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セブンスワールド  作者: あすぷ
第1章 START UP
7/19

#博多駅筑紫口

 冬の寒空で薄暮は瞬きをする間に日を落とし、黄昏はビルの翳りに人目を忍ぶ。

 おそらく、シオン先輩は待ち合わせ場所にはいないだろう。

 他の乗客に聞こえないように注意深くため息を吐きながら、ジーンズのポケットからスマホを取り出す。

 ここで焦っても、バスが法定速度を超えて突っ走ってくれるわけではないのだからと、諦めにも似た感情で画面を見つめる。

 博多駅が近づくにつれて、例の陥没現場がどうなっているのか気になってきた。

 日本のテレビチャンネルを博多がジャックするほどに、前代未聞の陥没現場へ向かっていることをツイッターにつぶやいておこう。


ハルヤマタクト@tickticktacktack

バスで博多駅に向かって移動中ー。

今話題(?)の陥没道路で混んでそうだな。

向かうのは逆側の筑紫口だけど。


 一体誰がこんなしょーもない俺の日常を知りたがるんだと捻くれた考えも浮かぶけれど、本当はシオン先輩に向かっていることを伝えたいだけだってことのカモフラージュにはなってくれる。

 バスの向かう博多駅には筑紫口と博多口の2箇所に出口がある。

 待ち合わせに指定された筑紫口にはビジネスホテルや家電量販店などが立ち並んでいるが、博多口に比べると居酒屋の件数が多く、昼間よりも圧倒的に夜間の方が人通りも多く賑わっている。

 陥没した道路がある博多口とは線路を挟んでちょうど真逆に位置していた。

 福岡には路線の異なる大きな駅が2つあり、一つは博多、もう一つは西日本鉄道の天神駅だ。

 この2つの駅は3キロほど離れており、歩けなくはないけれどかなり億劫なほどに離れている。

 どちらが乗降客数が多いかなんて鉄道に興味のない俺にはわからないけれど、エンターテイメントが天神駅で、ビジネスが博多駅だと勝手にイメージしているのは俺だけじゃないはず。


 そんなビジネスのイメージにふさわしく、バスが到着した筑紫口の停留所からは大きなスーツケースをひいて足早に歩くサラリーマンの姿が見える。

 家電量販店の大きな紙袋を郵送すればよかったと後悔している顔で重たそうに持つ人、正方形のコインロッカーに似つかわしくない長ネギを含むレジ袋をねじ込む人、俺ではない誰かを待つ待ち人多数。

 さすが土曜日の夕暮れ時なだけあって、午前中に妹を見送った時よりも桁違いに人が多く、その中に割って入る心のモチベーションは生憎モッフモフでフッワフワのブランケットに包んでおいて来てしまった。

 バスを降りてすぐにカズキへ再度電話をかける。

 シンプルなコール音は雑踏の中でもはっきりと聞き取れるけれど、コールが途切れる瞬間に音の優劣は暗転して雑踏をより明確にする。

 雑踏の大部分を占める足音と人の声は別の何かでできていて、鼓膜のフィルターで濾過された声だけを集めてみたら人の悪意そのものだったなんて変な空想が湧いてきた時点で限界を感じ、終話ボタンを押した。

 出口から少し離れた位置にあるカーネルサンダース先生に並んで、待ち人多数の中にシオン先輩の姿を探すが、案の定見当たらない。

 カズキからは時間と待ち合わせ場所しか聞いておらず、飲み会の会場は知らされていなかった。

 膨大な量の居酒屋を一軒ずつ見ていくことも考えては見たが、あまりにも堅実的でないし何より無理だ。

 二軒目くらいで諦めて、やけになって飲んでしまいそうだし。

 このままあてもなく待ち続けるのも時間が勿体ないことと、この待ち人多数の中に入っていては本当に探している人にとってハズレを一つ増やすことになって心苦しいことを言い訳に、

 野次馬根性を発揮して博多口の陥没現場を見に行くことにした。

 というか、単純に気になって仕方ないのだ。

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