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神殺しの英雄譚  作者: 漆原 黒野
第1章 旅立ち編
23/32

外伝 最強と呼ばれる者達

〜編 不定期連載

外伝 1話完結

その為今回はかなり長くなってしまいました。すみません。

 


「またか……」


 そうぼやくのは産業ギルドで秋人の担当をしていたミーナであった。

 今居る場所は組織の隠れ家の一つ。そしてミーナは先程届いた裏の、と言うか本職の上司から送られてきた報告書と言う名の命令文を見て嘆息をつく。


「どうしたの? そんな困った顔をして」


 そんな様子を見て、不思議そうに声をかけてきたのはミーナの双子の妹シーナであった。


「うん、ちょっとね、上からの報告書を見ていたの。もっと言えば上からの命令をね」

「なるほどね。それで上はなんて言ってきてるの?」


 ミーナは考える。

 ここで変な風に言えばシーナは暴走しかねない。残念ながらこの報告書はそいう類の物だった。

 でも、言葉を濁しても勘の鋭いシーナは直ぐに気付いてしまうだろう。そもそも私とシーナの間で隠し事そのものが出来ないため誤魔化す事が出来ない。

 それにこれはシーナにも関係ある事の為見せないわけにはいかない。

 そう考えたミーナは手元にある紙をシーナに渡した。

 紙を受け取り読み始めるシーナ。時間が経つにつれ顔の表情が怒りに変わって行き……爆発する。


「な、何よこれ! ミー姉どいう事!」


 あー、やっぱりこうなったか……。

 私の頭には怒り、悲しさ、虚しさ、悔しさ、無力感等の感情が流れて(・・・)きる。

 はぁー、この妹はもう少し冷静さを持った方がいい。そう思うミーナであった。

 だが悲しいかな、ミーナとシーナ、二人の間で隠し事、もとより感情を隠す事など不可能なのだ。

 だから、ミーナが考えた事もシーナに伝わってしまう。


「私は冷静よ!」

「どこか……。はぁー、まぁ、見ての通りよ」


 そう、報告書と言う名の命令文に書かれているのはサトン村近辺で人が失踪していると言う事。そして誘拐をしている犯人から救い出して欲しいと言う事が書かれている。その命令文と一緒に犯人達の情報などが入っている。


 サトン村、ハイド国にある村の一つ。

 そもそも、ハイド国と言うのは亜人が多く住む国。もちろん人間も居れば獣人やエルフ、ドワーフ、小人等の種族が居る。

 それに伴いエルスラーン王国は人間史上国。

 ハイド国とエルスラーン王国は犬猿の仲である為、この時期、つまりエルスラーン王国が勇者召喚をした時期にハイド国内にある村の近辺で失踪事件が出ることは、15年続いていた不可侵条約にヒビが入る事になる。もちろんエルスラーン王国がやって無くてもだ。

 ヒビが入ればそれはどんどん広がり、最終的に戦争となる。

 それを阻止する為に私達が動かなければいけない。


「さて、そろそろ行こうか。あっちにエルさんを待たせてるから」


 エル・キード。あ、一様説明だが前が名前で後ろが家名(苗字)だ。あと、王族とかだと家名の後に国名や象徴の言葉が入ったりする。組織の雑用係にして臨時戦力。その力はシーナに及ばないものの、かなりの実力者だ。

 先ほどまでの怒りを収めて落ち着いて返事をするシーナ。


「了解」


 そう言ってお互い戦う準備をする。

 命令書には今日中に済ませる様に書かれている。

 今日届いた命令文に今日中に済ませろと、これいかに無理難題か。

 そもそもここから件の村までどう頑張ったって一日で行く事は不可能。じゃあ、どうするかと言えば簡単な事、ミーナの固有スキルにある【転移魔法】と【千里眼】でこれ解決。

 余談だが、瞬間移動系の魔法等は数こそ少ないものの持っている者はいる。例えばミーナが持っている【転移魔法】やその【転移魔法】と類を成す【空間魔法】を持っている者。あと貴重なアイテムに、設定した場所に転移出来ると言う物があると聞く。

 一様補足説明。【転移魔法】は行きたい場所をしっかりとイメージをして、座標、標高等を明確にしなければいけない。もちろん少しのズレが応じるのはしょうがない事だと諦めるしかない。そのズレをどれだけ少なくするかは術者本人の技量次第。

 だが、ここで遠い場所を見ることが可能なスキルがあれば話は別だ。

 そしてミーナには【千里眼】と言う固有スキルを持っている。【千里眼】は好きな場所、好きな高さ、好きな角度で見れるスキルだ。

【転移魔法】と【千里眼】を合わせれば行けない場所はほぼ無い。ただし、魔力があればの話だが。この二つ、と言うか【転移魔法】は膨大な魔力を必要とする。そのため転移できる距離にはある程度限界が存在するのだ。まぁ、一様ミーナは上位クラスの魔力の持ち主だが。

 そして知られている限り、この二つ【転移魔法】と【千里眼】を持っている者はミーナただ一人。

 だからこんな無茶な命令が出来るのだ。

 上層部はこいう緊急事態な時にはフットワークが軽いミーナを重要視しており、もっと言ってしまえばミーナ頼りなところがある。

 だからと言って組織自体の力は落ちるわけではなく、むしろ上がって来ている。それは緊急事態に対して回りくどい準備をする必要がなくなり、ミーナ一人居れば解決出来てしまう為、人員を割く必要が無く、その分情報を早く、広く得る事が出来る様に人員を配置出来る為だ。余談終了


「さて、シーナ準備は出来た?」

「うん」


 シーナの格好は全身黒一色。そして腰に短剣を数本差し、ポーション類を腰に下げているポーチに入れた姿。

 そしてミーナの格好は全身に黒色のローブを覆い、手には140cm程の杖を持った姿。

 これが荒仕事の正装。


「一様お互いのステータスを確認しとこうか?」

「そうだね。お互いのステータスは一か月位見てないもんね」



 名前 シーナ 年齢 21 性別 女

 種族 人間

 職業 暗殺者

 レベル 268

 体力 5367

 耐性 3594

 筋力 5573

 魔力 4910

 魔耐 3394

 敏捷 8326

 運 31

 スキル 暗殺術 短剣 投擲 隠密 偽装 念話 回避 壁走 疾走 忍足 毒術 罠術 危機感知 気配感知 闇魔法

 固有スキル 分身 無音(サイレント) 同調(シンクロ) 経験値共有

 加護



 名前 ミーナ 年齢 21 性別 女

 種族 人間 (破壊人)

 職業 魔法師 破壊者

 レベル 268

 体力 4767

 耐性 2337

 筋力 4896

 魔力 9198

 魔耐 2635

 敏捷 5378

 運 23

 スキル 念話 回復魔法 付与魔法 爆裂魔法 風魔法 闇魔法 魔力軽減 魔力感知 魔力操作 威力増大 範囲拡大 詠唱省略

 固有スキル 転移魔法 千里眼 暴破壊(バーサーカー) 同調(シンクロ) 経験値共有

 加護



「そこまで大幅に変わってはいないね」

「うん、ここ最近は勇者召喚とかのゴタゴタがあったからね。戦う機会なんて殆ど無かったし」

「そうね。でも油断はしちゃだめだからね。今回の相手には、あの〈赤鬼(ブラット・キリング)〉がいるんだから」

「うん、分かってるよ。ほら急ごう。エルさんを待たせてるんでしょ?」

「そうね」


 そうして二人は歩き出した。


 〈赤鬼(ブラット・キリング)〉それは知らない人は居ないとされる程の悪名。

「人を残虐に殺す」それが世間に伝わる物。だが、実際はもっと暴虐だ。

 女は犯してからゴブリンやオークの巣にぶち込み、男は魔物に餌をやるかの様に食べさせ、時としてはゲームをやるかの様にお互いを殺し合わせる。

 これだけの事をする奴は残念ながら他にも何人もいる。そいう奴らはすぐに討伐隊などが組まれては倒されて来たが、今回の〈赤鬼(ブラット・キリング)〉は頭がキレる。それはもう参謀なんか目に無い程にキレる。そして、キレる以上にその戦闘力も並みなら無い程強いため、これまで何度も討伐隊が組まれたがそのどれもが失敗に終わっている。

