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水を得た魚のように僕は心が満足感を得ていたが、小夜には気持ちを隠すようにして話す。
「これも能力の弊害……?」
「……んへへ」
膝から崩れ落ちる小夜。
そんな反応までされると僕は逆に冷静でいられるので助かる。
「はっ、なんでしたっけ?」
「こういう突飛な行動は能力の弊害なの?」
「えー、うん……」
認めたくなさそうだ。
性欲を感じたわけではないのだが。
「どちらかというと、能力を扱う上でのガソリン補給でしたね。前の周さんの補給から見てもちゅーであってますよ」
「待って小夜。僕の何を知っているの……過去についてはあえて聞かなかったけど、聞かないとすごい後悔しそうなんだけど」
にっこにこの小夜は口をそのまま動かす。
「十年前、私と周さんは病院であっています。ただ、そのときに周さんはいろいろとやり過ぎたせいで天想代力を無くしたって聞きました」
一体僕は何をしたのやら。
一方的な好意の出所はわかった。僕が小夜をわからないのは納得できた。少し安心する。
「少しぐらい私を覚えていても良いのに」
「いや、なんていうかごめんなさい?」
とりあえず今ので僕は昔も天想代力を知っていたことになる。
自分の胸に聞いても全然心当たりはないけれど。
僕に双子の兄弟がいれば僕が知らなくて当然なのだだ。残念ながらいるのは年の離れた兄妹だ。血の繋がりのない兄に、腹違いの妹の二人がいたところで入れ替わりの線は考えにくい。
「ん? ってことは僕は昔……」
「はい、キス魔でしたね。知ってるだけで私を含めて三人とはしてましたよ」
ため息混じりに言われた。
記憶が曖昧なのでよくわからないが今の心の充実感を思うと、仕方ないと思う。
小夜は言わば僕の昔の借金だ。
美少女でお金持ちで尽くしてあげるという子を借金扱いするのもなんだけれども。
嫌いではないし、結婚しろって親に言われたらそのままゴールインしそうなくらいには評価してるけれども。
「……うぐ」
「周さんあんまり見つめられると恥ずかしいです……」
自己暗示の効力が切れたのか口元を袖で隠してしまう。
それでも小夜は今の現状がチャンスと言わんばかりに口を動かすのをやめない。
「もっとしないと……能力使えませんよ……?」
魅力的な提案である。
だが、僕の頭は冷静に切り替わっており、その申し出を断れた。