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神殺しの英雄譚  作者: 漆原 黒野
第1章 旅立ち編
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第22話 旅立ち

 


 翌朝事件が起きた。


「な、なんでお兄さんが私の横で寝ているの!」


 アリサは目が覚めるなり今の状況、秋人と同じ布団で寝ていた事に気付き悲鳴を上げていた。


「なんでって、そりゃ布団が一枚しかなかったし。それにお前何も言ってこなかったから」

「っ! で、でも確認くらいするものじゃない!? 仮にも男と女だよ!?」


(ウン、ダヨネー。俺も昨日思った)


 だが、今の秋人には、アリサが反論する余地無き理由があった。


「だって昨日のお前、俺に逆らえない(・・・・・・・)だろ?」

「っ!」


 アリサは肩を震わせ怯えた目で秋人を見つめる。

 アリサの目を覗き込みニヤリといやらしく口元を歪める。


「そう、その怯えた目が良いんだよ」


 それは悪魔の笑みのように残虐で、非道な、穢わらしく、濁った眼で隅々まで見られている。そう感じた。

 嫌悪感を抱いても、すぐかき消される。恐怖と言う名に。

 しばらく、お互い何もしゃべらず無言の時間が流れて行った。

 そんな空気を壊すように秋人はいつものおちゃらけた感じで言うのだった。


「さ、もう朝だし、飯でも食いに行こうぜ?」


 それは昨日と同じような風景。でもそれに逆らう事のできないアリサであった。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 秋人達は朝食を食べるために一階へと降りてきた。


「あ、起きましたか。今起こしに行こうと思っていたところです。朝食の準備ができています」


 そこにはピンク色のエプロンを着けた姿のミリアナ。

 そしてエプロンからはみ出さんばかりに協調された胸!


(素晴らし! だが、エプロンと言えば、裸エプロンだろ!)


 ミリアナの裸エプロン姿を想像する秋人。

 そんな妄想に耽っている秋人を白けた目で見るアリサだが、次にはその元凶ミリアナを睨めつける。その目に映るのはやはり大きな胸。そして自分の身体を見下ろして絶望感に打ち拉がれるアリサ。

 世界はなんて残酷なのだろうと思うアリサであった。


 テーブルにはパン、シチュー、サラダ、水が用意されていた。


(確か王城でも同じ品だったな。まぁ、でも質は数段落ちるだろうけど)


 秋人達は席に座り食べ始めるのだった。


(んっ、これは! 確かに王城で食べた物より数段落ちるがそれでもかなり美味しい!)


「へぇ~、ミリアナさんって料理が得意なんですね。美味しいですよ」


 顔を赤くしてモジモジし始めるミリアナ。


「あ、ありがとうございます。アキト様にそう言ってもらえてうれしいです」


 それを見てアリサは小声で言うのであった。


「……私だってやればできるもん」


 隣でブツブツ何かを言っているが秋人は気にしないでミリアナに話しかける。


「それで食事が終わったら村長のところまで案内してほしいのですが……」

「えぇ、もちろん案内させてもらいます」


 それを見てさらに不機嫌になるアリサ。

 だが、秋人はそんな事をお構いなしにミリアナとの会話を続ける。


「アキト様はやはり今日この村を出て行くおつもりで?」

「えぇ、そのつもりです」

「そうですか」


 そして思考を巡らせるミリアナ。


(うん、これは予想通りに進みそうだ)


 秋人はニヤリと笑みを浮かべるのだった。




 いくばくか時間が過ぎ去り、滞りなく食事を終えた秋人達はミリアナに村長の所まで案内してもらった。

 村長は荷物の整理していたが秋人達に気付いた村長は腰を低くして挨拶をしてくる。


「お、これはアキト殿にアイサ殿、おはようございます。昨日の件のお礼はすでに用意できています」

「そうですか。ありがとうございます」

「いえいえ、アキト殿はこの村を救ってくれました。僅かばかりで申し訳ないのですか、どうか受け取ってください」

「えぇ、ありがたく貰いましょう。それでベートさん達は?」

「あぁ、それでしたら、今馬車の用意と荷造りをしています」

「そうですか」

「あのアキト殿」


 村長は改まった顔をで秋人に言う。


「ベートとゼンの事どうかよろしくお願いします」


 秋人は数舜目を見開いたが、村長の真剣さが伝わってきたため、秋人も真剣に言葉を返すのだった。


「えぇ、任せてください」


 村長は秋人の目を見て安心したのか肩の力を抜いて、年相応に顔をほころばせるのだった。


「お願いしますぞ」


 そんな時後ろから秋人の名を呼ぶ声が聞こえた。


「お! いたいた! アキト馬車の用意できたぞ!」

「そうか。では自分はこれで失礼します」


 そう言って秋人達はベートと共に歩いて行った。

 それを見送った村長とミリアナはお互いに見つめあう。


「本当に行くのかミリアナ?」

「……うん、行くよお父さん(・・・・)

「そうか気を付けるんじゃぞ」


 そして颯爽と歩き出す村長であった。


「ありがとうお父さん」




 村長からお礼のお金や食料を貰い馬車に乗り込んだ。

 ゼンは御者席に座り、荷台に秋人、アリサ、ベートが乗る。


「まさかゼンとベートまで行くとはな」


(ん? 「まで」?)


