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神殺しの英雄譚  作者: 漆原 黒野
第1章 旅立ち編
32/32

エピローグ

一旦ここで区切りとします。

 


「ありがとうお兄さん。愛してる」


 そう笑顔で俺を見つめるアリサ。

 その時、俺の視界にあるアリサの印が緑色(・・)となった。つまり味方の印(・・・・)

 それを見た秋人は一ヶ月程前の自分の想いを思い出していた。「これから先、何があろうと俺があいつの事を仲間だと思う事はない」と想っていたあの時。

 でも、お前はずっと俺の事を……。

 あぁ、認めよう。

 お前は俺の仲間(・・・・)だ、アリサ。


(だから……死んでくれ)


 そして秋人は手に持つ剣を振るう。

 首が落ち足元へと転がってくる。

 首だけになっても俺を見つめるアリサ。

 あー、本当、壊れてるな、俺。

 こんな馬鹿みたいな俺を好きになってくれたやつを殺すなんて。

 脳裏に浮かぶのは最後に見せたあの笑顔(・・)

 それと涙。

 ()ではなく俺との別れ(・・)恐れて泣いた少女(・・・・・・・・)

 それなのに俺は……。

 何も感じない(・・・・・・)

「あー、死んだんだな」それ位の気持ちしか出てこない。

 それは玩具が壊れた程度の認識。

 死んだから何?

 ただ、それだけしか思わない。

 悲しみも、悲壮感も何も湧き出てこない。

 一ヶ月間も一緒に居たのに……。

 自分がおかしい事は分かっている。

 それでも一緒にいた奴が死んだのに何も感じないのは異常だと思う。

 いや、死んだのではなく、殺した(・・・)のだ。

 この手で。


『なぁ、今の状態って【状態異常完全無効】と関係ある?』

『……ありません。今思っていることがマスター自身の気持ちです』

『そうか……』


 今思っている感情が俺の気持ちか……。

 本当ぶっ壊れてんなぁ俺。

 人を殺すのは初めてではないけど、俺の為に泣く奴を殺すのは初めてだな。

 俺の本質を知って、それでも俺と一緒にいたいと願った少女、アリサ。

 それを拒み殺した。

 俺は……。


(はぁー、やめやめ。こんな辛気臭くなってもしょうがない。予定通り〈深淵の森〉に向かいますか。まぁ、その前にこれを片付けないと殺した意味が無くなるな)


 そう辺りには死体が6体、馬2頭、馬車が1つ。これだけの惨状を残すと後々面倒くさくなる。なら、今片付けたほうが楽だ。

 それに俺には【アイテムボックス】があるから後始末は簡単。

 そして秋人はここら一帯にある物を【アイテムボックス】に入れた。

 まぁ、地面に残る血の跡などはどうしようもないが……。

 そして秋人は来た道に向かい頭を下げた。

 それは村長から任されていたベート、ゼン、ミリアナを殺してしまったことへの謝罪。

 まぁ、秋人なりのけじめだ。

 アリサは、まぁ、その、なんだ。知らないから頭を下げようがない!

 そして秋人は〈深淵の森〉へと向かうのであった。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 クルス視点


