第十三話 手紙の配達〜その4〜
またまた、ダメでした。
ドルゾイさんとレコンさんと話している間に、女将さんを呼びに向かってくれた女性が帰って来た。後ろにいるおばちゃ・・・女性が女将さんかな?
「私に用があるんだって?」
やって来た女将さんは、デカかった。
なんて言うか、デカかい。あ、縦にね。横にじゃないよ。身長は2m越えてると思う。
多分、竜人族。ドラゴンみたいな尻尾が生えてるし。頭の上に角がある。メッチャ強そう。
「あ、はい。ギルドの依頼で手紙を届けに来ました」
呆気に取られながらも何とか手紙を渡す。
近くで見るとなおデカイ。女の人を見上げるのは初めてだ。・・・いつも見上げられる側なので。
「手紙ねぇ。どれどれ・・・」
女将さんは受け取った手紙を読むと険しい顔をした。
「なるほどねぇ、道理で・・・。あんたぁ、ちょっくら奥の部屋を掃除してくるから、お客の相手を頼むわ」
厨房に声を掛けて女将さんは、奥へ戻って行った。
え?ナニ?どゆこと?
私が困惑していると、ドルゾイさんが驚いていた。
「あの女将があんなに険しい顔をしている所なんぞ見るのは、随分久方ぶりの事じゃぞ」
なんか、ヤバげ?
「また、ドラゴンでも暴れてるとかかな?その時僕はいなかったけど、ギルドから女将さんに依頼があったって聞いてるよ」
マジで⁉︎やっぱりあの女将さんは強いんだ⁉︎
暴れるドラゴン討伐の依頼が女将さんにいくとか凄くない?
その女将さんが険しい顔をしてるとか、緊急事態なのかな?
その割に街は平和な感じだったけど・・・?
いや、そもそも女将さんは部屋の掃除に行ったよね?
私が思考を巡らせていると、厨房からリスかな?の獣人の男性がやって来た。
「なにかあったのかい?かみさんが対応を僕に任せるなんて珍しいね」
この穏やかな雰囲気の眼鏡を掛けたリスの男性が、この宿の料理人にして、さっきのおば・・・女将さんの旦那さんらしい。
レコンさんが教えてくれた。
「バドウィンよ、こっちの若ぇのがギルドからの手紙を持って来たんじゃが、読んだ途端に奥に行ってしもうての。儂らも事情を知らんのじゃ」
「ふむ、これが手紙だね。・・・なるほど、これは仕方ないね」
女将さんが置いて行った手紙を読むと納得したみたいだ。一体なんだろう。
「今日から来訪者さん達が来るみたいだからね。宿の部屋は大丈夫かって、確認の手紙だよ」
私やドルゾイさん、レコンさんが疑問符を浮かべていた為か説明してくれた。
確かにプレイヤーが来た分、宿も繁盛するけど部屋の数が問題になるよね。
話によるとこの宿は、日中を食堂として開いている分、宿としての部屋の数は少ないのだとか。使える部屋はあるそうだから女将さんが掃除しに行ったみたい。
「わざわざ確認の手紙を送って来るなんて珍しい。どう言う風の吹き回しなんだか。えと、アトラ君だったかな?君、来訪者だよね。もし、まだ宿を決めていないなら今夜はうちに泊まっていかないかい?これは無料宿泊券だよ」
そう言って旦那さんはチケットをくれた。
「この手紙に『将来有望な冒険者』と君の事が書いてあるんだ。もしかしたらいいお得意様になってくれるかもしれないからね、遠慮なく使ってくれ」
好意は有難いが、手紙の内容が気になるんですけど。
どうして私の事が書いてある訳?しかも将来有望って何を根拠に言ってるんだよ。
「あ、サインが必要なんだっけ?・・・はい。かみさんのじゃないけど、僕は一応この宿の亭主だからね」
旦那さんにサインを貰ったので、この宿の手紙配達は完了だ。あと一つでクエストも終了する。
旦那さんとドルゾイさんとレコンさんにまた来ることを告げ、『休息吐息の泊まり宿』を後にする。
最後の手紙は東門付近のお店だ。
やって来ました、最後のお店。
