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神殺しの英雄譚  作者: 漆原 黒野
第1章 旅立ち編
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第21話 新しい仲間

 


 秋人達は手足が無くなった人達をおぶって村まで戻ってきた。もちろん、そのままの状態ではなくアリサの【水魔法】である程度身体を洗い【回復魔法】で応急手当程度には回復させてからだ。

 戻ってきた秋人達は、おぶってきた人達を安静にできる場所に運び、村長の家にて今回のあらましの原因を話すのだった。


「ゴブリンジェネラルが……。そうでしたか。ミリアナ達を助けてもらい、本当にありがとうございました」


 そう言って村長は頭を下げる。その横にいるミリアナ、ベート、ゼンも村長に続くように頭を下げ始めた。


(って! 女の名前村長から聞いちゃったよ! どうしよう!?)


 そんな秋人の心情を知ってか、知らずか(知らないんだろうな)アリサが村長に話かける。


「いえ、別にそこまで言われるような事……」

「そんなことはありませんぞ! 貴方達がいなければこの村が滅んでいたかもしれないのです! こんな事をしてくださったのになんのお礼もできないとは……。ですがほんの僅かばかりの金と食料は用意できます」

「そんなのもらえませんよ」

「いえ、これは村を救ってもらったお礼なのです。どうか受け取ってくださいませ」

「……」


 黙り込むアリサに代わり秋人が答える。


「いいじゃん。もらえる物はもらっとこうぜ、な?」

「でも……」

「アキト殿の言う通り。ここはどうか」

「……分かりました。ありがたくもらいましょう」

「では、今しばらくお待ちください。すぐに用意させますので」


 そう言って村長が家を出ようとした時、思いだしたかのように秋人達に振り返り声をかけてくる。


「あ、そういえば夕食はどうしますか? それとも水浴びをしますか?」

「あ~、そうですね今日はいいです。もう眠いですし、戻る時に【水魔法】で身体を洗ってきましたから。ご飯は明日いっぱい食べますから、今日はもう寝ます」

「そうですか。ではお礼の方も明日渡すことにしましょう」


 そう言って今度こそ家から出て行く村長。

 それを確認したミリアナは秋人の前に座り沈痛な面持ちで口を開く。


「アキト様、今回は本当にありがとうございました」

「いえ、自分は当然の事をしたまでですよ」


 ミリアナの目を見てイケメン風に答える秋人。

 それを隣で見ているアリサは「ムッ」とした表情で秋人の足を蹴りつける。


「っ!」

「? どうかされましたか?」

「い、いえ、なんでも、ありません」


 そんな三人の様子を傍から見ているベートとゼンは笑いをこらえるように背を向け腹を抑えチラチラとこちらを見てくる。

 秋人はアリサの耳に顔を寄せ小声で話しかける。


「なにすんだよ! いてじゃねぇか!」

「…………知らない。フンッ」


 そして、そっぽを向くアリサ。

 それを見てまたしても腹を抱えるベートとゼン。


(あぁ、これが女の嫉妬ってやつか……。こえぇ~)


「あの、そ、それでアキト様はこの後どうするのですか?」

「う~ん、そうですね……。すぐにでもこの村を出ようと思っていますけど」

「……そうですか」


 ミリアナは肩を落とし暗い声で答える。


(ん? これってもしかして仲間勧誘イベント? マジか!? そうとなれば答えも慎重に選ばねばならないな! ここは遠回しに誘うか? それとも直球? いやいや、ここは相手から来るのを待つべきだろ!)


「まぁ、でも今日はいろいろあって疲れてますからね。今日はこの村に泊めてもらって明日、出るつもりです」

「そうですか。私も微力ながら旅の準備をお手伝いしましょう」

「ありがとうございます」


(うん、これでいい。ミリアナは明日一緒に来たいと言いに来るはずだ。多分……。まぁ、来なかったら来なかったって事で)


「それでは私はアキト様等の寝所を用意してまいります」

「ありがとうございます」


 そして二階へ上がって行くミリアナ。

 それを見送ったベートとゼンは秋人の向かいに座り真剣な表情で口を開く。


「それでアキト」

「うん? 何ですか?」

「その、言いにくいんだが……。俺達をお前の旅に連れていってくれねぇか!」

「………………………………え?」


(ええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!)


 あまりの驚きで椅子から転げ落ちる秋人。


「だ、大丈夫か」

「え、えぇ、大丈夫です……」


(マ、マジか!? 勧誘イベントってそっちか! 女じゃなく男か! それどんなクソゲーだよ! 俺は男に興味ねぇっての! ここは恋する乙女が仲間になってイチャイチャして、それに嫉妬するアリサだろうが! 何間違えてホモゲーに走ってんだ!)


