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背後を終始取られているが懸念されていることはなく、霧吹きとドライヤーと櫛とヘアアイロンを手際よく扱い僕の髪の毛はデレていく。妹より手際が良いのはさすがと言える。
だがさすがにリボンを取り出して来たときは抵抗するしかなかった。
「待った。そんなファンシーなもの使いたくない」
今時の高校生がそんなゴテゴテなリボンを使ってはいない。
「小夜とお揃いなのに」
揃えるな。代わりにシュシュを取り出すな。
「僕は一つ結び以外したくないの」
外面を気にしない僕でもさすがに異性となっている今では注文が多くなってしまう。
残念そうに片目を閉じながらヘアゴムで僕の髪の毛を一つに束ねていく。結構上の位置にされたのでうなじが出てしまう。狙ってなのだろうか。
「時間もないしこんぐらいにしとくけれどもだ」
「待った、周は私のだぞ」
「都和のものでもないって!」
朝から一苦労だ。
学校の方が心休まるのではないのだろうか。
立ち上がり、僕はちいろに礼を言うと彼女はぶっきらぼうに手を振ると脱衣所から出ていった。
「ふー……助かった」
「どうした?」
「目の色が変わってたんだもん……」
「ちいろもか……目の色だが軽く高揚すると変わっちゃうからあんまり人格変化を把握するには役に立たないぞ」
役に立たないとは思えないが、絶対ではないと修正しよう。
そういえば、都和も小夜も楔も目の色を変えて見せたじゃないか。警戒して損をしたとは言わないが、もう少し肩の力を抜こう。
僕は緊張した肩を自分で揉みほぐしながらそう強く思った。
「ちいろのお気に入りにされたか?」
「そんなことないって言いたいんだけど」
「んー、基本は手のかかる年下に手を伸ばしてしまうタイプだと考えていたんだがなー」
「同じ年だよね?」
頷かれる。手のかかる子と思われたらしい。甚だ遺憾である。
「おろ、周?」
僕は色々とちいろの警戒レベルを上げながら脱衣所から出ようとしたところ都和が不思議そうに僕を見つめてきた。
「なに?」
「ゆっくり、鏡見てみ」
二つある大きな姿見の鏡の片方に僕は立ち言われた通り見てみる。
羽衣が洗ってくれたおかげで服に汚れはなく、ちいろに弄られたために髪に寝癖もない。
「どこ見てるんだ。真っ直ぐ見てみろって」
言われて僕は小さく驚く。
そう、僕の左右の目の色が変わっていた。