旅立てなかったカエル
「あぁー。マジつまんねーわ。」
散々蹴り飛ばされ、逃れようと這いずっているカエルの背中にツバを吐きかけると、暴れ者のカエルは、心底うんざりしてつぶやいた。
自分の縄張りに入り込んだよそ者を追い詰めてはいたぶり、周りの連中の縄張りをところ構わず荒らしては奪いつくすを繰り返すうち、いつしかみな、自分が姿を見せただけで雲隠れするようになった。
・・・気づけば、1人きりの退屈な毎日に、そして自分を恐れる周囲の視線に、カエルは耐えがたいほどのイライラを募らせていた。
「どいつもこいつもつまんねー連中ばっかでやってらんねーな。」
やけをおこしたこの暴れ者は、ついに道向こうの田んぼまで荒らしに行ってやろうと思い立ち、ピョンピョンと勢いよく道路に躍り出た。その瞬間・・・
―――タッタッタッタッタッタッタッタッ!!
「――!!!」
暴れ者はうっかり、駆けてくる何者かの前に飛び出してしまったのだ。
ヤバイ―――!
そう思った時には、すでに影は自分の目前まで迫っている。
暴れ者のカエルは、動くことも出来ず、ただただその場にたちつくし固く目を閉じた。
ところが――
「うわっとっとーっ!」
大きな叫び声と、ズシン!という物音は響いてきたものの、自分に襲いかかるはずの衝撃がいくらまってもやってこない。
恐る恐るカエルが目を開けると、そこには自分をよけたがために転んでしまったらしい、柴犬の姿があった。
どうやらケガを負ったらしいその柴犬は、足を引きずりながらも、心配そうにカエルの元ににじりよってきた。
「よかったぁ。ふんじゃったかと思ったよ。・・・ゴメンね。びっくりしたよね。」
そう言うと柴犬は、カエルを優しく口にくわえ、道を渡り、田んぼの端にそっとおろした。
「ここなら大丈夫だよ。それじゃあまたね。」
笑顔でそう言い残し足を引きずりながら去っていく柴犬の背中を見送りながら、カエルは胸の高鳴りと、今まで感じた事のない不安を抱いていた・・・・・・。