第5話 迷宮戦闘
地下迷宮の一階層に、力の検証にやって来たボクは、通路の一角でブルースライム一匹と遭遇し、これを撃破した。
まあ、力の差があり過ぎて、一撃で終わっちゃったけどね。
でも、この身体の高スペックは理解出来て来たよ。
ステータスの出鱈目な数値は、嘘じゃないようだ。
さあ、検証を続けよう。
ボクは、大通路から入った横道を進んだ。
その横道の左右には、大きな扉がある。高さは三メートル以上の両開きの扉で、分厚い木の板を鉄の板で補強した頑丈そうな代物だね。
凄く重そうではあるんだけど、鍵も掛かっていないし、押せば自然に開きそうだ。
ボクは、その扉を押し開けてみた。
ギィ。
少し軋んだ音を上げただけで、扉は開いた。
扉の中は、ブロック一つ分の部屋になっていた。
広さは、八メートル四方で高さは十メートル。そこに、モンスターがいた。
キィキィと甲高い鳴き声を上げる、大きな鼠が五匹だ。
【大鼠】
体長1メートル程の、巨大化した鼠。鋭い牙を持ち、集団で襲い掛かって来る。
見た目通りのモンスターだね。
じゃあ、次は魔法の検証だ。
ボクは、大鼠に向けて剣を握った右手を突き出し、光魔法を念じてみた。
魔法の使用には、特に呪文の詠唱なんかは必要無いんだって。
マニュアル通りの決まりきった魔法もあるけど、術者の想像力次第で魔法は変化する。
だから、ボクはオーソドックスに、光を矢に変えて放つ魔法をイメージした。
ボクの腕の周りに、光が集中して矢が形成される。
その数、五本。
「行けっ!」
ボクの声と同時に、五本の光の矢が大鼠に向けて放たれた。
矢は一本も外れる事無く、ボクに襲い掛かろうとしていた大鼠達に突き刺さる。
「キキィッ!」
大鼠達は、断末魔の鳴き声を残して、一匹残らず魔素に還って行く。
後には、五個の黒魔石と、ドロップ品が残った。
【大鼠の牙】
大鼠が落とすドロップ品。
やっぱり、幸運が高い所為で、大抵のモンスターからドロップ品が手に入るみたいだね。
それに、今の光魔法。
消費MPを見ると、一本につき2点だった。
光魔法の初級攻撃魔法なんだけど、たくさんの相手に撃つと効率は良くないね。
ボクが使える光魔法と闇魔法には、火魔法や水魔法と違って、広範囲を攻撃出来る魔法が無いのが欠点なんだよね。
単体攻撃魔法を拡大して、一体毎に使わないと、多数の相手を押し切る事が出来ない。
効率が悪いから、MPの消費も大きくなるんだ。
でも、それは、一般の冒険者の話。
ボクのMPは一万を超えているから、あんまり問題じゃないよね。
今の光の矢も、初級の魔法だから、本来の威力はたかが知れている筈だけど、ボクが使えば、極大魔法並みの威力になってしまう。
知力が高く、魔法強化スキルがMAXになっている影響だね。
五、六層くらいまでの相手だったら、今の魔法一発で倒せるんじゃないかな?
光魔法は本来、回復や治療系の魔法が充実している系統なんだけど、これなら攻撃にも使えるね。
えーと、他に使えそうな光魔法と言うと、これかな?
