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神殺しの英雄譚  作者: 漆原 黒野
第1章 旅立ち編
28/32

第20話 戦い

 


 秋人は一気に走り抜ける。【疾走】は使わずに、今秋人自身が出せる最大のスピードで。

 ゴブリンジェネラルはそんな秋人に向け剣を上段から振り下ろす。秋人は身体を前に倒しながら、走るスピードそのまま限界ギリギリで右へ避ける。そして身長差を利用して下から上へと切り上げをする。だが、以外にもゴブリンジェネラルの肉が固く皮一枚を斬るのが精々だった。


(だから、硬てぇんだよ!)


 秋人は斬った勢いを利用して無理矢理ゴブリンジェネラルの後ろへと回り込み、右薙ぎを叩きこむが、やはり皮一枚斬るのがやっとだった。


(でも、一枚は斬れる!)


 そう皮一枚だろうと斬れている事に変わり無いのだ。だったら何百、何千とやればいつしか断ち切れる! 多分

 だったらそれをやるまで!

 こいつを倒す(・・)と決めたんだ!

 なら、それを成し遂げるまで諦めきれねぇっての!


 目の前に大きな影がさす。それでも秋人は足を止めず前だけを見つめる。

 そこには変わり無く、醜く、汚く、穢わらしい存在ゴブリンジェネラル。

 そして倒したいと思う存在。

 秋人が何度剣を振るおうと防がれ、避けられる。当たったところで大したダメージを与えられないムリゲー。

 だからこそ面白い(・・・)

 その余裕ぶった顔を崩してやりたい!

 強いからこそ倒しがいがある!

 勝てないからこそ、どこまで自分の力を出せるのか試したい!

 どこまで行けるのか!


 そして秋人は自分自身でも気付かないうちに自然と口角が上がっていた。

 それと同時に入る(・・)。”ゾーン(・・・)”へと。

 秋人はいつも天才と言う者を毛嫌いしているが、実際のところ秋人自身も、その天才(・・)の分類なのだ。

 他の誰にも負けない秋人にしかできない(・・・・・・・・・)事。

 それは異常なまでの”集中力(・・・)”。

 一度入り込めば数十時間戻ってこれないほどに。

 目標以外何も目にも入らなくなる。

 異常なまでの頭の回転の速さ。

 状況を正確に見抜く目。

 相手の考えを読み取る観察力。

 そして”勘”。

 人間の限界を超えるほどの絶対的な集中力。

 それが秋人が持つ他の誰にも無い物。

 まぁ、発動条件? 的なものはあるが。

 それは————————気分が乗るかどうか、だ!

 …………。

 実際集中力とはどれだけ、そのことに対して集中できるかの問題だ。そして好きでも無い物に集中できるかと言われればNOだろ? それと同じで秋人の気分が乗らなければ発動しないのである。説明終了


 そして完全に入った秋人を前に、ゴブリンジェネラルは手も足も出ずに翻弄されていた。

 自分が考えるより先に身体が勝手に動く。

 迫りくる剣を避け、右手に持つ剣で切り裂く。ただ、それの繰り返し。

 ゴブリンジェネラルが剣を振れば、その隙に秋人は三回ゴブリンジェネラルを斬り裂く。

 ゴブリンジェネラルが二度剣を振れば、その隙に秋人は八回ゴブリンジェネラル斬り裂く。

 圧倒的なまでのスピードと集中力。

 それでも皮を数枚斬り裂くだけ。

 だが、少しづつではあるものの、着実に秋人の剣は肉へと届き始めている。


 対等な相手に一対一で勝つには何が必要か?

 力か?

 速さか?

 体力か?

 運か?

 防御か?

 魔力か?

 技術か?

 経験か?

 武具の質か?

 環境か?

 体格か?

 種族か?

 意志か?

 集中力か?

