姉編 第1話 悲しみの過去
すいません、時間軸的にここに入れました。
過去のことはもう少し引っ張りたかったんですが……
ある日、事件が起きた。
その事件とは千葉県にある○○市の場所にある学校の1クラス全員が突如として消えたことだ。
その1クラスには36人もの学生達、それと教師の1名が突如として消えたことにより、瞬く間にマスコミなどの記者たちが話題に上がった。
この事件について警察は何と300人にも及ぶほどの人材を派遣し、調べあげた。
それだけ、世間はこの突如として消えた事件を話題に上げているのだった。
だが、この事件の真相については警察が調べてはいるが、今のところ全く情報がつかめていないらしい。
それに伴ってマスコミなどは警察ではなく消えた子供達の保護者などに標的を変え、報道している。
そして消えたのが学生と言うこともあって、子供を持つ母親などにも話を聞いては報道している。
そう学生が消えた。それによって全国の学校は急遽、臨時休校になったのだ(学生達は大いに喜んだ)。
ここは消えた学生達の学校があった、すぐ近くにあるマンションの一部屋。
その一室にはマンガ、ラノベ、ゲーム、パソコン、フィギアなどの物がそこらじゅうにあった。
そこはお世辞にも綺麗とは言えなかった。本人は綺麗にしていたつもりなのかもしれないが。
そんな散らかった部屋には同じ様に、こう言っては失礼かもしれないが汚い女性が居た。
背丈は普通で大体165cm位で、髪は腰まで届くかと思われるほど長い。だがその髪はここ何日も洗ってはいないと思われるほど汚くぼさぼさだった。
スタイルはかなりよかく、胸はそこそこあり、おなかあたりはすごく細く、足はすらっとしていている。だが綺麗なスタイルではあったが髪と同じく何日も洗ってないことがわかるほど汚かった。
顔立ちは、ものすごく大人びたように見えるてとても整っていた。だがその顔は鼻水が垂れ、口元もよだれなどが着いて汚く、目には赤く腫れ、そしてここ何日も寝てない証拠に隈がすごかった。
そして服は少し汚れたワンピースを着ている。
その女性の本来の綺麗さがみじんもうかがえなかった。
その女性は身体をしっかり洗い、おしゃれして化粧などでもすれば、それはもう、モデル並みに綺麗になると思われるほどの美人ではあったが、今は汚かった。
「うわあああああぁぁぁぁぁっっ、ンっぐ゜、あっ゛ぎっ゛ぐんぅぅぅっ、えっぐ゛、ううぅぅぅぅ」
この日、この部屋から女性の泣き声だけが聞こえてくる。
「あぎっ゛ぐんぅぅ、なんで、なんで、あぎっ゛ぐんが、いなく、なる、の? なんで? なんで? なんでぇぇぇ゛、ぜんぶ゛ば、ばたじ゛の、ぜい? ンっぐ゛、ごべ゛んね、ごべ゛んね、あぎっ゛ぐんぅ」
その女性は呪詛の様に何度も、誰かの名前を呼んでいた。
そしてその人に何度も、何度も謝っていた。
(全部、全部、全部、私のせいだ。アキくんが消えてしまったのも、そしてあの時の事も、全部私のせいだ。ごめんね、ごめんね、アキくん)
その気持ちを伝えたいけどその相手が消えてしまった。
そして女性は数時間もの間泣き続けた。
幸いここは防音設備がそこそこ良かったため、隣に聞こえることは無かったが。
そして女性は泣きつかれたのかいつの間にか寝てしまっていた。
「アキくん」
女性が起きたのはあれから10時間以上も過ぎた後の事だった。
「うっ、んっ、ここは……」
(あ、そうだ。アキくんの部屋? あれから私どうしたんだっけ?)