 そして〈赤鬼(ブラット・キリング)〉はその暴虐振りに冒険者ギルドはこれを危険度Sランクと認定した。

 今はあまり詳しく説明はしないが危険度が高い順に並べるとこんな感じだ。SSS、SS、S、AAA、AA、A、B、C、D、E、F、Gとなる。とにかく危険度Sランクはやばいと思ってくれればいい。

 だから、今すぐに私達が向かうことになっている。多分、いや、確実に私達では〈赤鬼(ブラット・キリング)〉には勝てない。そして戦力を用意出来る程の時間も無い。ミーナが転移魔法で集めればいいと言う意見はもちろんある。だが、それはミーナの魔力を使うということになる。もちろん魔力を回復させる物はあるが、精神的な疲労が溜まる事は避けられない。それに最大の問題が距離だ。いくらミーナが上位クラスの魔力を持っていたとしても国の半分以上の距離を大人数で転移させる事は不可能なのだ。少なくとも今のミーナには無理な話なのだ。

 話はそれたが私達では〈赤鬼(ブラット・キリング)〉に勝てなくても誘拐された者達は救い出せる。ミーナの転移魔法と千里眼があれば。


 そうこうしているうちにエルさんのところに着いた。

 エル・キードの格好は胸や手、足などいった場所に鎧をつけ腰に剣を差した姿。

 ミーナはエルさんの前で一礼して声をかけた。


「今日はよろしくお願いします」

「久しぶりエルさん!」


 シーナは友達感覚で挨拶をする。


「ちょっ、シーナ! もう少し礼儀をしりなさい!」

「えー、良いじゃん。任務でもないんだし、それに知り合いなんだから」

「これから任務なんだけど」


 そうシーナの事を睨めつけていると、間にエルさんが入ってきてミーナの事を諭すよう言ってくる。


「まぁまぁ、いいじゃない。シーナもこれからの事に対して緊張して場を和ませようとしているんだから、ね?」

「そうだと良いんですけどね」

「あははは」


 エルさんは乾いた笑みをこぼす。

 そして顔を真面目な物にして言う。


「それじゃ、行こうか」

「「はい」」


 そして私は【詠唱省略】のスキルを使い、魔法の詠唱を開始する。

 その場にありえないほどの魔力が渦を巻きミーナを中心として吹き荒れる。


『閉ざされし門よ、我が道として開き、我が歩みの道しるべとなれ。

 我は、遥か彼方、千里先、万里先、世界の果て、悠久の時、次元の壁さえも超える者。

 無限に隔つ壁を、繋ぎ給え。

 繋げ、繋げ、繋げ!

 距離の概念を無くそう、世界の摂理を覆そう、神意など跳ね返そう。

 それでも我を止めると言うなら、我は人倫に叛き、反逆者となろう、咎人と罵られよう。

 それでも我が歩みは止まらぬ。

 我を阻む道よ、我の歩みを止める者よ、何人たりとも我の歩みを止めことなど叶わぬ。

 光も、色も、音も、臭いも、何も届かぬ。

 無限の彼方へ我を飛ばせ。

 飛ばせ、飛ばせ、飛ばせ!

 道無き道に、門を開き、導く光よ、我が道を切り開け!』


 そしてミーナ達を白く輝く魔法陣が包こむ。

【詠唱省略】このスキルを使ってもこれほどまでの長文。まぁ、これは距離がかなり離れているということにも原因があるが。


『テレポーテーション!』


 そして光が一層光り輝いた後には何も無くなっていた。


 余談だが、基本的に魔法を使うには詠唱が必要だ。詠唱はある程度自由で、その人自身が思い浮かべる物を言葉にするという物だ。

 だが【無詠唱】等のスキルを持つ場合は詠唱をしなくても魔法を発動できる。

 まぁ、スキルが無くとも無詠唱で魔法を使う事は可能だが。だが、それは超高等技術な為使える物はほんの僅かでしかない。ミーナも下級魔法程度なら使えるが下級が使える程度で威張れるほど甘くは無い。一様、下級魔法を無詠唱で使えるだけでも大変すごいことなのだが……。

【無詠唱】とは違うが、詠唱のサポートをしてくれる【詠唱省略】がある。今の私にはこれで十分だ。自分が扱い切れない物を持っていたとしても、それは意味が無いことだから。余談終了



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 光の強さに目をやられないように目をつぶっていたミーナ達は静かに目を開ける。

 そこに広がるのは木。そう、見渡す限り木。そして耳を澄ませば近くに水が流れている音が入ってくる。

 そしてかなりの距離があるみたいで聞き取れはしないものの人の声らしきものが聞こえる。

 そう”悲鳴”の声が。

 近くで歯ぎしりをする音が聞こえる。こいうものは何度やっても慣れないものだ。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、バレルと、まずいから、それなりの、距離を、離したから。はぁ、はぁ、ここからは、いつも通りで」


【転移魔法】で膨大な魔力を使い、疲れ果てているミーナだがそれを言葉にするほど腑抜けてはいない。だが、疲れを隠せない程に肩で息をしながら、全身に汗が伝っている。

 だが、それをシーナ達は口にしない。口にしてしまえば、それはミーナに対する侮辱になるからだ。だから、自分達も普段通りにする。


「「了解」」


 作戦は簡単だ。

 ミーナの千里眼で捕まっている人達の居場所を掴み転移魔法で助けだす。一様転移させるのはここから程近いところにある、組織の隠れ家に転移させる手はずになっている。そして転移魔法で助け出したらすぐに自分達も離脱する。

 シーナとエルはミーナの護衛だ。

 そしてミーナは千里眼を使って捕まっている人達の場所を探る。


「……見つけた。でも、バラバラの場所に捕らえられている」


 さすがに頭がキレる。確かに一か所に集めといた方が管理などは楽に済むが、それをしないで別々の場所で管理するとは……。全員を助け出すのが難しくなった。どこか一か所の場所の人達は確実に助けられるが他の場所に捕まっている人達が……。

 何度も詠唱をする程の時間を与えてくれるほど今回の相手は甘くない。そして時間稼ぎができるほど弱くもない相手だ。


「……」

「……」


 そしてシーナもエルも神妙な表情になる。


「……助けよう」

「シーナ?」

「時間は私が稼ぐ」

「無茶よ! シーナ一人でどうこうできる相手じゃないのよ〈赤鬼(ブラット・キリング)〉は!」

「……分かってるよそんな事。でも助けたいじゃん。みんな。種族なんか関係なくさ」


 そしてニコッと笑うシーナ。そこには純粋に助け出したいという思いがヒシヒシと伝わってくる。そして頭の中にも。


「シーナ……」

「分かった。俺も時間稼ぎに付き合う。ただし俺は有象無象の相手だけどね。さすがに〈赤鬼(ブラット・キリング)〉と戦うのは勘弁したいからさ」

「本当! ありがとうエルさん!」

「エルさん……」

「ごめんねミーナ。俺もできれば助け出してあげたいんだ」

「はぁー、しょうがないですね。でも無理は禁物ですらね。あと、一様言っておきますが、もし危ないと思ったら私一人で逃げますから」


 私一人。つまりミーナ一人で【転移魔法】を使って逃げると言うことだ。

 それはシーナとエルにとっては移動手段がなくなるという事と同義。もし逃げようと思ったら自力で逃げるしかなくなる。でも〈赤鬼(ブラット・キリング)〉相手に逃げられるとは思えない。つまりミーナが居なくなった瞬間シーナとエルは死が確定する。


