65
ただ、性的ではないため冷静に受け止めていた。
「んー、これで容易に逃げられないってことだね」
逃げ気は無いがそんなことを言ってみる。
「……すまない」
都和は申し訳なさそうにする。
「別にすぐに死ぬわけじゃないって。朝ごはんでも食べに行こう?」
「それだけなのか?」
意外そうな都和。
僕がさばさばし過ぎなのだろうか。
「巻き込んでおいてなんだが、私はお金しか払えないぞ」
都和はお金持ちキャラでこれから通って行くのだろうか。
僕としても行き過ぎた金は申し訳なさ過ぎて使えない。悪銭でないにしろあぶく銭は身に付かないって言うので尚更である。
「それじゃあ、身体で払ってもら……そうじゃない、僕はそういった意味で言った訳じゃないから笑うな!」
僕の反応に都和は肩の荷が取れたように笑った。
気にし過ぎだ。それが都和の良いところでもあるけれども。
「んふふー、惚れちゃいそうだ」
「止めときなさい。僕にその……惚れると火傷するから」
僕は都和の軽口に気障に返してから地味に後悔した。
「おお、今時ドラマでも聞かないセリフをサラリと」
言わなきゃ良かった。穴を掘る時間は無いので僕は感情を整理し、出口の方へと向かう。
「あまねー」
都和に後ろ姿を見せると、ぎゅっと抱きしめられかけた。
ひょいっと僕は咄嗟に避ける。
「なにしてるの? 食堂に行こうよ」
「ここは親愛を確かめるところじゃないのか!」
「僕らにあるのは歪な同盟でしょうが……全く」
将来悪女になりそうだ。というかなる。
思わせぶりな態度で世の男性を次々と誑かしていきそうだ。
「……んー」
都和は僕にハグ出来なかったことに対してかは不明だがなぜか考え込んでしまった。
「ほら、行くよ?」
ハグは嫌だが、僕は都和の手を掴み食堂へと向かった。脱衣所から出たときに手を離そうとしたのに都和は離そうとしない。
「もう食堂なんだけど」
脱衣所から食堂の距離は近い。
「ああ、悪い。ちょっと考えごとしてて」
「どうしたの?」