第十一話 手紙の配達〜その2〜
こんなはずでは・・・
ガオン武具店を後にした私は、再びファンタジーな街並みの中を歩く。
次はどこが近いかな。地図を開いて確認すると、今は丁度街の中心部みたいだ。
確か、街の中心に死に戻り地点の神殿があるはずだ。少し寄って見て行こう。
あまりお世話になりたくはないが、ゲームである以上は死に戻りするだろうしね。リアル過ぎて忘れるけど、私達プレイヤーにとってはゲーム・・・なんだよね。
取り止めのない事を考えている間に神殿に着いたようだ。
なんか、思ってたより普通・・・。
神殿って形だけど、こう厳かな雰囲気とかは無い。少なくとも外観は。中は知らん。入る勇気がないからな!
神殿を中心に広場になっているようで、ベンチや噴水などがある。
地図を見ると、ここを中心にこの街は丸い形をしていて、四方にそれぞれ門があり、ログイン直後は北門付近にいたようだ。
北門から少し中心に向かって行くと、冒険者ギルドがある。さらにそこから少し進むとガオン武具店に辿り着く。
なんだか、結構な時間を過ごした気がしてたけど、私全然動いてないね。実質2時間も経ってないよ。
街の中には至るところに時計があって、時間が分かるようになっている。無論、アストリカの時間が、だ。
現実の時間はどうなってるのかな?ログアウトして確認してみないと。その為にも、クエストをクリアしよう。
さて、地図上の赤い印はあと3つ。東門付近に1つ、南門付近に1つ、あとは神殿から少し西に行った所だ。
まずは、一番近い西に寄ったところに行って、南門、東門って順に行くかな。
道順も決まった事だし行きますか。
「ここで、あってる?」
思わず声に出してしまった。しかし、残念な事に地図上の印はこの店に付いている。
路地裏と呼べる、薄暗く細い道を進んだ先にその店はあった。
植物のツタに覆われた怪しげな雰囲気の店は、かろうじて読める看板によると薬屋のようだ。老婆の魔女が出て来てもおかしくない。
意を決して中へ入ると・・・。
「うっ・・・薬品の匂いが」
まるで、病院に香水を振り撒いたかのような、薬品と甘い匂いが凄い。
獣人になったからか、鼻が良いみたいで、正直早く出たい。臭い。鼻痛い。
「お客さんですかぁ〜?今行きますのでお待ちくださいませぇ〜」
おっとりとした可愛らしい女の人の声が、店の奥から聞こえた。この店の雰囲気には不釣り合いなほど、のほほんとした穏やかな声だ。
トテトテと足音を立てて現れたのはピンクの幼女だった。
・・・ヤバイ。幻覚ヲ見テイルヨウダ。
いやいや、混乱してる場合じゃない。正気に戻れ、私。
頰を叩いてもう一度見る。
髪の色から服装まで、見事にピンク一色の幼女が首を傾げてこちらを見ている。
駄目だ。幻覚じゃない。コレ本物だ。
身長は低く、顔立ちは幼い。短い髪を頭上で二つにくくり、髪を束ねるのはフリルが可愛らしいシュシュだ。フリルがふんだんに使われたピンクの洋服、それに合わせたピンクの靴。所謂、ロリータファッションってやつだ。
薄いピンクの髪、赤みがかったピンクの瞳。濃い色から薄い色の様々なピンクを使い分けたロリ服。
どこまでピンクなんだよ!