「良いよそれで」

「うん、私もそれで良い」


 そしてそれを分かったうえで二人とも了承の意思を渡す。

 この仕事は死ぬ覚悟が無ければ務まらない。


「そう分かった」


 二人の意思が固いと見たミーナは余計な事は言わずに自分の使命を全うせんと全力を出すだけだ。

 そしてミーナは魔力回復薬を飲み詠唱を開始する。

 詠唱を開始したのを見てシーナとエルは戦闘体勢で構える。


『閉ざされし門よ、我が道として開き給え。

 我は、遥か彼方、千里先、万里先を、超える者。

 我を阻む道よ、我の歩みを止める者よ、何人たりとも我の歩みを止めることなど叶わぬ。

 我を飛ばせ。

 道無き道に、門を開き、導く光よ、我が道を切り開け!』


 距離が近い為先程よりも格段に早く詠唱が完成する。


『テレポーテーション』



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 そして【転移魔法】が発動したと見たシーナは走り出した。

 早く、早く、早く駆け抜ける。だが、その足元は砂が舞い上がっているにも関わらず音が一つも出ない。これがシーナの固有スキル【無音(サイレント)】の力。

無音(サイレント)】は基本的に音が出ないという事。そして自分が起こした動作に対する音が無くなると言うものだ。今の状況のように。

 でも、その真価を発揮するのがこの速さと合わせ持った時だ。音を出さず相手の死角を突く。これがシーナの必勝コンボだ。

 音が無い。それは人間の五感の一つをなくすと同義。これがどれだけすごいか分かるだろうか? まぁ、それを説明するのは、また今度にするとしよう。

 そしてシーナは瞬く間に敵のアジトにたどり着き、そのスピードを生かし門番らしき者の首を切り裂く。そして首を切り裂いた者を小さなうめき声を上げ、地面にバサっと倒れ落ちる。だが、その音を聞く者は誰一人とて居ない。あ、いたわ。聞いてる人。自分(笑)。

 さてと、冗談は終わらせてさっさと|やる(殺す)か。

 アジトは簡単に言ってしまえば洞窟だ。自然にできたごく一般的な物。

 そしてシーナが洞窟に足を踏み出そうとした瞬間、頭の中に警報に似た音がなる。

 これは罠か。

 スキル【罠術】これは【罠感知】や【罠設置】、【罠解除】などといった物をまとめた物だ。

 基本的に【術】と付けばまとまっている物だと思ってくれて良い。まぁ、例外はあるが、今は関係の無いことだ。

 そして罠を解除しようと背を屈めた瞬間、強烈に嫌な予感がしたため、後ろに思いっきり跳ぶ。次の瞬間先程まで居た場所が爆発した。

 そしてシーナは跳んだ勢いを利用して距離をとる。


「へぇ~、今の避けるんすか。凄いっすね」


 その男はちゃらちゃらとした喋り方で、これまたちゃらちゃらとした格好で現れた。

 高そうな服に高そうな指輪、首飾り、ブレスレット。そんな物を身体のあちこちに着けおり、正直ダサい。そして何よりも怒りがくる。これほどの高価な物があると言う事は、それだけ被害にあった人がいるという事になるのだから。

 そしてそんな高価な物に並び異質な雰囲気を放っている杖。

 こんな馬鹿みたいな相手だがシーナには見覚えがあった。


「……お前は〈業火〉」

「お! おれっちの事知ってるんすか? いや~光栄っすね」

「またの名を〈豪華〉」

「ちょ! なんすかそれ! 〈豪華〉確かにおれっちは高価な物が好きっすけど、その名前は無いっす!」


 〈業火〉純粋な火の魔法使い。確認されているだけで、【爆裂魔法】【黒炎魔法】【火炎魔法】そして固有スキルの【紅蓮魔法】。これだけの火の魔法を持っている者はそうそう居ない。まぁ、逆に言えば火しか取り柄が無いともいえる。だが、油断できない相手だ。まぁ、それでも魔法士としての力はミーナの方が断然上だが。

 そして高価な物が好き。そのため一部の者から〈豪華〉と呼ばれている。

 賞金首でもあり、危険度Bランク。

 〈赤鬼(ブラット・キリング)〉と比べれば弱いが、それでも相当な腕の持ち主だ。でも、相性は良い。相手は純粋な魔法使い。返ってこちらはスピード型。速攻で片づける。

 そしてシーナが駆けだそうとした瞬間〈業火〉が動いた。


「いや~、おれっちも甘く見られたもんですぜ」


 次の瞬間洞窟の陰に隠れていた仲間と思しき男が、一人の女性を連れてきた。

 その女性の身体を見た瞬間シーナの頭に血が上った。女性の身体は隠される事などなくその体を現していた。そして身体のいたるところに火に炙られたかのような火傷と言うには生々しい跡があり、目を焼かれ、手足の指は切られ、髪の毛を無理やり抜かれたように頭部の肌が見えている。その様子はさんざん痛振られていた証拠に他ならなかった。

 そして〈業火〉は女性に近づき『火よ』と唱え、手の平に3cm程の火を灯した。


「さ~て、可愛いお嬢さん、動いたらどうなるか分かってるよね?」

「クソッ!」

「そうそう、良い顔をするね~」

「この外道!」

「あははは、それは褒め言葉かい?」


「おいおい一人で楽しんでんじゃあねぇよ」


 その声は突然聞こえた。

 どこから現れたのかも分からない。

 ただ、気付いた次の瞬間には私の後ろに立っていた。

 ただそれだけの事しか分からなかった。


「あぁ、ごめんごめんビン」

「その名で呼ばなと何度言ったら分かる」


 直感で分かったこのビンと呼ばれた者が〈赤鬼(ブラット・キリング)〉なのだと。

 怖い。怖くて後ろを振り向けない。


「それにしても来るの早いな。あいつ裏切ったか? まぁ、いいか。それにしても〈無音〉と〈転送者〉が来るとはな」

「な!? こいつ〈二重奏(デュエット)〉の一人なのか!?」

「あぁ、そうだぞ。だからせいぜい気をつけとくんだな」

「……あぁ、それにしてもやばいな。あの〈二重奏(デュエット)〉が来るとは……。どんだけの大物を出して来てんだよ……」

「まぁ、俺がいるんだ。安心しとけ」

「……頼もしいな」

「だろ。さて、なぁ、俺と遊んで行くだろ?」


 〈業火〉と何かを話しているようだが頭に入ってこない。

 無理だ勝てない。

 そう思った。

 戦う前に覚悟が砕ける。

 戦意が無くなり無様に願った。

「ここから逃げたい」と。

 でも、無理だ。こいつから逃げることなんて不可能だ。

 そう思わされるだけの力の差がある。

 ただ、後ろに立たれているだけなのに。

 私は上位クラスの強さだけど、所詮はその程度。トップクラスの力を持つ者には勝てない。

 本当に現実というものはこれだから嫌になる。強くなったと思っていても実際は自分より上の奴なんて腐る程いる。

 そんな時、後ろにいる気配が揺らいだ。

 驚き後ろを振り向けばそこに立っているのは——


「エ、エルさん!?」


 右手に剣を持ち、左手に何か光の粒のようなものを漂わせながら。


「逃げろシーナ!」


 そしてシーナから見て左側の方を睨みつけながら怒鳴ってきた。

 何が起きたのかはシーナには分からない。でも、エルさんが〈赤鬼(ブラット・キリング)〉つまり、ビンを吹き飛ばし私の後ろに立っていることだけは分かった。


「で、でも——」

「いいから行け! お前はこんなところで死んでいいやつじゃない!」

「エ、エルさんは!?」

「俺はあいつを倒す」

「!」


 倒す。無理だ。エルさんは私より弱い(・・)

 あいつを倒せるわけが無い。そう言葉にしようとした。でも、言葉が喉に引っかかって出てこない。

 私はビン相手に動くことさえできなかったのに対して、エルさんは自分の身を売ってまで、私のところにまで駆けつけてきれた。

 どう考えたって私よりエルさんのほうが強い(・・)

 そう思った時、半月前の記憶がよみがえる。「レベルだけが高い」そう勇者達に言ったのは紛れも無く私自身だ。レベルだけではなく、経験、技術、心構えが大事。そう語ったのも私自身だ。

 それなのにここでエルさんを置いて逃げ出すの? 「さすがに〈赤鬼(ブラット・キリング)〉と戦うのは勘弁したいからさ」エルさんはそう言っていた。それなのに私を助けに来てくれた。


 覚悟を見せられたのに私は逃げるの?