女性は寝る前に何をしていたのかを思い出した。
アキくんが消えて、日本に戻ってきて、そしてアキくんの部屋で泣いていた。
(あ、私ずっと寝ていたんだ)
「ごめんね、アキくん。私がこんなんじゃだめだよね? それにもう、私がアキくんに謝ることさえ許されてないもんね」
私はアキくんを裏切った。
それだけでじゃなく、あまつさえ利用した。
自分の手が汚れるのが嫌で、アキくんを利用した。
あの時の私は本当に馬鹿だった。
そのことに気付くのがあまりにも遅すぎた。
私は自分勝手な思いで、アキくんを利用してしまった。
そしてアキくんはそれから私を、いや、誰1人として信用しなくなった。
その事実はもう変わらない。
(そう、私のせいでアキくんが……ううん、私に考える資格はもうない)
そして女性、桐ケ谷遥香は居なくなってしまった秋人の部屋を整理するのだった。
今まで遥香はアメリカのマサチューセッチュ州にあるハーバード大学にいた。
そのため日本で「学生の行方不明事件」がニュースになった時は「物騒だな」という他人事のように感じていた。
だが、次の日、日本の警察から「弟さんが行方不明になりました」と聞かされた時は遥香は何故か現実味がなかった。
それもそうだろう。今まで長期休暇がない限り日本に戻る事がなかった為、半年位合わないと言うことも珍しくない。
というか、ハーバード大学に来た時点でその覚悟はしていたし、正直に言えばアキくんに会いたくなかった。
それから遥香は学校に許可をもらい急いで日本に戻る準備をした。
電話が来てから飛行機のチケットを急いで取り、空港前行き飛行機で13時間。
成田空港からタクシーでここまで2,3時間。
そして遥香は秋人の部屋に来てからずっと泣き続けていた。
そんな事情があったため遥香が秋人の部屋に来たのが3日間も遅れてしまったのだ。
遥香は秋人の部屋を整理していた。
漫画、ラノベ、ゲームを整理して、それを押し入れに入れようと思い、押し入れを開けた。
そこには無数の漫画、ラノベ、ゲーム、フィギアなどが綺麗に整理されている。
「整理してるなら部屋も整理しなさいよ……」
そうつぶやいた。
もちろんそれを聞く者はどこにもいないが。
「本当バカみたい」
自分で裏切っといて、こんな都合の良いように思うなんて。
こんな事をしてもアキくんは許してくれないのにね。
なんでも出来てしまう自分が、私は嫌いだ。
「まぁ、自分勝手に生きてきた私には丁度いいかもね」
そう自虐的に言うのだった。
アキくんとはあの時からまともに会話さえもしなかったくせに。
アキくんの事を考えなかったくせに。
アキくんの事を……
アキくんの……
アキくん……
……
……
……
もう自分がわからなくなる。
私は一体どうしたらいいんだろう?
私はこれから……
その時遥香の目に見覚えのあるものが映った。
(あれは……確か昔、私がアキくんに上げたもの)
遥香の目には押し入れの奥にある1つの四角い缶が映っていた。
遥香はそれを取るため、フィギアなどの邪魔な物をきれいにどかしてその缶を取った。
それは所々傷つき、錆びていた。
遥香はその缶を開けようとしたが、錆びていてなかなか開けることができない。
「うッ! ~~~~ッッ!」
そして出来るだけ力を入れたら「ガバ」と変な音を立てて缶が空いた。
その中に入っていた物は————
「!?」
色鉛筆、消しゴム、トランプ等の使い古された物。
それは昔、私とアキくんが遊んだ物でもある。
そして缶の底には一枚の紙が入っていた。
それは——
————”秋人が書いた私の似顔絵”————
「あ゛あぁ゛あああぁぁぁぁぁぁ!」
子供のころ、私と一緒に遊んだ時に書いたもの。
絵は子供が描いたためにうまいとは言えないが、顔の絵の上に”お姉ちゃん”と書いてあった。
お姉ちゃん、子供のころアキくんが私の事をそう呼んでいた。
そして絵が描かれている紙の裏に綺麗な字で——
————いつか渡せる日が来ますように————
と書いてあった。
あーもうダメだ。
我慢なんかできない……
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
泣いた。
喉がはち切れんばかりに泣いた。
みっともなく。
不格好に。
醜く。
汚く。
醜怪の様に。
死ぬほど泣いた。
