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もしかして、恋愛する気持ちが僕の中で芽生え始めているのだろうか。損得勘定で抜きで人を見る。
それはとても喜ばしいことなのだが、女性になって芽生えて男性のときに消失する展開にならないか心配でもある。
寮に戻りながらちらりと都和を見る。
目元は涼しげだが、よく気さくに笑うためこんなときぐらいしか確認できない。少し潤んだ唇は薄いピンクの口紅を塗っているかのようだ。本当に塗っているのかもしれないが僕にはわからない。
「……」
「なに?」
「別に」
トキメキはしないけれども。
そういえば、僕は昨日都和の反転の天想代を持つ人格に襲われているので夜は二人にならない方が良いのかもしれない。
小夜は度胸がないとはいえ部屋に泊まるのは少し怖い気がする。楔が泊めてくれるとは思えない。
何か考えないと。
「遅いっすよ」
羽衣と食堂へ向かう途中の廊下で遭遇。探されていたのだろうか。
「ただでさえ遅れてるんっすから。もうお腹が減って仕方なかったっす!」
「ごめんごめん」
姫城さんが急遽来ることになったので遅くなったなんて言い訳は使えないだろう。僕のせいになっているのだろうか。
三人で連れ添って歩き、食堂へ。人はすでに揃っていた。
食事は昨日のように素材の種類が統一されていることはなく、それでも種類豊富に用意されていた。
皆で手を合わせて、頂く。
都和が姫城さんにお酒を持っていることを怒られたり(どこに隠していたんだ)、ちいろが姫城さんに世話をしたり、楔が姫城さんに話しかけていたりと姫城さんが大人気であった。
僕は少し食べる量をセーブした。さすがに食べ過ぎるとお腹がつらいし、太ってしまう。