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神殺しの英雄譚  作者: 漆原 黒野
第1章 旅立ち編
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第12話 馬車乗り場

 



「コケコッコー」


 朝のお約束の声がどこからか聞こえてきた。


『マスター朝ですよ起きてください』


「う~、ねむい、まだねる」


『ダメですマスター、早く起きてください』


「やだ」


『はぁー、しょうがないですね。文句は言わないでくださいね?』


 そう言ってナビはマスターである秋人を無理矢理起こすために強制的に起きるように頭の中(・・・)に命令した。

 一様言っとくが害は無い。


「うわっ! え、な、何?」


『マスターやっと起きましたか』


「あ、ナビか。起こしてくれるのはありがたいが今のはな……。はぁー、まぁ、いっか。これからも頼む。俺朝には弱いからさ」


『そうみたいですね』


「はぁー、朝なのか。ダル」


 そう言って秋人は目をこすりながらベットから起き上がり、洗面台に向かった。

 そして顔を洗おうと水を出し、手を洗ったら……


「うわっ! 冷た~! もう少し何とかなんないのかよ。あ、あった」


 秋人は水が予想より冷たかったことに文句を言ったが、よくよく見てみると、温かいのと冷たいの両方出せるようになっていた。

 秋人はそれを見て先ほど自分が言った事を取り消し、温かいお湯で手や顔を洗って行くのだった。


「お! 温かっけ~! さすがファンタジーやるじゃん」


 秋人は意外(?)と自分勝手だった。

 そして今日はこの街を出る日である。


「さて、飯でも食いに行くか」


 そう言って秋人は食堂に向かうのであった。




 朝食はパン、スープ、サラダを頼んだ。その際にアリサは「もう。来ましたか?」と聞いてみたら、「もう、朝食は済まして部屋に行かれました」と返ってきた。

 アリサはもう朝食は済ましていたようなので一人でもくもくと朝食を食べた。

 その後に、自分の部屋に行き準備(ほとんどアイテムボックスの中)をしてアリサと会う時間まで適当に時間をつぶしながら待った。それとしっかり、トイレもすました。

 昨日みたいに遅れることなく時間3分前に待ち合わせ場所に向かう(宿の一階だけど)。

 そして秋人とアリサと一緒に産業ギルドを目指し歩き始めた。

 その間は特に会話らしい会話はしないでいた。

 一様言っとくが昨日のあれからアリサとギクシャクしていると言う事は無い。

 お互い切り替えはしっかり出来るからな。

 だからと言って緩すぎるのはどうかと思うけど。

 今の状況みたいな感じが。

 アリサは今猫(?)を撫でている。


「おまえなぁ、そんな事してる場合じゃ、ないぞ」

「わかってる、わかってる。でも、あと、少しだけ、ほんの少しで良いから」

「はぁー、2分だけだぞ。それ以上は待てない」

「ありがとうお兄さん!」


 そう言ってアリサは前を向いて、また猫を撫で始めたのだった。

 余裕を持って宿を出たが、このアリサの無邪気(?)な行動のせいで、もう時間があまり無い。

 今まで注意しなかった俺も悪いがかもしれないが、やはりアリサが悪い。

 7時に産業ギルドに着かなければいけないのに、もう、7時15分前。

 ちなみにここから歩いて産業ギルドには10分程で着く。

 一様間に合うには間に合うが、少し余裕を持って着いておきたい。そのため急いで行きたいのだが、この馬鹿が猫と戯れているのだ。


(猫を撫でるのがそんなに楽しいか?)