 ——行かないで!

 過去の私が言う。


 エルさんを置いて?

 ——置いていかないで!

 過去の記憶が言う。


 エルさんを見捨てて?

 ——助けて……。

 過去の私()が言う。


 そんなの無理だ!

 ——「大丈夫か?」

 だって——


 ——あの人にそんなかっこ悪いところ見せられる筈が無い!——


 だから私は戦う。

 そして改めて覚悟を決める。

 死への覚悟を。

 それをエルさんに伝えるため目を鋭くし決然と言葉にする。


「いえ、逃げません。自分の言葉には責任を持ちますから」


 エルさんの目を見つめる。私は残ると、そう伝える為に。


「……本当に頑固になったものだ」


 そうエルさんは呆れたように、そして成長した子供を見るかのように苦笑いをした。

 そしてシーナもそんなエルさんに感謝を伝えようと口を開きかけた瞬間、エルさんが目の前から消えた。


「! エルさ、ガハッ!」


 口を開いた次の瞬間には、衝撃がシーナを襲っていた。無残に地面を転がり15m程して、木にぶつかることで止まる。

 そしてビンは笑いながらこちらに歩み寄ってくる。


「いや~そんな茶番を見せられちゃ、俺感動しちまうぜ?」


 また、何も見えなかった。それどころか気配すら感じなかった。

 そして”手加減された”。〈赤鬼(ブラット・キリング)〉の攻撃を食らってこの程度のダメージで済む筈がない。その証拠にエルさんが飛ばされた方に顔を向けてみれば、木を何本も突き破り、はるか後方に吹き飛ばされている。どれだけ飛ばされたのかが分からない程に。

 エルさんは大丈夫だろうか?

 そして私は目の前にいるこいつを睨めつける。

 距離にして15m。

 そして私はここに来て初めてこのビンと言う男の姿を見た。

 身長は2mを超し、胴回りは樹木の様に太く、身体のいたるところに古傷跡がある。

 重厚な斧を肩に担ぎ、ノシノシと私のほうへ近づいてくる。


「クッ、この、ばけものめが! クッ~~~!」

「お、しゃべれるんだ? 凄いね。そこそこマジで殴ったのに。やるね~」


 どう見たって嘘に決まっている。

 私の意識はしっかりしているし、身体の傷はあるがどれもたいしたことの無いものだ。

 こんなものが〈赤鬼(ブラット・キリング)〉の筈がない!

 手加減された。それがどれだけ私に対しての侮辱か!

 屈辱で顔が歪む。

 ビンはそんなシーナの顔を楽しむかのように口を歪める。


「後で可愛がってやるからさ、そんな怖い顔するなよ」


 そうニヤニヤとこちらを見下しながらゆっくりとエルさんが吹き飛ばせれた方に向かって歩いて行く。


「ま、まて! わ、わたしは、まだ、たたかえる! イタッ~~!」


 声を出したために身体に痛みが走る。


「痛いなら無理しない方がいいぜ? それじゃ〈豪華〉後はよろしく」

「……その名で呼ばないで欲しいんだけどビン」

「お前がビンと呼ぶのをやめたら呼ばないでやるよ。それともう一人いるから気をつけろよ」

「了解。あ、こいつで遊んでていい?」

「別に構わないけど、壊すなよ?」

「わかってるって」


 そう言ってビンはエルさんが吹き飛ばされた方へ消えて行った。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 一方そのころ。


(クソッ! 意外と人数がいる。これじゃあ、間に合わない)


 ミーナはシーナ達の戦況が不利と見た瞬間逃げるため転移魔法を発動しようとしたミーナ。でも、それを見越していたかのように詠唱を開始した瞬間の隙をついて奇襲をされた。ギリギリで気付いたため、左腕を”切り落とされる”だけで済んだが、もう少し遅かったら首を切り落とされていたに違いない。

 だが、切り落とされた個所から血が出るのは止められない。それでもミーナは歯を食いしばり、痛みを気にせず頭を働かせる。


(5人? いや、6人か)


 魔法士相手にこれだけの人数を用意するなんて!

 でも、シーナやエルさんに比べれば弱い。私でも相手にできるほどに。

 でも腕が……。この状況で目の前にいる敵の足元にある腕を回収している暇はない。

 余談だが、ある程度、回復魔法が使える腕の持ち主なら、切られた腕も繋げる事ができる。ただし、そう時間が経っていなければだが。そしてごく一部の者なら切られた腕自体を生やすことができる。余談終了

 そしてミーナは目の前の敵目掛け、無詠唱で下級魔法【火球(ファイヤーボール)】を放つ。

 もちろん敵は楽々避ける。次の瞬間には軽い爆発が応じ、爆音と共に後ろにいた一人が私に襲い掛かってくる。

 ミーナはそれを見越してローブに魔力を通して身体全体を覆う様に【斬風】を発動する。風の刃なため目には見えない。しかし魔力を感じれる者に対しては意味をなさない。

 だが、敵は魔力を感じる事が出来ないらしくそのまま突っ込んで来た。

 その行動には今度はミーナが驚く番だった。

 さすがに気付かない筈が無いと思い、切り落とされた腕を取りに行こうとしていた為、突然背後から突っ込まれ、そして勢いそのまま地面へ転げ落ちた。

 顔から地面へ落ちたが幸い【斬風】を纏ってあったため、大した怪我などは無かったが、突っ込んで来た敵は悲惨な事になっていた。

 体中が切り刻まれ腕や足などは微塵切りみたいに粉々になり、頭を切り裂かれトマトみたいに中から液体が出てきていた。そしてミーナに覆いかぶさるような体勢なため腹が切り裂かれ背中に熱い何かが感じ取れる。

 さすがのミーナでもこんな物を目の前で見せられればさすがに堪える。相手もそんな惨事を目のあたりにして動きを止めた。さすがに人間である以上この悲惨な状況を前にして誰も声を上げられなかった。

 だが、それをいつまでも引きずる程、ミーナは腑抜けてはいなかった。

 そしてミーナは急ぎ自分の腕が落ちている所まで走りだし、それを見ていた相手は「ハっ!」として、正気に戻ったらしく走るミーナを追いかけ始めた。

 そしてミーナは杖を腰に差し、走る速さそのまま右手で腕を拾い上げ、くっつける事はせず右手で持ちながら詠唱を開始する。

 動きながらの詠唱は一様高等技術に数えられている。まぁ、そこそこの腕の持ち主なら普通にできることだが。


『我が道を遮る者に鉄槌を。暗き道よ灯れ、灯れ、灯れ! 【爆破】』


 次の瞬間、あたりを覆う程の光が包み込んだ。

 そして「ドンンンッッッッ!」という音を響かせながらあたり一面を吹き飛ばした。

【爆破】一様爆裂魔法の中級に位置する魔法だが、威力そのものは上級の魔法と遜色ない。それでも中級に位置するのは扱いやすく、簡単に発動できる為だ。

 基本的に爆裂魔法の魔法は扱いやすい。なぜなら、ただ、爆発させるだけだからだ。それでも位置を正確に設定したり、魔力の量を調節したりするという行為が必要だが。

 ミーナは魔法の詠唱を最低限にして、多大な魔力をつぎ込み発動した魔法。


「はぁ、はぁ、 ふぅー、さすがにあれだけの魔力をつぎ込んで発動した魔法だから結構疲れるね」


 だが、まだ油断はしない。多分今ので4人は殺し(ヤっ)た筈だ。

 でも、あの中に1人別格なのが居た。多分あれじゃ倒しきれていない。


『我に幸福あれ【エンチャント】』


 短縮詠唱をして自分の運を引き上げる。意味が無いように見えるが意外と戦闘時に置ける運は非常に大事なのである。まぁ、そもそもの話し運に頼っている時点でダメなのだが、

 ミーナは腕を直す前に敵を倒すのが先決と判断して魔法を唱えようとした時、右側から爆発音の様な物が聞こえた。次の瞬間にはすぐ目の前に人が通り過ぎていった。今のが当たらなかったのは運を上げたためだと思いたい。