『ふふ、ふ、ま、まぁ、良い、じゃない、ですか。ぷ、せっかく仲間に、なって、くれるん、ですから。ふふふうう』

『てめぇ、笑ってんじゃねぇ!』


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

「本当に大丈夫か?」

「大丈夫です!」


『クソッ、俺の異世界ありがちなハーレムが……』

『そもそもハーレムとはモテる人ができる事です。マスターには不可能です』

『お、お前不可能とまで言うか!』

『えぇ、性格ねじれてますし、特別顔が良いわけでもない。金も権力もない。ほら、これのどこにモテる要素がありますか?』

『……お前さ、仮にも主人だぞ? なのにその扱い酷くない?』

『何度も言いますが、慕って欲しいならそれ相応の貫禄をみしてください』

『……』


 ナビの言葉に心折られる秋人。


「おーい、しっかりしろ」

「あ、すいません。ボーっとしてました」

「まったく、しっかりしろよな」


 ベートの言葉に苦笑いをする秋人。


「それで、どうなんだ? 俺達を仲間にしてくれるのか?」

「……なんで俺の仲間になりたいんですか?」

「なんでって、それはお前と旅がしたいと思ったからに決まってるじゃねぇか」

「……そうですか」


『だからそっちの趣味はねぇっての! 男に好かれても気持ち悪いだけだろ!』

『いいじゃないですか。戦力が増えるのですから』

『……まぁ、そうだけどよ……。どうせなら女がよかった』

『誰であろうと興味が無いくせに』

『……うるせぇ。表のキャラとしては好きなんだよ』

『面倒な事をしますね』

『俺の勝手だろ』

『えぇ、そうですね。お好きにしてください』


「でも、会ったばっかりで信用できるかどうか」

「そんなのこれから築けば良いんだよ」

「……そうですね」


 ベートの言葉に顔を青くする秋人。

 そんな秋人を見ているアリサは「しょうがないな」とでも言うように助け舟を出す。


「あの一応言っておきますが私とお兄さんはクルス村で分かれる事になっていますけど。それでも一緒に旅をしますか?」

「! そうか、分かれるのか……」


 そして考え込むベートとゼン。


「……とりあえずクルス村まで一緒に行って、そこでまた考えるってのはダメか?」

「ん~、どうするお兄さん?」

「そうだな。一応言っておきますけど、危険ですからね? 最悪死ぬかもしれませんよ?」

「構わない」

「あぁ、俺も大丈夫だ」


 その返答に秋人はこう答える。


「まぁ、それならいいかな」


 と。それを聞いたベートとゼンはお互いを抱き合った。


(……キモイ。やっぱりやめようかな。ホモなんていらない)


「よし! 早速旅の準備をするか!」

「あぁ!」


 そして家から出て行くベートとゼンであった。


「はぁー、ミスったかな?」

「大丈夫だと思うよ」


 そしてニコッと笑うアリサ。

 次の瞬間には表情は消え、何も映すことのない空っぽの瞳になる。

 そして()が語りかけてくる。


「ねぇ、アキト(・・・)貴方は……」


 そしてテンプレ展開。


「寝所の用意ができました」


 二階から降りてきたミリアナがアリサの言葉を遮って声をかけてくる。


『そう、こんな感じだよ! これからアリサの何かを知れそうなのに、それを邪魔して入ってくるこの感じ! これこそまさにテンプレ! 分かったかナビ』

『そこまで言うほどのようなものではありません。それに私何度か経験してますから』

『あ~、そうだったな。ドンマイ』

『……』


 ナビとの会話は一旦終了して、秋人は椅子から立ち上がり腰を曲げてお礼を言う。


「ありがとうございます。ミリアナ(・・・・)さん」

「!? え、わ、私の名前?」


 ミリアナはオロオロと手をばたつかせて顔を赤くしていた。そんなミリアナを見て秋人は笑いを堪えるようにして言葉を続ける。


「えぇ、貴方の口から聞こうと思っていましたが、耳に何度か入ってきたので……」


 秋人の顔に気付いたミリアナは顔を赤くしたまま、顔を上げ秋人の目を見つめる。


「……そ、そうですか」

「それじゃ自分はこれで」


 そう言って秋人とアリサは立ち上がり二階へと向かう。


「え、えぇ、おやすみなさい」

「おやすみなさい」


 アリサは何も言わず、ただ無言で秋人に付いて行くだけ。


『本当に怖いなぁ~。俺大丈夫かな?』

『さぁ、どうでしょうね。ですが、何かしてくるとは思います。気を付けてくださいね?』

『あぁ、分かってる』


 そして階段を上がって行く秋人とアリサであった。

 それを無言で見つめるミリアナ。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 そして二階に上がった秋人達はどの部屋に入ればいいか聞いてないのを思い出し、一旦戻ってミリアナに聞こうとしたが、一つの扉に「アキト様・アリサ様」という看板? が掛けられていたためその部屋に入る事にした。


『アリサと同じ部屋にいる俺。普通さ男子と女子別にしない? するよね? あ~怖い。俺刺されないかな? 大丈夫だよね?』


 秋人達が部屋に入ってみればそこには一枚の布団に二つの枕。これはどう見ても男女のアレに見える。

 そして扉の前で固まる二人。


『そうだとしても人の家でヤルわけねぇだろ!』

『マスター慌てすぎです。まぁ、寝首をかかれると思うのでお気を付けて』

『いや、それ全然大丈夫じゃないから! と言うか何故寝首かかれる前提!?』

『……私が関わっている(・・・・・・・・)以上アリサと言う女は()です』

『ふ~ん、まぁ、なるようになれだ』


 そして秋人は投げやりに布団に飛び込む。


(あ。これ意外と良いやつだ)


