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神殺しの英雄譚  作者: 漆原 黒野
第1章 旅立ち編
13/32

第11話 プレゼント

すいません、今頃になって9話の後書きで6日が入って無いことに気付きました。

と言うことで3~7日の5連続で出すことになります。

 



 秋人はアリサと歩いていた。

 その手にはクレープが握られているため、他の人から見れば恋人同士に見えるに違いない。

 そしてクレープが大体3割程食べ終わった頃、アリサは話しかけて来た。


「ねぇ、お兄さん」

「うん? なんだ?」

「一口頂戴♡ 私のも一口あげるから、ね♡」

「……はぁー、どうせ断ってもお前無理にでも食うだろ」

「もちろん!」

「はぁー、ほら」


 そう言って秋人はクレープをアリサに差し出した。


「ちゃんと食べさせて」

「……」


 そう言われた秋人は渋々とアリサの口元にクレープを持って行き食べさせた。


「あ~ん、はむ。う~おいしい!」

「それはよかったな」

「ゴクッ、はい、お兄さんも、あ~ん♡」

「はぁー、しょうがないな」


 と言って秋人はアリサが差し出したクレープに噛り付いた。


「お、結構美味いな、これ」

「でしょ! お兄さんのも美味しかったよ!」


 アリサはニコッとして言った。

 うん、俺が食べてるチョコと違い甘味があり果物(イチゴは果物ではない)のおいしさがあって美味いな。

 俺もどっちかって言うとイチゴのクレープの方が好きだしな。






 あれから少しして、秋人とアリサは王通りから外れて市街地の入り組んだ道に入って行った。

 もちろんクレープはもう食べ終えている。

 そして、ここまで来るのに大体10分程が立っている。


「お兄さんまだ?」

「もう少し」

「それならいいけど、こんなところになんの用があるの?」

「それは秘密」

「……」


 秋人はマップを見ながら目的の場所までの道のりを確認して、あと、もう少しで目的地に着くことが分かった。


(少しずるいかもしれないけど、雰囲気が大事だからな)


