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数と聞いて僕は夥しい数のナイフが飛んできたことを思い出す。
そうか、あれが千華の能力だったのか。
単純に圧倒され、為す術がなく倒れたのを覚えている。殺傷性がないとは言え、刃物が目の前に迫りくるのは心臓に悪かった。
「じゃあ、抜け道なんてない?」
「そんな都合よく地下とこの寮が繋がっていたら雨の日も雪の日も楽になるでしょうが」
「ふむ……」
戦うしかないのだろうか。数の概念とわかっただけでも上出来か。
増やす、減らす。
せめて僕にも都和のように反転を扱えたら良いのだが一切そのような気配はない。ただただ、目の色が変わり動体視力と思考速度が上がる程度だ。
「まあ、良いか」
「ちょっと、周? 危ない橋を渡るつもりじゃないでしょうね?」
「うーん、お見舞いの品は衛生面が考慮されて生ものが難しいって聞くから果物じゃなくて焼き菓子が良いな」
「全然、安心しないんですが」
「じゃあね」
「まっ」
さてと、僕は策を考える。
数か。
ナイフの数を見るに有限だと思う。
限度があるのだろう。
それに小夜の今朝の話では想いの補給(僕はキスだなんて甚だ遺憾だけど)があると言うのならばパンクも十分あり得る。
補給していなければ良いが。
「沢山使わせてパンク狙うか?」
防戦一方でストレートに負けたけれども。
「うーん……ああ、そうか。逃げ道がないのなら作れば良いのか。問題は一人で出来るかだ」
僕が思考していると姫城さんが帰ってきた。
少し難しい表情をしている。
「帰ります?」
「うむ、今日はここぐらいにしておくのじゃ」