第6話 諸々の事情
ボクは今、フォーセスの街にある地下迷宮の通路にいる。
さっき出会った五人組のパーティーの一人が、死に掛けていたのを、光魔法で治して上げたんだ。
勿論、善意からじゃなくて、光魔法の実験の為だったんだけどね。
それでも、彼らはボクに感謝してくれて、ボクの質問にも答えてくれた。
彼らは、全員奴隷なんだそうだ。
迷宮探索は、主人の命令で行っているんだって。
ふーん、そういうやり方もあるんだ。自分で探索はやらずに、買った奴隷を迷宮に放り込んで魔石を取って来させるか。
なんか、鉱山奴隷とかに近そうだ。過酷な扱いで、寿命が短そうだね。
聞くと、一日のノルマがあって、黒魔石を決まった数持って来ないと、罰を受けなきゃならないらしい。
酷い主人に買われると、奴隷は悲惨だね。
「今日のノルマは、今の戦いで、何とか達成出来た。でも、こいつが死んだら、明日から、もっときつくなっていただろう。だから、こいつを助けてくれた事には感謝する」
一人減っても、ノルマは変わらないのか。やっぱり、扱い悪いな。
見れば、首輪も嵌めてるし、武器も鎧も、大した物じゃない。安物だって、一目で判る。
戦力が落ちれば、一人の負担が重くなって、結局は全滅までの時間が短くなるだけなんだね。
このおじさんはそれが解っているから、仲間を失いたくないんだ。仲間とは、一連托生って訳だ。
「ふーん、じゃあ、今日は上手く生き延びたって事で、頑張ってね」
必要な事は聞き出せたので、ボクはこの場を去る事にした。
袖擦り合っただけの人に、これ以上して上げられる事は何も無いからね。
「あの、名前を教えて貰えませんか?」
去ろうとしたボクに、浅黒い肌をした奴隷の女の子が、声を掛けて来た。
ボクは、ゆっくりとその子の方に振り向いた。でも、ボクは答えない。人に名前を聞くなら、ルールを守って貰わないとね。
奴隷でも、一般人でも、それは同じだよ。
「わたしは、フェニヤです」
ボクの沈黙の意味が判ったのか、女の子は自分の名前を先に名乗った。
名前 :フェニヤ 年齢:14 性別:女 種族:人間
レベル:5
HP :42/59 MP:21/60
筋力:10 敏捷:13 知力:13 精神:14 生命:12 幸運:11
所有スキル
弓術 Lv3 命中強化Lv1 歌唱 Lv1
フェニヤのステータスを見てみると、やっぱりスキルは少ない。一階層なら、ギリギリ生き残っていけるかどうか、といったところかな。
「ボクは、アオト。冒険者としては、まだ新米だね。今のところはソロで探索しているよ」
名前を名乗られた以上は、ボクも自分の名前をフェニヤという女の子に名乗った。
まあ、名乗っただけだね。
実際、ボクには、彼らをどうこうする理由も権限も無いし。
フェニヤはまだ何か言いたそうだったけど、ボクは彼らを置いて、その場から立ち去った。
大通路に戻る間、ボクは、さっき出会った奴隷の事を考えた。
世の中には、買った奴隷を迷宮探索に連れて行く冒険者も多いらしい。
まあ、それは奴隷を買えるくらいのお金を持つ、成功している冒険者の話だろうけどね。
この世界の奴隷は、隷属魔法を身体に刻まれているから、主人に逆らったり逃げ出したりって事が出来ない筈だ。
だから、冒険者も安心して奴隷を使えるんだろうね。
さっきの奴隷パーティーみたいに、奴隷だけに迷宮探索をやらせているのは、多分冒険者じゃないんじゃないかな?
冒険者を名乗るなら、最低でも、自分で戦う人であるべきだと、いい加減なボクでさえ思うからね。
さて、ボクはどうだろう。
ボクは、この世界では非常識なステータスを持っている。この事は、人に知られるべきじゃない。
普通の冒険者みたいに、仲間を探してパーティーを組めば、いつかこの事を悟られる怖れがある。
まあ、ボクならソロでもやって行く事は出来るけど、それだと、いくらモンスターを倒しても、レベルアップ出来なくて、つまらないしね。
新しいスキル、覚えようかな。
ん、あれ、そういえば、ボクが倒したモンスターの魔素って、結局どうなるんだっけ?