 他にもいくらでもあろう。

 だが、そのほとんどに「否!」と答えよう! (すべてとは言わない。だってもしかしたら当たってる人がいるかもしれないから)

 答えは強くなればいい。

 格上ならば自分を限界まで追い込められる。

 そして、その戦闘の中でどれだけ自分が強くなれるかだ!

 相手より強く、速く、そう願うのであれば”成長”するしかない。

 自分のすべてを賭けて!


 今秋人はすべてを賭して強くなろうとしている。

 成長しない(・・・・・)こいつと違って!

 自分の限界を超えようとしている。

 今の秋人(・・・・)では勝てないのであれば、今を(・・)捨てればいい。

 過去形にすればいい。

 相手から学び、盗み、自分の技としていく(まぁ、ゴブリンジェネラルから学ぶことは無いが……)。

 今を捨て続ければ、その先に(・・・・)勝利(・・)”があるのだから。

 だから、前へ(・・)と踏み出す。

 こいつを倒す(・・)ために。


 ————強くなりたい(・・・・・・)————



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 そんな戦いを見ている者達は————


「あいつ、スゲーな……」


 そう一人つぶやくベート。

 ベートはほんの2分程で上位種のゴブリンをすべて倒し終わり、秋人の戦いぶりを見つめていた。


「当たり前でしょ! お兄さんは強いんだから!」


 そんなベートの横に来て声を張り上げるアリサと名も知れない女性。


「……すごいですね王子様は」

「……王子様?」

「……あいつが王子様?」


 そう首をかしげる二人。


「「無いな!」」


 そして断じる。


「え、えーっと……」

「ねぇ、お姉さん、やめといた方がいいよ。お兄さんはそんな綺麗な人じゃないよ」

「そうだぞミリアナ(・・・・)。あいつはそんなかっこいい奴じゃない」


 口々に秋人を蔑称する二人。


「え、えーっと……」


 こちらを見つめる二つの眼差しにミリアナと呼ばれる女性は気圧されオロオロとする。

 そんな時、辺りを赤い光が包み込む、それはゴブリンジェネラルが持つ魔剣の力の光。


「……」

「……大丈夫だよね?」

「……さぁな。受けていたとしたら無傷とはいかないだろうよ」


 そして目を凝らして見れば、煙が包み込む中ゴブリンジェネラルに突っ込む人影が見えた。

 自分より数倍大きな身体を持つ相手に果敢に挑む小さな背中。

 大きな剣を振り下ろす敵の死角を突いて攻撃するが、その攻撃そのものが通らない。意味の無い攻撃を何度も、何度も、何度も、何度も繰り返す秋人。

 魔法もスキルも何一つ使わず。

 ただ、己の技量のみで戦う。

 かなわない敵と知りながら立ち向かう。

 無力を嘆き、それでも強くなろうとする秋人。


「……すごいな」

「……うん」

「……王子様」


 だが、残念な事に秋人がどんなにかっこつけても、その敵が”ブサイク”ではすべて台無しというものだ。


「……」

「……」

「……秋人は頑張ってるんだけどよ、なんていうか……。いまいち盛り上がらねぇな」

「べ、ベートさん!」

「……さっきまで、死ぬ気でかっこつけてたくせに」

「う、うるせぇ」


 顔を赤くして怒るベートを無視して秋人の戦いを見つめるアリサ。


「でも、死ぬ気で戦っているのは事実なんだけどね」

「確かにアキトは果敢に戦っているけど、敵がゴブリンジェネラルじゃこう絵にならないと言うか……」

「まぁ、あの顔だしね……」


 そして心の中で同意する三人(・・)


「あ、あの! 助けに行かなくて良いんですか?」


 そう声を張り上げて叫ぶミリアナ。


「助けるっつても、俺じゃあそこに入れねぇよ」

「それに『あいつは俺が倒す』って言ってたからね。手を出しちゃ、それこそお兄さんを侮辱することになるよ」


 そうアリサもベートも信じているのだ。

 秋人がゴブリンジェネラルを倒す(・・)ことを。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 目の前に迫る剣を避ける。右手に持つ剣で切り裂く。避ける。斬る。避ける。斬る。避ける。斬る。避ける。斬る。避ける。斬る。避ける。斬る。避ける。斬る。避ける。斬る。

