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竜族使い竜牙  作者: 竜川竜一
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約定と真実

人は時が過ぎるほどに、無情になっていく。

大勢の中で泣く、子供にも今の人々は目に向け無いのだろう。

物心付いた頃から、『親』と呼ばれる存在はいなかった。

物心ついた頃から、施設と呼ばれる場所にいた。

親のいる子供達は施設を出ていくことが多くても、自分はそんな事などなかった。

誰でも良い、僕を愛して欲しい。

親の愛情なんてわから無いから。

ハッと眠りから覚めた時には、何故か、自分のマンションの部屋のベッドで眠っていた。

竜牙は首を傾げ、戸を開ける。

「お、目が覚めたな!」

リビングにいたのは、赤い髪と翡翠色の瞳を持った青年だった。

「……誰?」

周りを見渡すと、他にも人がいた。

水色の髪と紫色の瞳を持った男と白髪と琥珀色の瞳を持った男がリビングの椅子に座り、何かを待っている。

「俺?俺は赤竜!敖欽って呼んでくれ。で、水色の髪を持った目付きの悪い奴が青龍。敖広って呼んでやってくれよ」

青龍の紹介の仕方にその本人は悪かったな、と言って赤竜を怒鳴ることはなかった。

「で、こいつが白竜。またの名を敖潤っていうだ。まぁ、敖潤って呼んでやってくれよ」

元気に紹介する赤竜だが、竜牙は訳がわからなかった。

「赤竜。やめぬか、竜牙が混乱しておる」

白竜に諌められた赤竜は黙り込み、その場に座る。

「竜牙よ。約定が果たされる時が来たのだ」

「…約定…?」

約定とは約束の意を示すもの。

自分はいつ、誰と約束を交わしたのだろう。

白竜の説明に竜牙の頭は混乱の言葉しかない。

「…白竜…貴様の言葉は足りなすぎる」

ため息を吐いた青龍が、その目付きの悪い紫色の瞳で竜牙を睨む。

「貴様の為に言う訳では無いことを覚えておけ。貴様は、我らが従う天帝様と約定を交わし、我らの命、"竜玉"を持ち、邪悪なる者と戦う使命にあるのだ」

「……竜…玉?」

青龍の説明に竜牙は首を傾げ、考えた。

それに似たものなど、あの金色の玉しか無い。

「あ、あれは…」

「貴様の意見など聞かん」

「っ!」

手酷く青龍に突き放された竜牙は、その目に涙をためる。

そんな青龍に赤竜が彼の名前を怒りを込めて呼んだ。

「そもそも、こんな女々しい男に"竜玉"を渡した事、事態が可笑しい。天帝様は何を考えて…」

「あれは……!」

声を張り上げた竜牙に青龍はイヤイヤしげに見詰める。

見たことのある視線。

認め無いと言っている視線だ。

「僕だって、そんな約定知ら無いよ‼︎」

その視線が嫌いだった。

竜牙は鞄を持って、走り出す。

「竜牙!!」

赤竜の心配する声を無視して、竜牙は走った。

「青龍‼︎」

「俺は認めんぞ。あのような男が…」

「お前のその態度が、竜牙を傷付けているとわからんか‼︎」

白竜が青龍に怒鳴る。

そんな声が竜牙の耳にも届いていた。

「違う。これは…お母さんの…」

"竜玉"なんて知ら無い。約定なんて知ら無い。

「……どうして…僕なの…?」

弱気で内気で弱虫で泣き虫で女々しくて、そんなの自分が良く知っている。

何故、天帝は自分を選んだのか。

元より、天帝とは誰なのだろう。

「おい…」

上から聞こえた声に、竜牙は肩を震わせた。

青龍のため息が響く。

「…寒いだろう。貴様ら人間は、俺達と違って体が弱いからな、ささっと帰るぞ」

青龍に掴まれた右腕を竜牙は払おうとしたが、元より筋肉質な青龍に通じるはずがなかった。

「貴様みたいな奴は俺に守られろ」

青龍の言葉に竜牙は顔をあげた。

舌を打ち、イライラしているように見えた態度は本来の優しさを隠すものなのか、否か。

それでも、自分に約定が果たせるのか。

竜牙はそれが、心配だった。

「良し、全員揃った所で話をしよう」

竜牙を含めて全員を見つめる白竜は淡々と説明を始めた。

「我らの宿命は竜牙を守り、八岐大蛇を倒すこと。解るな?」

白竜の問いに、竜牙を覗く赤竜と青龍が頷いた。

「しかし…驪竜が裏切りを行った。彼奴も倒さねばならん」

「え…」

驪竜とはあの黒い髪の男の事だろう。

彼はただ、光を見たいだけだ。

だが、発言する勇気のない竜牙は黙って聞くことしか出来無い。

「竜牙。君は覚えてはいないが、君は確かに天帝様と約定を交わし、私達の命とも言える"竜玉"を預かった。これが、真実だ。解るな?」

白竜の問いに竜牙は頷く。

あの綺麗な女性は自分の母ではなく、天帝という偉い人物だったのだと、竜牙は今になってそれが良くわかる。

「君が天帝様と交わした約定はこの地上を護ること。今は受け入れ難いと思うが、私達が全力で君を守ろう。何か、聞きたいことは?」

続いて問われた言葉に竜牙は首を横にふった。

「…分かった。今日は休むと良い。明日も学校と言うものであろう?」

休め、と白竜に言われた竜牙は"竜玉"を抱えたまま、部屋へと戻って行った。

布団の中に包まり、金色に輝く"竜玉"を抱きしめる。

「……僕に…親はいないのかな?」

母親だと思っていた人は神様で、他に思い当たる人なんていない。

「お母さんに…会いたい…よ」

ぼろぼろっと涙を流して、白竜達の命である"竜玉"を強く抱きしめた。

そんな様子を見守りながら、ゆっくりと赤竜は戸を閉める。

「なぁ、真実をはなさねぇほうがよかったんじゃねぇの?」

肉体的に大人に向かっているとはいえ、精神が弱すぎる竜牙の唯一の支えが母親だと思っていた天帝から授かった"竜玉"の存在だ。

「仕方があるまい。もはや、八岐大蛇が復活してしまった以上は…」

「そうやって、俺達の都合であいつの幸せを奪うのかよ?俺は嫌だぞ。あいつの泣き顔を見るのは…」

白竜の仕方が無い発言に赤竜は怒鳴る気持ちを抑えながら、反論する。

まだ、黒竜がいた時は"竜玉"の中で竜牙を見守っていた。

赤竜の記憶にある竜牙は泣く所しかない。

できれば、あの子供に幸せな未来を…。

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