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襲撃

1時間ほどして、涼介がゲートを通って

サーシャの自宅に戻ってくる。


玄関の方から「なんだお前らっ」という怒鳴り声と共に、

剣を斬り結ぶ音が聞こえてくる。


涼介は物干し竿をつかんで走り出しながら、

サーシャに言う。

「とっても和やかなお宅ですね!

うらやましいです!」


サーシャも並走しながら言う。

「これから、もっともっと和やかになるよ!

期待して待っててね(はーと)」


…そ、そ、それは楽しみだな~(震え声)



玄関に着くと、

剣と盾で武装した男たちと、門番たちが戦っている。


サーシャが「下がれっ」と叫び、門番が飛び退る。


武装戦士が、長剣を振り上げ、

いきなりダッシュで涼介に迫ってくる。


うわ~、和やか~。(泣)


涼介は、その男の盾を、

物干し竿で、ズドンと突く。


敷布団を4枚も干せる、2.0mm厚、

最高強度のステンレス製物干し竿だ。


先端のキャップが取り外してあるので、

先端は鋭くエッジが立っている。


その男は、盾ごと弾き飛ばされ、

門柱に激突し、そのまま動かなくなる。


それを見て、他の武装戦士たちが突入を躊躇する。


その戦士たちの背後にも、数十人もの武装集団がせまってきており、口々に叫ぶ。

「サーシャを捕らえろっ」

「いまからでもローマにサーシャを差し出せば、許してもらえる」

「どうせローマには勝てない」

「たとえ総督代理(レガトゥス)を倒せたとしても、

その後に押し寄せるカエサルの大軍勢には敵わない」


人垣の後ろに隠れて顔の見えない者ほど、威勢が良い。



ただの脳筋かと思いきや、

意外とまともそうな理屈を言ってる。


これなら、論戦で、論破できる。

俺様の華麗なティベート・スキルを見せてやるぜ!



涼介が大声で言い返す。

「なにもカエサルと真正面から戦う必要はないだろう?

総督代理(レガトゥス)が率いるローマ軍を打ち破って、

こちらが手強いと思わせてから、

有利な立場でカエサルと和平交渉するという手もある。

カエサルだって、手強い相手と戦争をして兵士を消耗したくないから、

その話に乗ってくるんじゃないのか?」


武装集団が黙る。



ふふふふふ。

言い返せまい。

恐れ入ったか。



沈黙の武装戦士たちをかき分けて、長い眉毛の老人が出て来る。

白髪。長いあごひげ。

周囲の武装戦士たちが一斉に沈黙し、その老人に敬意を示す。



むむ。

こいつ、偉いやつ?


自分たちでは、論戦では敵わぬと見て、

対論戦用キャラを出してきたのか?



その老人が言う。

「一般論としてはその理屈は成立するだろう。

しかし、ことローマ人に限っては、それは成立せん。

ローマ人にとって和平条約とは、戦に勝って結ぶものだ。

ローマ人は、戦に負けて和平条約を結ぶことは絶対にしない。

それは歴史が示しておる」


え? まじ?

「じ、じゃあ、カエサル率いるローマ軍を打ち破るしかないと?」


「カエサルを倒しても、

次はポンペイウスに率いられたローマ軍が攻めてくるだけじゃ。

ポンペイウスを倒しても、

また次の将軍に率いられたローマ軍が攻めてくる。

それも歴史が示すところじゃ。

ハンニバルは何度も何度もローマ軍を打ち破り、

何度も何度も壊滅させたが、

ローマは決して降伏せず、何度でも新たに軍団を結成し、延々と戦い続けた。

そして、ついにはローマがカルタゴを滅ぼしたのだ。

その成功体験が今のローマ人の精神を形作っておる。

ローマが供給できる総兵力は75万を越える。

それを根絶やしにするまで戦わねば、ローマは降伏せん。

そんなことができる者など、世界中のどこにもおらん」



…そんな。

いきなり論破された。


涼介が振り返って、サーシャに言う。

「姫、なんとか言ってやってください!」



サーシャは、負け犬を見るような目で涼介を見ながら言う。

「言ってることは、間違ってはいない。

ただ、いまさらティターンを一人差し出したくらいで、

収まりがつくとも思えん」


涼介は即座に振り、勝ち誇ったように言う。

「だそうだ!

聞こえたか、おまえら!」



また周囲の武装戦士たちが騒ぎ始める。

「サーシャを差し出せ」の大合唱だ。


涼介が「いや、だから…」と言うのを、サーシャが遮って言う。

「あの老人はともかく、それ以外の連中には理屈は通じんよ」


「ええええ?

