第十二話 手紙の配達〜その3〜
すみません。やっぱり間に合わなかった・・・
薄暗い路地裏を抜け、大通りに出る。
人がいることに安心感を覚える。
幼女より老婆の魔女の方が良かった。なんて初めて思ったよ。
先程の事を思い出すと震えが走る。ヤバイ、トラウマになってる。落ち着け、私。
とりあえず、当面の安全は確保出来た訳だし得たスキルと称号の確認でもしようか。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
取得スキル一覧
[精霊術] レア度☆5
[潜伏] レア度☆2
気配を断ち、隠れ潜む行動に補正がかかる。
服装が保護色になれば効果が上がる。
[気配察知] レア度☆2
気配を感知し、周囲の様子を伺う行動に補正がかかる。
聴覚や嗅覚などが良いとより周囲の様子が分かりやすい。
[恐怖耐性]☆3
恐怖に耐え、恐怖状態における体の硬直に耐性を得る。
恐怖状態になりにくく、また恐怖状態に陥っても硬直から治るまでが早くなる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
取得称号一覧
[創造神からの愛]
[黒猫]
[耐え忍ぶ者]
精神的苦痛か、肉体的苦痛か。困難を乗り越えた者に与えられる称号。
耐性スキルを取得し易くなる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
結構良いスキルと称号なんじゃないかな?・・・手に入れた経緯を考えると悲しくなるけど。
と言うか、もしかして私恐怖状態になってたの?あの幼女の豹変で?いや、怖かったけどさ。
街の中で恐怖状態って幽霊屋敷でもあるまいし。幽霊屋敷も嫌だけどあの店も二度と行きたくない。
スキルと称号を確認し終え、再び歩き出す。
歩きスマホならぬ、歩きウィンドウは良くないからね。邪魔にならないように、道端で立ち止まって確認してたよ。
次の配達先は南門付近だ。変な人が出て来なければいいけど。
考えても仕方ないか。それにしても・・・。
「良い匂い・・・」
焼きたてのパンの匂い、露店販売の串焼きの匂い、飲食店から漂う料理の匂い・・・。
凄く美味しそう。
時計を見ると、今は2時30分。始めたのが12時だから2時間以上が経っている。
アストリカではお昼時らしく、出来立ての食べ物の匂いがそこら中から漂ってくる。
お腹減った〜。知らないうちに空腹になっていたみたい。何か食べよう。
「いらっしゃいっ!クリプトンの串焼きだよー!美味いよ安いよ持ち運べるよ!食べ歩くには持ってこい!美味しいクリプトンの串焼きは如何ですかー」
威勢の良い溌剌とした声で串焼きを売る獣耳のお兄さん。狼耳族の獣人かな?
肉の焼ける匂いとタレの香ばしい匂いが、私を誘う。
クリプトンが何かは分からないが、売り物になっている物だし問題ないだろう。とにかく美味しそう。
「すみません、一つ頂けますか?」
「あいよ、一本100メトルだよ」
確か銀貨1枚で100メトルだった筈。
アイテムボックスから硬貨の入った袋を出して、銀貨を1枚お兄さんに渡す。
「猫耳のお客さんは来訪者かい?雑貨屋で財布も鞄も売っているから、持っといた方が買い物が楽だぜ」
「親切にアドバイス、ありがとうございます。これから向かうので色々見てみます」
「硬いな。冒険者やるならもう少し砕けた感じの方が良い。敬語は丁寧で当たり障りは良いが、柄の悪い連中に舐められやすい。気を付けな」
狼の人優しい!しかもイケメン!
ワイルドな野性味が艶っぽい一匹狼。って感じのイケメンさんですよ!
切れ長な目とか、狼らしい犬歯、否、牙とか。カッケェ。
呼び込みとか、アドバイスとか人情溢れるその言動もマジイケメン!
神は獣人に二物を与えた。
「あと、これオマケだ持ってけ」
お兄さんは私が買った串焼きの他に、別の串焼きを包んでくれた。
「こっちの串は塩ダレだ。食ってくれ」
焼きたての串焼きは湯気を立ててアツアツです!と主張している。肉汁とタレが私の視線を離さない。
ゴクリ。とにかく美味しそう、否美味しいクリプトンの串焼きを堪能しようじゃないか。
いただきます。手を合わせると、お兄さんから串焼きを受け取る。
うまっ。あ、これ豚串だ。脂が甘い。タレが上手く調節されているのか、くどさを感じなくて美味しい。
「嬉しいねぇ〜。美味そうな顔して食べてくれると、料理人冥利ににつきるってもんだぜ」
お兄さんは嬉しそうな顔をして笑った。
「ご馳走さまでした。美味しかったです」
お兄さんの露店から離れて、次の目的地へ向かう。
お兄さん良い人だったな。
「『休息吐息のとまり宿』かぁ・・・」
地図の印が付いていたのは緑の壁が印象の宿屋だった。
本当に宿屋だよね?と確認したくなる程の賑わいが、外にいても聞こえてくる。酒場の間違いじゃないの?
