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『ねぇ、アナタ、どうしてそんなに淋しそうな目をしているの?』
「マダム、僕のこの淋しさの理由を聞いて下さるのですか?」
『勿論よ。是非、聞かせてちょうだい。語ることで、聞くことで、人はその心を分け合うものよ。アナタの淋しさ、ワタクシに幾許か引き受けさせていただきたいの』
「この汚れた僕なんかを相手に、そんなことを仰って下さったのはマダム、アナタが初めてです! あぁ、なんと嬉しいお言葉なのでしょう! そのお言葉だけで、この心は救いの光を見出すことが出来そうなのですが・・・、あぁ、マダム、そのお優しきお言葉に甘えても宜しいのでしょうか? 僕の淋しさの理由を、語っても宜しいのでしょうか? 僕は、僕は・・・、とても、とても淋しいのです。最早耐え難いほど、淋しいのです! 何故ならば僕には、ただ一人も友と呼べる者がいないのです! ただの、一人もです!」
『まぁ! それはなんと哀しいことでしょう! そんなに哀しいことがあるのなら、アナタがそんなにも淋しそうな目をしているのも分かります。えぇ、分かりますとも! ・・・でも、それでしたらこうしたら如何かしら? 今日から、ワタクシがアナタのお友達になるのです! そうすれば、アナタがもうそんな淋しげな目をすることはなくなりますわ!』
「あぁ! マダム、アナタはなんてっ、なんて素晴らしい人なのでしょう!」
そこは、狭く、薄暗い、真四角の小屋の中。寒さと、暗さと、淋しさだけを詰め込んだ箱のようなその中で、声色を変えて一人二役を演じている演者に、声をかける者はいない。
逆に、演者が声をかけることもない。誰も、いないのだ、その場所には。演者と、他は・・・、その両手に掲げられた、もう一本の腕、二役目を務める『彼女』以外には。
『彼女』は、その『腕』は、優美な曲線を持ち、長い指先を薄い玻璃のような爪で縁取った、細く、白い『腕』だった。白く、とても、白い。色をつけるべき血を一滴も持たぬ白。『腕』だけの『彼女』、沈黙を、永遠の沈黙だけを持って。
それは、『彼女』が人形遊びの主役として選ばれた、翌日の夜のことだった。