ボクは、剣を持っていない左手に意識を集中させた。
するとそこに光が集まり、一瞬にして一振りの剣が現れた。
刃渡りは一メートル程で、黄水晶のような半透明の刀身が、薄ぼんやりとした黄色い光を放っている。
【光魔法、光の結晶剣】攻撃力:300
光魔法によって作り出された長剣。術者のレベルが、剣の攻撃力となる。通常武器が無効の敵に対してもダメージを与えられる。
鑑定してみたら、剣の性能が明らかになった。
「攻撃力300か。ボクの今のレベルと同じなんだね。えーと、それじゃあボクの攻撃力って……」
ボクは、自分の攻撃力を算定してみた。
攻撃力は、筋力と武器、それにスキルの修正を足した数値になる筈だ。
ボクの筋力は582、それに加えて筋力強化がMAXだから、筋力は100上昇している。
攻撃強化もMAXだから、攻撃力も100上昇だ。
剣術のスキルでも修正が掛かっているから、剣を使用した場合に限って、MAXで攻撃力が100上昇する。
そこに光の剣の攻撃力を加えると、ボクの攻撃力の合計は、1182って事か。
「うわあ、だね。チートが過ぎるよ、こんな攻撃力」
ボクは、呆れて光る剣を見つめた。
なんたって、ボクにはさらに二刀流のスキルがある。それも、MAX状態になった二刀流がだ。
両手に武器を持って、二回攻撃が可能な二刀流のスキルだけど、スキルLvが低いと命中と攻撃力にペナルティーが掛かる。
二刀流がLv1なら、命中と攻撃力が90%も低下するんだよね。
でも、これがMAXのボクには、このペナルティーが無い。
二刀流で二回攻撃が可能だけど、命中も攻撃力も全く低下する事なく、攻撃が行えるんだ。
「つまり、一回の攻撃で敵に与えられるダメージが単純に二倍になるって事だよね」
一千を超えるような攻撃力での二回攻撃。
相当HPが高いモンスターでも、1ターンキルが可能じゃないかな。
「検証、もっと下の階でやれば良かったかな?」
今更ながらに、ボクはそう思った。
光の剣はボクが消さない限り、丸一日存在しているようなので、取り敢えずこのままにした。
光魔法には、他にも防御系や便利系の魔法もあるけど、この辺のモンスターには関係無いかな。
魔石とドロップ品を拾ったボクは、この後、いくつかの扉を開いて、モンスターと遭遇し、検証を続けた。
まず、剣術のスキル。
これがMAXのボクは、色々な剣技をMPを消費する事と引き換えに使う事が出来る。
連続切り、強打、武装切り、受け流し、全体切り、三段攻撃なんかが使えたね。
もっと強力な技もあるみたいだけど、今はいいか。
次は、格闘術かな。
ボクは、二本の剣を宝物庫にしまうと、素手での戦いに挑んだ。
壁に並ぶ扉を開けると、中には緑色の肌をして武装した小鬼が五匹いた。
【ゴブリン】
身長130センチ程の、緑の肌の小鬼。ゴブリン種の中では、最も弱い種。武装して、集団で襲い掛かって来る。
おお、有名なあのゴブリンだ。
この世界にも、いるんだね。
ボクは、小剣を持って襲い掛かって来るゴブリンの一体に、拳を打ち込んでみた。
弾丸みたいな勢いで放たれたボクの拳が、ゴブリンの頭を文字通り粉砕する。
上顎から上が吹き飛んじゃった。
結構、グロい光景だね。
本当なら、格闘術は、このまま連続して打撃を打ち込む事で、攻撃力の低さを補うはずなんだけど、必要なかったよね。
ボクは一旦ゴブリン達から距離を取った。
倒す事が目的じゃなくて、ボクの戦闘能力の検証が目的だからだ。
「これは、どうかな?」
ボクは、格闘術の技の一つを試した。
MPは消費するけど、全身にオーラを纏って、攻撃力と防御力をアップさせる技だ。
爆発するような勢いで、ボクの全身が揺らめくような不可視のオーラに包まれる。
試しに、ゴブリンの攻撃を受けてみる。
うん、ダメージ0だね。
ゴブリンの攻撃力じゃ、今のボクの防御力は貫けない。
「じゃあ、次はこれだ」
ボクは、両手にオーラを溜めるようなイメージを浮かべると、それを一体のゴブリンにぶつけた。
「はあっ!」
ドンッ!