中に足を踏み入れる。
うん。やっぱり酒場だ。
右を見ても左を見ても正面を見ても、人、人、人。
酒瓶片手に、いや、酒樽を持っている人もいる。結構できあがっている人達が多いみたい。皆、顔が赤い。
さて、どの人に手紙を渡せばいいのかな?カウンターの猫耳の女の人かな?接客中のウサ耳のお姉さんかな?
とりあえず、誰かに聞いてみるか。
「いらっしゃ〜い。お客さん、ごめんね〜。今席が空いてないの〜」
「すみません、依頼で手紙を届けに来たのですが、どなたに渡せばいいのですか?」
接客してくれた羊の獣人かな?の女性に聞いてみる。
「女将さんのお客さんですか〜。少し待っててください。今呼んで来ますね〜」
女性が店の奥へ女将さんを呼びに向かった。
「よう、兄ちゃん。1人かい?こっちに空いてる席あっから、僕らと一緒にどうだい?」
だいぶ呑んでいる男性が声を掛けて来た。狐の獣人だね、見るからに。まんま、顔が狐だ。顔がってか頭が。
一緒に呑んでいるであろうドワーフは酒樽を両手で持って仰いでいる。流石ドワーフ、お酒は樽から直接呑むんだね。
「すみません、依頼で来ているだけなので」
せっかく誘っていただいたが未成年なので呑めないし、クエストは途中だし、ってことでお断りします。
「い〜じゃあぁねぇかよぉ〜。クエストったっておつかいなんだろぅ〜。でぇじょ〜うぶ、でぇじょ〜うぶ。少しくれぇ呑んでももんでぇねぇよ〜」
狐さんの隣のテーブルで呑んでいた頭部の寂しいおっちゃんが絡んできた。これが噂のからみ酒ってヤツですか?
顔は真っ赤だし呂律は回ってないし、何よりおっちゃん酒臭い。ただの飲兵衛ですね。水を飲むことをお勧めします。
「バンクス、呑み過ぎじゃ。若ぇの気にせんでくれ。このオヤジは呑み過ぎるといつもこうなんじゃ」
ドワーフの人、ありがとうございます。おっちゃんがこっちに近づいて来ようとするのを止めてくれてる。
「ありがとうございます。こう言った場は初めてなので、困惑してしまいました。そちらの方も、お誘いいただいた気持ちは大変ありがたいのですが、未だ未成年なので、お酒は呑む訳にはいかないです」
「若ぇのにしっかりしておるな。もし宿を決めて居らんのなら、この宿をお勧めするぞい。クエストが終わったら一緒に飯でも食わぬか?」
「ドルゾイさん、ナイス!僕の商人としての勘が兄ちゃんと一緒に呑め!って囁いてるよ。だから兄ちゃん、今日の夕飯は僕らに奢らせてくれよ」
気の良いドワーフさんと調子の良い狐さん。悪い人達じゃないし、正直ありがたい申し出だ。この世界の事を色々聞いてみたいな。
「ありがとうございます。こっちに来たばかりで分からない事が多いもので、宜しければ色々と教えていただきたい所です」
「そんなに硬くならんでよいぞ。儂はドワーフのドルゾイじゃ」
「僕は狐人族のレコン。ドルゾイさんと一緒に行商人をやってるんだ。僕らは今日はここで一泊する予定なんだよ。だから、一緒にここで夕飯でも食べないかい?ここの宿はご飯が美味しい事で有名なんだ」
「そうじゃ。昼はこうして食堂として賑わう程じゃ、味は保証するぞい」
「よろしくお願いします。わ、俺はプレイヤーのアトラです。クエストが終わったらここに来ますので、色々な話が聞ければと思います」
ドルゾイさんとレコンさんに夕飯の約束をした。
ってか、やっぱり宿なの?酒場じゃなくて?昼は食堂をしているって言うけど、酒場の間違いじゃないかな?
楽しみにしてくれていた人、ごめんなさい。
いるか分かんないけど。
ストックなしで毎日更新はやっぱり難しいです。
出来る限り早めの更新を心掛けますが、不定期になります。
それでも良いよって寛大な方はこれからもよろしくお願いします。