 そして吹き飛ばされてきた人は、そのまま木にぶつかり止まった。

 その人を見た瞬間ミーナは声をあげていた。


「エ、エルさん?」



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 時は少し遡る。


 目の前に迫る斧の側面を剣で叩き軌道をずらす。

 斧は地面を叩き足場が揺れ体勢が崩れる。だが、それに構うものかと言うように右足を上げビンの顎を蹴り上げる————そう見えた次の瞬間にはエルの体が宙を舞っていた。


「へぇ~、ただの雑魚かと思ってたけど結構やるな」


(今何が起きた? 確かに俺はこいつの顎を蹴り上げた筈だ。なのに何で?)


 そう思考するエルを嘲笑うかのように、突然真後ろに周りこまれ殴り飛ばされる。

 先程からそうだ。こいつは突然どこからともなく現れ”殴られる”。斧を使わないで。

 でも、真正面から切り合う時は斧を使う。

 何でだ? そのまま斧で切りかかれば済む筈だ。なのに何でこいつは”殴る”んだ?

 痛めつけるため。確かにそうかもしれない。

 でも違う。長年の経験からそれは違うと断ずる。

 そう考えているエルにまた、ビンは後ろに現れ殴る。

 そしてエルは殴られた勢いそのまま地面を転がり考える。

 今確かにビンは前にいた。確かにそうだ。

 そして殴られた後に消えた(・・・・・)

 そう考えた瞬間、頭の中に一つの可能性が芽生えた。


 ————幻影魔法————


 それに合わせて【認識障害】の魔法かスキルを使ってきている。

 違う!

 こいつは戦士なんかじゃない。

 こいつは——。

 こいつは——。

 こいつは魔法戦士だ!

 同じように見えて意外と違う。

 戦士のほとんどが魔法が使えない。それは周知の事実だ。

 だから戦士を相手にするときは距離をとって遠距離から攻撃するのが定石(セオリー)

 だが、相手が魔法戦士の場合遠距離から攻撃するメリットがなくなる。だって、相手も魔法が使えるのだから。それがどれだけ戦況に影響を与えるか。まして、こちら側は相手が戦士と思い込んでいる状態だ。それがいきなり魔法なんかを使われたら、驚いて隙ができる。それがどれだけ小さい隙だったとしても、こいつは見逃さないだろう。


 ダメだ——。

 こいつを——。

 こいつをシーナ達の所に行かせるわけにはいかない!

 俺がここで倒すしかない!


「お前じゃ無理だよ」


 そう決意したエルの心を見透かす様にビンはエルの後ろに回り込んで、手に持っている斧を叩きつけた。


「ガハッ!」


 そして畳みかける様に魔法を発動した。今度の魔法はエルにも視認ができた。


(無詠唱で! いや、違う。こいつの持っている斧マジックアイテムだ!)


 次の瞬間には目の前が真白になった。



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 シーナは死角が出来ないよう周囲に気を配る。

 後ろに一人、左右に二人ずつ、前に三人。そして人質。

 女性を左右に挟むようにして二人の男が立ち。その3m程後ろの方で【業火】がこちらを見ている。


「諦めなって確かにお嬢さんはおれっちより強いけど、今の状況じゃ不利だぜ?」


 耳を貸すな。自分の思考だけに集中しろ。

 どうする。どうすればいい? 女性を助けた上でこいつらを倒す方法は?

 その時、頭の中に意思が伝わって来た。それを感じた瞬間シーナは身体を前に倒し左右の手にある短剣を強く握りしめて前を見据える。

 次の瞬間、遠くの方で爆発の音が鳴り響いた。

 地面が揺れ体勢を崩す目の前の敵達。


「な、なんだ!?」


 そして次の瞬間にはシーナは走り出していた。

【疾走】を使い今できる最速のスピードで目の前の敵の一人に切りかかる。もちろん【無音(サイレント)】を使って。

 だから、敵には目の前にいたシーナがいきなり目の前に来た様に見えただろう。いや、早すぎてシーナの姿を捉える前に首と胴が切り離されていたかもしれない。

 そして、無理やり地面に足を突き刺すようにして速度を落として、突き刺した足を無理やり反対側にいる方へ向けて蹴る。無理な体勢で地面を蹴ったため少し足を痛めたがそれを気にせず、シーナは左手に持つ短剣で、もう一人の敵の首を切り裂く。敵の二人を切り裂いたシーナは着地と同時に姿勢を直し地面を軽く蹴る。そして勢いをある程度制御して人質となっていた女性を素早く抱きかかえ【疾走】を使ってこの場を後にするのだった。




 敵は決して弱くはない。でもそれ以上にシーナ達の力が強すぎるのだ。

 その秘密が固有スキル【経験値共有化】。このスキルは今の世界ではシーナとミーナしか持ってはいない。だが、過去には同じスキルを持つ者が何人かいた。

 これはシーナとミーナの間でのみ効果が得られるもの。

 効果は文字の通り、経験値を共有する事ができると言う事だ。だからシーナ、ミーナのどちらか一方が魔物か人を殺せば、その経験値はお互いに共有される。もちろん半分ずつとかでは無く、丸々同じ分だけの経験値がもう一方に入ると言う物だ。

 これのお陰でシーナとミーナは若いにも関わらずこれほどまでの力を有する事ができたのだった。


 そしてもう一つの秘訣が固有スキル【同調(シンクロ)】。今の世界でもこのスキルを持つ者は何人かいる。

 このスキルもシーナとミーナの間でのみ効果が得られるもの。

 このスキルの効果はお互いの意志や考えていることなどが相手に伝わると言う物だ。大した事が無いように見えるかもしれないが、この効果は戦闘時ではかなり有利に事を進める事ができる。

 スキル【念話】とは違い相手の思いも感じ取れることができるため、今どんな事をやって欲しいのか、どいう思いをしているかなどを言葉に表す事なく相手に伝える事ができるのだ。そのため【同調(シンクロ)】は【念話】の上位スキルとなる。

 だが、二人は効果が若干被るスキル【念話】持っている。

【念話】伝えたい相手に言葉を届けることのできるスキル。つまり特定の相手にしか伝えられない【同調(シンクロ)】より【念話】の方が使い勝手がいいのだ。

 一様【念話】も簡単には手に入れる事の出来ないスキル。だが、二人は【念話】の上位スキルを使いこなしていたため、そこまで苦労する事なく【念話】を手に入れる事ができたのだった。


 この二つのスキルが元となり〈二重奏(デュエット)〉と言われるようになった。

 これほおどの力を手に入れる事ができたのは、もちろんスキルだけでは無く、自分の技術等を磨く努力をしてきた二人の成果でもある。



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 吹き飛ばされてきたエルに続きビンも来た為、ミーナは魔法を発動しようとしたが、目の前にいた筈のビンがいつの間にかどこかへ消えてしまい魔法を発動する事ができなかった。