 クルスは突然感じた気配の方に顔を向けた。


「……」


 何かよからぬ事が起きた予感。

 ”世界が変わる”そう思う。

 でも、それが何かは分からない。

 クルスが呆然としているのを不思議そうに見つめるシーナ。


「どうしたの?」

「……分からない。でも、今何か……。ううん、多分気のせいだと思う」

「そう? ならいいけど」

「こら! 話をしっかり聞きなさい!」


 そう怒鳴り散らすように声を出すのはシーナの姉、ミーナ。


「まぁ、まぁ、落ち着いて」


 そうミーナを諭すのはクルス達の上司の一人ガンド。

 だが、それに対してミーナの怒りが爆発した。


「ガンドさん! そんな事言われてもジンバさんが!」


 ジンバそれもクルス達の上司の一人。


「うん、それは分かるけどな少し落ち着こうか」

「そうそう。そんな怒らない」

「誰のせいですか! 何故アキト君の監視をしてないのですか!」

「いや~、そんな事言われても見失ちゃって……」

「何が『見失ちゃって』ですか! そもそも追ってさえいないじゃないですか!」

「な、なぜ、それを知って……」


 その言葉で完全にキレるミーナ。


「何故知っているかって」

「あ、あのご容赦を……」

「問答無用!」


 そしてジンバをボコボコにするミーナ。

 それを見てクルスは当然の疑問が浮かぶ。


「仮にも上司にあんな事していいの?」

「う、う~ん、まぁ、私達の仲だしね。それに今回はジンバさんが悪いからね」

「なるほど」


 今クルス達が何をしているかと言えば先日起きた誘拐者達の素性等の報告だ。あと一応、形だけとは言え組織に入ることになったクルスの事を上司達に伝えるのも含まれている。

 まだ完全に把握してはいないが、現場で何が起こったかなどの出来事を報告していたのだ。

 そう、していたのだ。先程まで……。こちらの説明が終わってジンバさんの報告を受けるまでは。

「いや~、思ったよりアキトと言う人間凄くてさ逃げられちゃった! テヘ」と言ってくるまで……。それを聞いた瞬間場の空気が凍った。一応この場には組織の上層部がいるのだが……。まぁ。ジンバもその一人なのだが……。


(大丈夫かなこの組織……)


 と、クルスが心配するほどだ。

 そしてアキトの話をしている二人を見ていると心がざわつく。

 それは今まで感じたことのない感情。

 何故こんなに心がざわつくのかは分からない。


(でも、さっき感じた気配……。それにあの感じ……。まさか、ね……)


 そして思考を切り替えるように頭を振る。


「と言うか、ジンバさんってアキトの事を監視する予定だったんですか?」

「ん? あぁ、あいつは危険って事でな。それにお前も分かっているんだろ?」

「……えぇ、まぁ」

「知っていることがあるなら教えてくれ」


 知っていること。

 自分が知っているといえば、神に関係ある者(・・・・・・・)と言うこと位しか知らない。

 でも、この情報を伝えていいものか……。

 そんなクルスの迷いが伝わったのだろう。


「まぁ、喋りたくないなら言わなくていいけど」

「そんなことより、私が納得できる説明をお願いします!」

「い、いや、だからね、その面倒くさくて……」

「本当に怒りますよ?」

「もう、怒っているじゃなかいか」


 まぁ、その後の事は想像にお任せします。

 その時クルスの頭に謎の声が聞こえてきた。


『けい*く。も$%&@う#*だす。速やか*#$%#…@*…&……%…………』


 それ以降の言葉は聞き取れなかった。


(今のは神!? 分からない。でも、よからぬことが起きようとしている。最初の言葉は「警告」、次は「も~」。どいう意味? 一体この世界に何が起きようとしているの?)


 その意味を知るのは、まだ先の話であった。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 遥香視点


 今までの経緯をザックリ言うとこんな感じだ。


 1、異世界に転移する。

 2、冒険者になる。その時に名前を”ハル”に変えた。

 3、レベルや技術上げをする。

 4、依頼で一緒になった冒険者と仲間になる。


 とまぁ、こんな感じだ。これを僅か一ヶ月未満で成し遂げているのだ。それは遥香の卓越した頭脳で最適で最速の選択をし続けたためだ。

 そして今は冒険者として活動しながら秋人のことを一応詮索中だ。一応と言うのは秋人はこの大陸にいない可能性が高いからだ。

 ピクシーの情報によれば秋人は世界で一番大きな大陸〈ユーヴァリア大陸〉の〈エルスラーン王国〉か〈神聖王国〉のどちらかに召喚されたと言っていた。だが、今ハルがいる大陸は〈ブリリアント大陸〉の〈ドミニカ連邦〉の一つ〈メントム国〉の南方地域にいる。説明終了


