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「んへへー、夢じゃない」
僕は抱きつかれながらも、スカートの捲れた部分を直した。
「ふにー?」
スカートを触られて不思議そうな顔をしている。
直したとは言わずに僕は離れるように無言で身を反らしてみるが、効果はなかった。
「失敬」
そういってちいろはサンドイッチを口に咥えると布巾で手を拭き、制服の上着のポケットより櫛を取り出し小夜の寝癖を直し始めた。
鼻歌混じりにご機嫌に。
「あらあら」
それに対して千華は微笑する。
動けないのだが。
「小夜、退いてくれる? そろそろ学校に行く用意したいんだけど」
「……んー」
ね、寝てる。
僕は頭を抱えたくなった。
「じゃあ、周ー。先に部屋に戻っているからな」
「待って、都和。僕を置いてかないでよ」
「人は何かを犠牲にして前に進むんだ。トカゲの一郎のように」
誰だそいつは。
結局のところちいろが寝癖を直し終わるまでのたっぷり五分の間、小夜に胸を貸すことになった。
食事代が高くついた気がする。
「お仕舞いっと。今日も可愛くなったー」
ちいろはちいろで自分の仕事に満足いったようだ。
「ねえ、小夜?」
僕は座っていて、小夜は立ったまま。窮屈な体勢なのによく眠れるもんだ。
この後も声かけや身体を揺すってみたが眠りが深いらしく、目を開けなかった。そんなに眠いなら起きなくても良いのに。
はたいて起こすのはさすがに可哀想なので、僕はくるりとお姫様だっこで持ち上げる。
「おおう、力持ちなんだな」
小さな拍手をちいろからもらう。
「出来れば手伝って欲しいんだけど」
「はい」
ちいろに言ったつもりが後ろの千華に反応された。