鼻は痛いし、目にも毒。早くここから出たい。
「どうかされましたかぁ〜。お客さまぁ〜?」
上目遣いで、人差し指を口に当てる。このポーズはアレだ。あざとい系の猫かぶり女子が男をおとす時の仕草だ。
ヤバイ。鳥肌が立ってきた。
「あれあれぇ〜?具合悪いですかぁ〜?よろしければぁ、奥で休まれますかぁ〜?ここはぁ、薬屋なのでぇお薬ならたくさんありますよぅ〜?」
「結構です。手紙を届けに来ただけなので、こちらを見てサインを戴ければすぐに去ります」
「遠慮しなくていいのですよぅ〜」
笑顔の幼女が近付く毎に、その分後ろに下がる。
怖い。老婆の魔女の方が良かった。
手近な机に手紙を置き、なるべく距離を取る。
「照れ屋さんですねぇ。この手紙はラブレターですかぁ〜?」
幼女が世迷言を口にしながら手紙を手に取る。
コイツヤバイ。頭オカシイ。
「どれどれぇ〜。え〜とぉ・・・・・・」
手紙を読み始めたら幼女から表情が消えた。怖い。さっきの笑顔も怖いけど、無表情も怖い。幼女にトラウマ持ったかも。
しばらく停止していた幼女が動き出した。
無言で手紙を破いていく。
破き終わると発狂した。
「きぃーーーーーーーーっ。ふっざけんじゃねぇーーーーっ。俺を誰だと思ってんだ、タダで済むと思ってんのかーーーーーーーーっゴラァ」
怖い。ナニコレ。
ブリっ子ロリからヤ○ザになった。見た目変わらず、中身だけ。でも、顔が怖い。般若だ。
今まで何人殺ってきたんだろう。
怖い。ロリ怖い。幼女怖い。
体の震えが止まらない。
視界に入ったら何されるか分からない。隠れよう。
震える体を動かして、薬品棚や机などで上手く体を隠し、息を殺す。
【スキル[潜伏]を取得しました】
【スキル[気配察知]を取得しました】
【スキル[恐怖耐性]を取得しました】
【称号[耐え忍ぶ者]を得ました】
どれくらいの時間が経っただろうか。
多分そんなには経っていないのだろう。窓の外は未だ明るい。
怖かった。体の震えが未だ止まらない。
いつの間にか取得した[気配察知]の感覚からすると、あの幼女は店の奥に引っ込んだようだ。
ほっと溜め息をついてしまうのは仕方ないと思う。怖かった。
今の内に店から出よう。サインとか無理。怖い。戦略的撤退だ。
店から出て、ようやく体の震えが止まった。
落ち着いた事で、頭がようやく逃げる事意外に考えられるようになった。
・・・クエストどうしよう。
手紙を届けて、内容を読んでもらってサインを貰うだけの簡単なクエストじゃなかったっけ?
「はぁ〜〜」
溜め息が出る。
どうにもならないし、この店には入らない。入りたくない。
とりあえず、他の手紙を届けるか。
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進行中クエスト
『手紙の配達』
期限/今日中
冒険者ギルドからの依頼。
4枚の手紙を指定された店に届けて、サインを貰おう。また、手紙の内容を確認してもらう必要がある。
渡された手紙には冒険者ギルドの印が付いている。
現在2枚目の手紙の配達が終わった。残り2枚。
レルティア宛の手紙にはサインを貰う必要は無いようだ。
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あれ?
サインを貰う必要が無い?
レルティアって・・・もしかしてあの二重人格幼女のこと?
地図を開こうとして、間違えてクエスト画面を開いてしまったのだが・・・結果オーライ?
一先ずは一安心って事でいいのかな?
楽観的な思考かもしれない。レルティアってあの幼女の名前じゃないかもしれないのだから。しかし、そう考えたい。じゃないと初クエスト失敗になってしまう。
さて、次の配達先に行こうか。
別に早くここから立ち去りたいだけって訳じゃない。なんて嘘言えない。
早くここから離れよう。
背筋に悪寒が走るんだ。
手に入れたスキルの確認とかあとあと。
安全第一で行かないと。
オカシイ。
予定ではこんな展開になる筈じゃなかったのに。
ま、いっか。
こんなこともあるって事で。
あと、すみません。
ここのところ、体調がよろしくなくて投稿ペース落とすかもです。
なるべく毎日投稿していきたいと思いますが、出来なかったらごめんなさい。
こんなですが、今後ともよろしくお願いします。