 村長の言葉に引っかかるものがあったが秋人は口を挟まなかった。

 まぁ、一応今世の別れかもしれないからな。


「あぁ、悪いな。俺もこいつと冒険をしたくなっちまったんだ」

「まぁ、こんな年だけどな」

「ハハハハ、まぁ、気を付けるんじゃぞ」

「あぁ、世話になったな」


 そして三人の立ち話も終わりそろそろ出ようとした時、アリサが裾を引っ張ってきた。


「なんだ?」

「……ねぇ、行くのやめない?」


 そのアリサの言葉に困惑する秋人。


「それってこの村から出るのをやめようって事?」

「……うん」

「……さすがにそれはできないよ。てか、なんで急にそんな事を言い出すの?」

「……分からない。でも、この先へと進んじゃダメって予感(・・)するの!」

「そんな事言われてもな……」

「お願い行くのやめよう?」


 アリサはそれはもう必死に、懇願するように言ってきた。

 多分アリサの予感(・・)は当たっているだろう。

 だって俺もそう思うから。

 この先に進んではダメだと。

 でも、それは無理な話だ。

 俺はこの先どうなろうと前へ進まなければいけない。

 そう予感(・・)するから。


「……悪いけどそれはできないよ」


 秋人の言葉で暗い表情になるアリサ。


「……そっか。うん、そうだよね! ごめん変な事言って。多分昨日のアレの所為だと思う。気にしないで!」


 アリサは無理に明るく元気に振る舞うのだった。


 だが、この時の選択がすべてを決定づける事となるのだった。

 そして少しづつだが確実に世界の歯車(・・・・・)が動きだす。

 それは偶然か必然か、はたまた運命なのか、それは誰にもわからない。

 ただ、言えることは、この先に待つ未来(・・・・・・)すべてを変える(・・・・・・・)という事だけ。




 そろそろ出ようとした時に、誰かがこちらに走ってくるのが見えた。


「お、来た来た」

「誰が来たんですか?」


 ベートは不思議そうに首を傾げる。


「ん? まさかお前聞いてないのか?」

「何をですか?」

「ミリアナが来るって事をだよ」

「え? 聞いてませんよ!?」

「あいつ……」


(うん、聞いてはいない。でも予想はしていたけどな!)


 秋人とベートが話している間にミリアナがすぐそこまで来ていた。


「アキト様お待たせいたしました。よろしくお願いします」


 そう言って腰を曲げるミリアナ。


「おい、ミリアナお前アキトに話していないのか!?」

「えぇ、驚かせようと思いまして」

「お前な、それは迷惑だろ」


 ベートの横から顔を出してくるアリサ。


「まぁ、良いんじゃないですか。というかミリアナさんが来ることなんて最初から分かっていたことじゃないですか」


 その言葉にミリアナはこち元をピクリと動かしアリサのことを見つめる。


「これからよろしくお願いしますね、アリサ様ニコッ」

「えぇ、こちらこそニコッ」


 二人の顔は笑っているが目が笑っていない。

 そこにははかりしれない迫力があり、たまらず後ろへ下がるベートと村長。

 それは決して男が触れていいものではなかった。


(うわっ、こわっ! でもこれだよ! これ! 俺を取り合ってる感じのこの空気! 怖いけど良い! これぞ異世界ハーレム! 怖いけど……)


『いつか刺されますね』


 というナビのツッコミが入るのであった。


「まぁ、この話は終わりにして、ミリアナ(・・・・)早く乗って馬車を出すからさ」


 秋人に呼び捨てで呼ばれたミリアナは顔を赤くして、いそいそと馬車に乗り込むのだった。

 その様子を無言で見つめるアリサ。


「それじゃゼンさん馬車を出してください」

「分かった!」

「では村のみなさん俺達はこれで」

「あぁ、気を付けて行くんじゃぞ! ミリアナもアキト殿に迷惑をかけるんじゃないぞ」

「分かってるよお父さん」

「「お父さん!?」」


 秋人とアリサは同時に声をあげていた。


「あ、言ってませんでしたか? 私村長の娘です」

「……聞いてません。お兄さん知ってた?」

「……いや。でも、確かに一村人にしては礼儀正しいと思っていましたが、なるほど村長の娘と言うことなら納得行きますね」

「……うん、確かに」


 そして秋人は気付いてはいけないものに気付いてしまった。

 それは世界の半分を敵に回すもの。

 それは秋人をしても対抗できない絶対禁忌。

 だが、秋人はその禁忌を破り言葉にしてしまった。


「ん? でも、あの村長ってどう見ても50歳以上だったよな? つまりミリアナさんの年齢って……」


 その時吹雪が吹いた。

 すべてを凍らせるほどの絶対的な力。

 秋人は今、目覚ましてはいけないものを目覚ましてしまった。

 圧倒的なまでの存在感。

 秋人はその存在に恐怖するしかなかった。


「ねぇ、アキト様。女性の年齢を詮索するのはあまり褒められませんよ?」


 顔は笑っているのに目が笑っていない。

 秋人は犯してしまったのだ「女性の年齢を詮索する」と言う名の禁忌を。

 そして秋人達の心情を無視するかのように馬車はゆっくりと走りだすのだった。




 秋人達が進む道のずっと先に二つの影があった。


「準備はできたか?」

「はい」

「それじゃ仕掛けるぞ」

「了解」


 秋人の運命が変わる瞬間がすぐそこに迫っていた。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 馬車の中は異様な緊張感に包まれていた。

