表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神殺しの英雄譚  作者: 漆原 黒野
第1章 旅立ち編
15/32

第13話 馬車での旅

 



 南門が開き、ついに秋人はこの世界の外を知るのだった。

 そして馬車がゆっくりと進み始め、ついに秋人達は門を潜り抜けた。

 そこに広がるのは草原。以上。

 あ、あと、前の馬車が見える。


「……」


 ……

 ……

 ……

 ……

 ……

 ……つまな。

 異世界なのにこれかよ!

 まぁ、俺自身もあまり期待はしていなかったが、さすがにこれは無さすぎる。

 こんな草原、日本でも見れるぞ!

 見渡す限り草しか無いじゃねぇか!

 まぁ、確かに王都の周りに魔物や野生動物がいたら、それはそれで問題だろうが、もう少し頑張ってほしかった!


(俺のドキドキを返せ!)


『昨日も言いましたが、マスターは期待しすぎです。現実なんてこんなもんですよ』

『期待して何が悪い! 異世界だろ! ファンタジー世界だろ! もう少しお約束と言う物を知れ!』

『……馬鹿な事言ってないで現実を見ましょう』

『馬鹿とはなんだ! 馬鹿とは!』

『……マスター、私は個人的にマスターの事を好意的に思っています。ですが、今の様なマスターはあまり好きではありません』

『……ガチの反応やめて』

『すいません。でも、私的には自覚してほしいのです。マスターが恥をかく前に』

『いや、俺も周囲の目は気にしているから、そこまで心配しなくてもいい思うけど……』

『「そいうう考えが隙になるんだよ」でしたか?』

『……い、いや、俺も一人のオタクとしてはお約束は必須だと思うんですよ』

『私に敬語はいりませんよ? その考えは別に否定はしません。ですが、しっかりと現実も見てください』

『……はい、わかりました』


 立場が逆転して秋人はナビに説教をされていた。

 まぁ、別に良いんだけどね? ナビが言ってる方が正しいし? 俺は変人だし? しょうがないし?


