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結局のところ小夜は起きてくれたものの。
「んぅー」
ひどく夢見心地で使い物になりそうもなかった。
なんとか、部屋に到着してベッドに下ろそうとすると抵抗された。
「離してくれる?」
「周さーん……」
ぎゅっと、抱きつかれる。格好としては僕が小夜を押し倒しているように見えるだろう。誤解だけれども。
小夜がぐいっと強く引っ張ってくるので部屋の前で待たせている千華に会いに戻れなかった。
「ちゅー……」
「甘えないの」
「都和に何もされませんでした? 周さんが気になって眠れませんでした」
「何もないって」
言ってから僕は思い出し、ふと顔が熱くなってしまった。
目ざとい小夜はそれを見逃してくれなかった。
「周さん……なんでもしますし、いくらでも譲歩しますし、二番目でも我慢しますけど……」
そういうと僕は逆に押し倒されてしまった。
体格が一回りも違うのにあの恰好から簡単に返されてしまった。
「嫌ですか?」
「……」
ここは。
断っておいた。
好きでもないのに期待させるのも可哀想だ。
「……僕に期待しないで」
意もせず冷たい言葉を浴びせてしまった。
「え……」
この悲しそうな瞳は忘れられないかもしれない。
「あー、いや、ごめん、そうじゃなくて。うん、チューならいくらでも良いんだけど!」
「本当ですか?」
三秒前と違い、嬉しそうな表情へ。
うぐっ、口が滑った。
そうじゃない、そうじゃないんだ。
こんなときに限って弁明の言葉は思い浮かばず。
小夜は目を閉じて、唇を少し前に出す。
緊張で身体を強張らせていたが、僕も緊張で強張っている。
だがよくよく思い浮かべると、小夜の昨日の感じではキスなんて出来るはずがない。
僕は抵抗を緩めてしまった。
「リバース……」
「え?」
「周さん、周さん……」
「いにゃぁあああああああ!?」
触れるようなキスをされた。
僕の頭の中での処理が追い付かず抵抗が遅れてしまった。
されるなんて夢にも思っていない。
僕はすぐに身体をベッドの外に持っていく。
自分でも驚くような速度で逃げられた。
「周さん……もう少ししっかりと」
ベッドの外にまでついてきた小夜はうっとりとした表情で僕を端に追いつめる。
舌なめずりしながら僕の何かに気付く。
「あれ、周さん?」