 そしてエルさんがこちらを見て鬼の形相で声を張り上げた。


「ミーナ! 後ろだ!」


 そう言われて後ろ向けば。

 今まさにその手に持つ斧でミーナを叩き切ろうとしているビン。その顔には欲に塗れた嫌悪感を抱くいやらしい目でミーナを見下すビン。

 そして斧が振り下ろされる直前、頭の中に意思が伝わってきた。

 いつなんどきも自分が危険になれば助けに来てくれる切っても切れない無二の存在。

 ミーナはすべてを信じて魔法を唱える。詠唱を最低限にして、最速で最大の効果を発揮する魔法を。

 それと同時にビンの背後に人の形をした黒い影が現れ、その口元はかすかに動いていた。

 声は聞こえない。でも頭の中では聞こえるその声の主を信じて。

 声の主シーナは、ミーナのピンチを悟り捕まっていた女性を安全な所まで避難させた後、そのまま走って来たのだ。

 そしてビンの足元から黒い影が這い上り、拘束されていく中ミーナの魔法が炸裂する。


『我が敵を穿て【風突回転(ウィンド・クルス)】』


 動きを止めたビンの土手っ腹にミーナの魔法が直撃する。

 そして倒れて行くビン——————そう見えた次の瞬間にはミーナの魔法がシーナの脇腹に直撃し、脇腹丸ごと削り取っていく様子だった。


「ガハッッ!」


 口から大量の血を吐きながら倒れていくシーナ。

 削り取られた脇腹からは臓器がはみ出し血が流れ出す。

 それは誰が見ても致命傷だった。


「え?」


 それを呆然と見つめるミーナ。


「クソッ! シーナを連れて逃げろミーナ!」


 遠くで何か言っている声が聞こえる。

 でも、頭に入ってこない。


「シ、シーナ? シーナ、シーナ、シーナシーナシーナシーナシーナシーナシーナシーナシーナシーナシーナシーナシーナシーナ、シーナ! ねぇ、ねぇってば! 起きてよ! 聞こえてるんでしょ! お願いだから起きてよ、おねがい、だか、ら……」


 怨嗟のごとくシーナの名を呼ぶミーナ。そしてそれは悲鳴に変わり自分がやってしまった事への後悔。

 ミーナは混乱した心を落ち着かせ状況を冷静に見ようと努力するもできない。

 自分がシーナを傷つけてしまった。最悪死んでしまうかもしれないと思うだけで心の中が荒れ狂う。

 そんな時頭の中に意思が伝わってきた。それは紛れも無く目の前に倒れ伏すシーナだった。

 そして口を微かに動かすシーナ。


「だい、じょう、ぶだから、なか、ないで、ね?」

「で、でも私、私のせいでシーナが……」


 目から涙が出るのを止められない。

 止めようと思っても止まらない。


「そんな、こと、より、いまは、えるさんを、たすけて、あげて」

「でも私じゃ無理だよ……」

「おちついて、せんきょうを、みる、そう、いって、たの、みーねぇ、だよ?」


 分かってる。分かっているのだ。

 理性では、ビンと戦っているエルさんに加勢しろと。

 でも無理だ。

 ミーナの弱い心が訴える。

 私にはそんな大それた事できない。

 所詮私は妹さえ守れない姉なのだから。

 いつも私の事を助けてくれる妹なのに、いざ妹を助けようと思っても何もできない。

 今も昔も。

 何も変わらない。

 いつも妹に助けられてきた姉。

 どうせ私は今も助けられる側なのだと、そう思い知らせられる。

 所詮自分は妹とは違い出来損ないなのだと。

 誰かを助けるなんて自分には不可能だと。

 いつもそうだ。今日だってシーナは捕まっている人を全員を助けようとしたのに私は見捨てようとした。

 私に誰かを救うことなんてできない。

 そんな自己嫌悪に陥っているミーナに光を差す様に、シーナの手が頬を撫でた。

 弱々しく、でも優しさにあふれた手。


「だい、じょうぶ、だよ、みーねぇは、すごいよ。わたしが、しって、る。だから、がん、ばって」


 私は凄くなんかない。凄いのシーナの方だよ。

 誰かを信じて、元気いっぱいで、そしていつも笑顔な妹。そんな良い子な妹とは違い、私はいつも意地汚くて、人を疑うことしかできなくて、誰かを信じる事なんて出来ない自分。そんな自分が嫌いで変わりたいと何度も思ってきた。

 あぁ、だからか。だから私は彼に惹かれたのだろう。

 ほんの僅か。時間にしてしまえば10分かそこらの短い時間話しただけの相手。でもなぜか彼に惹かれてしまう私。そして今彼に惹かれていた理由がやっと分かった気がする。そして口元に笑みが自然と出来るのはミーナは感じた。


(ありがとう。貴方のお陰で私は立ちあがれそう)


 そしてミーナは抉り取られたシーナの脇腹を最低限【回復魔法】で回復させ、立ちあがる前に回復薬をふりかけとく。そしてミーナはエルさんに加勢するため一旦シーナから離れ歩き出す。

 歩きながらミーナは腕をくっつけて元通りにする。それでも失われた血は元に戻らないため、目眩を覚えるが、そんな事で弱音を吐くほどミーナは弱くない。

 そしてエルさんとビンが戦っている所まで来たミーナは戦況を見めるため、目に魔力を集め視力を良くする。それでも目を凝らさなければ見えないほどにお互いの動きが速い。

 お互いの位置を何度も交換させながら、剣の火花を散らしながら戦っている。

 ビンの斧が振られればここまでくる程の風圧。圧倒的なまでの力の差が目の前で見せつけられる。

 だが、ギリギリ目では捉える事が出来るが、変に手を出せばエルさんの戦いの邪魔をしてしまうため手を出せずにいる。だから、ビンと離れた一瞬の間にエルさんを回復できるように魔法を準備をする。今の私にはこんなことくらいしかできる事がないから。

 そんな時、エルさんの背後を取ったビンは、そのまま斧を振り下ろした。エルさんはギリギリで自分と斧の間に剣を入れる事に成功するが衝撃までは消せずそのまま吹き飛ばされていくエルさん。


「エルさん!」


 ミーナは手を出せずにただ、見ていることしか叶わない。

 それが悔しくて、悔しくて、悔しくてたまらない。

 見ているだけで助けに行けない自分が情けない。

 そして痛感する。

 こんなにも自分は弱いのか……。

 エルさんみたいに勇気がない。

 シーナみたいに自信がない。

 私には何があるんだろう?

 私だけにしか持っていない物。

 私は私自身の事が信じられない。

 でも、シーナが信じてくれる。

 なら、シーナが信じてくれている私を信じよう。

 そう思い一歩前に出た瞬間、後ろに気配を感じた。

 あぁ、まただ。また私は同じ事の繰り返しを……。今度はシーナが助けに来てくれることはない。

 衝撃に備えて構えていたが、いつまでたってもミーナを襲う衝撃が来なかった為後ろを向けば、こちらをニヤニヤとした気味の悪い顔で立たずんでいるビン。


「よぉ〈転送者〉さん」

「……」


 ミーナは油断なくビンを見つめる。いつでも動けるように臨戦態勢を崩さない。

 そしてミーナを囲うように集まってくる人達。多分ビンの手下なのだろう。

 そしてビンの後ろ側、つまり先程までミーナがいたところから人を引きずって歩いてくる人がいた。そして引きずられているのはシーナ。


「シーナ!」


(馬鹿か私! 相手は一人じゃないのにシーナを一人にするなんて!)