 そう、秋人はマップで良い場所が無いかを探して、良い雰囲気にしようと思っているのだ(探したのはナビ)。


「この階段を登れば目的地だよ」


 そこにはかなり長い階段があり、大体直線で100m程あるか無いかといった物だ。


「本当! おっさき~」


 そう言ってアリサは秋人を置いていき、階段を一段飛ばしで登って行った。


「お、おい! 危ないぞ!」

「大丈夫! 大丈夫!」

「全く、お約束みたいに転ぶなよ。めんどくさいからな」


 そう言って秋人はゆっくりと階段を登って行くのだった。




 秋人が階段を登り切って、最初に見た物は、空が赤く染まり、地平線の向こうに消えて行く太陽の姿。


「すげー」


 秋人自身はここがどいう場所かは知っていたが、実際にこの目で見てみると全然違い感動を覚えるほど美しものだった。

 その光景は絶景と言うにふさわしい。

 日本でも、同じような物が見えたかもしれない。

 だが、そうじゃない。

 ここだけでしか見れないものがある。

 秋人ははそんな予感がした。

 根拠などなく、ただの勘だがそう思った。

 なぜなのかはわからない。

 だが、今を大事にしよう、そう思う感覚があった。


 先に来ていたアリサは気色を見るために用意された柵に体重を預け夕日を見ている。

 秋人が来たことが分かったのだろう。

 アリサはこちらを向き話しかけた。


「すごいねお兄さん、私こんな綺麗な景色初めて見たよ」

「だろ! いや~、実際俺自身も驚いているよこんなに綺麗だなんて」

「ふふ、少し適当なところがお兄さんらしね」

「……」


 なぜかわからないが、アリサが浮かない顔をしている。

 その顔には悲しみ、悔しさ、後悔などの負の感情があった。

 それが何に対してなのかはわからないが、そいう負の感情を全部引っ込めて、無理やり作って笑っているような顔だった。

 普通の人は気づかないわずかな変化。

 だが、俺にはわかる。

 そいう負の感情に俺は敏感だから。


「どうした?」

「何でも無い」

「何でも無い様には見えないけど」

「気にしないで」

「いや、気にするね」

「お兄さんには関係の無い事だから」

「……」

「……」


 なぜ、アリサがここまで悲しい顔をして秋人の事を拒絶するのかはわからない。

 それは自分への戒めなのかもしれない。

 ”取り戻せない過去”の事への。

 でも、それは俺には関係のない事だ。

 何度も言うが俺は女だろうが平気で殴る様な最低な男だ。

 まぁ、最低の男だと、ちゃんと自覚しているため大丈夫だが。

 だから、悲しそうにしていようが、何だろうが、無理やり俺の都合に合わせさせる。

 それが桐ケ谷秋人と言う人間で、そして優しさでもあった(1割位)。


「なぁ、アリサ」

「何?」


 こちらを向いたアリサに俺は近づき————


 顔をぶん殴った(・・・・・)


 もちろん、そこそこ(・・・・)手加減はしているが、それでも男の秋人が殴ったため、結構痛いはずだ。

 その証拠にアリサが地面に倒れている。


(おぉ~! これは一発KOか!)


 この男、人間としても男としても失格だ。


「い、いっっったぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーい! なにすんのお兄さん! 何しちゃってくれてんの! 今の状況わかってたよね! 私すっっっごく、悲しい気持ちだったんだよ! それを殴るってどうなの! お兄さんは平気で女の人でも殴るとは思っていたけど本当に殴るととは思わなかったよ! お兄さん人としてどうなの!」


 アリサはバッと起き上がり一気に捲し上げた。


「うるさいな」

「うるさいですって!」

「あぁ、うるさい。状況がわかってるかって、そんなのわかってるから殴ったんだろうが」

「はぁ!? 何で今の状況で殴んのよ!」

「そんなの簡単だ。お前が俺を無視して悲傷に浸かっているからだよ」

「別に良いじゃない! 悲傷に浸かっていても!」

「それはダメだ。俺の気分がそがれる」

「~~~~~!」


 アリサの心情を表すのならこんな感じだろ。

「自分勝手すぎだろーーーー!」と、思っているに違いない。


「なぁ、アリサ。お前が何でそんなに悲しそうにしているのかは知らないけど、そいうのはやめろ」


 その声は低く、暗く、精神に直接命令(・・)されているような錯覚を覚えてしまう。


「まぁ、一様これからは一緒に行動すんだ。そんな暗い顔されちゃ、こっちまで参っちまうぜ」

「……お兄さん?」

「はぁー、まぁ、こんな形になっちまったけどさ……」


 俺はそこで言葉を切りアリサに近づき、アイテムボックスに入れていた赤色の薔薇が付いた髪飾りを取り出て、少し無理やり気味にアリサに付けてやる。


「プレゼントだ、アリサ」


 それはものすごかく可愛く見えた。

 アリサはもともとスタイルがよかったし(胸は無いが)、薔薇の様な真赤な色をした髪をしているため、すごく似合っていた。


「すげー似合ってるよアリサ」


 そう言って秋人はこれまでアリサに見したことの無いような笑顔で言った。

 アリサはまだ状況が理解してないのか頭に「?」がついていたが、そんなアリサのことを気にすることなく俺は髪飾りを付けて見た素直な感想を言った。


「綺麗だ」


 秋人がそう言った瞬間、アリサはポッと顔が赤くなり、少しづづ状況を理解していったのかはわからないが、魚のように口をパクパクして、すごく間抜けな顔をしている(お約束の反応)。


「な、な、なにいってるのーーーー!」

「何って、感想だけど?」

「い、いや、そ、そうじゃなくて、あの、その、えーっと、だから!」

「?」

「……あり、がと……」


 アリサが聞こえるか聞こえないかの微妙な声でいったが、秋人はその小さな声を聞き笑顔で「どういたしまして」と、言うのだった。




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 アリサ視点


 アリサはアキトの事を考えていた。

 この人は一体何なのだ?

