表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/19

襲撃者 v.s. 村人

アレルテが顔をあげると、

道の向こうから、何かがやってくる。


「あれ何?」

と、アレルテが母親に聞く。


母親が見ると、

土埃を上げて、何かがやってくるのが見える。


村人たちに緊張が走る。

まさか、もう襲撃?


独特の音を発しながら、近づいてくる。

とんでもなく巨大な水晶の板が、陽光を反射している。


それがみるみる迫ってきて、

アレルテのすぐ隣に止まる。


奇妙な臭い。

4つの黒い車輪がついているので、荷車の一種だろう。


村人たちが見守る中、

ピックアップトラックのドアが開く。


アレルテの顔に、冷たい空気があたる。

…この中は、冬?


中からソニアとミーシャが出て来る。


なにこの子たち。

奇妙な服を着ている。

動物の皮でも、麻でも、亜麻でも、羊毛でもない。


アレルテよりも小さな少女が器具を操作すると、

奇妙な機械が空へ飛んでいく。


魔法使い?


村人たちから、おおおおおという声が上がる。

好奇心いっぱいの者。

恐れおののいている者。

何が何だかわからずに、ポカンとしている者。


ソニアが言う。

「襲撃者が近くまで来ています」


村人たちに、衝撃が走る。


熱い風が吹き、樹々がざわめき、毛虫が糸をひいて降りてくる。


男が言う。

「すぐに逃げ…」


「逃げても、追いつかれます」


「じゃあ、どうしろと…」


ソニアが、ピックアップトラックに大量に詰んである弓矢を配り始める。


複雑な構造をした機械の弓に、

村人たちがたじろぐ。


なんだこの、おどろおどろしい機械は。


「いや、俺は使い慣れた弓矢の方が…」


ソニアは、木に盾を立てかけ、

クロスボウでぶち抜いて見せる。


村人たちが仰天する。


「な、なるほど」


村人たちがかわるがわる機械の弓を手に取り、

巻藁で試し始める。


ミーシャが液晶画面を見ながら言う。

「あと5分で来ます」


ミーシャがピックアップトラックの車内に、

子供たちを詰め込めるだけ詰め込み、

窓に装甲板をおろし、

最後に自分自身も車内に入って、ドアを閉める。


畑の向こう側に、騎兵が姿をあらわす。

2、いや、3騎いる。


こちらの存在に気づいたらしく、

こちらに突進してくる。


上半身裸で、全身に入れ墨をしている。

下半身はチェック模様のズボン。

典型的なケルトの戦士が、雄叫びを上げて突っ込んでくる。


ソニアが言う。

「十分にひきつけてから、撃ちましょう」


騎馬が、みるみる近づいてくる。

村人たちはコンパウンドボウに矢をつがえる。


30メートルぐらいまで近づいたところで、

次々に矢が発射される。


早すぎる。

とソニアは思う。

30メートルでは、命中率が悪すぎる。


結果、一騎が撃ち落とされるが、

残り2騎はぎりぎりで矢をかわし、

剣を振り上げ、こちらに斬り込んでくる。


村人たちが恐怖にかられ、悲鳴を上げて、逃げていく。

2騎のうち1騎は、村人たちを追っていく。


残りの1騎が、こちらに向かってくる。


ソニア1人が、仁王立ちのまま、

クロスボウを構えている。


あと20メートル。

まだ発射しない。


10メートル。

まだ発射しない。


5メートル。

発射。


矢は男の盾を貫通して、胸に刺さる。


男が落馬し、馬だけが走って行く。


ソニアが、大急ぎで、次の矢を装填する。


このクロスボウは、ソニアの力でも引けるように作られている。

先端の金具を両足で踏んで固定し、両手でハンドルを掴み、背筋を使って引く。

それを数回繰り返すと、テコの原理で、強力な弓が引かれる。

背筋は、人間の最も強力な筋肉の1つだ。

10歳の少女でも、背筋力は50Kgぐらいはある。

それがテコの原理で数倍に増幅されるので、どんな怪力の大男の力でも引くことができないような、とんでもなく強力な弓をひくことが出来る。


村人たちを3人ほど背中からぶった切った騎兵が、

Uターンして、こちらに戻ってくる。


血まみれの騎兵が、みるみる迫ってくる。

ソニアは、またぎりぎりまでひきつけてから、

矢を発射する。


またしても矢は盾を貫通して胸に刺さる。


それでも男は、ソニアに剣を振り下ろそうとするが、

ソニアは転がりながら横に飛び退いて避ける。


ホコリまみれのソニアが、咳込みながら立ち上がると、

矢が刺さったままの男は、馬に乗ったまま走り去り、

戻ってこない。

馬上で死んでいるのかもしれない。


村人たちが三々五々戻ってくる。


男の一人が言う。

「あんた、怖くないのか?」


「怖いです」


「じゃあ、なんで逃げない?」


ソニアがピックアップトラックに詰め込まれた子供たちの方を見て言う。

「だって、私が逃げたら、子供たちが殺されちゃうじゃないですか」



夏の太陽が、ギラギラと村人たちの身体を焼く。


村人たちは、唇を噛み締め、下を向いている。


ハエが村人たちの身体にたかり、這い回る。



ミーシャが言う。

「第二陣、来ます」


3、じゃない。5騎いる。


村人たちが一斉に矢を構える。


ソニアが言う。

「私が『撃て』と言ったタイミングで撃ってください。

それまでは、撃たないでください」


村人たちが、口々に「分かった」と言う。



30メートル。

まだソニアは沈黙。


20メートル。

まだソニアは沈黙。


10メートル。

ソニアが叫ぶ。「撃て!」


みなが、一斉に矢を発射する。


圧倒的な命中率で、ほぼ全ての矢が、

騎兵に突き刺さり、落馬していく。


村人たちが、飛び上がって歓声を上げる。

「やれる」

「ああ」


抱き合って、涙ぐんでいる。


ミーシャが言う。

「お姉ちゃん、そろそろ次の集落に行かないと。

そっちにも襲撃者が迫ってるって無線連絡が…」


ソニアが村人たちに言う。

「この弓矢は、なんとか急場をしのぐためだけのものです。

根本的な対策には、なってません。

襲撃者は、次々とやってきますし、

その後に、ローマ軍の8個軍団もやってきます。

できるだけ早く、ファルティア近郊の難民キャンプへ避難してください」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