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セブンスワールド  作者: あすぷ
第2章 SELECT FROM
10/19

#再開

 オフィスビルの間を何度も曲がり続け、北か南かも、博多駅がどの方角にあるのかもわからなくなった。

 それなのに、お姉さんは地図を見るでもなく、迷うでもなく、進行方向を決めて一目散に走っている。

 いや、進むべき道を知っているように見える。

 先ほどインカムで話していたナビゲートというのは、誰かがインカムで進路を指示しているということなのだろうか。

 しかし、タイミングが悪いのか、ナビゲートなんてされていないのか、進行方向にかかる横断歩道の信号が、俺たちが到着する直前で赤に変わってしまった。

 どうするつもりだろうと走りながら様子を伺っていると、横断歩道を遮るようにして、目の前に白色のワンボックスカーが停車した。

 ものすごい勢いでスライドドアが開き、中にいた女性が大声で叫ぶ。


 「後ろから来てる! 乗って!!」


 振り返ると、足元さえ見えなさそうな黒いサングラスをかけた三人の強面お兄さんたちが、こちらに迫っていた。

 もっと早く! と助けてくれたお姉さんに急かされながら、最後の力を振り絞り走る。

 全力疾走の勢いのまま、乗るというよりドアに向かってダイブするような格好で飛び乗り、ドアを閉める前に車はアクセルをふかして走り出す。

 先ほどドアを開けてくれた女性がドアを閉める間際、追いかけて来ていた三人が横断歩道の前で立ち止まって電話をしているのが見えた。

 向こうも車で追ってくる気かもしれない。

 それでも、限界をゆうに超えていた俺の足をこれ以上酷使すれば、明日は丸一日ベッドから立ち上がれないところだった。

 後部座席に座って目を閉じると、まだ落ち着かない鼓動が瞼の裏で脈を打っている。


 「ほいこれ、水飲みな」


 「あ、ありがとうございます」


 ドアを開けてくれた女性がペットボトル入りのミネラルウォーターを差し出してくれた。

 年齢は俺と同じくらいだろうか。

 暗くてよく見えないけれど、輪郭だけだと女性にしてはがっちりしたアスリートのような体格に見える。

 助けてくれたナイスバディのお姉さんは運転席にいる男性と話しているが、慣れない全力疾走で弾けそうなほどに激しくなった鼓動が鼓膜を震わせ、内容を聞き取ることができない。

 助けてくれたことは事実だけど、まだこの人たちを信用できるような根拠はなく、懐疑心から手渡されたペットボトルのキャップに開けられた痕跡がないか、注射針のような差し込み跡がないかを確認し、成分表示もチェックした。


 「……硬水?」


 あのミネラルが豊富に含有されており飲みにくいと言われている硬水?


 「あー、それね、翌朝お通じがよくなるから! めっちゃ効くの!」


 ……へぇー。

 全然興味ないけど、喉は乾きに乾いてヒビ割れたように痛んでいるくらいなんだ、ありがたく頂こう。

 キャップを開けて口に含むと、わずかに鉄の味がした。

 ゴクゴク飲むにはちょっと喉のご機嫌を伺わないと嫌われかねない飲みにくさだ。

 この人は翌朝のお通じの為にこんなマズイ水を日々飲んでるのか……もはや苦行レベル。

 味はマズくても喉を潤して普段通りのマイペースな心拍数を取り戻すのには一役かってくれたらしく、落ち着いてきた俺に助手席からナイスバディお姉さんがこちらを向いて話しかけてきた。

 ほぼ正面を見るような格好になった途端、折角マズイ水を飲んで落ち着いてきた鼓動が、全力で鼓膜を叩く。


 「ごめんなさい、挨拶がまだだったね。私は……」


 「……シオン先輩?」


 記憶しているシオン先輩とはひと回りほど歳が違うように見えるが、俺がこの人を見間違えるはずがない。

 なんでシオン先輩がいるんだ?

 それに、どうして歳をとっているんだ?

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