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セブンスワールド  作者: あすぷ
第1章 START UP
6/19

#シオン先輩

 博多駅へ向かうバスは、部活か塾帰りと思われる高校生の集団で埋め尽くされていた。

 通学でバスを使うようになって気づいたのだが、朝の通勤時間帯と夕方の帰宅時間帯ではバス車内のニオイが違うのだ。

 朝の車内は各々の家庭で使っている柔軟剤や整髪剤の香り、朝食で食べた物のニオイが混じり合って、どこか甘ったるい不快なニオイがする。

 一方、夕方の車内は昼食で食べた物のニオイや汗とタバコのニオイに加えて、意識高い系の人が放つ香水の香りが混ざってスパイシーで不快なニオイになる。

 要するに、常時臭い。

 ニオイに負けるもんかと、荒唐無稽な反骨精神でカズキに寝坊したことを謝罪するLINEを送った。

 バスに乗る前にも電話をかけたが、先ほど同様に何度コールしても出なかったのだ。

 どうにかシオン先輩に連絡を取りたいのだけど、生憎電話番号もメールアドレスも当然LINEも知らない。

 頭の中ではこれから起こるかもしれない最悪のシナリオが駆け抜けるのだが、バスは夕方のラッシュに巻き込まれてのろのろ進む。

 

 ”約束、覚えてるよな?”


 カズキの言葉はこれから起こると思われる最悪のシナリオにふさわしい前振りとして、不意に浮かび上がる。

 もちろん、約束はちゃんと覚えている。

 むしろ、昨晩はそのせいであまり眠れなかったくらいさ。

 シオン先輩は俺たちの所属するゼミの卒業生で、事ある毎に研究室や飲み会に顔を出してくれる。

 男女共に憧れる容姿端麗、頭脳明晰なパーフェクトヒューマンだ。

 その先輩に近づこうと2年間を生贄に、さして人気もなく興味もそそられないウチのゼミに入ってくる男子がいるほどの、圧倒的美人。

 すでにゼミ生男子の10人が先輩に告白し、その9割が玉砕済みという無残な状況だった。

 ただ、不思議なことに半分ほどが玉砕してからは男子同士のライバル心は希薄になり『俺がフラれたことを納得できるようなヤツと付き合って欲しい』という玉砕組のわずかな自尊心を守るために協力体制が整っていった。

 それでも先輩のガードを崩せなかった玉砕組は、立ち向かう勇気と玉砕しても僅かに残る自尊心を守るため、残された最後の1割である俺にある約束をさせた。


 ”次に先輩と会ったら、告白すること”


 初めは子供じみたことを言いだしたものだと呆れていたのだが、どこかのタイミングで先輩に近づきたいと思っていたのは事実だった。

 何より、タイムリミットを決めない限り『どこかのタイミング』なんか永久に来ないと分かっていたからこそ、この約束は意義あるものに思えた。

 まあ、すでにそのタイムリミットを寝坊という至極情けない形でオーバーしているんですけど。

 17時を過ぎて、もうすぐ18時になろうとしている。

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