オーラの塊がボクの両手から飛び出して、ゴブリンの身体を巨大なハンマーで叩いたように粉砕した。ゴブリンは、手足を引き千切られ、内臓を飛び出させながら消えて行く。
「これなら、漫画の技だって使えそうだね」
スキルの高さだけじゃなくて、想像力が新たな技や魔法を生み出すのなら、異世界の知識を持つボクは色々な事が出来そうだった。
残ったゴブリンには、蹴り技や投げ技を使ってみた。
初めて使った技でも、この身体はイメージ通りに良く動いてくれる。
スキルLvは万能なんだね。
部屋の中にいたゴブリンを全部倒すと、魔石とドロップ品が転がる。
【ゴブリンのナイフ】
ゴブリンが落とすドロップ品。
価値は無さそうなドロップ品だけど、ボクは全部拾って宝物庫に入れた。
次は、闇魔法の検証だ。
闇魔法には、敵にバッドステータスを与えたり、能力値を低下させたりする魔法が揃っている。
他にも、敵を負傷させたり、人を呪ったり、暗闇を作って影に紛れたり、直接相手にダメージを与える魔法は少なくて、相手を弱らせて味方を有利にさせるような魔法が知られているみたいだ。
だからなのか、闇魔法の使い手には、ネガティブなイメージが付き纏っているんだって。
なんか、世間からは邪悪な魔法使いと言えば、闇魔法使いの事を言うらしいんだ。
ボクも気を付けなきゃ駄目かな?
結構便利な魔法もあるんだけどな。
因みに、闇魔法でも剣が作れる。闇の結晶剣だ。
でも、この剣は、HPには一切ダメージを与えられない。この剣で攻撃されると、ダメージを受けるのはMPの方なんだ。
魔法使い殺しってやつかな。
闇魔法、一つ使ってみようか。
次に入った部屋には、カサカサと無数の足を蠢かせる大きな百足が四匹いた。
【大百足】
体長1メートル半はある、大きな百足。鋭い牙で攻撃して来る。
虫もここまで大きくなると、本当にモンスターだよね。
ボクは、その四匹の大百足を見つめつつ、闇魔法を発動させた。
ボクの瞳が一瞬紅く輝くと、視線の先にいた大百足達が一瞬身体を硬直させて、そのまま床の上で動かなくなり、魔素に変わって行った。
闇魔法スキルがMAXの者だけが使える最高位の魔法、死の瞳だ。
アンデッドや魔法生物なんかには効かないんだけど、他の敵なら、抵抗出来なかった場合には即死するっていう、魔法だね。
うん、確かに邪悪かも。
これはヤバい魔法だよね。使える事は、人に知られちゃ駄目なやつだよ。
当面、ボクが闇魔法を使える事は秘密にしなきゃ。
【大百足の殻】
大百足が落とすドロップ品。
ボクは、魔石とドロップ品を回収して、通路に戻った。
今までの戦闘で、ボクは自分の戦闘能力を大体把握した。
思っていた通り、完全無欠のチートだったよ。
一階層のモンスターなんて、もう相手にもならない。いっそ、十階層にでもチャレンジしてみようかな?
そうでもしないと、回復系魔法の実験も出来なさそうだし。
そんな事を考えつつ通路を進むと、ボクのお腹がグウーと鳴った。
「お腹が空いたな。何か食べよう」
宝物庫には、携帯食料も入れて来たから、歩きながらでも齧る事が出来る。
でも、今は力の検証中。
どうせ食べるなら、魔法を使ってみよう。
ボクは、光魔法で両手に光を灯し、それを圧縮するようにして固めるイメージを描いた。
すると、ボクの手の中で、光が凝縮され、バターの塊のような物が現れた。
「これが、光魔法で造れる食べ物、マナなんだね」
ボクは、その真っ白なバターの塊のような物を口に入れてみる。
「美味しいっ!」
それは、ほんのり甘くて、口の中で優しく溶けて呑み込めた。
これが、マナと呼ばれる魔法の食物なんだ。
光魔法で造られたマナは、完全栄養食で、これだけ食べていれば健康を害する事も無く飢えも癒される。味に飽きる事も、虫歯になる事も無く、太る事も無い。
しかも、とっても美味しいんだ。
「これがあれば、携帯食料なんて要らないかな? でも、他の料理だって食べたいしな~」
ボクは、悩みつつ、宝物庫から『給水石』付きの水筒を取り出し、魔石にMPを送った。すると、一リットルくらいの水筒の中に、湧き出すように水が貯まった。
その水で喉を潤しすと、ボクは迷宮を奥へ進んでみた。
『地図石』の魔石板には、ここまで通って来た通路や部屋の配置が映し出されている。
これと『方位石』があれば、道に迷う事はなさそうだ。
迷宮の中は、不思議な静けさに包まれていた。