現在、中央部から東門へ向かう大通りに面した大商店の目の前。そう、最後の印はここ。この大商店に付いています。
一見さんお断りな雰囲気ですよ。高級店ですよ。こんなところ、初心者冒険者が来るとこじゃないよ!お店の前に黒服のカードマン的な人達が立ってるし。
ねぇ、本当にコレ初心者用のクエストなのかな?どこぞの薬屋とかさ。私の肝でも試してるのかな。
考えても仕方ない。依頼で来てるんだし、とりあえず黒服の人に事情を話してみよう。
「すみません。こちらのお店に手紙を届けに来たのですが、どうしたらいいですか?」
「依頼ですか?手紙を見せてもらえますか。冒険者ギルドの印があるな・・・少し待っていてください。中に行って来る、少しの間頼む」
2人いた内の右側の人、熊っぽい方の人に手紙を渡す。するとギルドの印を確認してもう1人の犬っぽい人にこの場を任せ、店の中へ入って行った。
「すまない。この店は見ての通りの大商店だからな。こういった確認が必要なんだ」
うん、そうだと思います。犬っぽい人がわざわざ言わなくても分かります。一見さんお断りなんでしょ?
あ、熊っぽい人が戻ってきた。
「大変お待たせしました。中へどうぞ、奥の客室にてお待ちください」
うう、緊張する。いくら依頼だからって高級店に入ってますよ、私。
うわ、なんか従業員の人もその所作が綺麗。凄い、マジで高級店だよ。
「手紙をお持ちくださった方ですね。こちらの部屋へどうぞ」
あ、はい。どうも。
ウサ耳の女性が扉を開けてくれる。丁寧にどうも。
応接室かな?高級そうなソファーと机が対面状に置かれている。
座って汚したらヤバいし、とりあえずソファーの横に立ってよう。
しかし、凄いな。
部屋を照らすシャンデリアは華美でありながらもオシャレで、趣味が悪いとか一切感じない。
飾られた絵画も繊細な色使いが美しいし、それを飾る額縁も控えめながらも細工が細かい。
置物も窓枠も絨毯も、どれを見ても高級そう。
私なんでここにいるんだっけ?場違い感半端ないんだけど!
居た堪れない思いで私が待っていると、誰かが部屋に入って来た。
「あら、あらあらあら。まあ、ステキ!」
目を輝かせてその女性はやって来た。
一つに束ねた金の髪をなびかせて、凄い勢いで近付いて来る。ああ、また濃い人だ。
じろじろと検分されて、落ち着かない。誰か助けて。
やめて、尻尾に触らないで!耳もくすぐったいから!
検分されていると思ったら、見ているだけでは足りなくなったのか、尻尾を触ったり猫耳をモフったりやりたい放題だ。
私が動けないでいると、
「これ、客人に対して何をやっているのですか!」
後からやって来たご婦人に、金髪の女性が頭を叩かれて私から離れた。
「すまないね。これは美しいものに目がなくて、直ぐに手を出す悪癖があるの。こんなでも腕の確かなデザイナーをしていてね、仕事では重宝しているの。普段はこんな、だけれどね」
妙齢の女性は、金髪の女性の頭を叩きながら言う。あれか、紙一重ってやつか。
「酷いわ、私だって仕事にプライドを持っているのよ!その為に美しいものをより近くで見て、デザインの質を高めたり、美的センスを磨いたりしているの!そう、これは仕事の為に仕方なく、仕方な〜くやっている事なの!」
「言い訳は結構よ。ほら、お客人に謝りなさい」
「うう、痛い・・・。そこの猫耳の綺麗なオトコの人、いきなり触ってごめんなさい」
叩かれていた頭をさすりながら、頭を下げた。多分反省はしてないと思うよ、この人。
こんな高級店のデザイナーをしている人なのだから、これでも凄い人なんだ・・・よね?
とりあえず、近付いて来ないでください。お願いだから。
しばらくの間は2日か3日に一度の更新になると思います。
すみません。
これからもよろしくお願いします。