(なんで? なんでアキくんはこんな酷いお姉ちゃんの事をそんな風に思えるの? アキくんの事を裏切り、利用した、酷いお姉ちゃんだよ? なのになんでアキくんはまだ私の事を姉だと思うように努力するの? 全部私のせいなんだよ? それに……)
「わ、わたじが、ア、ギくんの、こ、こごろを、ごわした、ん、だよ?」
遥香の意思は過去に遡っていった。
約18年前——
遥香はいわゆる天才でやればなんでもできた。
勉強、運動、交友、芸術……他にも様々な事をした。
それはいわゆる——
——”天才”——
と呼ばれる者だった。
天才、それが桐ケ谷遥香という人物を表すものだ。
当時3歳にしてその片鱗を表し始めていた。
そして、ある日の事。
いつものように遊んでいた私の元に母が来てこう言ってきた。
「遥香に兄弟が出来るよ!」
母は満面の笑み浮かべた。
それを聞かされた時、私は喜んだ。
(私に兄弟が出来る)
嬉しかった。
私は他の子達と距離を感じていた。多分それは私が大人びているからだ。
「やればなんでも出来る」逆に言えば「出来ないことがない」。
それは子供いや、人間として異常だ。
そして、そこまで考えついてしまう私はやっぱり自分の事を異常だと思う。
だから対等な存在が欲しかった。
自分と同じ天才とは言わない。
でも、私と一緒に遊んでくれる存在が欲しかった。
そして今それが叶うと告げられたのだ。
私は嬉しさのあまりはしゃいだ。
こいうところはやっぱり子供だったのかもしれない。
兄弟が出来る。私の頭の中はそれだけだった。
(弟かな? 妹かな? 弟だったら外で遊びたいな。鬼ごっこ、かくれんぼ、サッカー、野球……とにかく身体を動かすのが良いな! 妹だったらお人形遊び、おままごと、恋バナなんかも良いな! 早く生まれてこないかな~)
そうすればもう私は一人じゃない。
一人で居るのは淋しいから。
そして待ち望んでいた出産当日。
事件が起きた。
”母か子”
どちらかしか救う事ができない。
父は母を取った。
もちろん私も母に生きてほしかった。
もちろん一人は淋しい。
だけど母が居なくなる方がもっと淋しい。
だが、母は違った。
母だけは子を生かしてほしいと願った。
そして結局母は死に子が生きた。
そこからが悪夢の始まりだった。
一度壊れた物はもう二度と戻らない。
父は母が死んだ事により酒に溺れた。
そして私は泣いた。
子なんかより母に生きて欲しかった。
いつも私が泣いている時、抱きかかえて頭を撫でてくれる母はもう居ない。
それがいっそう悲しく感じた。
だが、それはいつしか怒りに変わった。
母を殺した張本人、弟へ。
それは私だけではなく父も同じだった。
なまじ天才だった私は相手の事を考えることなく自分の保身の為に行動してしまった。
自分の心が壊れるのを防ぐために。
私が正気でいられるように。
だから私は弟に「あなたのせいで母が死んだ!」「あなたのせいで父は変わった!」「あなたのせいですべて変わった!」
私は何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、弟に言った。
自己満足の為に。
私の心に空いた穴を塞ぐように。
”自分の為に”
そして月日が立ち6年程経過した。
私は10歳になり、弟は6歳。
私は今までの行いをやめ弟、アキくんと遊ぶようになった。
今までできなかった事、トランプ、ボードゲーム、鬼ごっこ、砂遊びなど色々な事をした。
アキくんは心底楽しそうに笑い、私もこんな日々が続けば良いと思った。
だが父は今でもアキくんが悪いと言い暴力を振っていた。
それは私にも及んだ。
暴力に耐えあれから2年が立った。
私は12歳に、アキくんは8歳に。
私の思考は世間体を気にするようになった。
私のキャリアに傷が着く。
暴力を振ってくる父が嫌いだ。
いい加減鬱陶しくなってきた。
本当にうんざりだ。
そんな時、偶然ドラマを見ていたら誘導殺人をした犯人を捕まえると言う物をやっていた。
自分が殺したいと思っている相手に恨みを持つ者に殺してもらうように誘導することだ。
その時ピンっときた。
そうだよ邪魔な奴は殺してしまえば良いんだ。
それも私ではなくアキくんに。
そうすれば私のキャリアに響く事もない。
それに殺人をした弟を慰める優しい姉。
そんな印象付けもできる。
まさに一石二鳥。
あぁー、もう私って天才!
