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どこに座ろうか悩んでいると千華に手招きされた。
「おはようございます」
目の色で判断してしまうが裏千華ではない。それに声量は抑えられており、声の抑揚からしても違う人物だ。
「おはようございます」
挨拶を返すと、僕に皿を渡してくる。数種類のサンドイッチが乗っている。
「深山千華です。昨日は体調を崩していたのでご挨拶出来なくて申し訳ございませんでした」
「いえ、僕は七海周と言います」
簡単な自己紹介をしてから再度皿に目を落とす。さすがに五つは多いけれどもありがたく頂こう。複雑な甘い匂いは僕の食欲を増進させた。
「そちらのサンドイッチは小夜からになります」
「小夜が作ってくれた?」
僕の前に席を着く都和に、作成中のちいろ、口に一杯の羽衣に、コップに飲み物を入れる楔。
視線を張り巡らせるものの食堂に小夜はいない。
「あれ、小夜は?」
「横になって休んでおります」
「……寝ているの?」
「ええ、昨夜は周様のお昼ごはんを作ろうとしてあまり寝られておりませんので。あとでお弁当もお持ち下さい」
小夜の愛が重い。
どうしよう、この僕が女の子一人にこんなに考えさせられるとは。
至急対応をしなければなし崩しの展開になる。流されやすい僕ではきっと容易に小夜が望む展開に行ってしまうだろう。
嫌いではないけれども、嫌いじゃないからこそ危険だ。
「……とりあえず」
口に入れよう。
サンドイッチ自体は素材が良いことと、チョイスも良かったためか朝ごはんとしてはひどく満足した。食事に関して言うならば昨夜も含めて僕の中では楽しみとも言える。
千華と話しながら食べる。彼女は病弱で、気弱そうで、儚げな印象を受けるものの堂々としていた。物腰の良い話し方は年上から受ける理知的な印象も受ける。
「身体が弱いんですか?」
「そうですね。あまり激しく動くと吐血してしまいます」
うふふと笑うが洒落にならない。まだ性格がわからないためにその冗談にはとてもつっこめなかった。
「周様は運動が得意なのでしょうか?」
「人並みですよ」
ただし、男性のためこの学園においては圧倒的に運動できそうだがそんなことは言わない。
「今度是非一緒に運動しましょう」
「今さっき吐血すると言った人と到底行える気がしないんですけども」
「心配しなくても構いません。最寄りの病院までは二十分もかからないので」
「吐血しない努力をしましょうよ!?」
思わずつっこむとまたうふふと笑った。
上品だが、やはりずれていると思う。