 今秋人は猫好きを敵に回した。


「ほら、もう2分経ったぞ」

「もう!? う~」

「うなってもダメ。おいて行くぞ」

「ま、待ってよ」


 そう言って秋人はアリサを置いて行くように歩き出した。

 その後を追うアリサの姿があった。






 秋人とアリサは少し早歩きで産業ギルドまで来たため8分程で来れた。

 細かいかもしれないけど、この1、2分が大事なのである。

 産業ギルドには馬車が止める場所があるが、そこには普通の時よりも多くの馬車が止められていた(普通の時を知らないが)

 そのどれが南門に行く馬車なのかはわからないため、秋人はとりあえずミーナに言われた通り、ギルドの店員とおぼしき人に聞く事にした。


「あの、南門に行く馬車はどれですか?」

「はい、南門に行く馬車はあちらにあります」


 そう言って店員は秋人から見て、やや右側にある馬車を示して説明した。

 その近くに店員らしき姿もあった。


「あそこにいる係の人に言っていただければ馬車までご案内いたします」

「そうですか、ありがとうございます」

「いえいえ、良い旅を」


 秋人は店員が言った係の人を目指して歩いた。


「やっぱり、お兄さんの敬語なんか変だね」

「そうか? 結構真面目に喋っているけど、変に感じる?」

「う~ん、私は普通の喋り方の方が良いな」

「ふ~ん、でも、敬語のほうが印象は良いだろ?」

「お兄さんの場合、少し無理して喋ってる感じがあるからね。私でもわかるくらいに」

「……」

「まぁ、お兄さん次第だから好きにすればいいんじゃない?」

「……とりあえず俺は敬語でいく」

「そう……普通は私だけ♪」

「なんか言った?」

「ううん、何でもない!」

「空耳か?」

「そうじゃない」


 と、たわいも無い会話をしながら歩いて行く。

 そして、店員が言っていた係の人に話しかけた。


「あの、南門までの馬車はこれで良いですか?」

「はい、そうですよ。ご利用で?」

「はい、これがチケットです」


 そう言って秋人はミーナから貰ったチケットを渡し、アリサもそれに習いチケットを渡した。


「確認させていただきます」


 そう言って店員は秋人とアリサからチケットを受け取り小型の魔機にチケットをかけた。


「はい、アキト様とアリサ様ですね。確認が取れました。どうぞこちらの馬車へ」


 そう言って店員は秋人とアリサを連れて1つの馬車に案内した。


「荷物は席の下に置いてください。7時間になりましたら馬車は出発しますので席について待っていてください。それでは、私はこれで失礼します」

「ありがとうございました」


 そう言って係の人は先程の場所に戻って行った。


 馬車の感じはよくある様な物だ。

 荷台の中は左右に木の板が横向にありそこに座る感じの奴。左右5人、合計で10人乗れる。

 そして頭上には布が被せられているため、雨などを防ぐことが出来る。


「さて、乗りますか」

「そうだね」


 そう言って秋人達は荷台に乗った。

 中に入ってみれば意外と広く感じる。

 そして、すでに中には7人の人が座っていた。


「失礼します」

「よいっしょっと」


 そう言って秋人とアリサは空いている席に腰を下ろした。

 あ、ちなみに荷物は全部俺のアイテムボックスに入っているから(アリサの分も)。

 馬車の中の空気は簡単に言えば電車の様な感じだ。つまり静かと言う事。

 まぁ、知らない人と会話をするのも楽じゃ無いからな。

 それにこの世界でも仲良くなったと思わせて金を取るといった様な事があるみたいだし。

 やっぱり世界が変わっても人間の欲望は変わらないな。


 とまぁ、どうでもいい事を考えていたら馬車が動き出したみたいだ。

 この馬車には窓と言った、外を見ることができる物がない。

 だが乗るために開けられている後ろ側や運転席などは見える。つまり前と後ろは見えると言う事(だが前も後ろも馬車がいる)。

 まぁ、何が言いたいかと言うとやる事が何も無いのだ。こんな空気でアリサと喋ったら絶対変な目で見られるに違いない。

 そのためやる事が無く、ただ馬車に揺られるだけしか無いのだ。

 揺れはすごいし尻は痛いで散々だ。

 以外と文明進んでんだから何とかなんないのかよ。


『なってますよ。ただコスト削減と量産が楽なので、これが主流です。ですが、貴族や大手商会などは独自の馬車などを持ち快適移動が出来るようになっていますが』

『マジかよ。そこは金かけても改善すべきところだろ』

『ですがそうしますと、貧相民方が利用できなくなり経済的に影響が出ますから』