さて、まずアキくんにどうやって父を殺すように仕向けようか?
それからしばらく私はアキくんに父を殺すように仕向けるための作戦を練った。
計画を立ててから約3か月程立ち実行した。
作戦はシンプル。
最近は私とアキくんはよく遊ぶ。その時に少しこう言えば良い「私が危ない時はアキくんが助けてね?」と。
そして私は父に私を襲わせるように誘惑して、それを秋人が見るように仕向ける。そして近くに刃物なんかを置く。ただそれだけだ。
幸い私の身体は大人になるために成長している。胸はそこそこ大きくなり、髪も長いしスタイルもかなり良い。魅了するには少し物足りないかもしれないけど襲わせるには十二分な見た目だ。
そしてアキくんは私の思い通りに父を殺した。
私は手を汚さず。
それからは本当に良いこと尽くしだった。
補償金やら何やら色々な事で金が自分の手に来る。
それから金に困る事はなかった。
そして交友関係も良かった。
みんな私に同情してくれる。
あー本当に最高!
あの糞みたいな父から解放された!
私は自由だ!
この時の私は気付けなかった。
いや、気にしなかった。
アキくんがどんな思いでいたか。
アキくんの気持ちを理解しよとしなかった。
あれから1年。
私は12歳、アキくんは8歳。
アキくんはあの事件から変わった。
アキくんは本当の自分を出さなくなった。
そして父が死んで丁度一年。
父の命日、墓参りをする日だ。
この日はあいにくの天気だ。空にはどんよりした雲が広がり不気味な感じだ。
遥香とアキくんは墓に線香をあげ、手を合わせていた。
そして、そろそろいい時間になってきたため帰る支度をした。
そして帰る間際に私はこう言った。
「アキくん、両親がいなくなったけど、頑張って生きようね?」
「両親がいなくなった」遥香の言葉には何の感情も無かった。
悲しみも、淋しさも何も無かった。
世界は”自分を中心”に回っているのだと言うように。
「ふざけるな! テェメーのせいで俺がどんな気持ちでいたか分かんねぇだろ!」
アキくんは私の胸倉を掴み目が合うように自分のほうへ寄せた。
その顔は——
「ア、アキくん?」
「俺を利用しといて都合よく、そんな態度を取るんじゃねぇよ! 勝手に納得して! 俺の気持ちを何も知ろうとしないで! 俺はそいう自分勝手に考えて勝手に納得さるのが嫌いなんだよ! 少しは俺の気持ちを知れ!」
アキくんは泣いていた。
淋しそうに——
悲しそうに——
辛そうに——
そして理解してくれと願うように。
アキくんの感情に合わせるようにポツリ、ポツリと雨が降って来た。
それは世界を塗りつぶすように雨の勢いは上がり遥香の心を埋め尽くしていった。
私は遅まきながら気付いた。
自分が何をしでかしたか。
私の自分勝手な思いのせいでアキくんがどんな気持ちで居たか。
”両親二人を殺した”と言う意味を知ろうともしなかった。
その日からアキくんは私の事を”本当の意味”で見る事はなくなった。
私の意識は現実へ戻って来た。
あの時の事は今も後悔している。
私の勝手な都合でアキくんの人生を台無しにした。
でも、あの時の私は”私こそが人生を台無しにされた側”だと思っていた。
もう戻れない過去——
壊れてしまった過去——
変わらない過去——
過ぎ去ってしまた過去——
何度後悔してももう治らないもの。
私は……
その時、手に持っている紙が目に入る。
昔アキくんが一生懸命描いてくれた私の似顔絵。
私の顔は——
——笑っていた——
あーそうだね。
私が泣いちゃダメだよね?
笑っていなきゃ。
あの時のように。
もう戻れない過去だけど。
でも、”前へ”は進める。
受け入れよう私の犯した罪を。
そしてこの命尽きるまで悔やみ続けよう。
でも、もし、もし出来る事なら——
「私はアキくんに謝りたい」
そう一人つぶやいた。
確かに一人だった。
答えなんか返って来るはずが無い。
だけど実際には声が聞こえた。
『それでしたら私と契約しませんか?』




