笑顔になれたカエル
泣きに泣いたカエルは、ズキズキと痛む頭をおさえながら、柴犬と出会った道沿いの草むらまでやってきた。
頭痛は不快だったが、カエルはなぜかスッキリした気分だった。
今なら、長く胸につかえている、このモヤモヤの正体が分かるような気がして、カエルはゆっくりと深く息を吸った。
しばらくの間耳をすませていると、 向こうから何かを引きずるような音が聴こえてきて、カエルは引き寄せられるかのように、思わず道に飛び込んだ。
ところが・・・飛び出したその先には、何もない平坦な道が続くばかりで誰の影もない。
不思議に思って首をかしげたその時、突然カエルの脳裏に、足を引きずりながら去っていく柴犬の後ろ姿がよぎった。
―――そうか、そういうことだったのか・・・・・・。
その瞬間、今までカエルの心にしつこくからみついていた霧が、急速に晴れていった。
―――俺はアイツに助けられて、嬉しかったんだ。―――何度も道に飛び出してみたのは、アイツに会いたかったからだったんだ・・・もう一度会えるかも・・・と・・・・。
カエルが大きく息を吐きだしたその時、突然大きな黒い影が、カエルの目の前に降ってきた。
「おおっとあぶねぇ。もう少しで踏みつぶしちまうところだったぜぇ。」
舞い降りてきた影の主は、黒く太いクチバシにボロボロのビニール袋をぶら下げた、カラスだった。
ズタズタに切り裂いた袋を引きずっていたカラスは、くわえていた袋を道端に放ると、鈍く光る眼で嬉しそうにカエルを見た。
「まさか、道のど真ん中にこんなご馳走が飛び出してくるなんてな・・・・・・。こいつはピョンピョン跳ねてる活きのいいやつが、プリっプリで最高にうまいんだ。本当に踏まなくてよかったぜ。」
カラスがそう言って、カエルをくわえようと首をのばした時・・・・・。
恐ろしさで震えて動けずにいるカエルの耳に、聞き覚えのある足音が聴こえてきた。
タッタッタッタッタッタッタッタッタ・・・・・
「まさか・・・」と高鳴る胸をおさえてカエルが振り返った先には、吠えたてながら物凄い勢いで走ってくる、あの柴犬の姿があった。
―――そうか…あの時ケガを負った足は、もう治ったのか。
柴犬の力強く走る姿にホッと息をつくと同時に、カエルは自分の間抜けさを想い、「フッ…」と小さく笑った。
―――そんなにいつまでもケガしたままでいるわけないよな。
いつの間にか、身体の震えは止まっていた。
突然の襲撃に慌てたカラスが、カエルを口に加える直前、カエルは笑顔で柴犬にむかって「ありがとう」と叫んだ・・・・・・。
カエルの耳に「そいつを放せ!!」と叫びながらカラスに飛びかかる、柴犬の声が響いた。
カラスの真っ暗な口の中で、宙に浮く感覚を覚えながら・・・・・カエルは静かに涙を落とした。
最後まで読んで頂けて凄く嬉しいです!
本当にありがとうございます。
次回作もよろしくお願いします。