第十五話 初クエスト完了ですよ
冒険者ギルドに帰って来た。
なんか、すっごく長かった気がする。
おつかいクエストってこんなに疲れるものなんだね。はぁ〜。
さて、クエストの受付をしてくれた強面の職員を探しますか。あ、いた。
「すみません。クエストの報告をしたいのですが」
「お、アトラ。帰って来たか」
よかった。強面の人も私のこと覚えてくれてた。
「これが受け取りのサインと預かって来た魔法鞄です」
「お疲れさん。しかし、クエスト行く前とは別人だな。一丁前の装備になってやがる」
そこはスルーして下さい。
ギルドに入ってから視線が刺さるんですよ。視線に物理的な力があったら今頃、穴だらけになってるよ。
「中々帰って来ねえと思ったら装備を整えてたんか、関心だな。・・・しかし、随分上等なもんを揃えられたな」
モデル料だそうですよ。そこで2時間捕まってたからね。ははっ。
「まあ、いい。ともかくこれでクエストは完了だな。ギルドカードを出してくれ」
強面の人にギルドカードを渡すとハンコ?みたいな魔道具でカードに押し当てた。
カードを見ても何かが変わったようには見えない。
「あとは『採取』と『討伐』のクエストをこなせばランクアップだ。頑張れよぉ、期待してるからな」
「ありがとうございます。ではまた明日、次のクエストを受けに来ますね」
はぁ、やっとこさ初クエスト完了だよ。
このあとは『休息吐息のとまり宿』で一旦ログアウトして、そしたらレコンさんとドルゾイさんとの約束の夕飯を食べよう。
次の予定を考えながら受付をあとにする。ことはなく、呼び止められた。
「まてまて、お前さんどこ行くんだ。まだ報酬を渡して無いだろうが」
報酬・・・?
私が疑問を抱いていると、強面のギルド職員が溜め息をつく。
「はぁ〜。アトラ、お前は何の為にクエストを受けたんだよ」
何の為・・・なんて考えてなかった。だって、ゲームでクエストを受けるのは普通でしょ?
行く先々で色々貰い過ぎて、クエスト報酬って考えが抜け落ちちゃうのは仕方なくない?
「そもそも、クエストを受ける時に報酬の話なんてしませんでしたよね?」
「だから、そっから間違ってんだよ!お前さんが受けた『手紙の配達』のクエストは意図的に報酬を記載して無かったんだよ」
冒険者たるもの報酬不明なクエストに注意すべし!
ってことらしい。
報酬が歩合性とか、特殊な物を貰えるだとか、悪質なクエストで殆ど何も得られないとか、様々な場合があるのだとか。
ともかく、報酬未記入のクエストを受ける際には受付で必ず確認することが重要なんだと。
その事に気付ければ良し、気付けなければ今後のトラブルに成りかねない為、注意を促す為に初心者用のクエストには報酬を記載していないんだって。
私はまったく気付けなかったよ。
「気付かない奴はまあいるが、報酬を受け取り忘れる奴は初めて見たぞ。なんつーか、大物と言うか抜けてると言うか・・・変わってんな、お前さん」
待って。
私、変わり者じゃないよ。
なんか前にもこんな事があったような・・・?
うん、そんな事がある訳ないな。
だって、私は変わり者なんかじゃないもん。
「まあ、ともかくだ。これが報酬の魔法鞄だ」
渡されたのは、私が届けた魔法鞄だった。
「お前さんが届けてくれたこの魔法鞄は、あの『ティネシラ商会』で作られた物だからな、丈夫で使い易い代物だ」
有名な高ランク冒険者も愛用しているのだとか。
それってさ、結構なお値段のする物じゃないのかな?
なんで、初心者が受けるクエストの報酬に渡されるの!おかしくない⁉︎
「本来なら普通の雑貨屋で売っている魔法鞄を報酬にするんだが、せっかく『ティネシラ商会』に手紙を届けて貰うんだ、そこの物が良いだろうと思ってな」
そんな配慮いらないよ!
てか、ゲームとして成り立たないよ!
なんで初心者の報酬に高ランク冒険者が愛用するような物が貰えるんだよ!
ゲームバランスはどうした‼︎
「まあ一応、『ティネシラ商会』の者に認められたらって条件があったんだがな。流石俺が見込んだだけはあるぜ」
エルフィンさんに認められなければ、ごく普通の魔法鞄を渡す予定だったらしい。
なんだそれ。私、目立ちたくないので普通のでいいです。
「この魔法鞄はズボンの太腿のところにベルトで固定するタイプみたいだな。どれ、付けてみろ」
ロングコートの切れ込みから、左足の太腿のところに固定する。貰ったズボンには元々ベルトが付いていたので、それを使う。
なんか、この魔法鞄を使うこと前提にしていたのではないだろうか。そう考えてしまうほど、しっくりくる。
「流石『ティネシラ商会』の魔法鞄だな、ベルトだけで充分固定されてる。・・・ところでアトラよ。その装備、どこで揃えたんだ?」
ぎくっ。
「そのロングコート、随分良い素材を使ってそうだな。切れ込みも、動き易さと魔法鞄などからのアイテムの取り易さを考えてある。デザインも一級品だ。ズボンとブーツも統一されている。なあ、あの『ティネシラ商会』以外のどこでそんな装備が揃えられるんだ?教えてくれねぇか」
気付かれてる・・・。
当然か。
「お察しの通り、『ティネシラ商会』で揃えました」
正直に言うしかない。はあ〜。
幸い人は少ないし、話が聞かれたりはしないだろう。
「お前、何やった?」
ただでさえ怖い顔なんだから、険しい表情しないでよ。
「モデルを頼まれ、その報酬として頂きました。すっごく不本意なのであまり詳しくは言いたくありません」
女装させられたとか、言いたくない。
実際は女だけど、女装させられたって事実は不名誉だ。
コルセットとか化粧とか、すっごくすっごくツラかったんだよ。
「アトラ、お前早くランクを上げることをオススメするぜ。初心者のクセにって絡まれるからな」
ええ、ええ、分かってますよ。
装備だけ一級品とか目立つし、やっかまれるでしょうよ。
でも、初心者装備はもう手元にないんだよ。
着替えられない以上、このままでいるしかない。
新しく初心者装備を買えばいいって?お金の無駄遣いは良くないよ。
「じゃ、じゃあまた明日頑張れよ」
強面のギルド職員に見送られ、冒険者ギルドを出る。
ホントに今日は精神ダメージを受ける日だな。疲れたよ。さっさと宿屋に行こう。
ギルドから歩き出すと、空が急激に暗くなってきた。
え?なに?
時計を見ると5時50分。特に何かある訳でもないよね?
街を歩く人に驚きはない。と言うことは、日常的な事なのかな?