#守る人
ようやくシオン先輩たちの目的がわかったからか、それ以上に聞かされた内容が信じられないことも影響してか、助けられてから抱き続けていた懐疑心は影を潜める。
「そもそも、どうして俺にリメイク前の記憶があるとわかったんです?」
「ツイッターだよ。"ハルヤマタクト"のアカウントが陥没現場と逆の筑紫口に向かうって呟いた時には、もう陥没してないことになってたからな。まさかアカウントが本名だとは思わなかったぜ」
ナオヤさんは言いながらも、飲み終えたマグカップを洗い場へと持っていく。
そう言えば、自分から名乗った覚えがない。
いつの間にかの呼び捨ても、筑紫口に俺がいることも、ツイッターのつぶやきから得た情報だったのか。
あの時の気まぐれがこうしてシオン先輩たちと繋がることになるとは、想像もしていなかった。
ただ、同時に残念なことにも気づいてしまう。
先輩たちがツイッターで俺がストラドルだと気づいたということは、
「……リメイクは過去にも起こっているんですね」
「その通りよ。私たちが把握している限りこれで6回目」
6回だけでもかなりの回数だと思うのだが、それより以前から起こっていても、確実なことはここにいる誰にもわからない。
もう、たくさんだ。
シオン先輩たちに助けてもらえて、こうして我が身に起こった事態を把握できたのは良かったと思う。
でも、受け入れるかどうかは別問題だ。
これまでに起こったリメイクだって、気づきもしないで平穏な日常が過ごせていたじゃないか。
陥没が無かったことと、シオン先輩が憧れのマドンナからナイスバディなお姉さんになったこと、この二つに目を瞑れば日常は目の前にある。
だったら、それが一番いい。
唯一懸念されるのは、
「……あの追ってきたヤクザみたいな人たちは、今後も俺を狙ってきますか?」
「それは無いでしょうね。あの人たちは金で雇われただけの一般人だし、何も事情は知らないわ。私たちとあなたが接触した時点で雇用主は追跡を諦めるでしょう」
その雇用主も、先輩たちと同じようにストラドルを集めているということか。
先輩たちと同じように、ツイッターのつぶやきから情報を得られたのだとしたら、あの気まぐれが全ての元凶のような気がしてしまう。
「雇用主は誰なんです?」
「それを調べてんだけど、まだわかんねーんだ。前にとっ捕まえた連中の一人から情報を引き出そうと尋問したんだが、マジで何も知らなかったんだよ。リメイクのこともストラドルのことも、雇用主が誰なのかさえな」
いつの間にか二杯目のコーヒーを飲みながら、ナオヤさんが答えてくれる。
先ほどからナオヤさんが答えてくれるのは情報収集に関することばかりだった。
もしかしたら、それがナオヤさんの役割になっているのかもしれない。
「それでも追跡を諦めるとは思えません。誰が雇っているのかもわからないのに……」
「私たちがあなたを守っている。彼らがそう認識するだけで、危害を加えられることはないから安心して」
シオン先輩の笑顔は、自信に溢れ、優しかった。
武器もあって、拠点もあって、仲間もいる。
でもそれだけで、そうやすやすと自信を持ってああいう連中と渡り合えるものだろうか。