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神殺しの英雄譚  作者: 漆原 黒野
第1章 旅立ち編
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姉編 第2話 契約

 


『それでしたら私と契約しませんか』


 それは声としてではなく心に直接語られてくる様な不気味な感覚だった。


「だれ!」

『貴方の弟を探したいのなら私と契約しなさい』


 私の問いに答えて欲しいのだけど……

 まぁ、一旦その事は置いといて。

 契約? どいう事?

 ていうかこの声はどこから聞こえるの?

 それよりも「弟を探したいのなら」か。

 とりあえず分かんないことは聞けば良いか。


「どいう事?」

『貴方の弟は勇者召喚で異世界に行きました。そして彼はあの方に選ばれたのです。ですがあの方は彼の様な存在と一緒に居て、いいものではありません。そこで私は彼からあの方を救い出したいのです』


 異世界!?

 それってアニメとかにあるやつ?

 ……アキくんが好きそうね。

 あいにく私はその辺の事は知らないのだけど。

 でも、言葉の意味は分かる。


「つまりアキくんは別の世界に行ってしまって、そこで貴方の知り合いと一緒に居ると言う事?」

『えぇ、まぁ、そんなところです』


 なぜ、そんな状況になったかは分からないけど、とりあえずアキくんは生きてる!

 そして、もしかしたらアキくんに会えるかもしれない。

 先程の思いを伝えられるかもしれない。


「この際異世界とかそいうのは置いとくとして、貴方と契約すればアキくんに会えるの?」

『えぇ、貴方の頑張りしだいですけど。と言っても過酷な労働とか人体実験とかそいう類の物ではなく、ただ単に探すのが大変という事ですけど』

「要するに、どこに居るかもわからない相手を情報一切なしで探し出すわけ?」

『簡単に言えばそうなります。ですが、そこまで難しいことではありません。貴方の弟さん、秋人さんは勇者召喚で異世界に行きましたので、勇者召喚をした国に逝けば会える可能性が高いです』

「なるほど」


 それでもどれだけの範囲かは分からない。多分相当大変だ。

 それに会える可能性が高いだけで会える保証は無い。

 でも私は会える可能性があるのなら乗ってみるのも一興だとも思う。

 ……そもそもなんで、この事を私に?


「なぜ私にそんな事を?」

『私はあの方を救いたい。貴方は弟さんに会いたい。どちらも同じ人物を探しているのだから、一緒に探してもらいたいのです。と言っても私には色々としがらみや規則などがありますから探すのは貴方だけですが』

「つまり貴方自身が動けない何かがあると言うことね?」

『……えぇ、そうなります』


 これは良いアドバンテージだ。

 契約でもなんでも、相手の弱みを握ってた方がうまく事を運べる。

 まぁ、内容にもよるけど。


「いくつか質問させてもらっても良いかしら?」

『えぇ、良いですよ。答えられる事なら』

「まず貴方の事は何て呼べばいいかしら?」

『そうですね………………………………………………………………………………………………………………』


 そう言って謎の存在は1分ほど黙り込んで考えていた。


「長い!」


 答えが出る前に遥香が痺れを切らしてツッコんだ。


『すいません。どう答えて良いものかと考えておりまして……変な名前だと嫌ですし、良い名前すぎると逆に引かれそうなものでしたから……』

「……別にそこは気にしなくても良くない?」

『でしたら遥香様が私の名前をお考え下さい』

「いや、元の名があるならそれでいいと思うけど……まぁ、いいか。それじゃあ、ピクシーで」


 特に深い意味は無いけど、妖精と言う事で。

 こんな事が出来るのは神とかそんな存在だけだ。

 ……悪魔かもしれないけど。状況的にこちらの方が可能性としては高いと思う。

 まぁ、どうせ形だけの名前だしね。

 だが、この時は知らなかった。遥香とピクシーの付き合いが長くなることなど。


『ピクシーですか。ではそれで』

「良いんだ……」


 人に名前を付けられるのってなんか嫌じゃない?