『無駄なところだけ文明が進んでんな』

『実際貧相民だけではなく一般家庭もどちらかと言うと安い方が良いんですよ』

『はぁー、我慢するしか無いのかよ。まぁ、覚悟はしてたけど実際こうなると辛いな』


 そんな暇な時は我らが便利屋、ナビと話すに限る。


『今もの凄くくだらない事考えましたよね?』

『気のせいだ』

『……別に良いですけど』


 そして以外にもナビの心は弱い。

 これが()からなのかはわからないが。


『そういやさナビ。お前ちょいちょい俺の思考に入ってくるよな。それどうにかなんないのかよ』

『残念ながら私はマスター第一ですから、どんな事でもサポートしなければなりませんので。そうするには精神を観察して行きませんと』

『何それ怖! なんだよ精神を観察って! 怖すぎだろ!』

『ですが私は……』

『あー、もういい。……お前嫌われるタイプだろ?』

『……私はマスターさえいれば良いです』

『その間はなんだ?』

『確かに私は嫌われているかもしれませんけど! ちゃんと友達もいますから!』

『お前それ墓穴だぞ?』

『~~~~~! い、今のは忘れてください!』


 これで確定。

 ナビは元々存在した者で、それが何でかはわからないが俺のところに精神だけが来てスキルになったと。

 てか、こいつ意外と馬鹿だろ。


『マスター! 今私の事馬鹿だと思いましたね! 一様言っときますが私は優秀過ぎて嫌われていただけですから!』

『……結局嫌われてんじゃん。それにお前どんどん墓穴掘ってるぞ』

『~~~~~! わ、私としたことが! め、盟約、盟約がー!』

『はぁー、何度も言うが俺の敵にならなければなんでも良いよ』

『はぁー、私がマスターの敵になる事は多分ありませんよ』

『多分なのか。てか、今の盟約に引っかからないのか? 前の時は盟約のせいで喋れなかったろ?』

『そんなの簡単ですよ。前のは完全に盟約に触れるものでしたが、今回の物は完全に私的な事ですから。それにマスターの力がありますから少し位なら引っかかっても大丈夫なんです』

『なるほど、てか、また俺の力か……』

『まだ、気にしているんですか?』

『まぁな、力頼りってのは俺が嫌いな事の1つだからな』

『そうですか……その力が無いと私的には困るんですけどね』

『なんか言った?』

『いえ、何も』

『そっか。なんか最近空耳が激しくてさ、困ってんだよ』

『そうですね激しい様だったら医者に見てもらった方が良いですよ。この世界の医療は魔法頼りですが、その分マスターの世界より直すことは簡単ですから。……空耳じゃないですけど』

『まぁ、本当にやばそうだったら見てもらうか』

『はい、そうしてください』

『あー、尻痛くなってきたな。ナビ、後どん位で着く?』

『あと、12、3分です』

『うわ! 本当に暇をつぶせる物が無いと退屈だな。ナビと話すのも飽きたし』

『……怒りますよ?』

『いや、だって、本当の事だし。それにナビは俺に色々秘密にしていることあるみたいだし?』

『うっ! しょ、しょうがないじゃないですか。盟約に引っかかりますし、個人的にも知らないでほしいですもの』

『まぁ、そん位わかってるって。てか、ナビお前喋り方変わった?』

『えぇ、まぁ、取り繕っても意味が無いようですし。嫌ですか?』

『いや、別に。俺的にはフランクな感じで良いかな』

『わかりました。まぁ、これからは気楽に行きたいと思います』

『あぁ、それで頼む。あ、でも、俺が本気(マジ)になったら逆らうなよ?』

『わかってますよ。それほど私は馬鹿じゃありません』

『それなら良いけど』


 まぁ、結局暇をつぶすため馬車が着くまで、ナビと雑談をしたが。




 馬車から下りて最初に見た物は馬車だった(本日2度目)。

 その中には先程ナビが言っていた高級な馬車もあり、豪華で少し乗ってみたいと思える物だった。

 まぁ、ほとんどの馬車はここまで来るのに乗ってきたような安物の馬車ばかりだったが。

 下りた秋人達を待っていたのは産業ギルドの店員だった。


「皆様はシュトリアの街で間違いありませんね?」

「はい、そうです」


 どうやら、ここにいる人全員シュトリアの街に行くようだ。

 多分ここまで来た馬車で別れていたんだと思う。


「では、案内いたしますね」


 馬車乗り場には色んな馬車があるため、どれがシュトリアの街に行くのかわからない。

 そのため、この店員がシュトリアの街までの馬車に案内をしてくれるみたいだ(デジャブ)。


(てか、さっきの馬車でそのまま行った方が良くね?)