ボクに吸収されずに、消えちゃうのかな?
ちょっと、世界知識で調べてみよう。
よし、検索だ。
……凄い事が判明した。
モンスターのHPにダメージを与えた者が持つスキルが、全てMAXだと、当然モンスターを倒しても、魔素は吸収されない。
それじゃあ、その魔素はどこへ行くのか?
なんと、一緒に行動している仲間の身体に吸収されるんだって。
つまり、ボクが一人でモンスターを倒すと、そのモンスターの魔素は、仲間にしている人に流れる訳だ。
でも、こんな事、普通はあり得ない。
だって、所有する全てのスキルがLv★になっている人なんて、いる訳がないもの。
この世界のシステムなら、出来るだけたくさんのスキルを得て、それを平均的に伸ばしてレベルアップをするのが、最も有効的だって事は、誰だって判るでしょ。
Lvを★にするよりも、スキルの平均を高める方がレベルが上がるんだから、全てのスキルをLv★にした人なんて、歴史に存在する訳が無いと思うよ。
なんて事だろう。
ボクの一番のチートは、ステータスなんかじゃない。
この世界で、ボク唯一人が、仲間のパワーレベリングを行う事が出来る。
これが、あの『何か』が用意した、一番のチートだったんだ。
これは、絶対に誰にも知られちゃ駄目だ。
特に、権力者。
こういう関係の人にこの事が知れたら、絶対に利用されちゃうね。
今後とも、そういう人達には、極力関係しないようにしなきゃ、ボクの平和な暮らしは無いよ。
うーん、でもこの特権は確かに美味しい。
それこそ、奴隷を買って育てれば、ボク程じゃなくても、凄い高レベルの仲間が出来そうだ。
というか、それしかないよね。
ボク、普通の人は仲間に出来ないよ。
秘密を絶対に守れる人じゃないと、この事は利用すら出来ない。
さーて、どうしよう。
ボクは答えを決めないまま、大通路まで戻ると、そのまま大階段まで歩いた。
朝から迷宮に入って、お昼ご飯を食べて、今も少しお腹が空いて来たから、時刻は夕方くらいになるかな。
大階段がある、広い一角まで来ると、他の冒険者達のパーティーも、何組か階段を上っているところだった。
彼らに続いて大階段を上ったボクは、迷宮入口の建物に辿り着く。
今日一日の迷宮での検証は、これで終了だ。
迷宮前の広場では、店が賑わっている。
迷宮帰りの冒険者達が、持ち帰った魔石やドロップ品、宝箱の品を商人に売ったり、屋台で夕食を買ったりしているんだね。
それに、朝には見かけなかった人達もいた。
この街の主だった道には、『発光石』を使った街灯が設置されている。
少し薄暗くなって来ていたから、その街灯が光を放っているんだけど、その下には、着飾った綺麗なお姉さん達が、何人かで立っていた。
そして、道行く冒険者の男達に、流し目をくれているんだ。
うーん、あれってアダルトな展開に必要な人達なんだね。
見ていると、今日の稼ぎが良かったような冒険者の男が、お姉さん達と交渉しては、一緒に街に歩き去って行くなんて光景が見られたよ。
まあ、ボクは呼び止められても、対応に困るだけだから、フードを被って足早にその場所を立ち去る事にした。
別に、ヘタレの心算は無いんだけど、異世界にやって来て、いきなりそんな事するのは、どうなんだろう?