この中では、今この瞬間も冒険者とモンスターとの戦いが行われている筈だけど、ボクが大階段から離れた場所まで来た所為か、戦いの音も聞こえない。
ここの気温は、暑くも寒くも無く、風も吹かないから、本当に奇妙な場所に感じる。
人知を超えた不思議な空間、それがラン・ヴァースの迷宮なんだね。
ボクはその後も、適当にモンスターと戦いながら、迷宮を探索した。
そして、扉を開けて入った部屋の一つで、今までの部屋には無かった物を発見した。
それは、宝箱だった。
長さ一メートルくらいの正方形の箱に、蒲鉾型の蓋が付いていた。
材質は木みたいだけど、鉄で補強もされているね。
これも、迷宮の不思議さを示す、証拠の一つとして知られている物。
迷宮の中に、ぽつんと置かれている宝箱。
何であるのか、いつ現れるのかも解らない謎の存在。
解っているのは、宝箱の中に、色々なお宝が入っている事だけなんだって。
でも、そのお宝を手に入れる為には、宝箱に掛かっている罠を外す必要がある。
罠にも色々種類があって、毒針が飛び出して来たり、熱した油が飛び散ったり、いきなり爆発したりする事もあるそうだ。
そんな罠は、密偵術なんかの罠解除技術で、何とか対処するんだって。
ボクも、密偵術のスキルがあるから、罠の発見や解除は出来る筈だよね。
よし、やってみよう。
宝物庫から、密偵の七つ道具を取り出し、宝箱の周囲を詳しく調べてみる。
罠を解除する道具が揃った密偵の七つ道具を使って、ボクは錠前や箱の隙間を覗いて見た。
スキルの記憶が刺激され、ボクは、この宝箱に毒針の罠が設置されている事を確信した。
「ふーん、これがスキルの調査なんだ」
簡単に宝箱の罠を見つけ出せたのは、LvがMAXのお蔭だね。
ボクは、道具を使って、毒針を封じ、宝箱の鍵を解除して蓋を開けた。
箱の中には、布袋が一つ入っていた。
中を開けてみると、黒魔石が十個入っている。
「まあ、地下一階なら、こんなもんだよね」
そんなに価値のある物じゃないけど、初級者にとっては、一日分の稼ぎくらいにはなるのかな。
ボクは、それを宝物庫に入れた。
さて、どうしようかな。
一通り迷宮での検証も終わったし、今日は帰るか。
今ボクは、お金も住む家も、力も持っているから、正直この迷宮探索は娯楽でしかない。
誰か、仲間でもいれば、育てるのも楽しいかもしれないけどね。
『地図石』の魔石板を見て、『方位石』で方向を見れば、大階段まではすぐに行けるね。
宝物庫の中には、迷宮内から一瞬で外に出られる『転移石』もあるけど、これは使い捨ての消耗品だし、そこそこ値の張る魔石だから、無理に使わなくてもいいか。
ボクは、通路を大階段に向かって進んだ。
その途中、一組の冒険者パーティーが、モンスターの一群と戦っている場面に遭遇した。
ボクはその人達に気付かれないようにしながら、戦闘を観察する。
戦っている相手は、浮遊する人の生首達だった。
【フローティングフェイス】
ゆらゆらと浮かぶ、人の顔だけの姿をしたアンデッドモンスター。中空を浮遊し、牙を使って襲い掛かって来る。
アンデッドモンスターか。
光魔法で聖なる光とか使えば、一発かな。この魔法だけは、広範囲攻撃魔法なんだよね。アンデッドにしか効かないけど。
冒険者達の方は、なんだかみすぼらしいね。
使っている武器も、身に着けている防具も、安物の中古品だ。
レベルも全員一桁で、辛うじて武器系のスキルを持っているくらいだね。
だからなのか、戦いには苦労しているっぽい。
ふわふわと飛び回りながら噛みついて来る死者の顔に、中々武器を当てられていない。
一階層と言っても、レベル一桁の冒険者が命を落とす事は珍しくないんだって。
あの人達も死者の仲間入りをするのかな~、と思いながら見ていると、彼らはどうにかフローティングフェイス達を倒した。
でも、一人重体の人がいるね。
倒れて血を流して、動かなくなっているよ。
仲間が周りの集まって、必死に叫んでいる。
まあ、それだけじゃ、どうしようもないよね。魔法の回復薬を飲ませるか、『治癒石』の魔石や光魔法で治療しないと、HPを急速に回復させる事は出来ないんだ。
さて、どうしよう。
ボクなら、光魔法で回復させる事が出来ると思う。
でも、ボクとあの人達とは、縁も所縁も無い。
あのレベルとスキルじゃあ、冒険者としても底辺だから、コネを築く意味も無いと思う。
さあ、助けるべきか、立ち去るべきか?
