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第十話 手紙の配達〜その1〜

本日分です。

 



 カランカラン。


 扉に付いた大き目の鈴が鳴る。

 少し煤けた店内には所狭しと剣や槍などの武器が並んでいる。

 そう、ここは武器屋だった。先程見た、エルフが呼び込みを行っている武器屋だ。


「すみません、ギルドの依頼で手紙を届けに来ました〜」


 店内を見回しても、店員らしい人影が見当たらない。

 エルフの人が呼び込みしてたよね?なんで誰も居ないの?


「おお、すまん。すまん。少し裏に行ってたんでな」


 カウンターの奥から服を着た二足歩行のライオンが出て来た。え?自分何言ってんの?


「お客さんかい?好きに見てってくれい」


 私が固まっている間に、ライオンはカウンターで片眼鏡(モノクル)を掛けていた。年季の入ったそれはライオンに凄く似合っている。

 声の調子といい、そこそこいい年齢だな。シブイ。


「あ、あの。依頼で手紙を届けに来たのですが・・・貴方がこの店の店主ですか?」


 用件を告げると、ガタイの良いライオンは如何にも鍛治師と言った風体で、剣の鑑定?をしていた手を止めてこちらを見た。


「おう、そうだ。ガオン武具店の店主、『鍛獅子』こと獅子の獣人ガオンだ。よろしくな猫科の兄ちゃん」


 獅子の獣人だったのか。言われてみればその通りで、それしか答えは無いけど。二足歩行のライオンって言った方が納得出来る。

 それにしても・・・


「あの、モフらせてもらってもいいですか?」


 あの見事なタテガミ。そこから見える耳。ゆらゆら揺れる尻尾。

 リアルだと出来ないライオンモフモフがそこにある!

 ああ、触りたい・・・。


「・・・兄ちゃん、大丈夫かい?」


 おや、頭を心配されてしまったか。

 安心してください、ただのケモナーです。モフモフに目が無いだけです。

 ガオンさんは私の様子に驚いているようで、目をまん丸にしている。

 ・・・少し冷静になれ、私。


「すみません。あまりにも見事なタテガミだったのでつい、本音が」


 魅力的なタテガミが悪いと思います。

 私ハ、無実ダ。


「・・・兄ちゃん、あんたよく変わり者って言われないかい?」


 い、言われない。言われてない。

 違う。やめて、そんな目で私を見ないで。

 思わず視線を逸らす。


「っく。あんた面白いな。俺を見て怯えるでもなく、モフらせてって、くくっ。くはっ、はははっ」


 ガオンさんが笑いだしちゃいました。爆笑です。

 ううっ。酷いよ。


「はははっ。はぁ〜。あ〜、久しぶりに笑ったわ。兄ちゃんは、中々の色男の割に面白い奴だな。大抵の奴はビビって腰が引けた態度しかとらんからな。それをモフらせてって、くくっ」


 また笑い出しそうだよ。

 流石にジト目になるよ、私。


「そう、不貞腐れるなって。褒めてんだぞ、大した肝の持ち主だってな。んで?手紙だっけか?」


 このライオン、目尻に涙が光ってるよ。

 アイテムボックスから手紙を取り出して渡す。

 無言なのは、不貞腐れてる訳じゃないから。そのはいはい、とでも言いたげな目はやめろ。


「どれどれ。あ〜、なるほどな。うんうん、納得だな」


 ブツブツと手紙を読みながら独り言を喋ってる。

 独り言はいいけど、時折こっちに意味ありげな視線を寄越すな。


「・・・ちょっと待ってろ。今、持って来るから」


 そう言い残してカウンターの奥へと引っ込んで行った。

 なんだろ?手紙の配達って、手紙を読んでもらってサインを貰うだけじゃなかったっけ?

 首を捻っていると、おっさんもとい、ガオンが戻って来た。失礼なおっさんにさん付けは不要だ。


「ほれ、これだ」


 手渡されたのは、〔初心者の短剣〕だった。

 え、なんで?


「兄ちゃんは猫の獣人だからな。敏捷値が特に高く、器用値もそこそこ、んで筋力値が低いだろ?だから、初期装備として短剣を選んでいるとみた」


 正解です。

 流石、鍛治師。今まで色んな人を見て来た経験って奴ですか。


「予備に持っとけ。短剣は軽いからな、力が低くても片手で持てる。その代わり威力は大したこと無いから、手数で攻めるしかねえ。なんなら、二刀流目指すのもありだと思うぜ」


 二刀流か・・・。

 出来たらカッコイイけど、絶対難しいから。武術の経験も一切無い素人の私には無理だと思う。


「いくらですか?」


 タダで貰おうなどと厚かましい真似は出来ない。

 アイテムボックスから銀貨を取り出そうとすると、


「金は要らねえよ。その代わり、武器を新調する時はぜひ、この店に来てくれ。将来有望な新人への先行投資だ」


 ニッと笑うガオンに不覚にもカッコイイと思ってしまった。

 ここは好意に甘えさせて貰おう。こんな台詞を言われて代金なんて払えない。

 貰った短剣をアイテムボックスに仕舞おうとすると、ガオンから待ったが掛かった。


「ここで装備して行けよ。ベルトも調節してやるから」


 そう言ってカウンターからこちらへ出て来た。


「こいつの鞘にベルトを通すんだ。ベルトは緩く締めると戦闘時にグラつくからな。もう一本も出せ。一緒にここで装備しておけ。二刀流をするしないは別として、サブウェポンを装備するのは常識だ」


 戦闘時に武器を落としたら危険だからね。

 よし、出来た。

 なんか、一気に冒険者っぽくなった。当社比だけど。


「兄ちゃん、防具はあるかい?無いなら街を出る前には用意しな。ここは武器屋だから置いて無いんだ」


「一応、〔水精霊印の服〕を持っています」


 レアっぽいけど、効果とか分からないし、今まで着替える場所が無かったからアイテムボックスに入れたままになっていた。

 もしかしてガオンに鑑定をお願い出来るかな?