ここは、そういうタイミングじゃない気がする。
うん、そうしておこう。
この世界に慣れた時には、きっとだね。
ボクは街中を進み、冒険者ギルドの総本部にやって来た。
建物に入ると、ホールの階段から二階に向かった。ここに、魔石やドロップ品の買い取りを行ってくれる買い取り所があるんだ。
一階同様、カウンターに何人もの制服を着たギルドの職員がいる。
冒険者が相手だから、この場所も二十四時間対応になっているみたいだね。
ボクは、カウンターに行くと、係の人に魔石とドロップ品の買い取りをお願いした。
身分証の白いカードも提示すると、係の人はすぐに対応してくれた。
一級市民の権限って、凄いね。
黒魔石とドロップ品、全部合わせて、銅貨五百枚くらいになった。
黒魔石の価値は、普通銅貨一枚から銅貨十枚と、保有する魔素によって変動があるんだけど、ボクの場合、幸運が高い所為か、魔石の価値も高かったみたいだ。
それに、ドロップ品も多かったから、値が上がったみたいだね。
ソロの冒険者が、地下一階層で一日にこんなに稼ぐのは珍しいと、係の人に言われちゃった。
「運が良かったんですよ」
ボクはそう言って、恍けておいた。
本当の事なんて、言える訳ないしね。
買い取りのお金の内、魔石分の半分はギルドの取り分だから、ボクの受け取りは銅貨三百枚くらい。
それは、ギルドに預かって貰う事にした。
カードにお金が全く入っていないのも、おかしいと思ったからだ。
当面のお金は持っているから、貯金して置けば良いよね。
ボクはギルドの建物を出た。
周囲はもう暗くなっていた。
でも、魔石の明かりのお蔭で、この街の中は、近代的な明るさで賑わっていた。
流石に、大広場での市場は、ほとんど閉まっていたけど、酒場や食堂なんかは、これからしばらく忙しいのかな。
折角だから、ボクもどこかで食事して行こう。
ボクは、賑やかそうな声が響く脇道に足を踏み入れた。
道沿いに、食堂や軽食屋、居酒屋なんかが並んでいる通りだ。
あっちこっちから良い匂いが漂い、たくさんの人達が出入りしている。
「いろんな店があるんだな」
建ち並ぶ店を眺めながら、ボクはその通りを歩いた。この国の伝統料理を出す店もあれば、他国や異種族の料理を出す店もあり、魚料理や肉料理の専門店も見かけた。
このフォーセスの街は、交易の拠点として栄えている港街だから、国際色豊かなんだね。
ボクは、そんな店の中から、一軒の料理屋『子狐亭』を選ぶと、扉を押して中に入った。
「いらっしゃいませっ! 子狐亭にようこそ」
そんなに大きな店じゃないけど、中には十人くらいのお客さんがいて、ボクが中に入ると、店員の女の子が元気良く声を掛けてくれた。
ボクよりちょっと年下くらいの、三つ編みの金髪に大きな青い目をした可愛い子だ。
白いエプロンをして、手には料理を載せたお盆を持っている。
「夕ご飯頂いても、良いですか?」
「勿論、お客さん一人追加でーす」
金髪の女の子は、カウンターの奥の厨房に叫んだ。
「ええ、分かったわ」
厨房からは、落ち着いた女の人の声が聞こえた。
ボクは一人だから、テーブルよりもカウンターかなと思って、そっちに足を向ける。
置いてあった丸椅子に腰掛けて、奥を覗くと、金髪に青い目をした女の人が、料理をしていた。
今の女の子に良く似ている、美人さんだね。まだ二十代に見えるけど、もしかしたら母娘なのかな?
そんな風に見ていると、女の子が注文を取りに来た。
「キミ、何を食べたいの?」
「うん、そうだね、この店で一番美味しい料理をお任せで良いかな?」
「良いよ。ママの作る料理なら、何でも美味しいから」
そう言って、女の子は胸を張った。
やっぱり、母娘だったんだね。親子で、このお店を切り盛りしているのかな。料理上手で美人のお母さんと、元気で可愛い看板娘ってとこだね。
しばらく待つと、ボクの前に料理が並べられた。
湯気を立てる野菜と鶏肉のシチュー、スライスされたパンが二つ、野菜に植物油と香辛料を振り掛けたサラダ、焼いた白身魚の大きな切り身、それに木の実ジュースだね。
「さあ、召し上がってね」
運んでくれた女の子が、何かを期待するような目で、ボクを見る。
この世界にチップの風習は無いらしいから、これは味の感想を求められているのかな?