ちょうど、光魔法の検証がしたかったんだ。ボクは結局HP減らなかったから、回復魔法は使ってないんだよ。
うん、この理由なら良いか。ボクは断じて正義の味方じゃないし、良い人でも無い。無償の人助けなんて、しちゃ駄目だよね。
「どうかしましたか?」
ボクは白々しくも、たった今この場に来たかのように、彼らに声を掛けた。
彼らは、突然現れたボクに驚いた様子だったけど、ボクが装備しているコートが値の張りそうな品物だったから、実力のある冒険者だと勝手に思ったのか、話をしてくれた。
「今の戦闘で、仲間が一人やられたんだ。おそらく、もう助からん」
この冒険者パーティーのリーダーらしき、三十過ぎのおじさんが、沈痛な表情でそう言った。
彼らは、男三人と女二人の五人パーティー。
迷宮の床の上で、二十歳くらいの女の人が、同い年くらいの動かない男の人を抱えて、泣きじゃくっている。
他の三人は、途方に暮れているね。
「じゃあ、治しましょうか?」
ボクがそう提案すると、四人の視線が一斉にボクに向いた。
何を言っているのか判らない、そう言っているみたいな目だ。
「治せるのか?」
「はい、ボクは光魔法が使えますから」
おじさんに訊かれたので、ボクは優等生モードで正直に答えた。
「ひ、光魔法の使い手、神官なのか?」
「いえ、ただの冒険者です」
神殿なんて、生まれてこの方観光以外では行った事が無いよ。
でも、この世界では、光魔法の使い手と聞くと、大体神殿関係者だと思われるんだね。
「あの、本当に治して貰えるんですか?」
その時、ボクに声を掛けて来たのは、女性二人の内の一人、青年を抱えている女の人とは違う、ボクと同い年くらいの女の子だった。
ぼさぼさの茶色い髪に、浅黒い肌、痩せた身体をしているけど、身だしなみを整えれば、可愛い子だね。
手には弓矢を持ち、背中には矢筒を背負っている。
「わたし達は、奴隷ですよ。それでも、治して貰えるんですか?」
女の子は、懐疑的な視線でボクを見つめた。
ふーん、この人達は奴隷のパーティーなのか。それはちょっと、話を聞いて置きたいな。
「うん、ボクは構わないよ」
そう言って、ボクは回復の光魔法を発動した。
柔らかな光が重体の男の人を包み込み、その傷を癒して行く。ゲーム的にはHPの数字が回復するだけだけど、今ボクの前で起こっている出来事は、それだけじゃない。
身体に開いた傷が塞がり、痛めた内臓や骨が修復され、失った血液が増加する。
それは、魔法を使えない人にとっては、奇跡の光景に見えるようだ。
他の四人が、目を見張る中、動かなくなっていた男の人の身体がピクリと跳ね、ゆっくりと目を開け始めた。
実験成功だね。
今使ったのは、光魔法の回復の中でも、一番初歩の魔法だ。
それでも、ボクの高い知力と、魔法強化、光魔法MAXの効果で、最大級の回復を見せてくれた。
これだけの重傷でも回復させられるのなら、光魔法は役に立ちそうだ。
さて、奴隷のパーティーの人達に話を聞かせて貰おうかな。