国籍取得
南米、A国。
錆びたトタン屋根の並ぶ、埃っぽい道を歩きながら、
涼介は焦っていた。
ヴァルルニ族領の住民たちを、
一刻も早く、避難させないといけない。
難民キャンプをつくるには、
食料も物資も大量に必要なのに、
それを買う金がない。
サーシャの国籍が取得できないと、
テレビに出演できず、
金が入ってこない。
一刻も早く国籍を取得しないと、
ヴァルルニ族がどんどん虐殺されてしまう。
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涼介とサーシャが孤児院の門から入ると、
浅黒い肌の子どもたちが、総出で出迎えてくれた。
「リョウスケサン、アリガトウゴザイマス!」
スペイン語訛りの日本語が響く。
子どもたちがわーっと走って、涼介に抱きついてくる。
サーシャは子供たちと混じってもみくちゃにされる。
孤児院で飼っているゴールデンレトリバーまで飛びついてくる。
もみくちゃにされながら、涼介が困ったような顔をして言う。
「出迎えはいいって言ったのに」
南米の強烈な日差しを6年間浴び続け、
日本人とは思えないほど真っ黒に日焼けした院長の上原太一が苦笑いしながら言う。
「みんな、どうしてもお礼を言いたいって言うからさ」
孤児院の敷地内の教室の中に入ると、
ずらりと並んだ学校机の上に、
ノートパソコンが一台ずつ並んでいる。
子どもたちが教室に入ってきて、
パソコンを起動し、
自分の作成したWebサイトやプログラムを、
涼介に、しきりに説明しようとする。
涼介はあまりスペイン語が分からないが、
Webやプログラミングの知識はあるので、
何を言っているかは、だいたい分かる。
「あんたの寄付のお陰で、
ようやく一人一台、パソコンを持てるようになったんだ。
もう、子どもたちが大喜びでさ」
「礼はサーシャに言ってくれ」
「え?」
「サーシャが稼いだ金だ」
「国籍もないのに、どうやって?」
「スポンサーと交渉して、前金で契約金をね」
上原はしゃがんでサーシャに目線を合わせ、
サーシャの頭をなでながら言う。
「そうかあ。
お嬢ちゃん、ありがとうな。
ほんまに助かったわ。
えらいべっぴんさんやけど、アイドルでもやるんか?」
サーシャは照れて顔を赤くしながら、
たどたどしい発音の日本語で言う。
「アイドルというのとは違うと思うけど、
テレビに出ることになった」
「わかるわー。
あんたのこと、世界中の人が見たがると思うで」
「で、依頼しておいた20人分の国籍、いつごろ取れそうなんだ?」
「あと2日くらいで、書類が全部揃うと思う。
役人どもにタップリ賄賂を渡してあるからな、
審査もなし、順番待ちもなしで、
超特急で手続きしてもらえることになったで。
みな、この孤児院の住人として登録される」