 いきなり殴ってきたかと思ったら、プレゼントだと言って私に髪飾りを付けてきた。

 でも、アリサ自身、なぜか嫌な気持ちでは無かった。


(こんな汚れているような私を綺麗だなんて、お兄さんは少し変だ。いや、それは最初からわかっていたか)


 多分この人はわかっているんだ。

 私が何でお兄さんに近づいたのかを。

 そして何で今こんなことをしているのかも。


(はぁー、本当喰えない人だね、お兄さんは)


 この人はそれがわかっているのに私なんかのために、こんなプレゼントまで用意してくれるなんて。

 アリサはあの時の自分の判断は間違ってなかったんだと思った。


 あれは本当にただの偶然だった。

 アリサがただご飯を食べていた時、隣に誰かが座った。ただそれだけだったのだ。

 なのにアリサは隣にいるアキトの事が気になってしょうがなかった。

 アリサにはこいう事が時々ある。年に2、3度あるか無いかといった物だが。

 それが何なのかはわからない。

 でも、この感覚に従っていればいい。

 それは数少ないながらも経験してきた事からわかった事だ。

 だからアリサは自分の目的のために、この感覚を信じて、アキトの事を利用しようと思った。

 ただ、それだけのはずが何でこうなった?


 私の心はもうはち切れんばかりに胸が高鳴り、アキトの事を考えるだけで幸せだった。

 その顔を見るだけで。

 その声を聴くだけで。

 私の名前を呼ばれるだけで。

 ただ隣に立つだけで。

 それはもう幸せだった。

 こんな気持ちになるのは初めてだ。

 この気持ちをなんて言うんだっけ。

 とても切なく。

 でも、狂いそうになるほど満たされて。

 幸せで。

 ただ隣に居たいと思う。


(あぁ、そうだ。私はこの人の事が好き(・・)なんだ)


 認めよう。

 この人の事が好きだ。

 ただ隣に居たい。

 一緒に居るだけで良い。

 それ以上は求めない。

 私にはそんな資格は無いから。

 でも、それでも、もしこの人がそれ以上を求めて良いと言うのなら私は————


 そこまで考えたアリサは、そんな考えを振り払うように顔を左右に振る。


(本当、私は馬鹿だ。求められようが求められないようと変わらない。私にそんな資格は無いんだから)


「なぁあ、アリサ」

「何お兄さん?」

「俺は別にお前に何かを求めることは無いから」

「……」


 それはど言う事なのだろう?

 先程アリサが考えていた事だろうか?

 それがど言う事なのかを聞く前にアキトは来た道を歩いて行く。


「俺は俺のためだけに生きる」


 それは誰かに言ったのではなく、ただの独り言だったのかもしれない。

 だが、その言葉はアリサの心の中にスーっと入ってきて、心のモヤモヤがストンっと剥がれ落ちた。


(あぁ、なんだ簡単な事だったじゃない。お兄さんの言う通り私は私のためだけに生きて行けば良いじゃない。”誰かを利用”してでも)


「ふふ、ありがとお兄さん」


 アリサはもう夕日が沈んでしまった空に向かってつぶやくのであった。




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 秋人は階段を歩きながら先程のアリサの事を考えていた。


(はぁー、結局これで何か変わる事なんて無いのかもな)


 最初にあった時に、秋人はマップでアリサを見ていた。

 そしたら驚きアリサを示す色は赤色だったのだ。

 もちろん最初は警戒したさ。

 だけど、一緒にいるとアリサの本質が見えて来た。

 なぜ、あそこまで俺にアピールしてくるのかを。

 そう、簡単な話だった。

 ただ、アリサは俺を利用しようと思っていただけなのだ。

 だから秋人はそんな考えをしているアリサに対して、少し面倒な事までして、俺の敵では無いようにしたかったのだ。

 でも、それは意味の無い事だった。

 だって、今もマップが表示しているアリサの色は赤色(・・)なのだから。

 だが、この時の秋人は知らない。

 どんなに優秀なスキルであろうと扱いが間違っていれば、意味が無い事を。


 俺は誰であろうと、俺の敵ならば容赦はしない。

 だから、俺を利用しようとしたアイサはもう、立派な敵だ。

 多分、これから先、何があろうと俺があいつの事を仲間だと思う事は無い。

 そう、思う秋人であった。


 だが、秋人自身さえも、思いもよらない形でこの言葉が否定されるのは、まだ、先の話し。




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 秋人はアリサを置いて先に宿に戻っていた。


「あれ、嬢ちゃんと一緒じゃなかったのかい?」


 そう言ってきたのは最初にあった、おばさんだった。


「一緒だったけど、先に帰って来た」

「何してんだい! 彼女を置いてくるなんて」

「いや、別に彼女とかじゃないですから」

「全く、そんな事言ってるといつまで経っても女は出来ないよ」

「いや、別に欲しいと言うわけではありませんし。まぁ、とりあえずごはん食べたいんですけど大丈夫ですか?」

「あぁ、大丈夫だよ」


 そう言って秋人は昼間に座っていた席に座った。


「ほいよ、メニューだよ」

「ありがとうございます」


 さて、何頼もうかな。

 意外とこの店は種類豊富なようでたくさんの料理がある。


(種類が多くてもどんなやつなのかもわからないんだけど。まぁ、とりあえず知っているやつを食べるか)