 そしてハルは今一人で依頼の帰り道を歩いている。

 何故一人かと言えば、本当は今日は休養日だったのだ。だが、ハルは一刻も早く秋人を探しに行きたいがために一人で訓練をしている。そのために少し難易度の高い依頼を受けている。

 依頼は洞窟に住み着いたオーガの討伐と言うものだ。

 まぁ、依頼は終わって帰るところなのだが。そのため装備は所々破損していてメンテナンスが必要だった。

 いくらピクシーから貰ったチートがあっても、オーガ相手にはかなり厳しかった。

 スキルの使い方や基礎的なレベル、技術、経験、何もかもが足りない。

 私はアキくんのために早く強くなりたい。

 その意志は、ある可能性を生み出すのだった。

 そんな時、普段喋らないピクシーが声を上げた。


『!? これは……』


 そのあまりの切迫した様子にハルも声をかけざるおえなかった。


『どうしたの?』

『……いえ、なんでもありません』

『そう? ならいいけど』


 ピクシーがそう言うなら問題ないと思い直しハルは街へと急ぐのだった。




(……何故、今動き出した〈殺戮の神〉”モーギス”。奴が動き出しと言う事は……。お姉様どうかご無事で)



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ????視点


 ある場所のある所に複数の人影があった。

 所々に蝋燭が立てられているが部屋は暗く、ジメジメと湿っていた。

 その中央に円卓があり、それを囲むように座る人影。


「それはどいう事ですか巫女様!」


 その一人が立ち上がり大声出して、巫女と呼ばれた一つの影に詰め寄る。


「先程申し上げた通りでございます」


 その声は美しく、妖精の歌声のように綺麗な音色。

 だが、姿は見えず、そこにいると認識することしかできない。

 此処はそいう場所だ。


「では一体これからどうするおつもりで?」

「今は時期ではありません」

「と言う事は、何もせず待てと仰るのですか?」

「えぇ」

「ですが!」


 その声に被せるように口を開く者がいた。


「まぁ、まぁ、落ち着いてくだい。すべては巫女様のお望みのままに行動するのが我らの務め」

「ですが……」

「巫女様が時期ではないと言うのであれば我らは、ただ、待つだけのこと」

「……」


 その言葉に先程まで声を上げていた人影はおとなしく、先程まで自分がいた位置へと戻り席に座る。

 そう此処にいる者は全て巫女と呼ばれる者のために存在している。だから、巫女の命令は絶対であり、それ以外は無に等しいかった。

 そして巫女は他に何かを言う者はいないかと顔を巡らせる。誰も何も発しないのを見て巫女は口を開く。


「……では、皆様そいうことで、よろしくお願いします」


 そして人影は闇に消えるのだった。

 そこに残るのは先程まで巫女と呼ばれた者のみ。

 巫女は不気味に口元を歪め言葉を発する。


「ふふふ、さぁ、どう動きますか”神殺し”さん? 」


 その後には美しい歌声が響くのだった。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ????視点


 そして、またある場所でも、話し合う者達がいた。


「あ、あぁ! なんという事でしょう! ついに、ついに、ついに! 我らの(あるじ)様が来られた!」


 狂気の沙汰で声を上げるのは美しい少女。

 髪は短く黒色、瞳も黒い。それはどこか日本人に似ているものがあった。

 逆に肌は白く、すべすべで美しい肌をしていた。

 胸はそこそこあり、スタイルはかなり良かった。


「それはなんと!」

「うれしいことですな巫女様」


 そして、その少女もまた巫女と呼ばれていた。


「では、その者をここに招待しましょう!」


 その言葉に賛同する者が多数いたが巫女が遮る。


「いや、まだ時期ではない。主様はまだ、完全体(・・・)ではない。待つのだ。主様が完全体になり、我らを導いてくれる時まで!」


「完全体」それが示すは何かは分からない。だが、少女にとっては大事な事であった。


「「「「「御意」」」」」


 それを興味無さげに横目で見る少女。

 少女にとって主と呼ばれる者以外興味がなかった。

 自分の手下だろうがどうでもよかった。


「我は少し一人になりたい」

「では、自分たちはこれで」


 そして少女の前から消えていく者達。