「頂きます」
ボクは、そう言って、スプーンでシチューをすくって口に入れた。
元の世界で食べたシチューとは、全然違うものだけど、色々な野菜や肉の味がはっきりしている上に、シンプルな味付けは、悪くない。
「うん、美味しいや。君のお母さん、料理が上手なんだね」
お世辞じゃなくそう思った。
「でしょ。気に入ったら、いっぱい食べてってね」
女の子は嬉しそうな笑顔を見せて、そう言った。
ボクはパンをシチューに浸して食べたり、フォークでサラダを口に運んだ。
ナイフで白身魚を切り、木の実のジュースを飲む。
これが、夕食ってものだよね。
魔法で作ったマナも美味しいけど、やっぱりあれはおやつや非常食にするべきだ。
料理は美味しいし、美人母娘もいるなんて、良いお店見つけたよ。
うん、ここは『子狐亭』の常連客になるべきだね。
ボクは、そう結論を出して、食事を続けた。
「御馳走様でした」
器に残ったシチューまで、パンに付けて食べ終えたボクは、母娘にお礼を言った。
料理の代金は、銅貨十枚。
庶民の店の平均的な一食だね。
「このお店は気に入ったよ、また来るかな。ボクはアオト、君の名前は?」
「うん、いつでもご来店お待ちしています。あたしは、リネット。ママは、セレーヌだよ」
ボクが名乗ると、リネットは母親の名前も教えてくれた。
厨房に視線を送ると、美人のセレーヌさんが、ニッコリ笑い掛けてくれた。
良い人なんだね、セレーヌさん。
「じゃあね、リネット。お腹空いたらまた来るよ」
ボクは彼女に銅貨を渡して『子狐亭』を出た。
街中は明るいけど、空は満天に星が煌いている。当たり前だけど、見た事の無い星空だった。おまけに、星の海には月が二つ浮かんでいる。
大きい月と小さい月だ。
こんな光景を見ると、異世界度が増すよね。
街灯の明かりを頼りに、ボクは家への帰り道を歩く。
高級住宅街は治安が良いから、夜に出歩いていても、物取りや暴漢に襲われる事はなかった。
家に着くと、お風呂に入って部屋着に着替える。
テレビもパソコンも無いから、後は部屋で読書だね。
そんな風に思っていたんだけど、お風呂から上がると、玄関から扉を叩く音がするのに気が付いた。
誰か、来たみたいだ。
真夜中じゃないけど、こんな時間に誰だろうね?
「はい、どなたですか?」
ボクは、玄関の鍵を開け、扉を開いた。不用心かもしれないけど、まあ、仮に押し込み強盗だったとしても、何とかなるよね。
「夜分に申し訳ありません、アオト坊ちゃま。ベリルでございます」
玄関の前に立っていたのは、身長二メートル近い、喋る石のゴーレムだった。
いや、違うね。
ゲームに出て来るゴーレムって、服着ていないもの。
これは確か、ラン・ヴァースで人間と共存する異種族の一つで、鉱石人って言う、鉱物の身体を持つ種族だよ。
それに今、この人ベリルって名乗った。
その名前は、アオトになったボクの記憶の中にある。
「ああ、ベリル先生ですか。構いませんから、中へどうぞ」
鉱石人のベリル先生。
この国で弁護士をやっている人で、両親亡き後、ボクが相続した財産の管理をしてくれている人、という設定になっているんだ。
「はい、ではお邪魔させて頂きます」
ベリル先生は、花崗岩みたいな身体を持つ鉱石人で、理知的な性格をした紳士の筈だ。
こんな時間にやって来たという事は、何か急な用事が出来たんだろう。
ボクは、ベリル先生を居間に案内した。
こういう場合は、お茶とかお菓子とか出した方が良いかな?
でも、鉱石人って、飲んだり食べたりするんだっけ?