『……マスターそんなに落ち込まないでください』

『別に落ち込んで無いし? ただ、ナビが少し冷たいなと思ってるだけだし?』

『はぁー、マスターってめんどくさいですね』

『……俺自身もそう思うけどお前が言うなよ。仮にもお前のマスター様だぞ?』

『それなら、もう少し尊敬できる様な事をしてください』

『……めんど』

『それは私のセリフです』

『……お前は俺の従者で、俺はお前の主。だから俺に従うのは当たり前。簡単だろ?』

『そんな事言ってると、いつか後ろから刺されますよ?』

『【無敵】があるから大丈夫』

『……そうですね』


 さすがのナビも「それが隙になる」とは言ってこない。

 まぁ、無敵は無敵だから無敵なんだけどね(分かりにく)。


「どうした坊主?」


 そう話しかけてきたのは目の前に居る、少し太ったおじさんだった(見た感じ50歳位?)。


「え、いや、なんか何も無いなって」

「それはそうだろ。首都に魔物や盗賊なんかいたら一大事だぞ?」

「いや、それはわっかてはいるんですが、なんか思っていたのと少し違うかなって」

「……ははははーーーーーー! 確かにな! これじゃ期待外れだよな! 草しか無いもんな! はははーーーー!」

「えぇ、草しか無いのでなんと言うか……」

「つまらない?」


 隣から凛とした声が聞こえてきた。

 その声は途中で乗ってきたエルフの女性のものだった。


「えぇ、もう少し刺激的な何かがあると思っていました」

「現実なんてそんなもんよ。期待するだけ無駄よ」


『ぷッ! そ、そうですよ、き、きたい、す、するだけ、む、むだですよ、ぷぷーーー! あははーーーー!』

『……』


「……それ知り合いにも言われました」

「あら、そう? 余計な事言ったわね」

「いやいや! 男は夢を持ってこそだろ!」

「そうかしら? しっかりと現実を見たほうが賢明だと思うけど?」

「これだから女子(おなご)はわかっていない」

「イラッ、一体何がわかっていないと言うの?」

「男は夢を持ち冒険と言う名の刺激を求めているのだよ。まぁ、女子に言ってもしょうがないものか」

「これだから男は野蛮なのよ」

「それこそが男の本能」

「ただの野蛮人よ」


 そう言ってお互い、すごい剣幕で火花を散らしている。

 秋人はこの名も知らない2人がなぜ、ここまで言い争っているのかがよく分からない。

 別にどっちでも良くね? まぁ、俺的にはおじさんが言っている事の方が理解できるが。


「まぁまぁ、2人とも落ち着いて、ね」


 そう言ってアリサは仲介をした。


「2人の意見はわかるけど、さすがにここで言い争わないでもらえるかな?」


 それはお願いでは無く、命令だった。

 アリサの顔は笑っていたが、眼が笑っていない。

 実際にそんなことができる奴いるんだな。


「……」

「……」


 アリサに言われて2人とも苦虫を噛み潰した様な顔をしている。


(す、すごい! アリサお前はなんてすごい奴なんだ!)


 と秋人は他人ごとのように振る舞った。まぁ、実際秋人は関係無いのだが(最初に話しただけ。それが原因になったが)。

 と他人行事をしていた秋人だったが、あいにくそんな事が通用する相手ではなかった。

 アリサはアキトの事を睨み付けた(怖!)。


「お兄さんもいい?」

「……はい」

「よろしい」


 アリサは頷き、先程の話の自分の意見を言ってきた。


「まぁ、私も男は少し夢を見すぎだと思うかな。ね、お兄さん?」

「……それでも俺は夢を見たいかな」


 とナビに言った様にアリサにも返した。


「おぉ! それでこそ男だぞ!」

「理解できません」


 パチッ、とまたしても火花が散る。


「まぁ、現実なんてそんなもんだ、とも思っている。でも、それでも、だからこそ夢を見たいんだ。周りから変な目で見られようとも自分の信念だけは曲げたく無いから」


 その声には信念、決意その他にも色々な物が含まれているが、その意味を知る者はここにはいなかった。

 だからこそ、秋人の言葉を聞き何かを言う者もいなかったが。


「あはは、変な空気になっちゃいましたね」


 秋人は乾いた声で笑い、場を和ませようとしたが。

 まぁ、結果的に何も変わら無かった。


「まぁ、お兄さんにも色々あるよね」


 と、アリサが秋人の事をフォローしてきた。

 できる女!


「えぇ、そうね。悩みなんて誰にでもある事ですもの」

「あぁ、そうだな」


 と、アリサのお陰で和やかな空気に戻った。


「……サンキューなアリサ」


 と小声でアリサに言った。


「どういたしまして」


 本当こいう気使いができる奴って良いよな。

 それにちゃんと境界線を理解して、踏み込んでこない事も良い。


「あ、今更かもしれないですけど、俺はアキトって言います」

「あ、私はアリサ」

「俺はジンバだ。よろしくなアリサ、アキト」

「私はクルス。一様冒険者をやっているわ」


 クルス? 俺が向かっている村の名前と一緒だな。


「へぇ~、冒険者かそうは見えないけどな」

「人を見た目で判断しないでくれる?」


 確かに秋人もこのクルスと言う女性が冒険者だとは思えなかった。

 身体は細く、迫力が無く、どちらかと言うと市役所で働いて、いそうな感じだ(真面目っぽい)。

 そして武器らしい物を持っていない(剣とか杖とか)。ていうか、荷物らしい物さえない。

 多分秋人と同じでアイテムボックスを持っているんだと思う。

 そして秋人はマップで「強い奴」と調べてみたところ、クルスと馬車の護衛をしている者たちを示した。


(意外と護衛の奴もすごいんだな)


 そして、このクルスがどれほど強いのか知りたくなった秋人はマップの機能でレベル指定で確認することにした。

 余談だが、これを簡単に説明すればレベルを1づつ上げていき反応が消えたらそのレベルがその人のレベルと言うことになる。

 鑑定だとばれるかもしれないが、このマップの機能を使えばばれることは無い(多分)。

 だって、これは指定した事に一致しているか、してないかをわかるだけで、相手に何かをするわけでは無いから。

 この方法はガンド達の事を鑑定できなくて、それでも知りたいと思ったため考えた結果「こいう風にすればいけるんじゃね?」的な感じで思いついたものだ。余談終了


 そして秋人はレベル指定でこのクルスと言う女のレベルを図って行った。

 まず、レベル100・・・変化無し。

 次、レベル200・・・護衛の反応が1人を除いて消えた。

 次、レベル300・・・護衛の反応が消えた。クルスは依然とそのまま。

 頬に汗がつたるのがわかる。

 確かに強いと思っていたがここまでとは……

 ゴクリッ。

 次、レベル400・・・さすがにここまで来たらクルスの反応が消えた。

 とりあえず半分のレベルで調べてみる。 

 反応があれば上げて、反応がなければ下げる。分かりやすいだろ?

