#ドッキリではないらしい
訳がわからず、気のせいかもしれないが目眩を覚えていると、運転席にいる男性と横に座るアスリートっぽい女性がほとんど同時に笑い声をあげた。
「シオンさん、いつのまにこんな可愛い後輩が出来たんだよ?」
「……ナオヤ君は私が売れ残りの可愛くないオバさんだとでも言いたいのかしら。どうする、死んどく?」
銃!?
シオン先輩は胸元から取り出した拳銃のようなものを、ナオヤ君と呼ばれる運転手の顳顬に向ける。
「そこまで言ってねぇ! ちょ、マジで勘弁してください……」
ツッコミにしては斬新ながらも、拳銃が本物だったら本当に笑えない。
笑えないと思っているのは俺だけなのか、隣に座る女性は前のめりに顔を伏せたまま笑い続けている。
コワモテのお兄さん達から逃げられたものの、もっとヤバい人達に捕まってしまったのではないかと不安になる。
「ごめんなさい。あなたの知っている私は、私ではないの。でも、このケースは初めてね」
「すいません、全く意味がわからないんですが……。何のドッキリ何ですか? あ、もしかして、もう少し騙されてた方がよかった?」
これは冗談ではなく、ダチョウ倶楽部的なフリでもなく、俺は心の底からドッキリであることを願っている。
あるはずの飲み会は無く、起こったはずの陥没も無く、さらにはシオン先輩が少し合わないうちに老けてしまっているなんて、にわかに信じられない。
ドッキリを疑う俺に対して3人は否定もしなかったけれど、その代わりに長い沈黙が教えてくれた。
これは、夢でもドッキリでも無いんだ。
「あなたに何が起こったのか、私たちはおおよそ理解してる。私たちに分かる範囲で良ければ、説明してあげることもできる。信じたくないかもしれないけれど、少なくとも私たちはあなたの敵じゃない。それだけは信じて」
「……わかりました。一つだけ質問してもいいですか?」
「答えられる範囲であれば」
「追ってきたコワモテな人たちに捕まっていたら、俺は殺されてたんですか?」
「そうね……もしあなたがブランクなら、今頃は殺されてたでしょうね。もしブランクでなかったなら……私たちに殺されていたわ」
ブランク?
何かの専門用語なのだろうか。
いまいち理解できないけれど、どちらにしても生きてはいられなかったことだけは分かった。