 何度も、何度も、何度も、何度も、同じことを繰り返す。

 その先にある”勝利”のために。


 そして入った(・・・)秋人に手も足も出ずに翻弄されているゴブリンジェネラル。翻弄されていても、その表情はどこか余裕染みた顔。なぜなら攻撃が通っていないのだから。

 それでも少しづつ、着実に肉へと届き始めている。

 だが秋人は焦っていた。


(どんでけ硬てんだよ! このでかぶつ!)


 長引けば先に秋人の体力が尽きる。

 だが秋人には”決定打”がない。

 こいつを死に到らしめる攻撃が無いのである。いや、少し語弊がある。殺す技を持っているが使えない(・・・・)のだ。そう見られている状況では。

 監視している奴らもそうだが、何よりアリサに見られる(・・・・・・・・)のがマズい。あいつはよくわからんが神に関係ある奴だ。だったら俺の力に反応(・・)する可能性が高い。

 そもそも俺が神に関係ある者だから近づいたのかもしれないが、それでも非常にマズい。

 そんな時、奴が魔剣を抜き上段に構え振り下ろす。


(そんな大振りなら初動の動きさえ見切れば簡単に避けられるんだよ!)


 そいて走り出す秋人。直後、辺り一面赤く染まり熱気が押し寄せて来る。だが、そんなことに構うかと言うように突っ込む秋人。次の瞬間、腹に衝撃を受け吹き飛ばされて行く秋人。


「ガハッ、ハァ、ハァ、クソッ、なんだ今の?」


 そこには赤いオーラを纏うゴブリンジェネラル。


『あれは【闘気】と【奮起】ですね。【闘気】は身体に気を巡らせ力を上げるスキル。【奮起】は興奮して力を上げるスキルです』

『……どっちも力を上げるスキルか。面倒な……』

『他にもスキルを持っている可能性があります。気を付けてください』

『あぁ」


 そう、魔物もスキルや魔法を使う。

 何故今まで使っていなかったのかは分からないが、スキルを使って来たということは本気(・・)になったということである。

 こんな格下の俺にである。


(あぁ、こういうのがたまらねぇんだよ!)


 だが、本気になったゴブリンジェネラル相手では、今度は秋人が手も足も出なくなる番だった。

 上段からの振り下ろし、袈裟切り、切り上げ、右薙ぎ。そのどれも防ぐ事が出来ず、ただ耐えるのみ。


(あぁ、本当強いな。あんな顔で、身体で、剣で……)


 そんな考え事をしている秋人に向け魔剣を引き抜くゴブリンジェネラル。


(やばいなこれ。死ぬわ)