 次、レベル350・・・反応無し。

 ここからはレベル10単位で変えていく。

 次、レベル340・・・反応無し。

 次、レベル330・・・反応無し。

 次、レベル320・・・反応あり。

 つまりクルスはレベル320~330の間と言うことだ。


(ははは、これは笑うしかないな。初っ端からこれほどの奴と出会うとは)


 ここからは余談になるが、今の(・・)この世界の最強(・・)と言われるのがレベル516らしい。

 そして2番目にレベル489となってくる。

 これは人間側の最強であって、魔族やモンスターなどの敵側はわからないらしい。

 あ、一様説明だけど魔族と言う種族はモンスターが意思を持った者の事を言う(悪魔とも呼ばれることもある)。

 あ、ちなみに魔人と言う存在もいる。

 だがこの魔人の魔は”「悪魔の魔」では無く「魔力の魔」”だ。

 まぁ、簡単に言えば魔人は魔力がすごい高い種族と言うことだ。

 区別がつきにくい時は「味方の者が魔人」で「敵側の者が魔族」と覚えれば分かりやすいはず。

 そして、敵側で今まで(・・・)確認された中で1番高いレベルはレベル900と記録されている(本当かどうかわからない)。

 その者は魔王となって世界を蹂躙したとか。約3000年前の話だ。

 そして一説にはレベル1000を超える者もいるとかいないとか。

 あ、それとこの世界では神と言う存在が居るそうだ。何度か確認されている(本当に居るんだ)。

 それは俺達を召喚した時にも現れたそうだ。

 こうして見るとクルスが大した事が無いように見えるがそんな事は無い。

 十二分にこのクルスと言う女性は最強に足を掛けた1人と言ってさし違いない。余談終了


「おい、どうしたアキト。すげー顔が青いけど、それに、そんなに汗かいて大丈夫か?」

「あ、あぁ、大丈夫だ」

「本当に大丈夫か?」

「大丈夫よ。ただ、私の力の一端を知っただけですもの」

「!?」

「わからないとでも思った?」


 ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ。

 どんどん鼓動が早くなっていく。

 血の気が引いていくのが自分でもわかる。

 そしてあの時(国王)とは比べ物にならない程の恐怖(・・)を感じている。

 汗がどんどん出て、震えが止まらない。

 目眩や吐き気、気分がどんどん悪くなってくる。

 そしてとうとう目の前が何も見えなくなったその時……


「安心して。私は別に気にしてないから」


 その声を聞き秋人はなんとか意識をはっきりさせて、クルスに言い返した。


「……あん、しんは、でき、ない、な」


 秋人の声は震え、なんとか聞きとる事ができる様なものだったがクルスはしっかりと聞き取れていたようだ。


「……そう」


 クルスは暗い声で言った。

 誰にも理解されてもらえない”こんな世界(・・)が嫌いだ”と言うように。

 そして”やっぱり現実なんて(・・・・・)こんなもんだ”と受け入れた様な眼差しで。


 !?

 あぁ、俺は馬鹿だ。

 また、同じ過ちを繰り返そうとしている。

 俺の目の前には昔の記憶が鮮明に見える。

 誰にも理解されず。

 ただ1人で過ごす日々。

 何が悪いのかわからない。

 ただ拒絶された日々。

 誰にも助けてもらえず。

 何もできない自分。

 そしてあの、”()”。

 あんなのはもう嫌だ!