論破されたら、

論理無視で持論を主張し続けるって…。

日本のネットユーザじゃねえんだから」


サーシャが笑って言う。

「2000年経っても、人間は変わらんらしいな」


「どうにかして、あいつらを説得できないのか?」


サーシャが首を振る。

「いままで、さんざんこの話はしてきたんだよ。

やつらは、ティターンをカエサルに差し出せば、カエサルに許してもらえると信じている。

これ以上は、話し合っても埒が明かない。

あっちも、それがわかってるから、強硬手段に出てきたんだろう」


涼介が黙ってサーシャを見つめる。

少し考えた後、諦めたかのように肩をすくめて言う。

「なるたけ怪我をさせないようにした方がいいか?」


そこに投槍が飛んできて、柱に突き刺さる。

刺さったときの衝撃で、ブブブブと振動している。


「いや。これは殺し合いだ」


その時、建物の反対側から、女性の悲鳴が聞こえてくる。

サーシャが大声で聞く。「どうしたっ」

「武装した戦士たちが、壁をよじ登ってきてますっ」

サーシャが叫ぶ。「応戦しろっ。応援を呼べっ」


その直後、うああああああっと、ものすごい悲鳴が聞こえてくる。男の声だ。

涼介が言う。「彼女たちの方へ行ってやってくれ」

サーシャは「わかった」とだけ言い、反対側へと走り去る。


反対側では、壁を乗り越えてサーシャの自宅の庭に着地した男が、

足を押さえて悶えていた。

サーシャのメイドたちがばらまいたマキビシを踏んだのだ。


壁によじ登っていた男達が、壁から降りるのを躊躇する。

リーダー格と思われる赤ら顔の中年男が壁の上から叫ぶ。

「うろたえるなっ。

相手は女子供しかいない。

あれが撒かれていない場所まで跳べばいいだけだ」


しかし、開けっ放しになっていたゲートから飛び出してきた2LDKの住人たちが、

鋼鉄製のまきびしをじゃんじゃん撒き始め、

文字通り、足の踏み場がなくなっていく。


壁の上の男たちは、どうすればいいか判断がつかなくなり、顔を見合わせる。

「どうすんのこれ?」

「うーん」

「もう、無理じゃね?」


士気が下がりそうになったのを見て、

あわてて赤ら顔の中年男が叫ぶ。「俺が手本を見せてやるっ」

マキビシのわずかな隙間を慎重に探して、そろりそろりと降りてくる。

まきびしを踏まないように、すり足で庭を進んでいく。


「なるほど」

それを見た他の男達は、リーダーの真似をして、すり足で進み出す。


武装した男たちがどんどん迫ってくる。


廊下にずらりと並んだ2LDKの住人たちが、

一斉にコンパウンドボウに矢をつがえる。


すり足でそろりそろりと移動するしかない男たちは、

距離が近く、あまり動かないので、

練習用の的よりも当てやすかった。


次々に矢が放たれ、男たちに、バスバスバスバスと刺さっていく。


リーダー格の中年男が

「ひるむなっ。

たかだか女子供の力で放った矢だ。蚊に刺されるようなもん…」

と言い終わる前に、

その男の脇腹を矢が貫通し、背中に飛び出る。


内蔵をやられたその中年男は、凄まじい激痛に歯を食いしばる。

脂汗を流しながら、膝をつき、まきびしに膝の皿を砕かれる。

恐ろしい絶叫が近隣の家々にまで響き渡る。

その絶叫する口の中に矢が飛び込み、頭蓋骨を突き破って、後頭部から脳漿がぶちまけられる。

それを見た他の男たちに衝撃が走る。


コンパウンドボウは、1966年に発明された機械の弓だ。

滑車とケーブルを使い、テコの原理で、高い初速で矢を発射する。

命中精度も高い。

持ち手の部分は、航空機で使用されるグレードである7075アルミニウム合金でできている。

その高威力に耐えるだけの高い強度が必要になるためだ。

この弓なら、女子供の力でも、大型獣を倒すほどの大威力の矢を発射することができる。

(実際、これでヒグマを倒した女子高生がいる)


あとは人数勝負。

大勢いれば、それだけ短時間に、多くの矢を発射することができる。


サブリーダーの男は、兵士たちを鼓舞するために叫ぶ。

「相手は女子供だっ。

ここさえ越えてしまえば、簡単に蹴散らせるぞっ」


忠実な部下たちは、恐怖に打ち勝ち、

盾で矢を防ぎながら壁を乗り越えようとする。


しかし、通常の矢の威力を想定して強度設計してある盾は、

大型獣の狩猟を想定した大威力の矢に耐えられず、矢が貫通してしまう。


盾を貫通した矢が眼球を貫き、悲鳴を上げて、壁の向こう側に落下していく男。

他の男達の盾にも次々と矢が貫通していく。


ついに、男の一人が「むりむりむりむりっ。全然無理っ」と叫び、

盾を捨てて走って逃げ出す。


不安と恐怖が他の男たちにも伝染していき、

逃げてもいいという空気ができあがり、

総崩れになって逃げていく。


そこに涼介が戻って来る。

こちら側の死傷者がないことを確認すると、

棒の先に金属の円盤のついたものをかざし、まきびしを吸着していく。


たっぷり吸着したら、木箱のところで電磁石のスイッチを切ると、

まきびしがはずれて、木箱の中に落ちる。


涼介は、興味深そうに見ている住人たちに、まきびし回収機の使い方を説明し、

全部で3台のまきびし回収機を手渡す。


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