結局、ベリル先生がお構いなくと言うから、ボクも大人しく居間のソファに座った。
「一人暮らしには、もう慣れましたかな、アオト坊ちゃま」
「うん、気楽な生活だよ。冒険者になったから、迷宮にも行くけどね」
「そうですか、やはり坊ちゃまも冒険者になられましたか。やはり、血は争えませんね」
ベリル先生は、ボクとの会話を世間話から始めた。
何か、言い出し難い事でもあるのかな?
まあ、アオトとしての過去の記憶は、思い出そうと思えばすぐに出て来るから、会話でボロが出るような事は無いと思うけど。
「それでなのですが、アオト坊ちゃま。このような時間にお会い頂いたのは、今は亡きセイレストご夫婦から、私が任されていた仕事に関する事なのです」
挨拶代りの会話が終わると、ベリル先生は少し困った様子で話し始めた。
意外な事に、鉱石人でも微妙に表情が変わるんだね。
「先生が任されていた仕事と言うと、財産管理ですか?」
「はい、その通りです。ご夫婦がアオト坊ちゃまに残された財産は、この家や一級市民権、魔道具や装飾品、現金等があります。それらは既に、坊ちゃまの手に渡っておりますが、それ以外にも、坊ちゃまが受け継いだ遺産がございます」
うん、その辺の事も記憶の中にあるよね。
この家の中にある財産だけでも結構なものだし、宝物庫の中には現金もある。
普通に暮らすだけなら、これだけでも困らない筈だ。
でも、ボクに残された財産は、それだけじゃない。
「坊ちゃまのご両親は、冒険を通して稼いで来られた多くの財貨を、様々な商店や交易商人に投資していました。これらから得られる利息だけでも、年に銅貨百万枚以上になります。このお金は、私が責任を持ってお預かりしておりますので、ご入用の場合には、連絡をお願いいたします」
年に、銅貨百万枚以上が、何もしなくても利息だけで手に入るのか。
お金持ちの両親は、ありがたいよね。
しかも、死んでいるから五月蠅い事も言わない。
何気に、酷いチートな気がする。一度も会った事の無い親なんだけど、すみません。
「しかし、です。投資と言うものは、絶対に儲かると言うものでもありません。必ずリスクがあり、時にそれが不幸を呼ぶ事もありまして……」
「うーん、つまり投資先に何かあったの?」
「はい、投資先の一つ、ギルボット商会の交易船が、中央海で消息を絶ちました。積荷には、ベルドニカ大陸の特産品が大量に含まれていて、被害は甚大です。今回の交易で、ギルボット商会は一攫千金を目指して、セイレストご夫妻からの投資だけでなく、自前の財も多く投入して船を出していた為に、事実上の破産状態となってしまいました」
つまり、博打に負けたんだね。
それで、財産無くしたから、ボクに返って来る筈のお金も無くなったと。
「その損失って、大きいんですか?」
「はい、かなり」
「じゃあ、取り戻せないって事?」
「これから、商会の財産の差し押さえを行います。坊ちゃまの財産分の投資が、最も大きいので、優先的に回収を行いますが、それでも、戻って来るのは半分くらいかと」
ベリル先生が、言い難そうにそう言った。
まあ、元々ただで貰ったような財産だから、無くなったって言われても、ボクはふーんとしか思わないんだけど、お金を預かって管理しているベリル先生にとっては、重要な問題なんだろうね。
「お話は判りました。資金の回収の方は、ベリル先生を信頼して任せます。まあ、全部戻って来なくても、仕方ありませんから、頑張って下さい」
先生を責めたりしませんよと、暗に言うと、ベリル先生は、ホッとした様子で頭を下げた。
「では、回収には数日掛かりますので、それが終わり次第ご報告に伺います」
話を終えると、ベリル先生は、表に停めた馬車に乗って自分の事務所に帰って行った。
多分、仕事が山積みなんだろうね。
この件はベリル先生に任せて、ボクは結果を待つだけか。
「さてと、もう寝よ」
今日は一日迷宮で戦ったから、疲れた。
何て事はなくて、まだまだ体力は有り余っているんだけど、規則正しい生活は大事だよね。
ボクは、寝室に行くとベッドに潜り込んだ。