 あ、でも渾名(あだな)とかも他の人からつけられるものか。

 なら、別に不思議でも無いか。


「そう。ではピクシー貴方は一体どんな存在何なのかしら?」

『それはお答えできません』


 まぁ、予想通りの答だ。

 でも、こんな超常現象的事が出来るのだから普通ではないだろうけど。

 そもそも別の世界があること自体が不思議だよね。


「じゃあ、ピクシー契約内容、それと私と貴方が契約した場合のメリット、デメリットを教えて欲しいのだけど?」

『契約内容と言っても大したことありませんが。まぁ、説明する分には構いませんか。契約内容はいたってシンプル。私が遥香様に求めるのは「秋人様を探し出すこと」それだけです。そして私は出来る限り遥香様の事をサポートします』


 ………………


「え!? 本当にそれだけ?」

『契約内容と言うか、私が遥香様求めるのはこれだけです。私はただあの人を救いたいだけですから。もちろん断ってもらっても良いですよ? 貴方が無理なら他の人を探すまでですから』


「あの人」がどいう人なのか私は知らないけど慕われてるのね。

 ここまで一生懸命になって探してくれる人が居るのだから。

 でも——


「一生懸命に探すのは良いけど、それは脅迫と言うのよ?」

『確かに脅迫ですね。ですが本当の事です。私は遥香様でなくても良いのですから。遥香様を選んだのはただ単に「同じ人を探している」と言うことだけですから』

「……それって結構大事なことじゃない?」

『えぇ、そうですね。ですから初めに遥香様を選んだんですから』

「あぁ、なるほど。私が断っても別にピクシーに取って痛くも痒くも無い言うことね?」

『いえ、探してもらう人を探すのに苦労します』


 先程アドバンテージだと思っていた事がなくなる。

 と言うか私の方が不利になる……

 それを誤魔化す様な感じで遥香はピクシーに茶々を入れる。


「……うまい事、言ったつもり?」

『いえ、そういうわけではありませんが……おっと、話がそれましたね。私と組むメリットですが、大前提として異世界に行けます。そして向こうで苦労することなく生活することが出来る様になります。それに向こうでは命に関わる事が多いですから、その辺も援助します。こんなところですかね?』


 確かに大前提として私がアキくんを探すためには、まず異世界に行かなければならない。もしこの話を断った場合、異世界には自力で行くしかないけど……そもそも自力で行ける様な場所ではない。

 だが、この話に乗れば異世界に行けるだけではなく、生活の保障もしてくれると言う。

 なんて都合が良い取引だろうか。

 でも、信用ならない。

 この話がどこまでが本当の事なのかさえも分からない。

 生活の保障をしてくれると言う。だが、本当に保障してくれるかは分からない。

 そもそも大前提としてアキくんが異世界に行ってる保証も無いし……それを言ったら異世界とかか本当にあるかもわからない。

 それに相手は人の脳? に直接話し掛ける様な意味不明な力を持っている。

 どこまでが本当で、どこからが嘘なのかを見極めないといけない。


『そんな疑わなくても良いですよ』

「!?」


 心を読まれた!?

 確かにこの意味不明な存在なら、人の心を読むことが出来そうだけど……

 ……これじゃ交渉も何もあったもんじゃない。


「……疑いたくもなるわよ。ピクシー、貴方の存在は意味不明だもの」

『えぇ、確かにそうですね。まぁ、とりあえず遥香様には秋人様を探してもらえれば、それでいいですから。向こうで犯罪者になろうが殺人鬼になろうがなんでも良いのです』

「……いや、そんな事しないから。と言うか話聞いてた? なぜ行くこと前提で話しているの?」

『え!? 行かないんですか?』


 ピクシーは本気で驚いている様子だった。


「…………行くけど」

『なら良いじゃないですか。それに結局、遥香様は秋人様と会いたいのなら、私の提案に乗るしかないのですから、疑ったところでなんの意味も持ちませんよ。それよりも私の機嫌を取っといた方が身の為ですよ?』

「……」


 確かに、確かにそうだけども!

 なんか納得いかない!


『それに私は最終的に秋人様を探し出すことさえできれば良いので、それまでの過程などはどうでもいいですから。探し出すために必要な物はこちらで出来る限り用意いたします。ですが勘違いしないでもらいたいのは、これは遥香様の為では無く私の為です。もし見つける事が出来なかった場合、罰を与えます』


 罰がどんな事なのかは分からないけど、私だってアキくんに会いたいから一生懸命に探すから。


「その心配はしなくていいよ」


 それに私は別に約束を破る気が無いし。


『どうですかね? 人間と言う生物は私利私欲の為に動きますから。”昔の貴方”の様に』

「!?」


 ……昔の私。

 どんなに後悔しても、それは私の中に一生残る物だ。

 改めたからと言って、過去に犯した事は変わらない。

 ……確かに信用出来ないね。


『私は言葉ではなく行動で示して欲しいのですよ』

「分かってるわよ、そんな事……」

『そうですか? それならいいです。では、話を戻して、デメリットの方は……そうですね、まず目立つ事ですかね? それと先程も言いましたが探し出せなければ罪が与えられる事ですかね。後は何かありますかね?』


 あ、この子意外と馬鹿かも?