「・・・」


 ガオンが固まっていた。

 おーい。戻ってこーい。

 ダメだ。目の前で手を振っても反応がない。ただの屍、もとい固まったガオンだ。

 でも、どうしたのかな?

 あ、戻って来た。


「・・・兄ちゃん、精霊様に会ったのか⁉︎」


 顔が怖いよ?え?なに?

 独り言やめよ?怖いから!


「精霊様の印の入った服がどれほど貴重な物か・・・兄ちゃんは分かってないようだが、とんでもないシロモノだぞ⁉︎」


 マジで⁉︎

 ヤバくない⁉︎

 なんで?なんで、こんなに厄介な物ばかり寄って来るの?


「兄ちゃん、実物を見せてもらってもいいか?もちろん見るだけだ。何もしない。ただ、そうそうお目にかかれる物じゃないから見てみたいんだ」


「あ、じゃあ鑑定してもらってもいいですか?わた・・・俺、鑑定する為のスキルがなくて、装備効果とか分からないので」


「喜んで!」


 ガオンは目を輝かせ、カウンターの引き出しから白い手袋を出して来た。

 私はアイテムボックスから〔水精霊印の服〕を取り出すと、(うやうや)しく捧げ持つように手を差し出すガオンに渡した。


「こ、これが・・・ゴクリ。では、[鑑定]。・・・な、流石精霊様。こんな装備見るのは初めてだ」


 驚愕の表情を浮かべたガオン。

 もう、嫌な予感しかしない。


「これが鑑定結果・・・です」




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 〔水精霊印の服〕

 水の精霊が作り、印を施した服。

 水の精霊による加護があり、水に関することに多大なる影響がある。

 しかし、あまりにも効果が高い為、水の精霊と友好を深めた者にしか着る事が出来ない。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 アーーーーウトっ。

 ダメです。

 アスフィルさん。なんで、こんなのくれたんですか!

 初心者には過ぎたシロモノ過ぎるよっ。


(ワタクシ)に鑑定出来るのはここまでです。この様な素晴らしい品をお見せいただきまして、誠に感謝致します」


「どうかしたんですか?ガオンさん。口調が変わってますよ?敬語とかやめて下さい。今まで通りでお願いします」


 調子狂うからやめてーーーっ。

 ついでに私の精神ガンガン削られていくからやめてください、真面目に。

 90度のお辞儀とか要らないから。正気に戻って!




 私に服を返すと、息を吐いて元に戻った。


「いや〜。凄い物を見せてもらった。こんな装備、Sランク冒険者でも持って無いかもしれないぜ?全く凄い兄ちゃんだな」


 もうやめて、私のHPは0よ。


「そうだ。更衣室は無いが、カウンターの奥を貸してやるから着替えて来いよ。装備出来るんだろ?」


「目立ちたく無いです。これを着て人に詰め寄られたく無いです・・・」


 考えるだけで恐ろしい。


「大丈夫だと思うぜ?見た目は綺麗な刺繍の施された服ってだけだからな。それだけなら、服屋でもっと派手な物も売ってるから、着ていても問題は無いだろうぜ?それに、だ」


 ガオンが言葉を切って真剣な目で私を見る。


「この服は、精霊様が兄ちゃんの為にって用意してくださったんだろう?兄ちゃんの安全の為に。だったらその気持ちを組んで差し上げろ」


 確かに、ガオンの言う通りだ。

 契約報酬として貰った訳だけど、加護ももらってアスフィルさんには色々良くしてもらったし、それにこの服はアルカとの契約報酬だ。ある意味アルカとの絆って言える。

 うん。着替えよう。


「すみません。場所をお借りします」



 カウンターの奥を借りて着替える。

 あ、腹筋割れてる。

 アストリカに来て初めて服を脱いだ訳だが、やっぱり男なんだなって実感した。

 細身だけど筋肉付いてる。これが細マッチョか。

 身体の違いに興味もあるが、ともかく落ち着いた水色の〔水精霊印の服〕に着替えた。

 繊細な刺繍がオシャレな服だ。男性が着てもおかしくないシックな感じに仕上がっている。

 元々着ていた服はアイテムボックスに仕舞っておく。



「場所をお借りしました。ありがとうございました」


 店内に戻り、ガオンにお礼を言う。

 私を待っている間に仕事をしていたようだ。初めて見た時の剣を持っている。


「いや、こっちこそありがとな。良い物を見せてもらった」


 お互い頭を下げ合って笑う。

 この依頼を受けて良かった。ガオンと知り合えたし、服の事も分かった。


「時間を結構掛けさせちまったな。ほれ、サインだ」


 サインを書いて置いてくれたらしい。

 ガオンからサインを受け取り、アイテムボックスに仕舞う。


「じゃあ、またな」


 ガオンに見送られ、次の店に向かう。


 カランカラン。


 扉に付いた鈴が音を立てて私を送り出した。




すみません。

投稿してから気付きました。

〔水精霊印の服〕をアスフィルさんは「インナーとして着てね」と言っていますが、鎧の下って意味ですのでご理解下さい。

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