『そこは色々あるんですよ』

『またお前は人の思考に……はぁー、まぁ、いいか。で、色々って?』

『ここは平和だったマスターの世界とは違い、魔物や盗賊などが出ますから。ですから、なるべく大人数で行動した方がいいのですよ』

『ふ~ん、逆に大人数で移動した方が狙われやすくね?』

『いえ、そうでも無いです。人が多ければ魔物などの野生に住む者達は襲ってきません。盗賊は王都の周辺でやれば、すぐに討伐隊が派遣されますから、よほどの馬鹿では無い限りそんなことはやりませんから』

『まぁ、王都の周辺でそんな事やる奴なんていないよな……フラグじゃ無いよな?』

『さすがに大丈夫ですよ』

『いや、それもうフラグだから』

『まぁ、襲って来ても護衛の方達がなんとかしてくれますから』

『そうだな』


「こちらが皆様が乗ってもらう馬車です」


 そう言って店員は先程乗った物と同じ形をした馬車を示した。

 周りにいた人たちは乗り始め秋人はそれに習って、アリサと共に馬車に乗りこみ、アイテムボックスからクッションを出して敷いて座った。

 あ、俺のクッションは座布団的な感じのやつだ。性能重視。

 アリサは可愛らしいピンクに近い赤色だ。見た目重視。


「あと、25分程で出発いたしますのでそれまでお待ちください」


 そう言って、店員はどこかへ行ってしまった。


 そして何事も無く10分程経過した時、先程の店員と一人のエルフ(・・・)の女性がこの馬車に近づいて来た。


「あの、すいません。こちら側の席の人は少し詰めてもらって良いですか」


 それは秋人達が座っている方だった。

 そのため秋人達は奥へ詰め、人一人分座れるスペースを作った。


「では、こちらにお乗りください」


 そして、そのエルフの女性は秋人の隣に座って来た。


(本物のエルフ! 耳が長い! スタイルが良い! 胸が無いな。アリサといい勝負になりそうだ)


 じーっと見ていたのが分かったのだろう、エルフの女性はアキトの事を少し睨めつけるように見てきた。

 まぁ、だからと言って何かを言ってくる事は無かったが。

 そして、さらに15分間秋人達は馬車の中で待つのだった。




 そしてエルフの女性が乗ったこと以外、特に何事も無く25分間経ち、少しすると「カン! カン! カン!」と鐘が鳴り響き、「門を開け!」と怒声の様な声が聞こえ、門が開く音がした。


『やっとか、やっとこの俺が外の世界に行く時がきたか』

『マスターキャラが変わっています』

『余計な事言うな! 気分が大事なんだよ!』

『……そうですか』

『そうだ! オッホン、さて、俺に待ち受けているのはなんだろうな? 今から楽しみで仕方ない』

『……』


 もちろん、こんな恥ずかしい事はリアルに言わないが、心の中で思うのは自由だから。

 そして秋人は——

 キャラになりきり——それは舞台に立った役者の様に。

 胸を高鳴らせ——それは新たな一歩を踏み出す様に。

 鼓動を早くし——それは未知の物に出くわす様に。

 緊張で汗をかき——それは戦場に向かう様に。

 身体が震え——それは武者震いの様に。

 そして秋人は今か今かとその時を待つ。

 秋人が心躍る(?)事を考えていたら「ガラガラ」と言って馬車が進み始めた。


(さて、外の世界はどんな風なんだろう)


 それはキャラでもなんでもなく、秋人の本心の言葉だ。

 そして馬車は門を潜るのだった。




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