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神殺しの英雄譚  作者: 漆原 黒野
第1章 旅立ち編
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第17話 ゴブリン

 


 そして秋人が現場に着いた時には戦いの火蓋は切って落とされていた。

 今目で確認できるゴブリンの数は大体70~80の間。その中に上位種と思われるゴブリンが5~8程。あ、上位種とは言ってもゴブリンジェネラルでは無くて、ホブゴブリン、ハイゴブリン、ゴブリンガードナー、ゴブリンソード、ゴブリンアーチャー、ゴブリンメイジ等のゴブリンだ。ゴブリンは人間の様に弓や剣を使うため、それぞれに特化した種族に変わることがある。一様普通のゴブリンの進化形なため上位種となっている。あと、魔法も使えるゴブリンもいるにはいるみたいだが、あまり魔力の扱いが得意ではないためそこまで警戒しなくていいみたいだ。

 それとゴブリンの巣、と言うか家? が3つ程あった。


(てか、何でこんなところに家があるんだよ。ゴブリンが作ったのか?)


『いえ、あれは元々村の人達が作った物です。それを利用して住処にしたのでしょう』

『何でこんなところに……。というかちゃんと管理してないと、今みたいに魔物に使われるだけだろ』

『さぁ? そこまでは私にも分かりませんが、多分魔物を警戒するための家だったのでは? まぁ、魔物に使われていますから、なんと言って良いのかは分かりませんが……』

『まぁ、なんでもいいさ』


 その家の中には、まだゴブリンが50匹以上もいるしその中にも上位種がいる事だろう。

 家の中にいる奴と今目の前にいる奴合わせて大体150匹近くのゴブリンがいると思われる。


『どんだけいるんだよ……。それと食事はどうするんだよ? これだけいたら食料なんかすぐに尽きそうだけど?』

『それこそ村を襲った原因では?』

『なる』


 そう言って秋人はべーとたちの戦い振りを見つめる。

 ベートは剣を抜き片っ端からゴブリンを斬り裂いていく。走りながらゴブリンを叩き斬るようにして殺していき、それを援護するようにアリサが魔法を放つ。

 もっと奇襲とかしろよ。そんな馬鹿正直に突っ込んで行ってどうする。

 でもすごいな二人とも。たった2,3分で20匹位殺しているんじゃないか? ベートのやつ結構強いな。正直見縊ってたぜ。

 そんなとき秋人の目に一際大きな存在感を放つゴブリンが目に入った。


(あれがゴブリンジェネラルか?)


 背丈は2,5mにも及ぼうかと言う程大きく、そして横にも広い。醜い顔、臭い体臭、そして目を引く大きな剣。そして何よりも威圧感がすごい。ただ、そこに立っているだけなのに腰が引けてくる。


(やばいな、あれ。今の俺じゃ絶対に勝てないな)


 そう思わせるほどにその存在はすごかった。

 あ、でも勘違いするなよ! 【滅殺魔法】と【無敵】を使えば勝てるから! それはもう楽勝な程に!(言っている事が矛盾している)。

 そして足元には倒れている女性。女性は服を着ており何かされた後では無いことが分かる。意識はあるようだが腰が抜けて動けないようだ。


(あぁ、女性を助けるために突っ込んだのか。てか、それこそ相手の思うツボじゃね?)


 ゴブリンジェネラルは、懸命にゴブリンを狩って行くベート達をニヤニヤとした目つきで見ているかと思えば、腰を下ろして女性の服を脱がし始める(手器用だな)。

 女性は抵抗することなくされるがままになっていて、その顔は恐怖で青くしてある方向を見るめている。その方向に目を向けてみれば、何人もの女性が腕や足が無くなり、白い液体を滴らせている死体があった。いや、胸が少し動いているように見えるため一様生きているようだが、生きていたとしてもあれはもう生きる意味がないだろ。


(うわ! さすがにこれは気持ち悪い。身体なんかグチャグチャで原型留めていないじゃん! あと臭い!)


 そして秋人が悠長に見ている間に女性の服が脱がされて行き裸にされていた。

 胸はかな~り大きくメロンのようだ。うん、それぐらいある。腰のラインにかけて細くて傷一つ無いほどスラーっとしているが、また腰の部分で大きくなってとてもエロい身体をしていた。俗に言う「ボンキュッボン」と言うやつだ。

 それが分かった上でゴブリンジェネラルは最後のデザートに選んだんだろう。それも上級者向けの露出プレイで。


(うん、ナイスだ! ゴブリンよ! 良いもん拝ませてもらったぜ!)


 何度でも言おう。秋人と言う人間は善人では無い。悪人の分類だと!