「面白くなってきたな! さて、この女をどうしようかな~」


 そう言ってビンはシーナの髪を掴み無理やり顔を上げさせる。


「ごめん、ね、みーねぇ……」


 自分が足手まといになっていることが悔しくてたまらないという顔をするシーナ。

 違う。違うよ。本当に足手まといになっているのは私の方だよ。シーナを傷つけてしまったんだもん。


「あー、本当に良いね! その仲間思いの感情がいつまで続くだろう、ね!」


 そう言ってビンはシーナの右腕を掴み捻った。「ゴキッ! ゴキッ!」と音を鳴らしながら曲がってはいけない方向に曲げていく。


「うあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「シーナぁぁぁぁ!」

「あはははは良い声で鳴くじゃねぇか!」


(クソッ! クソッ! クソッッッッッ! もうやるしかないのか! でもやればシーナが……。どうすればいいのよ! でもこのままじゃシーナが……)


 そしてミーナはスキル【暴破壊(バーサーカー)】を使おうとしたが、それをシーナが止める。


「ダメ、だよ、みーねぇ、あれを、つかっちゃ、ダメ、だから、ね?」


 脇腹を抉り取られているにも関わらずシーナは声を出す。

 そんな時、あの汚い笑い声が聞こえて来た。


「あははははははは! 良いね、良いね。その姉妹愛。もっと俺を楽しませろ!」


 そう言ってビンはシーナの反対の腕をへし折って行く。


「うあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「シーナーーー!」

「早くしねぇとこいつ死んじまうぜ! あはははは! おらおら、どうしたどうした! もっと泣き叫べや!」

「うあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「きさまぁぁぁーーーーーーーーーーーーー!」


 シーナの悲鳴を聞き我慢の限界を超えたミーナは【暴破壊(バーサーカー)】を使う事に決めた。


(ごめん、シーナ)


暴破壊(バーサーカー)】自分の理性をなくし、ただの化け物となり変わり、破壊の限りを尽くす様になるスキル。

 ただし、全ステータス2倍になるスキルでもある。だが、理性がないため技術や駆け引きなどが無いため、対処しやすくはなる。それでも、ステータスに物を言わせた戦いをするため、力そのものが無ければ対処する事が出来ない。

 これを使ったところでこいつを倒せるとは思っていないが、時間稼ぎ位はできるはずだ。


 そしてミーナはスキルを発動させようとした時、一陣の風が吹いた。

 次の瞬間には笑い声が消え悲鳴に変る。


「うわわああああああぁぁぁぁぁーーーーー! お、おれの、う、うでがーーーー!」


 そして先程までさんざんこちらを嘲笑ってきていたビンの腕の先が無くなり、地面に蹲って切られた腕を押さえていた。

 そのすぐそばに立つのは黄金の髪をしたエルフの女性。いや、違う。黄金に見えるけど緑の髪の色だ。ただ、神々しくて黄金に見えるだけであって。

 それはかつてアキトと一緒にいたクルス(・・・)の姿だった。


「き、きさまーーーーー! 絶対にゆるさねぇぇぇぇぇーーーーーー!」


 そしてビンがクルスに襲いかかろうとした時、風が吹いた。

 次の瞬間には地面に倒れているビン。

 何も見えなかった……。

 私達が手も足も出なかった相手を一瞬で……。

 何をしていたのかさえ分からなかった……。

 そして静かに立たずむその姿は一層凛々しかった。

 誰もが固唾を飲みその姿を見つめる。


「あ、あいつ! し〈疾風〉だ!」


 そして誰が言ったのかは定かではないがその言葉を聞いた瞬間誰もが正気を取り戻した。


「な! 〈疾風〉だと」

「緑の髪に黄金のオーラ。妖精の形をした髪飾り」


 そう言葉にしていく者はどんどん顔色を悪くしていき、今では青を通り過ぎ白になってしまっている。


「細剣を持ち、その柄には緑の魔石。そしてエルフ。ほ、本当だあいつ〈疾風〉だ!」


 〈疾風〉それは二つ名と呼ばれる物だ。有名になれば自然と呼ばれる様になる名。それは大変名誉なことだ。二つ名が付くと言う事は、それだけ有名になったと言うことなのだから。

 その中でここ最近突出していると言われているのが〈疾風〉。

 〈疾風〉は世間に現れて、たったの三年程で冒険者ランク、Sランクになった者だ。

 今は詳しく説明しないが冒険者ランクを高い順に並べるとこんな感じだ。SSS、SS、S、A、B、C、D、E、F、Gとなる。とりあえず凄い人と覚えればいい。

 元々かなりの強さがあったのは間違いない。それでも、力だけでSランクに成れるほど甘くない。

 もちろん力量も考慮されるがその他にも、ギルドへの貢献度、人柄などを認められて、やっとの思いでSランクと言う名誉が与えられる。


 二つ名の理由は単純明快、とにかく早いのだ。

 それはランクの上がりだけではなく、足の速さ、なにより魔法の発動スピードが群を抜いて早い。それは異常なまでに早いのだ。手を振るだけで街を壊すほどの風を吹かせることが可能と言われる程だ。

 そして冒険者でありながら、その美貌はエルフの中でも最上級の美しさだと言われている。また(ちまた)では「王族の一人」と噂されるほどにその容姿は見目麗しい。

 エルフ特有の耳の長さやスタイルの良さ、身体に纏う神々しさから、時としてこう呼ばれることもある。


 ————”神姫”————


 と。そして名のある者にはいくつもの二つ名を持つことがある。それは地域の違いや認識の違い、立場で変わる。

 ここではいくつか名を挙げて行こう。〈森の女神〉〈風神〉〈精霊の守護者〉〈神災〉等のいくつもの二つ名を有する者。

 だが、正式に冒険者ギルドが決めた二つ名が〈疾風〉だ。そのためいくつもの二つ名があるがほとんどの者が彼女を〈疾風〉と呼ぶ。

 そしてこれがこの世界の〈最強の一角〉と呼ばれる一人。私やジョセフとは違い”本物”の力を持つ者。

 そして、”神に選ばれた者”でもある。

 少し話がずれるが、普通に考えれば〈疾風〉では〈赤鬼(ブラット・キリング)〉に勝てない。それはランク的にもそうだし、何よりレベル差が圧倒的な程開いているからだ。

 〈疾風〉は冒険者ギルドの情報だと、310~330の間。

 対して〈赤鬼(ブラット・キリング)〉は正確には分からないが400前後と言う情報がある。

 レベル80も離れているにも関わらず、何故〈疾風〉が〈赤鬼(ブラット・キリング)〉に勝てるのか不思議に思うかもしれないが、話は簡単だ。先程も言ったが〈疾風〉は神に選ばれし者だからだ。

 それは勇者と呼ばれる者達を遥かに上回る程に強さを持つ者。一様勇者達も神に選ばれた者だが、その本質が異なる。

 勇者は数多くいる中から選ばれた者達だが、〈疾風〉含め本当に神に選ばれし者達は存在そのものが望まれて生まれて来る。もっと言ってしまえば神の化身に他ならないのだ。

 それは時にしてこう呼ばれる。


 ——————”英雄”——————


 と。

 時代が過ぎようとも語られ続ける物語。

 人々が憧れ、夢見る存在。

 自分も英雄のようになりたいと。

 そしてミーナも幼かった頃の思いが再来する。

「誰もが楽しく暮らせる世界を作りたい」

 いつの日にか忘れてしまった夢。

 大人になり、そんな事は不可能だと思うようになってしまった。

 何より自分が「楽しい」と言う美しい物から離れてしまった。

 そう殺しと言う名の穢れに。

 それは一人でも救いたいという思いからやってきた事だ。

 でも、いくら理由があろうとそれは人殺しと言う事に変わらない。

 そんな自分とは違い美しく、綺麗に舞う存在。

 敵と戦いながらも妖精のように美しく舞っている。

 その姿はあたかも英雄譚の1ページであるかのように。

 言葉では言い表せない程に美しかった。


 そしてまた〈疾風〉は剣を一振り。ただそれだけで敵は倒れていく。

 たった一振り、力も大して入れてないにも関わらず次々と敵が倒れていく。

 これが神に選ばれし者の力なのか……。

 痛感する。自分達がどれだけ無力かを……。

 そんな中、ミーナは胸を掴み動悸を抑えこんでいた。

 何でこんなに胸が高鳴るの? でも、この感じどこかで感じたことがある。どこだっけ?