 そして振り下ろす。

 目の前に迫る赤い炎。

 すべてを飲み込まんと、今までより大きな炎。

 そして飲み込まれる秋人。

 すべてを焼き尽くす赤き光。

 その直線上にある物は何一つ残らない。

 人も、武器も、森も、土さえも残さない。

 それほどまでの力。

 その惨状を見つめる()つの視線。

 一つはゴブリンジェネラル。

 ニヤッと笑みを向ける。

 一つはベート。

 膝を突き呆然と見つめる。


「ア、アキト? う、嘘だろ……?」


 一つはミリアナ。

 瞳から雫を垂らしながら両手で口を押さえ嗚咽を漏らす。


「……そ、そんな……」


 一つはアリサ。

 何も語らず、ただ目を凝らすだけ。


「……」


 一つは監視者。

 一つはもう一人の監視者。


 その視線の先、辺り一面、煙が覆い何も見えない中チラつく黒い影。

 誰もが見つめる中少しつづ動き出す影。

 次の瞬間には消えさり、遠くの方で「コトッ」と言う音がなる。

 そちらに目を向けてみれば、ゴブリンジェネラルの首が無くなった身体。

 そのすぐ横には剣を振り抜いた状態の秋人。

 その足元にはゴブリンジェネラルの首が転がっていた。

 呆然と見つめる五つの瞳。

 だが、秋人はそんな事知るかと言うように剣を鞘に収め歩き出す。


 そして秋人の力を見た(・・・・)アリサは、瞳に何も映すことのなく諦観する。


「そう、やはり貴方が……」


 そして動き始める。アリサの中にある何か(・・)が。

 だが、それは決して動いてはいけない()

 それが招く結末とは……。

 だが、それすらも無意味。

 秋人と言う名の災厄によって、すべてが無意味となる。

 そしてアリサを解放(・・)してくれる。

 だか、それを知る瞬間こそが、アリサの始まりであり、終わりでもある。

 それはすぐそこに迫っていた——。




 そして何食わぬ顔で戻って来た秋人。


「やぁ、やっぱ強いね! もうちょっとで死ぬところだったは!」


 明るく、元気いっぱいに声を張り上げる。

 それを呆然と見つめるベート達であったが、秋人が無事なことをひとまず安心する事にした。


「……本当にお前は心配させやがって」

「ご無事で何よりです」

「……お疲れさまお兄さん」


 アリサは労いの言葉を発しながら近づき耳元に顔を寄せる。


「あとで話があるから」


 冷淡でなんの感情も見せない空っぽ(・・・)の声。


「……分かった」


『面倒なことになったな……』

『スキルを使うからですよ』

『しょうがねぇだろ。あそこで使わなきゃ俺が死んでたぜ?』

『……そうかもしれませんが……』

『それにお前にどうこう言われる筋合いは無い』

『……』

『お前がなんの目的があるかは知らないが、俺の行動に文句を言うな』

『わ、私は…………。すみません。なんでもありません……』


 そして黙り込むナビ。


(まぁ、お前が落ち込もうがどうでもいい事だ)


 そして意識を切り替え声を出す。


「そんじゃ、村に戻りますか!」

「そうだな」

「はい!」

「……うん」


 そして村に向かい足を進めるのだった。


 先ほど秋人がしたことは簡単だ。

 魔剣の炎は【無敵】で防ぎ、自分のステータスを最大限まで上げ【疾走】で駆け抜けて【滅殺魔法】でゴブリンジェネラルの首を斬っただけの事。

 もちろん監視者やアリサにばれるかもしれないが、見られたわけではないため明確な確証が無い。そのため言い訳ならなんとでもつく。

 まぁ、最悪殺して(・・・)しまえばいいのだから。


 そしてある程度進んだところで突然アリサが声を上げた。


「あぁ!」

「! ど、どうした? そんな大声あげて」


 秋人達三人は首を傾げてアリサを見つめる。


「……そういえばさ手足が無くなってた人達って、まだ息をしてたよね?」

「!」

「そ、そうだ! アルメさん達が!」


 そう声を出しながら走るミリアナ。


「俺達も行こう!」

「え、めんど」

「お兄さん!」

「冗談だって」


 そしてミリアナの後を追う秋人達であった。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 ここは秋人達から少し離れた小高い丘。そこで言葉交わす二人の男性。


「それでどうしますかカイさん?」

「そうだな……」


 腕を組み考える込むカイと呼ばれる男。


「……あいつは危険だ。ここで始末する」

「分かりました。上に報告しますか?」

「いや、あいつを始末してから、直接王都に行き報告する」

「了解」


 そして日が出ているにも関わらず、闇へと消えて行く黒い影。


 この二人の行動で秋人達の運命を大きく狂うわすのだった。

 変えることのできない(・・・・・・・・・・・)運命(・・)であり、変わらない秋人の運命(・・・・・・・・・・)でもあった。

 それは、すぐ先の話。



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