 と、現実逃避気味に思う秋人であった。


「ねぇ、お兄さん」


 アリサの声は暗く、冷淡で、感情が何もない。


「……なんだ」


 アリサの呼びかけに緊張気味に答える秋人

 部屋に漂う張り詰めた空気。今にも爆発しそうな雰囲気。

 そして数秒が経ちアリサが口を開く。


「お兄さんはさ、何が目的なの?」


 答えによっては殺す(・・)とでも言うように殺気を放ってくるアリサ。


(うわぁ、こえぇ~)


 頬に汗が伝うのを感じながら秋人はアリサの目を見て答えようと顔を向けたとたん固まった。そこにいるアリサの目を見た瞬間秋人は全力で警戒する。


(こいつ本気でやばい……)


 こちらを見下すアリサではない何か(・・・・・・・・・)


(これは返答は慎重に答えないとな……)


「そうだな、冒険かな?」


 次の瞬間、秋人の頬が切れた。血がつーっと頬を伝り布団へと赤い染みを作る。


「ふざけないで。真面目に答えて」

「ふ~ん」


 秋人の目はいつになく真剣で、暗く、地獄の底から見つめる死神のような目付きでアリサを観察(・・)する。

 その迫力に足が自然と一歩後ろに下がるアリサ(・・・)。それを自覚した次の瞬間には顔を赤くして秋人を睨みつける。そして、また足が後ろに下がり、果ては倒れこむように膝を着く。

 顔を青くし、歯を震わせ、目に涙をため、秋人を見つめる。


「俺が答える義務、ある?」


 そう首を傾げ質問する秋人。

 アリサは歯を震わせながら精一杯に口を開く。


「い、いえ。あ、ありま、せん……」

「だろ? なら答え無くても良いよな?」

「は、はい」


 アリサはただ恐怖(・・)し、そう答えるしかなかった。


「そんじゃ、この話は終わり。寝ようぜ?」


 いつものようにおちゃらけたように言う秋人。

 先程までの迫力、緊張感は消え去り、和やかな空気に変わる。


「う、うん」


 そしていそいそと布団に入ってくるアリサ。だが、布団は一枚。つまり一緒の布団に寝ると言う事。だが、先程の秋人の変貌に心を乱されいるアリサは、今の状況を正確に認識できておらず、一つの布団に男女が入っていることに気付いていなかった。もちろん秋人が何かをしようとしているわけではないが、それでも第三者から見れば完全にアウトだった。


「あ、それと、あまり俺を怒らせるな」

「!」


 その声の低さにビクッと肩を震わせるアリサ。


「分かったな?」


 さらに恐怖を植え付けるように確認を取る秋人。


「……はい」


 そして小さな声で答えるアリサ。

 身体を小さく丸め、意気消沈するアリサ。

 そんなアリサに先程とは打って変わって明るい声で話しかける秋人。


「それとさ、この傷治してくれない?」

「……うん」


 アリサは布団から出て、【回復魔法】で先程負った頬の傷を治していく。


「……ごめんなさい」

「別に良いよ」

「……」


 そして傷が治ったら、アリサはそそくさと布団に潜る。

 アリサは恐れているのだ、秋人を。

 先程秋人が見せたあの殺気を。

 自分の()を使っても勝てないと思い知らされたのだ。

 いや、分からない。力を使えば勝てるかもしれないが、深層心理が秋人と言う名の人間(・・・・・・・・・)を恐れてしまっている。

 だから、もうアリサは秋人に勝てない。それどころか逆らえない。

 そう植え付けられて(・・・・・・・)しまった。


「なぁ、アリサ」

「な、なに?」


 おっかなびっくり答えるアリサ。


「お前が何者でも、俺の敵にならなければなんでもいいよ」

「! お兄さんそれって……」


 布団から顔を出して秋人の顔をまじまじと見つめるアリサ。


「別に深い意味なんてないよ。それに俺の都合で変わるしね」

「そっか……」


 そう言って秋人も布団に入り目をつぶる。

 そしてお互い口を開くことなく時間が過ぎていく。


「ねぇ、お兄さん」


 秋人が眠りにつけそうという時にアリサが話しかけてきた。


「ん、なんだ?」

「……お兄さんにとって私ってなに?」

「そうだな……」


 秋人はチラリと視界の隅に目をやる。そこにはアリサを示す赤い印(・・・)


「……敵かな」

「そっか……。うん、そうだよね。お兄さんは誰も信用しないもんね。私なんかが何を期待して……」


 そしてすすり泣く声が辺りを包む。


「アリサお前……」

「ごめん、今はこっち見ないでくれる」

「……分かった」


 横向きに寝かえる秋人。

 それでも耳から入る女の泣き声(・・・・・)

 その泣き声はどこか彼女に似ていた。

 秋人は何も言うことなく目を瞑るのだった。


「やっぱり、私は一人(・・)なんだ……」


 その悲しみにあふれる言葉の意味を知る事は無いのであった。



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