 それは先程のミリアナの年齢とは関係ないもの。

 原因はアリサとミリアナだ。ちなみに秋人の右にアリサ、左にミリアナ、正面にベートだ。

 事の発端は、ミリアナが秋人に絡み続けるのをアリサが注意した時に起こった。


「ミリアナさん少し馴れ馴れしいいんじゃないですか?」


 と。これに対してミリアナはこう返す。


「別にアリサ様には関係のないことだと思いますけど?」


 ミリアナの少し喧嘩腰の発言にアリサは青筋を立てて返す。


「お兄さんが迷惑しているじゃない」

「何故アリサ様がそういうのですか? アキト様は別に迷惑だなんて思っていませんよ」

「そんなの分からないじゃない」


 そして二人の視線が秋人へと注がれる。


(あ~、これが修羅場的なやつか。そもそも俺を巻き込むな。というか怖い。でもそれが良い!)


 で、今話が止まっている状態であった。

 この緊張感でベートもゼンも言葉を発しない。


「で、どうなのお兄さん?」

「迷惑じゃないですよね?」


 背中に嫌な汗が伝う。


『これ答えないとマズいやつだよね?』

『えぇ、女の執着をなめない方がいいですよ。それとマスター』

『なんだ?』

『この先5km程行ったところで例の監視者達が待ち構えています』

『……へぇ~、ついに来たか。あとさお前そいうことはもう少し早めに伝えろよ』

『以後気を付けます』


 心の中でナビと会話をしている秋人だが、それ以外の人には聞こえない会話。つまり何が言いたいかと言うと、アリサとミリアナの問いかけに答えないで黙り込んで考えているように見えるわけだ。

 それは傍から見ればどちらを選べばいいか分からず迷っている、俗に言うヘタレ(・・・)と言うものだった。


「……ねぇ、答えてよ。お兄さんはどっちを選ぶの?」

「……そうですよアキト様」


 そして火花を散らす二人。


(って! 話変わってるし!)


「あ、あのさ、もっと穏便に……」

「ねぇ、どっち!」

「答えてください!」


 そして顔を寄せて来る二人。美少女の二人がすぐ近くに顔を寄せているのは役得なのだが、何故か喜べない秋人であった。


「え、えーっと……」


 秋人の答えをじっと待つ二人。


『……なぁ、ハーレムって難しいな」

『そもそもハーレムというのは、囲まれる女性達もお互いを認め合って始めて成り立つのものです。それを女がいっぱいいれば良い的な感じで解釈しているマスターの責任です。頑張ってください』

『な!? お前俺を見捨てるのか!?』

『見捨てます』

『……そんなすぐ返さないでよ』


 そしてまたも答えを後回しにするだんまりをきめこむ秋人に対して、我慢の限界を超えたのか女性二人は秋人を責め立てるように言葉を発した。


「お兄さん」

「アキト様」


 底冷えするような声を発する二人に怯える秋人。


「は、はい。何でしょう?」

「こいうのはハッキリさせないとダメだよ」

「そうですよ。二人同時なんて甘い考えはありませんからね?」


 ミリアナの言葉に先程のナビの言葉がよみがえる「女性達もお互いを認め合って成り立つのものです」。


(なるほど確かにそうだな。ここは何とか誤魔化すしかない!)


「あ、あのさ、話変わってない?」


 そんな秋人の言葉を無視するかのように無言で詰め寄って来る二人。


「……」

「……」


(うわ~! 修羅場って怖い! でも、面白い! さて、なんて答えたものか……)


 そしてまた絶妙なタイミングで()が襲って来るのだった。

 遠くから魔法で馬を狙い撃つ敵。

 馬がやられる事で急に馬車が止まりバランスを崩す秋人達。

 その際に秋人はアリサの膝の上に顔をぶつける。それは女の柔らかさ。成熟してはいないがそれでもアリサは一人の女。その女らしい柔らかさに声を上げる秋人。

 だが、それもすぐにかき消された。

 そう左の腕からは柔らかくて大きな膨らみに包まれている感触を感じて!

 これがラッキースケベ。なんと幸せなことか!


『柔らかい! って、いやいや。オッホン、襲って来たな』

『えぇ、敵は二人。相当強いです』

『だろうな。俺の監視や追跡をする位だ。それ相応の力がないと務まらないよ。さて、どうしたものか……』


 秋人は最悪【滅殺魔法】と【無敵】を使う事を考慮に入れて思考を巡らせるのだった。



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