 誰もいなくなったのを確認した少女は不気味な笑い声を上げる。


「フフフッ、ハハハハハハハッ! ついに、ついに来られた! 私の主様が!」


 先程までの興味無さげだった少女の顔は、まるで恋する乙女のように頬を赤くし、あまりの興奮さに自慰してしまう。


「主様、主様、主様、主様、主様、主様、主様、主様、主様、主様、主様、主様、主様、主様、主様、主様、主様、主様、主様、主様、主様、主様、主様、主様、主様、主様、主様…………」


 その声は途切れることはなく響き続けた。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ????視点


 白く、ただ真白い空間。

 そこに佇む大きな人影。


「今度のは本物か?」

「えぇ、観測された限り」

「そうか。ついに現れたか……」

「ですが、まだ確証はありません。観測されたものの、まだ微弱の力でしかありませんでした。ですから今回も……」


 それに被せるように大きな影が口を開く。


「いや、それは無いだろう。他の者も動き出しているんじゃ。少なくとも彼奴等が動いているという事はそいう事なんじゃろ」

「……そうですね」


 そして目を瞑る影。

 そう、もう動き出している者がいる以上偽物だろうと本物だろうとどうでもいいのだ。

 もう世界が動き始めてしまったのだ。

 もう誰にも止められないほどに。

 そしてしばらく経ち人影は口を開く。


「今は他の彼奴等に任せるとしよう」

「そのことなんですが……」

「どうした?」

「モーギス様が動きだしました」


 その答えにはさすがに大きな人影も困惑してしまった。

 モーギス、それはある特定の者を探し求め続けている()。そのため他の事には全く興味を示さない事で有名だ。

 そのモーギスが動いているということは……。

 まさか彼女が……。

 だがありえない。

 その意味も含め影は問う。


「……あのモーギスの奴がか?」

「えぇ」


 その意味を正確に捉えて答える影。


「……そうか」


 そしてまたもや目を瞑る影。

 彼女が復活しているとなれば、本当の意味で世界が消える。

 だが、彼女の事だ、そこまでの事はしないだろう。

 でも、楽観視はできない。

 彼女がいることで世界にどんな影響を及ぼすか……。

 考えても答えは出ない。

 なら、流れに任せるのも、また一興だろう。


「……今は待つとしよう」

「分かりました」


 そして静かに目を瞑り諦観する人影。




 それを盗み聞きしている二人組がいた。まぁ、バレてはいるが。


「なるほど、あのジジィ共は動かないのか!」

「で、どうするの?」

「そんなの決まっているじゃない! あんな面白そうなのをモーギスなんかに取られてたまるもんですか!」

「それじゃあ!」

「あぁ、行くぞ〈人間界〉!」


 そして次の瞬間には消え去るのだった。



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 モーギスと呼ばれる者は笑っていた。


「ウハハハハッ! ついに、ついに見つけたぞ名も無き最古の神(・・・・・・・・)よ!」


 そうモーギスは長年探し求めていた者を見つけ興奮していたのだ。

 まぁ、見つけたと言っても正確な場所は分からないが。それでも手掛り一つ無かった今までよりは断然探しやすい。


「今、今行くぞ! そして必ず殺して(・・・)やる。ウハハハハハハッ!」


 そしてモーギスと呼ばれる者は高笑いを上げながら消えていくのだった。



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 秋人視点? 第三者視点? 作者視点?


 世界は少しづつ動き出していた。

 だが、秋人がそのことを知るのはまだ先のこと。

 今はただ、目の前のことに集中するだけ。

 そう目の前に広がる暗き森、名を〈深淵の森〉。

 一度入れば二度と戻ってくることはできないと言われる超危険区域。危険度SSランク。

 そして今秋人はその森へと足を踏み出すのだった。



第2章を少し書き留めておきたいので、しばらくの間休載したいと思います。

何卒、これからもよろしくお願いします。

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