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ただ、道の左脇に本が落ちていた。
真新しく落ちていると言うよりかは置いてあるといった方がしっくりくる。
不自然、そう極まりなく。
無視してやり過ごそう。
そう思っていたのだが、近くに差し掛かったところでうっかり視認してしまった。
「にゃっ!?」
表紙がピンクで。
肌色成分が多めで。
僕にはまだ買う権利が与えられていない。
つまりはえろ本だった。
「どうしたのじゃ!?」
反射的に姫城さんは僕の視線の先に身体を回そうとした。僕は姫城さんを守るべく、さらに回転させる。
「なんなのじゃ!」
踊るかのようにターンさせると姫城さんは不満げな声を漏らす。
「姫城さんにはまだ早いから……」
「なにがじゃ。説明が一切なくて混乱するだけなんじゃが」
「本屋で独特なコーナーを形成するものが道端に」
正直に言うのは気恥ずかしいのでぼかしてみた。
「ふむ」
といって、姫城さんはこめかみに人差し指を当てて考えだし。
「むむむ」
と悩んだ挙句。
「一つ違いじゃろうに……」
といって顔を赤くした。
別に僕も意地悪したいわけではない。
僕は苦笑いしつつ、姫城さんを右に寄せ左手を掴んで出来るだけ見ないように通過した。
そう、このとき。
見ないように視界を狭めてしまったのだ。
「ぐっ!?」
風を斬るそれに気付いたときには僕の左腕に一本のナイフが刺さっていた。
「周様でしょうか?」
変装していたからこそ不意打ちは一本だったのかもしれない。
油断したのではない。警戒を怠ったのだ。
「ああ、良かった。周様です」
「……ずっと、ここで待っていたの?」
「私はそうです」
にっこりと笑う。
なぜ、千華も小夜もこうも邪気なく笑えるのか。
邪気があってくれた方が僕も遠慮しなくて良いのに。