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セブンスワールド  作者: あすぷ
第1章 START UP
3/19

#昨晩の電話

 ーー本日は博多駅前の陥没事故を受けまして、番組内容を大幅に変更しております。

 本日放送予定だった『コネスケの突撃隣の昼ごはん』は明日、放送いたします。ご了承ください。

 えー、冒頭よりお伝えしております通り、本日2月2日正午頃、福岡市博多区の博多駅前通りにおきまして大規模な道路陥没事故が発生しております。

 現地から九州放送の山川さんに最新情報を伝えて頂きます、山川さんーーーー。


 テレビからは真面目に、誠実に、危機感を煽るように、我々は貴方がたの味方だと言うかのように、同じ内容を繰り返し放送しているが、そんなものは全く伝わってこない。

 この単調な口調のキャスターが、平和ボケしたお茶の間に危機察知の一石を投じる使命感を持っているとは思えないし。

 むしろ、お茶の間に渾身のギャグを投じるお笑い芸人の方がよほど強い使命感を持っていると思う。

 それでも、反復練習が身に沁み着くのと同じで、2月2日は博多陥没の日と誰もが覚えることにはなるかもしれない。

 もしかしたら、それが本当の目的なんじゃないかとさえ考え始めていた時、マナーモードのままにしていたスマホが不規則な振動でメールの着信を知らせる。


 『ちゃんとカナを駅まで送ってくれたとね?』


 仕事先からだろうか、方向音痴な妹を心配して出不精な兄を見送りに行かせたものの、ちゃんと見送ったか心配になった心配性の母からだった。

 このまま5分以内に返信しなければ、飛行機で返信できないだけの妹とも連絡がとれないとパニックに陥り、下手をすると2人分の捜索願を出されかねない。

 大袈裟だと思うだろ? マジだぜコレ。

 職場の休み時間に居ても立っても居られなくなって昼食も喉を通らない状況が見てとれる。


 『送った。だから、ちょっと落ち着け』


 これでよし。

 返信を済ませて時計を見ると、14時になろうとしていた。

 今日は夕方から大学のゼミ仲間と飲み会がある。

 それだけなら時間とお金の都合さえ合えば度々あることであって、なんら特別なものではない。

 でも今日だけは違う。

 昨晩遅くに帰宅して間もなく、嫌がらせとしか思えない電話があったのだ。


 『あー、もしもーし! タクトかー?』


 「……どちら様でしょう? 私バイトから帰宅したばかりで超絶疲れている上、昨晩までレポートに追われて睡眠不足の晴山タクトでございますが」


 もちろん、着信の時点で電話の主は分かっている。

 バッテリーの残量が少なくなったスマホの画面には、丸みを帯びた細みのフォントで『半田カズキ』の名前が表示されていた。

 小学生から大学まで友達付き合いの続いている、腐りに腐りきった縁のある悪友だ。

 進学シーズンが近くなる度に『寂しくなるな……』と互いにしんみりしては裏切られ、もはや縁というより何かの呪いなんじゃないかと疑っている。

 まあ、悪ノリが過ぎることはあっても悪い奴じゃないし、なんだかんだで連んでいるんだけど。


 『めんどくせぇ! なあなあ、明日の飲み会行くだろ? 行くよな?』


 「……カズキ、そのテンションからは嫌な予感しかしないからやめてくれないか? まあ、行きますけども」


 『よしっ! 後のことは俺たちに任せとけ!! とりあえず明日は博多駅の筑紫口に17時だぞ、忘れんなよ』


 おかしい。

 会場の居酒屋に現地集合がいつものパターンだ。

 大学に行かない土曜日とはいえ、飲み会の前に駅前で集合したことなんかない。


 「ちょっと待て、盛り上がってるところ申し訳ないんだが、全く話が見えん。何があるんだよ」


 『いいか、落ち着いて聞くんだぞ』


 ゴクリと生唾を飲み込む。

 なんてことはなく、どうせ大したことじゃないと高を括って電気ケトルに水を入れながら聞いていた。


 『……シオン先輩が来る』


 ……!?

 あまりにも心の奥底から出てきたこの感嘆符は、きっと声にはなっていなかっただろうけれど、それはもう英語に訳すならオーマイゴットと同じ意味を含んでいて、いやむしろ信じられないというか信じたくないことであって、つまりこれは大ピンチってことじゃないか。

 軽いパニックに陥っている間にケトルの水は溢れ、入りきれなかった水は排水溝へと音を立てて飲み込まれて行く。


 『聞いてるか、タクト? 約束、覚えてるよな?』

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