 それを俺はクルスに……

 秋人は心を鉄のように硬くして、自身の恐怖を抑え込み、決然とした思いでクルスに話しかけるのだった。


「安心はできないが、怖くは無い。だって俺は————


 クルスの目を見て——

 クルスの心を見て——

 クルスの思いを理解して——

 クルスの感情を感じて——

 それら、すべて理解したうえで俺はクルスに言ってやった。


「お前と同類(・・)だから」

「!?」

「?」

「?」


 クルス以外、俺が何を言っているのか理解していない。

 だけど、それで良い。

 俺とクルスがわかっていればそれだけで良いんだ。

 何も知らないやつがそれを理解してはダメなのだから。


「……そう」


 クルスは小さい声でそれだけ言うと秋人から顔を背けた。

 その頬には赤く火照っているように見える。

 だが、その意味が何なのかを考えられる程、今の秋人には余裕が無かった。

 そして秋人はクルスに言いたいことが言えたため、「もういっか」と言って、意識を手放しすのだった。






「ほら、休憩場所だぞ」

「本当!? ほら、お兄さん起きて」


 アリサはパシパシと秋人の頬を叩いた。


「うッ、う~ん、なに?」


 秋人はごそごそとしながら目を開けた。


「起きた?」

「アリサ? ここはどこだ?」


 目を開けた秋人の目の前にはアリサの顔があり、そして頭の後ろには柔らかく言葉に表せない程気持ち良さがあった。


(うん。これはあれだ! ”膝枕”だ! おぉ、やっとか! やっとテンプレが来たのか! ヒロインに膝枕をされる! 最高だ! そして気持ち良い! いや~、女には興味は無いけど(性的な意味なら興味ある)、やっぱりテンプレは良いな!)


「ねぇ、なんでそんなに嬉しそうなの? やっぱりお兄さんでも膝枕は興奮する?」

「あぁ、するね。物凄くする」

「そう……良かった♡」

「……何してるの?」


 クルスはまるでゴミでも見る様な目で見てきた。


「え、膝枕だけど?」


 と秋人は答えた。


「……」


 さすがのクルスでも言い返せなかったみたいだ。

 まぁ、事実を言っているからな。


「てか、膝枕されてるの見えるだろ?」


 そう、まだクルスは馬車から下りていないのだ。

 それに俺が気絶した時からアリサに膝枕をされていたのなら、クルスはその瞬間を目にしているはずだ。


「はぁー、私が言いたい事はそんなんじゃ無いけど……まぁ、いいわ」

「ん? じゃあ、何が言いたいんだ?」

「……なんでも無いわよ」


 クルスは顔を赤くしてそっぽを向いた。


「?」

「お兄さん……」

「アキトはモテモテじゃの!」

「何が?」


 何が言いたいんだこいつら?

 モテモテ?

 俺が?

 無いな。


「まぁ、そんな事は置いといて下りようぜ?」

「……」


 なぜかクルスはこちらを睨みつけてきた。

 かと思えば、馬車を下りてスタスタとどこかに歩いて行く。


「?」

「お兄さんそれは無いよ」

「え? 何が?」


 そしてアリサもなぜか、こちらに鋭い視線で見てくる。


「まぁ、お兄さんだからしょうがないね」


 アリサはそう言ってクルスの後を追うように歩き去った行く。

 俺を置いて。


(? な、なんなんだ? てか、アリサの荷物は俺が持ってるんだぞ?)


 秋人は何も気付けていない様だった。

 別に秋人が鈍感と言うわけでは無い(まぁ、あれを気付かない時点で説得力は無いが)。

 とりあえず、秋人は鈍感では無い。どちらかと言えば鋭い方だ。

 人の感情や気持などの変化はすぐにわかる。

 だが、変化がわかったとしても、その意味まではわからない。

 特に恋と言った不特定多数なものの感情は理解できなかった(まぁ、これを言ってしまえば人の感情はわからないと言っているようなものだけど)。

 秋人自身が恋と言った事を経験したことが無いと言うのもあるかもしれないが。だからと言ってあれをわからないと言うのはどうだろか?