「あの、すいません。この天ぷらうどんをください」

「はい、わかりました」


 とりあえず知っていて、何が出てくるかわからない物にした。

 この場合、うどんはわかっているが、天ぷらはどんな食材を使っているのかはわからない物だ。

 まぁ、とりあえず美味いだろう。




 結論から言えば美味かった。

 美味かったんだが日本より味の質が落ちた様な物だった。

 多分衣がダメだったんだと思う。

 あと、何の食材を使うかわかんないと言っていた天ぷら。

 うん、どんな肉でどんな野菜なのか全くわからんかった。

 まぁ、日本より質は落ちると言ってもそこまでの落差は無かった。


(さて、飯も食ったし風呂に入って寝るか)


 そう思った秋人は会計をすましすぐさま自分の部屋に向かった。




 秋人は風呂に入るため、風呂の準備をしてた。

 何度も言うがこの世界は科学(機械)ではなく、魔法が発達した世界だ。

 そのためこの世界で機会と言う物が少ない(無いと言うわけではない)。だが、機械の代わりに魔道具や魔機などがある。

 だから風呂を沸かすには、みなさんご存知”魔石”が必要なのです。

 まぁ、よくある様な感じで魔石の魔力で水や火などを起こし、それで量、温度などを調節して風呂場に入れる。

 簡単に言えばこうなる。

 まぁ、この世界でも無駄は省きたいんだろうな。

 これらの事をスイッチ1つで勝手にやってくれる。

 さらに地球とは違い意外と早く出来るのだ(大体5分~10分程)。


「さて、異世界の風呂はどんな感じなんだろうな」


 って言っても、大して変わらないだろうけど。




 と、思っていた時期が俺にもありました(デジャブ)。

 もう一度説明する。

 この水や熱は魔石にある魔力(・・)で出来ている。

 勘のいい人はもうわかると思うが、要は魔力で出来た風呂だ。

 この世界に生きるものは大抵魔力を持っている(持っていない者もいる)。

 つまり微力とは言っても、魔力で出来た風呂に入れば疲労などの疲れや精神的なものにも効果的があり、少しだけだが魔力が回復する。

 俺はまだ、魔力を使った事が無いため、どんな感じなのかはわからないが、それでもこの風呂は気持ちよく疲れが取れるような感じがした。

 秋人はゆっくり風呂に浸かるのだった。






 風呂から上がった秋人はとりあえず飲み物が欲しかった。それも冷たいやつ。

 だが、秋人はそんな都合が良い物は無かった。


(くそ! こうなるんだったら買っとけばよかった。まぁ、今更か。とりあえず水道水で良いか)


 そう言って秋人は洗面台に行きコップに水を入れて飲んだ。


(マズ。まぁ、水そのそものが美味しくないけど)


『なぁ、ナビ今何時?』

『7時半程です』


 戻ってきたのが6時位、飯を食うのに30分程、そして今が7時半程。


(うわ! 風呂に1時間も入っていたのかよ。まぁ、気持ちよかったからしょうがないけど)


 秋人はいつもなら風呂に入る時間は15~20分程だ。

 それが3倍以上も入っていられる程に気持ち良かったのだ。


(どうすっかな、まだ、7時半じゃあ、眠るには早いよな? 昨日もこんな事言ったな。まぁ、娯楽が少ないもんな。……寝るか)


 さすがにやる事が無いのであれば寝るしかない。

 秋人は寝ると決めたためベットに入って目をつぶった。

 そして数分も経たないうちに寝息が聞こえて来た。

 まぁ、なんだかんだ言って、違う世界に来て、身体的にも精神的にも疲れていたみたいだ。

 先程入った風呂のお陰もあり安らかに眠る事が出来た(死んだわけではない)。


 だから秋人はこの部屋に入って来た者に気付けなかった。

 ナビは気付いたが。




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