 そんな事を考えている間も〈疾風〉は敵を次々と無力化していく。その姿を見れば見るほど動悸が激しくなっていく。

 ミーナは恍惚とした表情をして〈疾風〉の戦い振りを見ていた。

 その心にあるのは一つ。

 あぁ、そうだこの感じアキト君に感じた物と同じだ。

 良い。

 その姿。

 その輝き。

 その顔。

 その眼差し。

 あぁ、良い。

 そのすべてを——


 ————壊したい————


 壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、グチャグチャにしてしまいたい。

 そしたら、その顔はどんな表情になるんだろう。

 見てみたい。

 その恐怖に慄く顔が。

 その綺麗な顔を歪めてしまいたい。

 あぁ、止まらない。

 興奮しすぎてイってしまいそう。

 あぁ、もう止められない。

 そして、ゆらりと立ち上がり一歩前に出ようとした瞬間、()の意識が戻ってきた。


「え?」


 そして次の瞬間には恐怖で足が竦み腰が抜け、歯を打ち鳴らす。


「あぁ゛あ!」


 〈疾風〉はただミーナを見ているだけ。

 なのにミーナは動くことさえできず、ただ震えるのみ。

 殺される。

 確かにそう感じた。

 次元が違いすぎる。

 これが本物の力。

 これが最強と呼ばれる者。

 これが神に選ばれた者。

 何度でも言おう。

 これが最強(・・)なのだと。




 そして敵をすべて気絶させ終えた〈疾風〉はこちらを見て納得顔を作り、ゆっくりと私の方に向かって歩いて来る。私の目の前まで来た〈疾風〉は私の目を見て真剣な顔で言う。


「しっかり自分を意識して」


 そう諭す様に優しく言われる。

 そして私は〈疾風〉に言われた通り「自分を意識する」ように意識した。


「深呼吸をしようか。はい、吸って」

「スゥーーーー」

「吐いて」

「ハァーーーー」

「よし、落ち着いたね」

「……はい」


 先ほどまで感じていた動悸がなくなり、心が安らぐ。

 まるで森の奥深くにいる様な自然の空気。いや、神聖な空気。

 そして実感する。これが神達から受ける恩恵なのだと。

 落ち着いた頭で考える。何故〈疾風〉がここにいるのか。確か情報では〈疾風〉はハイド国の首都バランに向かっているはずだ。なのに何故ここにいるの?

 そんなミーナの心を読み取ったかのように〈疾風〉答える。


「頼まれたからよ」

「え? 頼まれた?」

「そう。ジンバさんにね」

「!? ジンバさんが……」

「えぇ、何でも危なっかしい娘が心配なんだって」


 その言葉を聞いた瞬間、胸が暖かく包まれるように感じた。


「……そっか。そう思ってくれてたんだ」


 そんな姿を見ている〈疾風〉は眩しい物でも見るように目を細め、諦め交じりの表情を作る。

 心を殺し私情を挟まないように。

 感情を表に出さないように。

 そんな顔をして私を見ながら言う。


「良かったわね」


 その意味を知る事は多分私には出来ない。

 でも、その表情、その顔はまるで”生きる意味が無い”と言っているようだった。

 それは私には分からないかもしれないけど、彼なら理解出来そうな気がした。

 確かクルスさんは彼と会っているはずだ。

 なら、言葉少なくとも通じる筈だ。

 だから私はこう言葉を紡ぐのだ。


「貴方を理解してくれる人は居なかったんですか?」

「!」


「ハっ!」となり次には噛みしめる様に言う。


「……そうね、理解してくれた人が居たわね」


 そう、ここでは無いどこかを見つめながら言葉を紡ぐ。


「でも、多分理解し合えたとしても、彼とは”敵”になってしまうから……」


 あぁ、それはやばいかもしれない。彼の事は良く分からないけど敵になった相手には容赦なさそうだし……。


「でも、それでも良いかもしれないわね。敵として刃を交える事が出来るのだから」


 その言葉に込められている思いを私は知らない、知ってはいけない。

 でも、どこか彼と似ている彼女を見ているのは心苦しい。

 だから、私はこう言葉にするのだ。


「だったら私と歩きませんか?」

「!?」

「私は貴方みたいに強くはないけど、一緒に歩いて行けるだけの力をもっています。それに私も彼に会いに行かなければいけませんから。だから、もし良かったらですけど、私と私達と一緒に行きませんか? 彼の元まで」


 そこにある感情は今もなお、分からないままだけど、それでもそこに一つの感情が芽生えるのを感じ取る事が出来た。


「……えぇ、ありがとう。一緒に行きましょう、彼の元まで。それが敵か味方かは分からないけどね」


 そして私達は一歩前に踏み出すのだった。


 と、かっこつけたものの、まずはこの状況をどうにかしなければいけない。気絶させた誘拐犯に被害者の人達。

 そしてミーナは場をまとめる為、一旦被害者の元へ行こうとした時ミーナを呼ぶ声がした。


「待ってよミー姉! 置いて行かないで!」


 何かの決意を固めた様に見えるミーナを見たシーナは姉に置いて行かれないように急いでこちらに走って来て隣に立つのだった。


「シーナもう大丈夫なの?」

「うん。最上級回復薬1個と上級回復薬を数個使ったから。それに回復魔法を使える人がいたから直してもらちゃった。だからもうばっちり!」

「そう」


 確かにシーナの身体にはミーナに削り取られたわき腹や折れた腕や傷ついた身体は完全に元に戻っていた。これが最上級回復薬の力。


「それじゃ、後片付けと行きますか」

「そうね」

「頑張るぞー!」


 そして今度こそ前へと進むのだった。


「俺の事を忘れないで欲しいんだけどな」

「「あ」」


 そしてエルの存在を思い出す二人であった。




 そしてミーナは思う。

 先程感じた動悸。〈疾風〉もといクルスさんを殺したいと感じたあれは一体何だったのだろう? そしてあの感じはアキト君にも感じたものと一緒だった。つまり私はアキト君の事を殺したいと思っているのだろうか? 分からない……私自身の事なのに何も分からない。

 もしかして【暴破壊(バーサーカー)】のせい? 私は今までこのスキルをあまり使ってこなかった。最後に使たのだって三年前の時だ。そしてこのスキルに関して不明な点がいくつもある。

 このスキルで分かっていることは、使うと私の意志がなくなり、ただの破壊者となる。ただ意識は何と無くだがある。

 それだけのものだと思っていた。

 これだけ言うと先程のものと「何が違うんだ」となるかもしれないが決定的に違う点がかある。

 それは、特定の物に対しての壊したいと思う衝動だ。前の時はなんでもいいから壊したくて、たまらなくなるようなものだった。だが、今回は明確に壊したい相手がいた。そう〈疾風〉のクルスさん。

 何故クルスさんに対してあれ程までに破壊衝動が出たのかが分からない。

 そして、そのことが気がかりだ。私は今までに仕事の関係上色々な人と会ってきた。でも、これまでに会ってきた人達には先程感じた破壊衝動はなかった。

 つまり条件があるはずだ。他の人に無くてクルスさんのみ持っているもの。

 力? 魔力? 血筋? レベル? スキル? 加護?

 うん? 加護? つまり神の恩恵?

 確証は無いがクルスさんは神の力を使えるらしい。もちろん実際に見た事はないけど、風の噂でそんな事を聞いた気がする。

 そしてアキト君も勇者召喚で来た一人。十分に神の恩恵があってもおかしくない。いや、でもやっぱりおかしい。私はアキト君以外の勇者達にも会っているが破壊衝動はしなかった。

 つまりアキト君だけ神の恩恵を持っているということ?

 う~ん、分からない。

 クルスさんとアキト君が持っているものか……。

 ん? ちょっと待って!

 クルスさんとアキト君に破壊衝動を覚えたという事はクルスさんにしかない物をアキト君が持っているということ。つまりそれは召喚されたばかりの人が最強と呼ばれる者と同じ何かを持っているという事になる。

 ブルッと鳥肌が立つ。

 アキト君、貴方は何者なの?


 その答えを知る者は、まだ誰もいない。



次からは本編に戻りますので、これからもよろしくお願いします。

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