じなんだろうな。
・・・大丈夫なのかな?
《一応、VR機器を贈る前にプレゼントする旨を伝えてあるそうですが・・・》
混乱必須だね。
あれ?今気付いたんだけどこれってVRMMOってヤツなのでは・・・?
《はい。創造主様がアニメや漫画、ライトノベル等で語られるVRMMOと言う物を作られました。これはそのうちの一つです》
そのうちの一つですか・・・。一体なにをやらかしてるのあの人。
でも、そうか。憧れのVRMMOですか。流石シュナさんありがとうございます。MMOはやったことないけどアニメも漫画もラノベもVRMMO系は読みまくったからね。楽しみだなぁ。
さて、その為にもまずはキャラ作りしないとね。
エルフとかドワーフとか獣人とか?素敵ワードがあったわけだし?
・・・まあ、私の場合は自由に作れる訳じゃないみたいだけど。せめてまともなキャラでお願いします。
じゃあアルカお願い。
《了解致しました。では質問を始めます》
『貴方は善人ですか?それとも悪人ですか?』
どちらとも言えないかな。私は自分のやりたいように行動するので善行も悪行もどちらも行うと思うから。
『貴方は人間、獣人、エルフ、ドワーフのどの種族に一番興味がありますか?』
どれもが心惹かれるところがあるけど、やっぱり獣人がいいな。ケモ耳尻尾が一番興味あるっしょ。
『貴方はアストリカで冒険をしたいですか?それとも物を作りたいですか?』
どっちもやりたいけど、やっぱり冒険したいな。生産無双に憧れもあるけど、私に出来る気がしないし・・・。
『貴方は神を信じますか?』
ええええっ⁉︎いきなり宗教勧誘⁉︎
じゃなくってアストリカの設定の話だよね?
ってことはアストリカの神ってシュナのことだよね〜?
うーん。信じるってか信頼してるかな?いろいろやらかすけどいざって時は頼りになる・・・と思いたい。
『貴方の道行く先には困難があるとしても貴方は貴方のままでいてくれますか?』
もちろんだとも。私が私でなくなるのは私が私を諦めた時だ。
なんてクサイ台詞くらいしか言えないけど、どんな困難でも悩んだ先の答えならやっぱり私は私のままだと思うから。
《ありがとうございました。プレイヤーキャラクターの作成が終わりました。アストリカにログイン出来るは明日の午後12時以降となります》
そうなんだ、了解。
他になにかある?注意事項とか。
《そうですね。長時間のダイブインは極力避けてください。一応警告は出ますが健康を害す可能性が有りますので》
おっけ。
んじゃ、今はもう出来ることも無いしダイブアウトで。
《かしこまりました。ではダイブアウト致します》
意識が浮上するようなとしか表現しようの無い不思議な感覚がするのと同時に真っ暗な空間から棺桶の中に戻る。
気のせいかな?こっちに戻る一瞬、黒い女の子が私に手を振っていた気がする。
・・・。
うん、気のせいだな。ホラーとか無い。幽霊とか認めない。私の気のせいだ。
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「ふふっ。もうすぐ始まるのね」
その言葉とともに黒い少女は闇の中へ消えて行った。
物語りはこれから始まる。
「正直に言おう。質問に意味など無いと」
多分シュナならドヤ顔で言ってくれるに違いない。
いや、一応最後の質問だけは意味があるんだけどね?
あんまり多くを求めんでくれい。
ちなみに最後の伏線を回収出来るのかは作者のやる気次第だと言っておこうか。だって多分シリアスになると思うし・・・いや、分からんけど。大雑把にしか決めてないので作者にもまだ分かりません。