「……私に聞かれても困るんだけど」

『あ、すいません』



 結局私はピクシーの提案に乗るしかない。でも、信用ならない。

 異世界に行ける保証も無い。異世界にアキくんがいる保証も無い。異世界に行けたとしても生きていけるかもわからない。信用ならない点を上げれば埒が明かない。

 まぁ、逆にわかった事もある。

 人の頭に声を聞かせられる。人の心を読むことが出来る。意味不明な存在。

 何これ? 分かって何になる?

 これだけ見たらピクシーは悪魔だ。まぁ、実際そうなのだろう。

 それに契約内容が私にとことん都合が良いなんて、そんなの悪魔のささやきに決まってる。

 そう分かっていても乗らなければいけない。ほんの少しでもアキくんに会える可能性があるのなら。でも信用ならない。本当に乗って良いのか分からなくなる。

 はぁー、何このジレンマ。

 もう色々考えすぎて頭が痛くなってた。

 そもそも、なんで私がこんなに悩まなくちゃいけないのよ。もういっその事……

 ッ!?

 ……今私何を考えた?

 今私は「もういっその事異世界に行くのはやめよう」と考えた。考えてしまった。

 ほんの30分程前に決めた決意を忘れて……

 私はまた私の都合でアキくんを見捨てる様な事を考えてしまった。

 私はそんな自分が嫌いだ。

 何でも出来てしまう自分が嫌いだ。

 何でも出来るのにアキくんには何も出来ない(矛盾してる)。

 私は私の事しか考えられない自分が嫌いだ。

 私は損得感情で動いてしまう自分が嫌いだ。

 そうまた、私は自分の事ばかり考えてしまう。

 過去の過ちから何も学べない。

 だから私は”昔の私”に戻ってしまう。

 先程言われたばかりなのに……


 やはり人はそう簡単には変われないということか……




 あれからピクシーと色々話しをした。

 契約内容を事細かく確認しり、普通に親睦会的にたわいもない話などをした。

 例えば、異世界とはどんな世界なのか、私に協力すると言ったが正確にはどんな事をしてくれるのか、などを4,5時間みっちり話し合った。

 その結果、結局私はピクシーの提案に乗る事にした。


「分かったわ。お望み通りに乗ってあげる」

『そうですか、ありがとうございます』


 そして遥香の身体は光に包まれていった。

 約10秒程立って光は完全に遥香を覆い尽くし、その後に残る物は、散らかった部屋だけだった。


『今行きますから、お姉様』


 その声を聞く者はいなかった。




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 ????視点


 とある場所にある家の一室に一人の少女がいた。

 部屋はどこかの誰かさんとは違い綺麗に片付けられている。

 少女の姿は少し遥香に似ていた。だが、似ているだけであって全くの無関係な人。

 身長は168cm程、胸はかなりあり(D位)、お腹の部分はかなり細く、足はスラーっといている。顔立ちは大人びて綺麗な顔をしている。髪の色は黒では無く茶色に近い黒で、肩よりを少し長いと言った感じだ。

 やはり、それは遥香に似ていると感じる物がある。だが、先程も言った通り似ているだけであって、遥香とは全くの無関係な人。


 少女は虚空を見つめ、見えない何かと会話をしている様に見える。だが、やはり誰もいないし何も見えない。

 少女には何かが見えているのかもしれない。


「良いわ、乗ってあげる」


 誰もいない部屋で喋っている、少女の問いに答える声は聞こえない。

 そのはずなのに少女は答えが返って来たかのように反応をしている。

 それは傍から見れば不気味だ。


「少し待ってて」


 少女は座っていた椅子から立ち上がり、部屋の隅にあるタンスに行き一番上の引き出しから、首飾りを出した。

 首飾りは花の形をして、全体的に銀の色が強く少し赤みが入っていて、光に当てればその美しい銀の色がキラリと輝く。

 少女は知らないだろうが、この花はリコリス、花言葉は「再開(・・)」。

 それが偶然か必然かは、まだ誰も知らない。

 そして少女は首飾りを自分の首にかけた。


「いいわよ」


 少女は光に包まれていった。


「待っててね”シュウ”。今行くから」


 少女はそう言葉を残した後、完全に光に覆い尽くされ、この部屋、この世界から姿を消した。



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