「でも、それ以上はダメだ」


 その声は低く地獄の底から聞こえてくるような恐ろしい声音をしていた。そう言葉出した次の瞬間には秋人の姿が消え、ゴブリンジェネラルの目の前に現れ、秋人はその勢いを乗せ思いっきり蹴とばした。


「……ふッッッ!」

「ブゥッッ!」


 そして吹っ飛んでいくゴブリンジェネラルだが、その大きな身体相応に体重があるため5m程飛んだ所で止まりこちらを睨みつけてくる。


(クソッ! いてぇ! 折れてはいないだろな? あの駄肉意外と固いな)


 そして秋人は上着を脱いで女性に服を差し出す。だが、残念なことに敵から目を背けるわけにもいかないため、女性の裸を拝むことは出来なかった。本当に残念ながら。本当に本当に残念ながら。

 女性は秋人から差しだされている上着、もとい手を見つめながら顔を赤くする。だが、これまた残念ながら前を見続けている秋人には分からないことであった。

 女性は上着を受け取り身体を隠していく。

 それを確認した秋人はこいつを倒すために——————では無く、助けを求める為声を張り上げる。


「ベートさん! 早く来てください! 俺じゃこいつに勝てないんで!」


 恥もクソも無く助けを求める。

 女性は赤くしていた顔を一気に冷めた表情になり、果ては蔑みに似た視線を秋人に送る。

 そしてさすがのベートやアリサでも目を丸くして戦いを一瞬止めた。次の瞬間には秋人に負けないくらい声を上げたあ。


「お前も男なら少しはカッコイイ所見せろよ!」

「お兄さん! 見損なったです!」


 その言葉を聞いた秋人は————


「はぁ? なんで? いや、そもそも俺こいつと戦う気なんて無いし。というかベートさんが戦う予定だったじゃないですか?」

「お前な!」

「あ、よそ見してると危ないですよ?」


 秋人が言った瞬間ベートの死角を突いて一匹のゴブリンが襲いかかってきた。ベートは剣を振り回す形で攻撃を防ぎ、その勢いそのままゴブリンを地面に叩きつける。ゴブリンは「グジャッ!」と潰れ地面が少し揺れたのが分かった。


(マジか!? やべぇ、ベートって結構強いじゃん!?)


「ふんっ! 俺がこんな雑魚共にやられるわけねぇだろ」

「……そうみたいですね」

「どけ! 戦う気のねぇ奴が来るんじゃねぇーよ」

「俺は最初から来たくなかったんですよ」


 そう言って秋人は、敵意にも似た何かを送ってくる女性を抱えてゴブリンジェネラルから”逃げる”のだった。




 秋人は女性を安全な所まで運び、回復薬を差しだしながら声をかける。


「大丈夫ですか?」

「……はい」

「これ回復薬なんで飲んどいてください」

「……ありがとうございます」


 そして秋人は立ち上がり、背中に差してある剣を抜くのだった。


「? 戦われるんですか?」


 女性は不思議そうに秋人を見つめ、首を傾げた。


「ん? そうですけど?」


 秋人もそれを不思議そうに見つめる。


「でも、さっき……」


 その言葉で女性が何が言いたいのかを理解した秋人は説明するように女性に言い聞かせる。


「あぁ、俺はあのゴブリンとは戦いたく無かっただけで、別に普通の奴なら戦いますよ。それに俺なんかじゃ、あのゴブリンには勝てませんからね。だったら最初から戦える人に任せて俺は敵の数を減らしたほうが懸命な判断だと思っただけですから」

「……そうなんですか。すみませ私はてっきり貴方が逃げ出したのかと……」

「まぁ、逃げたのには変わりありませんからね。でも、逃げるのなら逃げるなりの理由とやり方があるんですよ」

「……そう、みたいですね」


 そう言って女性は恋する乙女のような眼差しで秋人のことを見つめるのであった。


「あ、そうだ! 俺が無事に帰って来れたら貴方の名前を教えてください」

「え!? そんなことでしたら今からでもッ!」


 女性が何かを言おうとしているのを指で止める秋人。


「それじゃ、俺のやる気がなくなりますから、ね?」

「!?」


 それは誰が見ても恋する乙女だった。

 そして秋人はその視線を受け止めて颯爽と歩きだすのだった。


「頑張ってくださいませ。私の王子様。イヤンッ♪」




 そして秋人は先程の女性のことを考えてにやけるのだ。


(いや~、ちょろいね! あんなんで恋に落ちるとか超ちょろい。まぁ、ピンチに助けてくれる王子様みたいだけどさ、というかそういう風に見えるようにしたんだけどさ。あんまりにもあっさりしすぎていて拍子抜けにもほどがあるぜ。これならギャルゲーの方がやりごたえがあるな!)


 何度でも言おう! 飽きたと言われようが何度でも繰り替えそう!

 秋人と言う人間は善人では無い。悪人の分類だと!


