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セブンスワールド  作者: あすぷ
第2章 SELECT FROM
9/19

#逃走

 これから、どうしよう。

 俺は、どうしてしまったのだろう。

 昼過ぎのうたた寝で見た夢が、まだ覚めることなく今も続いているのか、そうでないなら俺はいつから夢を見ていたのか。

 突きつけられた現実は目を覚ますには十分にショッキングな内容なのだが、それでも目を覚まさないなんて、俺は夢遊病にでもなってしまったのだろうか。

 とにかく、帰ろう。

 妹にもらったモッフモフでフワッフワのブランケットに包まって眠れば、この悪夢も終わり明日が始まるはずだ。

 ブランケットに包んで忘れてきたモチベーションも、明日には良い感じに温まり、即戦力で使えるかもしれない。

 そんなことを考えながら駅構内を通り抜けて、筑紫口に戻ってきた。

 バスの時間を調べるためスマホの画面をつけると、ツイッターのアイコンに赤い丸がついている事に気がついた。


 “今話題(?)の陥没道路で混んでそうだな。”


 自分のツイートを思い返してみると、誰も興味のないプライベートを晒した上に的外れな情報どころか虚言癖を晒しただけになってしまった。

 アイコンに赤い丸がつくのは、誰かがツイートに返信した時か、同じ内容をリツイートした時だ。

 それを確かめようとアイコンをタップした途端、視界の端にスーツと革靴が現れ、その足はスマホを見ていた顔を正面に向き直させるように俺の進行方向と綺麗に重なる。

 俺を進ませまいとする意図を、確かに感じる行為だった。

 顔を上げた先には、どう見ても仕事帰りのサラリーマンではないスーツ姿の男性が2人、夜には不要と思われるスモークの効いたサングラスをかけている。

 直感なのか本能なのか、とにかく馬鹿で正直な方の俺が『この人たちはヤバイ』と囁く声が鼓膜を介さずに聞こえてくる。

 この屈強なお兄さん方は、どっからどう見ても、カタギの人ではない。

 一度立ち止まった足を、少し無理な方向転換で進もうとするが、お兄さん方は屈服な体格に似つかわしくない機敏な動きで先回りする。

 心の中では何故か『なんて日だ!』ってボウズ頭が印象的な某芸人の決め台詞が反芻しいているけれど、いやホントその通りなんだけど、それどころではない。


 「……ハルヤマ、タクトさんですね?」


 ……!?

 何だって?

 なぜ俺の名前を??

 いやホント怖いんですけど!!


 「……チ、チガイマス」


 !?

 恐怖のあまり咄嗟に嘘ついてしまった。

 いやでも、ほんと人違いだと思いますよ!

 アナタ方の探されているのは、きっとこんなヒョロヒョロした晴山タクトではなく背中に龍の刻印とか薬指の麓にリング状の刺青をしている”破瑠矢魔タクト”さんでしょう!?


 「一緒に来ていただき……!!」


 屈強なお兄さんの1人が俺の腕に手を伸ばそうとした瞬間、逆の腕を強引に引っ張られて振り向いた。

 引っ張られた勢いで後ろ向きに倒れそうになりながらも、足にありったけの力を入れて持ちこたえる。


 「走って!」


 「ええ!?」


 今度は何なんだ!?

 驚くのもつかの間、声の主はこちらを見ることなく掴んだ俺の腕を握りしめたまま走り出す。

 状況からして俺を助けようとしてくれているらしい。

 ただ、冷静に自分の置かれた状況を考えると、もはやこれしか出てこない。

 全力疾走で前を行くお姉さんを追いかけながら、途切れる呼吸の合間に声をかける。


 「これって、何かのドッキリですか? 何の番組? ドォーモ!?」


 飲み会といい、陥没といい、俺にだけ事実が伏せられたドッキリなら割と大成功だと思うんだけど、いくら何でもネタバラシが遅くやしないか?

 後半に大どんでん返しを持ってくるのは定番だしわからなくはないよ、でも間延びとかしないかな、あんまり盛りすぎるとさ。

 そもそも、ごく普通でありきたりな一般人である俺にドッキリを仕掛けたところで、大した撮れ高は期待できないですよ……と言いたい。

 だが、そんな俺の言葉は目の前を走るお姉さんには聞こえていないらしい。


 「ゴメン! 想定外の事態で予定ポイント過ぎちゃった……ナビゲートお願い!」


 一瞬、俺に向かって言ったのかと思ったが、お姉さんの耳にインカムのようなものがつけられていることに気がついて、ハンズフリーで誰かと通話しているのだと分かった。

 それにしても、予定ポイント?


 「まだ走れる!?」


 こちらを向いてそう気遣ってくれるのは大変ありがたいのだが、正直もう随分前から限界は超えてるっぽい。

 冷たい地面の上を走っているせいか足の感覚はほとんど無くなり、上半身だけが熱を帯びた車輪のように回り続けている。

 暗がりの中で顔は見えなかったが、声の調子からお姉さんの方はまだ余裕がありそうだ。

 どうしよう、素直にもう無理だと言おうかと悩んでいると、新幹線の高架下に伸びる道から強面お兄さんがこちらに向かってくるのが見えた。


 「……だ、大丈夫です!」


 ちくしょう!

 無理でも何でも、逃げるしかない。

 理由はわからないけど、あの人たちに捕まるのは絶対嫌だ。

 どう考えても、このナイスバディのお姉さんの方が、圧倒的に本能的に信頼できる。

 万年運動不足の俺がこうやって限界を超えて走れているのだって、前を行くお姉さんのお尻が魅力的だからに他ならないっ!!

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