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僕がじたばたパニック状態になっているときに救いの女神がやってきた。
つかつかと歩いて来て、楔は目の前にやってくると僕のマスクを外してにこりと笑う。
つられて僕も苦笑いで返す。
「ばーか」
ビンタされた。
遠慮が無くちょっとひりひりする。
「周は考えなしなの? 馬鹿なの? 死ぬの?」
「いや、でも勝ったよ?」
「いぇーい。楔ちゃん、ぶいぶい」
裏千華が上に乗っていて動けていないが千華は倒したのだ。
「千華が手加減してくれたからでしょうが。そもそも、周はなんでもし過ぎなの。中学の時も私を置いて解決したことがあったよね?」
「あ、あれはだって犯人が武器を所持しているから……」
僕は疲労困憊のまま。もっと言うと遠慮なく裏千華が乗っている中、説教されるのだった。
話の大部分はこの体力では右から左だ。
「……コホン。このぐらいにしましょうか。晩御飯は八時にするのでそこでゆっくりと寝ていても良いですよ。伊織、行きますよ」
手厳しい。
姫城さんは少し心配そうに僕を見ていたが、楔に強引に連れて行かれてしまった。裏千華も途中で飽きたのか、千華を連れていっていなくなってしまっている。
僕一人。
「まあ、勝てたし良いか」
さすがにここで寝ていて負けになるとは思えない。
僕は意識を手放そうとしていた。
「周さん!?」
そんな精神状態でいると、小夜が僕を発見してくれた。話す間もなくすぐに抱えられる。男としてこんなに簡単に年下に運ばれていいのか甚だ疑問だが疲れているので深くは考えない。
小夜はなんの苦労も無く僕を玄関先のソファーに寝かした。
ふわふわというより、やや硬めで浅く座るのに適したソファーだが、疲れた身体ではひどく心地よい。
「もう、無茶しないで下さいよ」
「……どうして玄関に?」
「周さんの帰りが遅いからです」
ちょくちょくと覗いていてくれたのか。少しタイミングが悪かったな。