 だから、秋人は感情の上下がわかっても、その意味までは正確にはわからない(怒りや喜びと言った、簡単な感情ならばわかるが)。


「ほら、アキト行くぞ」

「わ、わかりました」

「まぁ、なんだ。こいう時だってあるさ、気にするな」

「はぁー、わかりました?」

「……お前何もわかって無いだろ。まぁ、良いけど」


 そして秋人とジンバはアリサ達の元へ向かって歩き出したのだった。




 あ、ちなみに休憩場所はただの広い空き地だ。


(あぁ、こいう感じね。てっきり俺は建物とかがあるのかと思っていた)


 と秋人はがっかりしていた。

 まぁ、休憩の本当の意味は馬を休ませるためだもんな。

 休憩は大体20~30分程だ。

 その間秋人達は体操(?)をしていた。

 秋人は両腕を上に上げて、めいっぱい伸びをしている。そしてら「コキッ、コキッ」っと小気味良い音が鳴った。


「うッ、はぁー、うわー、すげー鳴るな」


 アリサ達も秋人に習うようにそれぞれ腰や腕、足などを伸ばしていた。


「まぁ、馬車に2時間も乗っていればこんなものよ。それにこれは、まだマシな方ね。ヤバい時は5時間ぶっ通しで乗る時もあるから」

「うわ! 絶対無理だ。耐えられないなそんなの」

「軟弱だなアキトよ」

「確かにお兄さんは運動できなさそうだものね」

「失礼な! 俺はそこそこできるぞ!」


 とまぁ、休憩時間はくだらない事を喋りながら過ごしている。

 あ、ちゃんとトイレとかは済ましたから。

 そんな事をしていたら20分も経っていたみたい。


「そろそろ出発しますので馬車に乗ってください!」


 と、産業ギルドの店員らしき者が大声で呼びかけている。


「さて、じゃあ戻りますかね」

「そうですね」

「そうじゃのう」

「よいしょっと!」


 と、みんな立ち上がり馬車に歩いて行く。


(はぁー、またあの尻が痛くなるのを経験しなくちゃいけないのかよ)


 秋人が憂鬱になっていたら隣を歩いていたアリサが話しかけてきた。


「あ、ねぇお兄さん」

「なんだ?」

「ここまで来るときは私がお兄さんの事を膝枕したから今度はお兄さんが私の事を膝枕して?」

「え、嫌だけど」

「お兄さんに拒否権は無いよ。諦めて」

「……」

「ダメ?」


 と、可愛らしく首を傾けて聞いて来た。


「はぁー、分かった。どうせ断っても無理にやりそうだから」

「ふふ、わかってるじゃない。ありがとうお兄さん♪」


 そして秋人達は馬車に乗り込むのだった。


「じゃあ、するね?」

「……あぁ」

「よいしょっと」


 そしてアリサは寝転ぶようにして、秋人の膝の上に頭を置いて微笑むのだった。


「ふふ~♪」

「……」

「甘ったる!」

「……秩序を守ってください」

「えへへ~、良いでしょ?」

「……別に」

「では、出発いたします」


 その時御者の人から出発の声が聞こえてきた。

 そして馬車は「ガラガラ」と言って進み始めた。






 あれから何事も起こることなく、1時間近く馬車に揺られている。

 いくらクッションがあるとはいえ、硬い椅子で合計3時間も揺れ続けたらさすがに尻が痛くなってくるものだ。

 そのため、もう尻が限界だ。


(はぁー、まだ着かないのか? 長いな。暇つぶしも無いし)


 1時間もすればクルス達と話す内容も無くなる。

 てか、アリサなら出発1、20分で寝やがった(秋人の膝の上で)。

 アリサの頭は秋人の膝の上にある。足が痺れてきて辛い。でも、アリサの頭が乗ってるから動かせない。

 なんというジレンマ。


(はぁー、それなのになんでこいつ、こんなに幸せそうなんだ?)


 そう、アリサは秋人の膝の上に寝転がって、幸せそうに寝ている。寝ているかも怪しい位に。


(俺の事が好きってわけでも無いし……なんなんだ?)


 そうマップに映るアリサは赤色なのだ。

 あ、ちなみにクルスはなぜか緑色だ。つまり味方のマーク。

 ジンバは青色、つまり中立。


(クルスは俺の事を味方だと思ってるのか? 普通は初対面の相手をどれだけ気に入ったからと言っても味方にならないと思うんだけど。ジンバみたいに中立が精々じゃないか? はぁー、まぁ、考えてもわからないからいっか)


 そして秋人は考えるのをやめて、結論だけを出した。

 クルスは味方。それ以上でもそれ以下でもない。はい、終わり。


(……我がマスターながらこれはひどいですね)


 と、ナビが思うのは当たり前の事だった。


 そんな事を考えていたら遠くに、小さいが確かに外壁らしき物が見えて来た。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