#リメイク
「ねぇ、神様って信じる?」
ナオヤさんの淹れてくれたコーヒーを一口飲み、黒猫のイラストが描かれたマグカップを机に置いてシオン先輩は唐突に聞く。
そうだな、正直に言おう。
「信じます。でも、それは人が造った人に都合の良い神様です」
「そう。良かった」
質問の意図が掴めないまま、シオン先輩は話し出してしまった。
「単刀直入に言うわ。タクトくん、あなたが今日の午後までいた世界は、もう無いの」
「……え?」
単刀直入に言われたらしいのだが、俺にはとても抽象的なものにしか聞こえなかった。
世界が終わる程の衝撃、世界が終わる程の恋、世界が終わるまでは……なんて例えなら幾らでも聞いたことがあるし、言ったこともあるかもしれない。
でもそれは例えばの話だ。
現実の世界は、もし地球が無くなったって、宇宙には太陽系の星々や宇宙そのものが残る。
世界はそう簡単に終わったり無くなったりしない。
「誰がどうやってそうしたのか、私たちにはわからない。でも、あなたには博多駅で起こった陥没事故の記憶があるでしょう? あの陥没は、このリメイクされた世界では、無かったことになってる」
「それは、陥没だけが無くなったということじゃないんですか? どうして世界ごと無くなったと言い切れるんですか?」
「あなたの知る神月シオンは、この学園の理事長ではなかったでしょう? あなたの知っている神月シオンはもういない。でもこの世界では、私が神月シオン。変わるのは、物理的なものだけじゃなく、人も記憶も存在そのものも変わるのよ」
……ありえない。
モノもヒトも、世界そのものを作り直すなんて、それじゃまるで……
「まるで神様よね。でも、あなたの言う通り、人に都合の良い神様かもしれない。知ってしまった以上、無視はできない」
「そんな……嘘でしょ。もう、元の世界には戻れないんですか?」
「……残念だけど、私たちはまだ可能か不可能かも含めてわからないの。でも、その為に私たちは活動してる」
シオン先輩が冗談を言っているとは思わないが、まだ信じられていないのは頭の中で揺らぎ始めた常識が、信じることで崩壊するのを阻止しようとしているからだ。
事あるごとに常識をふりかざす大人に嫌悪感を抱いていた俺が、まさかそれに縋ることになるとは思っていなかった。
こんなに脆く崩れるものと知っていたら、もう少し彼らの声に耳を傾けていたかもしれない。
「あなたやナオヤくんのように、リメイク前の世界を覚えている人間を“ストラドル”と呼んでるわ。この現象に対する唯一の手掛かりよ。私たちはこの学園を隠れ蓑に、ストラドルを集めているの」
シオン先輩がこういうと、ソファの背もたれに寄りかかりながら聞いていたナオヤさんは俺に向かって短くウインクをした。
仲間だとか同類だとか言いたかったのだろう。
けれど、それにも増してイケメンが放つウインクの破壊力を思い知らされる。