『さすがマスター。これほどまでにクズの行いをして堂々と言ってのける度胸、さすがとしか言いようがありません』

『別に良いじゃん。恋愛ゲームみたいで面白いじゃん!』

『……本当にクズですね』

『クズで結構! 俺が楽しければすべて良し!』


 その言葉をどう受け取ったのかは秋人には分からないが、ナビの雰囲気が変わるのを感じた。


『……私もそう思えればどれだけ楽か……』


 その言葉はもしかしたらナビ自身すら分からない心の声なのかもしれないのだった。




 秋人が戻ってくれば、今まさにやられそうになっているアリサ。それを見た瞬間秋人は【疾走】を使ってアリサの所まで行き、剣でゴブリンを倒していく。


「大丈夫か?」

「……もう、遅いよ」


 その声はどこか浮かれ、嬉しさが滲み出ていた。まぁ、それに気づかない秋人では無かったが、何故嬉しいそうにしているのかは分からないのであった。


「まぁ、とりあえず、いつも通りで」

「分かったわ。でも数が多いから囲まれないようにね?」

「分かってるって!」


 そう言うや否や秋人は【疾走】を使ってゴブリンの見えない速さで駆け抜ける。もちろんすれ違いざまに”目”を斬って行く。そうすればあとはあいつがやってくれるから。


『風よ我敵を切り裂け【ウインドカッター】』


 そしてゴブリンの首を飛ばしていくアリサ。その間にも秋人は【疾走】を使ってゴブリンの目を潰していく。

 何故目だけを切っていくかと言えば、剣の刃こぼれを出来るだけ少なくするためだ。どんな者だろうと得物が無くなれば戦えなくなる(まぁ、格闘家とかは別だけど……)。そのため秋人は最小限の攻撃で最大限の効果を発揮させる攻撃、つまり目つぶしだ。

 もちろん一流の者なら刃こぼれをさせないで敵を斬る事が可能だろうが、今の秋人にはそこまでの技量が無いため出来るだけ剣を長持ち出来るようにするしかないのだ。


(チッ、さっきの蹴りの所為で【疾走】もあんま持たなさそうだな。さすが上位種ってか、俺の蹴りなんか屁でも無いって事かよ)


 先ほどの秋人の蹴りは本気だったのに与えたダメージは大した事が無い様に見える。もちろんあんな程度で倒せるとも思っていないが、もう少し効いてくれてもいいと思う秋人であった。


 そう愚痴をこぼしていてもゴブリンを倒す手を止めない秋人であった。

【疾走】で駆け抜けるスピードを利用してゴブリンの目を潰していく秋人。

 だが、いくら【疾走】を使おうが敵の攻撃をすべて防ぎ切る事は不可能。かすり傷程度でも、それが何度も続けば、いつか無視出来なくなる程の傷になる。

 だが、これまた優秀な相棒が解決してくれる。

 秋人の傷が動きに障害をきたしそうな時、アリサはその絶妙なタイミングで【回復魔法】で秋人の傷を癒す。もちろんちょっとの傷で使うのではなく、ましてや重症になるまで待つのではなく、本当に絶妙なタイミングで回復するのだ。

 アリサはギリギリを見極めるのが非常にうまいのだ。

 それは天性の物かあるいはスキルの力かは分からないが。まぁ、なんにしてもアリサは超優秀と言う事だ。


 前と横から襲ってくる2匹のゴブリン。前のゴブリンは剣を横のゴブリンは槍を構えている。どちらも上位種の様だ。

 秋人は【疾走】を使い一気に前にいるゴブリンに近づき、目に当てるように剣を横に振るう。だが、ゴブリンは自分の持っている剣を盾にして防ぎ、そのほんの少しの時間で横から来ていたゴブリンがすぐ目の前に来ていた。

 離脱は不可能と判断した秋人は無理やり身体を前に倒してゴブリンごと倒れる。背中に熱い何かを感じながら秋人は倒れる勢いに任せてゴブリンの首に剣を差し込む。「グザッ」と音と共に首を貫通する剣。

 秋人はそれを見届ける前に手から剣を放して、倒れる勢いに任せて前回りをする。そしてそのすぐ後に槍の先端が倒れているゴブリンを貫いた。もう少し遅かったら貫かれていたのは秋人だったに違いない。

 もう1匹のゴブリンから距離を取った秋人は周りの戦況を見渡す。


(ミスったな……。まさかあの上位種があんなに早く来るとは……。クソッいてぇ。それにさっきから勢いに任せすぎだ! 勢いではなく技術でなんとかしないとやばいぞこれ……。普通のゴブリンだってまだ、80匹以上いるし、それに加え上位種が10匹以上……。どんだけいるんだよ! そしてベートは完全に遊ばれてるな。まぁ、時間が稼げるから良いか)


 そうベートが剣を振るえばゴブリンジェネラルは軽々受け流して行く。ただ、それだけだ。ゴブリンジェネラルから攻撃することはなく永遠と剣を振るうベートを見て楽しむかのようにしている。


(チッ、人の事にかまけている場合じゃなかったな)


 そして先ほどのゴブリンと新たに加わった2匹の上位種に周りを囲むようにしている普通のゴブリン10匹。


(さすがにこれは無理だろ……)


 そしてアリサを囲むようにしているゴブリンが20匹に上位種5匹。


(まぁ、俺より回復手段を持っているアリサを狙うのは理に適ってはいるけど……。本当に面倒な事してくれるぜ)


 頬に汗が伝うのを秋人は感じた。

 いくらアリサの魔法だろうと限界はある。そもそもアリサはそこまで凄い魔法使いでは無いのだ。どちらかと言えば商人に適性を持つ普通(・・)の少女に過ぎない。

 そして少しづつ近づいていくゴブリン達。


(チッ、こうなったらしょうがないか。少しだけ俺の力を使うとしようか)



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